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雪山登山で最恐のアクシデント…それは「雪崩」

斜度・植生・地形・気象条件など様々な要素によって発生する雪崩は、発生しやすい場所とそうでない場所があるのも事実。しかし雪山において「絶対に雪崩に遭わない」という場所はほぼ皆無、雪山登山者にとっては決して無視できない存在なのです。
万が一の雪崩発生時に必須の「雪崩対策装備(アバランチセーフティギア)」

これらのアイテム、購入して雪山登山に携帯しているものの実際に使用したことがないという人が圧倒的に多いのではないでしょうか。雪崩救助の講習会などに参加しなければ訓練できない「雪崩対策装備(アバランチセーフティギア)」の使用法、今回はプロガイド・天野和明さんの解説で実際の流れに沿って紹介します。
行動開始前に必ず実施!ビーコン装着と動作チェック

ビーコン装着

1.行動中に脱ぎ着しないウェアの上に装着する。
ハードシェルなどの外側に装着していると雪崩に巻き込まれた際にビーコンが身体から外れてしまい、自分自身を捜索してもらうことができません。
2.スマートフォンなどは離れた場所に収納する
スマートフォンやBluetooth接続機器などの電子デバイスがビーコンに近接していると様々なエラーが起こる可能性があり、捜索の妨げになる可能性があります。
ビーコンチェック


プローブ・スノーショベルの収納もザック内に

行動時の注意点はリスク回避の観点で

雪崩が発生しやすい場所を避けるルート設定

また、尾根であっても緩傾斜の下部が急傾斜になっていると上部の雪を支える力が弱いため、傾斜が変わるポイントで雪崩が発生しやすくなります。
しかし行動している場所がこうした条件に当てはまらなくても、その上部で雪崩が発生すればどこであっても巻き込まれる危険性があるのです。
■地形の罠

A.谷の合流点など標高の低い方向が狭くなっているV字型の地形では、深い場所に埋没する可能性が高くなります。
B.斜面の下部に岩や木がある場所では、雪崩に流されながらそれらに衝突して大きなケガを負う可能性が高まります。
C.斜面下部が崖になっていたら、そのまま転落してしまうこともあります。

リスクの高い場所では大量の降雪後や急に暖かくなったタイミングにはルートを変更するなど、雪崩遭難を少しでも回避する登山計画が重要です。
登山者同士が間隔を空けた行動

また実際に雪崩が発生した際にも巻き込まれる人数が増えてしまい、犠牲者が多くなります。埋没する人数が少なく、なおかつ巻き込まれずに済んで捜索・救助にあたる人数が多いほど「救える生命」が増えることになるのです。
気温の測定

現在は様々な山岳気象予報WEBサイトにより、入山前数日の気温データも比較的容易に入手可能。事前の情報収集と当日の気温計測を怠らず、大きな気温の変化がないかをチェックしましょう。
日射の影響を受けないように、日陰で計測するのがポイントです。
積雪断面の観察
積雪の状態から雪崩のリスクを見極める方法もあります。しばらく雪が降らず固くツルツルになった雪の上に多量の新雪がフカフカに積もっている場合などは、表面の新雪の層が一気に崩れる場合も。
雪の中の状態がどうなっているかを観察するために、まずは斜面上部に向かって雪面をコの字に削った「ピット」を以下の手順で作ります。
1.プローブの目盛りを参考にピットを掘る範囲を決める(幅1.5m、深さ1.2m程度)
2.スノーショベルでピットを掘る部分の雪をかき出していく
3.ピットの断面をスノーショベルの先端で平らに削る
まずは積雪面に指や拳を当てて雪の硬さをチェックする「ハンドテスト」を、ピットの側面で行いましょう。
1フィンガー(人差し指のみ)で軽く押して、指が入る程度なら雪の硬さは普通。
4フィンガーや拳でも簡単に断面に入るようなら、雪が柔らかい証拠です。
コンプレッションテスト
続いてピットの前面をスノーソー(のこぎり)とスノーショベルを使って、コンプレッションテストを行うための30cm四方の雪柱を以下の手順で切り出します。
1.スノーソーの長さ(使用しているのは刃渡り35cm)を目安に切り出す範囲を決める
2.ピットの角に近い方の断面にスノーソーで切れ目を入れる
3.角にもスノーソーで切れ目を入れスノーショベルで雪を切り出す
4.反対側の断面にもスノーソーで切り目を2ヶ所入れる
5.2ヶ所の切り目の間の雪をスノーソーで切り出す
6.後ろ側にもスノーソーで切れ目を入れて雪柱を独立させる
スノーショベルを雪柱の上に乗せ、少しずつ力を強めて叩くのがコンプレッションテスト。
1.手首を軸に手のひらで10回叩く
2.ひじを軸に前腕で10回叩く
3.肩を軸に腕全体で10回叩く
4.今回は2.の途中の16回目で雪柱に亀裂が発生
もちろんコンプレッションテストで壊れなかった雪面でも、雪崩を誘発することはあります。行動中も斜面上部の亀裂など、雪崩の予兆の観察は怠ってはいけません。
■破断面の観察

明確な破断面が形成されず凸凹のある破断面と、とある1回の叩き(タップ)でスパッと明確に形成される破断面を比較すると、後者の方が雪崩リスクが高いと言えます。
■雪粒の観察

もちろん、弱層を見極めるには知識や経験が必要。まずは雪山登山経験豊富なリーダーに同行したり、雪崩対策の講習会に参加して、スキルを身に付けましょう。
雪崩発生!「雪崩対策装備」を活用しての捜索・救助の手順を確認

一般的に雪崩に埋もれてしまった人(埋没者)が生存できるのは、長くて10分〜15分と言われています。素早く捜索・救助を行うために、以下の手順で行動しましょう。
1.ビーコンを使った埋没者の捜索

距離表示が近くなればなるほど、進む速度を落としてビーコンを雪面に近づけていくのがポイント。高度と速度を徐々に下げながら着陸する飛行機をイメージするとわかりやすいですよ。
最小値になったポイントの雪面に指でバツ印など、目印をつけておきましょう。
▼ビーコンの詳しい使用方法はこちらの記事に掲載
2.プローブ(ゾンデ)を使った埋没者の特定

ビーコンが最小値を示したポイントを中心にうずまきを描くように場所を少しづつ変えながらゾンデを差し込み、先端が埋没者にヒットするまで続けます。
▼プローブの詳しい使用方法はこちらの記事に掲載
3.スノーショベルでの掘り起こし

この間に雪崩が再発したり埋没者の低体温症が悪化する危険性もあるので、可能であれば安全な地形や山小屋・避難小屋など外気を遮断できる建物まで搬送するのが賢明です。
▼スノーショベルの詳しい使用方法はこちらの記事に掲載
必ずメンバー全員が携行しよう!

また、スノーショベルでの埋没者掘り起こしは相当な体力を消耗します。疲労で雪を掘る速度が低下する前に他のメンバーと交代し、一刻でも早く埋没者を掘り起こすことを重視して行動しましょう。
ここまでの捜索・救助活動を行う人以外のメンバーにも
*110番通報をして救助要請を行う
*他の登山者に雪崩発生を知らせる
*雪崩が再発しないか斜面上部を監視する
*ビーコン捜索の間にプローブを組み立てておく
最後に〜まだまだあります…雪崩対策に必要なこと〜

また、ここまで「雪崩対策装備」の使い方をご紹介してきましたが、もちろん使用しないに越したことはありません。
これらのアイテムは「雪崩三種の神器」と呼ばれることもありますが、雪崩遭難からの生還を保証するものではなく実際には神器とはいえません。極めて限界のある不完全な装備でしかないのです。
では事前の知識や情報収集で、雪崩のリスクを回避したり可能な限りスムーズな捜索・救助活動を実践するために、どんなことが有効なのでしょうか。
雪崩の種類・特性や捜索・救助活動の詳細を知っておく

事前の情報収集も怠らずに

事前に最新の情報を収集することで、リスクの高いタイミングでの入山を避けるなどの対策をとることも可能。講習会も開催しているので、「雪崩対策装備」の使い方を練習するのもオススメですよ。
日本雪崩ネットワーク
雪崩救助に欠かせない「雪崩対策装備」の使い方をきちんとマスターしつつ、雪崩に遭遇しないための対策もしっかり行なって雪山登山を楽しんでくださいね。
オススメの「雪崩対策装備」

ビーコン
プローブ(ゾンデ)
スノーショベル
3点セット
ブラックダイアモンド GUIDE BT アバランチセーフティーセット
■ビーコン:Black Diamond Guide BT Beacon
重さ : 225 g
周波数 : 457 kHz
バッテリー寿命 : 400時間
送信モード 捜索範囲 : 60 m
サイズ : 115 x 75 x 28 mm
■シャベル:Evac 7 Shovel
重さ : 794 g
ブレードボリューム : 2.65 L
最小長さ : 66.5 cm・最大長さ : 94.0 cm
■プローブ:Quickdraw Carbon 320 Probe
重さ : 385 g
長さ : 320 cm
重さ : 225 g
周波数 : 457 kHz
バッテリー寿命 : 400時間
送信モード 捜索範囲 : 60 m
サイズ : 115 x 75 x 28 mm
■シャベル:Evac 7 Shovel
重さ : 794 g
ブレードボリューム : 2.65 L
最小長さ : 66.5 cm・最大長さ : 94.0 cm
■プローブ:Quickdraw Carbon 320 Probe
重さ : 385 g
長さ : 320 cm
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