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那須雪崩事故からもうすぐ2年。同じことを繰り返さないために・・・。

あの事故からもうすぐ2年。雪崩に巻き込まれながらも救助されて生き残り、当時の感情や登山に対しての想いを「山の羅針盤」というブログなどを通じて発信している三輪浦 淳和さん。そんな三輪浦さんに『これからやっていくこと』について、話を伺いました。
2度と同じようなことを起こさない、起こさせないために、三輪浦さんが登山を楽しむ人に知って欲しいこととはいったいどんなことなのでしょうか?
はじめに
本編に入る前に、事故の関係者の方へどうしても伝えたいメッセージをいただきました。はじめに、もうすぐ三回忌を迎えるにあたり、改めて亡くなられた友人、先輩、恩師8人に謹んで哀悼の意を表します。 次に、今回の事故で多くの方にご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした。特に危険がある中、懸命の救助活動をいただいた警察、消防をはじめ、地元山岳救助隊や医療機関、自衛隊の皆さま、 本当にありがとうございました。 また事故の後、事故の原因究明や再発防止に向けて、精力的に取り組んで頂いた検証委員会の皆さま、教育委員会、 地元の山岳会、国立の防災科学研究所、 更には民間の雪崩研究に携わる方々まで、幅広い皆さまのご支援、 ご協力、ありがとうございます。 今回の事故に携わった多くの皆さまに、改めて謝意を申し上げます。三輪浦 淳和
守れなかった『登山の鉄則』とは?

三輪浦さん:自分の意識としては、先生たちにいろいろ教えてもらうという意識でしたね。きちんと理由があるわけではないですが、思い込みとして普段の山行よりも安全に配慮されていると思っていました。
装備などはきちんと考えていたのですが、現場では完全に教えて貰うという気持ちでした。完全に学ぶ側として参加していたので、「この次は何をするんだろう?」と、先が見えないまま行動して登山の鉄則を破っていたのだと思います。
編:登山の鉄則というのは「自分で状況を判断して考える」ということですか?
三輪浦さん:そうですね。自然の中に入るということは、いつ何があるかわからないじゃないですか。もしかしたら、経験が浅い自分がグループを指揮する立場になるかもしれない。だから、普段から自分で考えて仲間と相談して、意見を出し合って自分たちの行動を決めていくっていうことが、私は大事だと思います。
山岳部の活動で学んだ”登山をする上での軸”

元々、家族で登山を始めた三輪浦さん。高校3年間は、さらなる登山技術の向上のために山岳部で過ごしました。そこでの経験が、登山をする上での軸になっているようです。
「後輩の意見を聞けるのがうれしかった」

三輪浦さん:登山経験がより豊富な先輩が積極的に動いてくれて、後輩はそれを見て(歩き方などの登山技術を)学ぶことが多いですね。まずは先輩を見て学んで、経験を増やし、自分で状況を判断するという感じで、少しずつ成長できる環境になっています。
自分にはこの「状況を判断して考える」という要素が十分でなかったと感じました。なので、部長になった時は優秀な後輩にも恵まれたので、後輩たち自身に考えてもらえる機会も増やしたんです。後輩たちが自分の考えを言ってくれると、やっぱりうれしかったですね。
編:山岳部のメンバー全員がそれぞれ考えていないといけないですし、考えるための情報や方法を教えてもらえるいい環境ですね。
「感じた違和感は、口に出してみて欲しい」

でも、一緒に山を登る仲間として考えると、フラットな立場で意見を出し合うのが必要なのかなと思います。
編:リーダーの判断をそのまま鵜呑みにして従うだけではなく、気になることがあったら考えを伝えることが大事ですね。
三輪浦さん:知識や経験にレベルの差はあるかもしれません。だけど後々後悔することになる可能性もあるので、ちょっとした違和感でも言ったほうがいいと思うんです。そうすれば判断する人が振り返る機会になるだろうし、それで問題がなければその人が説明してくれると思います。
一緒に登山をしている仲間なのであれば、気になったことは包み隠さず話してみるほうが良いと僕は思うんです。グループの雰囲気が悪くなるかもしれません。ですがそこは自分が痛い目を見ているので、皆さんにも少しやってみて欲しい部分です。
「登山を続けたい!」三輪浦さんがそう思う理由って?

「つらい経験をして出した答えだから、時間をかけて聞いていきたい」

お父さん:事故後、はじめて家族だけの空間になったのが病院から帰る車の中。その時の息子の第一声が「今回の事故は自分たち全員の責任だ」という反省の言葉。そして、二言目が「部活でしばらく山に登れないだろうから、一緒に山に登ってほしい」というものでした。どういう思考の過程があってその結論に至ったかはわからないですけど、山は続けるんだなって思ったんです。
編:登山を続けることを止めようとしたりしなかったんですか?
お父さん:どうしてそういう結論を出したのかは、時間かけて聞いていかないとわからないですよね。本人がそういう結論を出したのなら、山を歩きながら聞いていけばいいかなと。家族4人の中で一番傷ついているのは、息子じゃないですか。だから息子が考えて出した答えなら、という感じで止めはしなかったですね。
三輪浦さん:個人としては、足が治ったら山に行けました。でも部活の方は、一度間違えを起こしてしまったので、同じようなことが起きないように先生たちがいろいろと動いてくれたんです。
そのおかげで、夏山から部活に復帰できました。
「僕が登山を辞めても、誰かの命を救うことにはならない」

三輪浦さん:事故前から危険は承知で登っていたので、個人で登る時はそこまででした。
けど、いざ仲間を失ってみると、部活で登る時はまた誰かがいなくなってしまわないか、めちゃくちゃ怖かったですね。計画の時に「みんないなくなったら嫌だな」って考えてしまって、結構悩んだ時期もありました。
だけど、自分が辞めても誰かが個人で登るのは止められないですし。それであれば同じ間違えを起こさないように、自分の感じた反省を活かし伝えて安全性を高めていくほうがいいと思うのが、私の考えです。
もちろん山が好きだからという気持ちもありますが、そういった考えを持ちながら山を続けています。
編:いろんな意見はあると思いますが、失敗があって終わりにするのではなくて、「何がだめだったのか、どうしたらよいのか」って考えて行動すること自体が、登山でも大切ですね。
「まずは登山の土台をしっかりと積み重ねたい」

三輪浦さん:講習会に参加して自分の知識や経験を積み上げていくことですかね。なんでも土台がしっかりしていないと、崩れちゃうじゃないですか。それと、今はまだ技術的なことでアウトプットできることは少ないので、あの時あの場所にいた自分の感情や反省を通じて、みなさんに安全に山を楽しんでほしい、ということをお伝えできたらと思います。
編:当面は、自分の登山スキルの研鑽(けんさん)ということですね。
では、他の人にも講習会などは勧めたいと思いますか?
三輪浦さん:人に合う合わないがあると思うので、全員参加したほうがいいとは一概に言えないですね。でも個人的には、効率よく知識を吸収して実践で講師の方にチェックしてもらえる機会は、とても有益だと思います。その後、山に行って復習すると定着につながりますよね。
編:無料のものも多いので、合う合わないのチェックも含めて一度足を運んでみるのもいいかもしれませんね。
失敗やリスクから学び、考えて行動することが大切

自然の中へ入り、楽しむ登山。そこには大きな感動や楽しみだけではなく、少なからずリスクが潜んでいます。「本当にこの装備で十分だろうか」「この天候のまま進んでも大丈夫だろうか」など、大切なことは1つ1つの違和感ときちんと向き合い「リスクを減らせる安全な方法か」を判断すること。これからも登山を楽しむために、自分で考えて行動していきましょう。
亡くなった先輩と交わした約束のため、三輪浦さんが〈キリマンジャロ〉に挑戦します!
三輪浦さんが雪崩事故で亡くなった先輩と交わしていた「アフリカ大陸最高峰のキリマンジャロへの登頂」という約束。その約束を果たすべく、クラウドファンディングをスタートしました。三輪浦さんのキリマンジャロ登山を応援したい方は、下記リンクボタンから専用のページへ。キリマンジャロ登山を応援しよう