「つらい経験をして出した答えだから、時間をかけて聞いていきたい」
編:息子さんから登山を続けたいと聞いた時は、心配ではなかったですか?
お父さん:事故後、はじめて家族だけの空間になったのが病院から帰る車の中。その時の息子の第一声が「今回の事故は自分たち全員の責任だ」という反省の言葉。そして、二言目が「部活でしばらく山に登れないだろうから、一緒に山に登ってほしい」というものでした。どういう思考の過程があってその結論に至ったかはわからないですけど、山は続けるんだなって思ったんです。
編:登山を続けることを止めようとしたりしなかったんですか?
お父さん:どうしてそういう結論を出したのかは、時間かけて聞いていかないとわからないですよね。本人がそういう結論を出したのなら、山を歩きながら聞いていけばいいかなと。家族4人の中で一番傷ついているのは、息子じゃないですか。だから息子が考えて出した答えなら、という感じで止めはしなかったですね。
三輪浦さん:個人としては、足が治ったら山に行けました。でも部活の方は、一度間違えを起こしてしまったので、同じようなことが起きないように先生たちがいろいろと動いてくれたんです。
そのおかげで、夏山から部活に復帰できました。
「僕が登山を辞めても、誰かの命を救うことにはならない」
編:事故後の登山って、怖くなかったですか?
三輪浦さん:事故前から危険は承知で登っていたので、個人で登る時はそこまででした。
けど、いざ仲間を失ってみると、部活で登る時はまた誰かがいなくなってしまわないか、めちゃくちゃ怖かったですね。計画の時に「みんないなくなったら嫌だな」って考えてしまって、結構悩んだ時期もありました。
だけど、自分が辞めても誰かが個人で登るのは止められないですし。それであれば同じ間違えを起こさないように、自分の感じた反省を活かし伝えて安全性を高めていくほうがいいと思うのが、私の考えです。
もちろん山が好きだからという気持ちもありますが、そういった考えを持ちながら山を続けています。
編:いろんな意見はあると思いますが、失敗があって終わりにするのではなくて、「何がだめだったのか、どうしたらよいのか」って考えて行動すること自体が、登山でも大切ですね。
「まずは登山の土台をしっかりと積み重ねたい」
編:今はブログでいろいろと情報を発信していますが、今後はどんなことをやる予定ですか?
三輪浦さん:講習会に参加して自分の知識や経験を積み上げていくことですかね。なんでも土台がしっかりしていないと、崩れちゃうじゃないですか。それと、今はまだ技術的なことでアウトプットできることは少ないので、あの時あの場所にいた自分の感情や反省を通じて、みなさんに安全に山を楽しんでほしい、ということをお伝えできたらと思います。
編:当面は、自分の登山スキルの研鑽(けんさん)ということですね。
では、他の人にも講習会などは勧めたいと思いますか?
三輪浦さん:人に合う合わないがあると思うので、全員参加したほうがいいとは一概に言えないですね。でも個人的には、効率よく知識を吸収して実践で講師の方にチェックしてもらえる機会は、とても有益だと思います。その後、山に行って復習すると定着につながりますよね。
編:無料のものも多いので、合う合わないのチェックも含めて一度足を運んでみるのもいいかもしれませんね。
失敗やリスクから学び、考えて行動することが大切
取材中、三輪浦さんは時に言葉につまりながらも、自分たちの失敗を他の人が繰り返さないよう、丁寧に言葉を選んで話してくれました。
自然の中へ入り、楽しむ登山。そこには大きな感動や楽しみだけではなく、少なからずリスクが潜んでいます。「本当にこの装備で十分だろうか」「この天候のまま進んでも大丈夫だろうか」など、大切なことは1つ1つの違和感ときちんと向き合い「リスクを減らせる安全な方法か」を判断すること。これからも登山を楽しむために、自分で考えて行動していきましょう。
亡くなった先輩と交わした約束のため、三輪浦さんが〈キリマンジャロ〉に挑戦します!
三輪浦さんが雪崩事故で亡くなった先輩と交わしていた「アフリカ大陸最高峰のキリマンジャロへの登頂」という約束。その約束を果たすべく、クラウドファンディングをスタートしました。三輪浦さんのキリマンジャロ登山を応援したい方は、下記リンクボタンから専用のページへ。