捜索隊員が語る現場のリアルーー「遭難者と同じくらい大切にしたいこと」とは?

2018/07/02 更新

登山者が増えるシーズンはニュースでも「遭難」について多く取上げられます。残念ながらすべての登山者には、遭難のリスクがついてきます。さらに遭難事故の周りには、それによって苦しめられている遭難者の家族の姿もあるようです。今回、遭難捜索を行っているLiSS代表の中村さんに「遭難捜索の現場」と「安全に登山を行うための知識」を伺ってきました。


アイキャッチ画像撮影:YAMA HACK編集部

民間だからこそできる”家族に寄り添った捜索”

遭難捜索中の中村さん
提供:中村富士美さん(実際に中村さんが捜索をしている時の様子)
「遭難」という言葉は知っていても、どこか自分には関係ないことのように感じていませんか?
「山で遭難が起きた時に辛いのは、実は遭難者の家族なんですよね」ーーそう話してくれたのは、山岳遭難捜索を行うLiSS代表の中村さん。今回は、山で行方不明になった人を探している中村さんにお話を伺い、なかなか知られることのない遭難捜索の現場をお伝えします。
中村富士美さん
撮影:YAMA HACK編集部
編集部(以下、編):本日はよろしくお願いします。早速ですが、「遭難捜索」とは具体的にどのようなことをされているんですか?

中村さん:山岳救助とは別で、山で行方不明になった人を探しています。なので、救助隊の人と一緒に救助するのとは少し違います。

「救助」と「捜索」は別なんですね。なんとなく漫画や映画などで見たような岩稜帯などで人を運んだりしているようなものをイメージしていました。

遭難者を家族のもとに帰してあげたい

待っている家族
出典:PIXTA
:遭難捜索を始めたきっかけは、なんだったんですか?

中村さん:一緒に山に登っている人に「行方不明の人がいて、こんな山なんだけど、どこにいると思う?」と相談されたことがありました。登ったことがない山だったので、実際登ってみたら何人も迷っている場所があって。それを知り合いの人に伝えて後日一緒に行った時に、ご遺体を見つけたのが最初のきっかけです。その時に「山でいなくなっている人っているんだ、おうちに帰してあげないといけないな」と思ったんです。

:”家族が家に帰ってくる”ということは大事ですもんね。

中村さん:警察の捜索が打ち切られてしまうと、誰も捜す人がいないのでその人はずっと家に帰れないまま。誰もやらないならやってみようと思ってボランティアで始めました。そのうち人に誘われて組織に属して3年間くらいやっていたんですが、この(2018年)1月から独立してやっています。

:独立されたのはどうしてですか?

中村さん:やっていく上でいろんな疑問点や自分の理想を追求したくなったんです。

遭難者を知ることが、捜索のはじまり

中村富士美さん
撮影:YAMA HACK編集部
:遭難捜索ってどのようなことをしてるんですか?

中村さん:基本的にはご家族からの依頼で行っていて、2人1組で捜索を行うことが多いです。

:山は広いので大変ですね。捜索する時に気をつけていることはありますか?

中村さん遭難者だけでなく、全体像を見て行うことですね

:全体像?

中村さん:家族から提供してもらった情報が重要で、それを基に捜索方法や方針を決めていきます。例えば、登山を普段やらない人だったら登山道じゃないところ行く、まじめな人だと奥までは行かないのでどこかに滑落している、イケイケな性格の人はどんどん進んで奥まったところ、など意外と当たるんですよ。

:そうなんですね。ということは、家族からの情報提供がとても大切になりますね。

中村さん:大切です!なので、家族とのコミュニケーションを大切にしています。本人がどんな性格の人なのか、普段どんな登山をするのかなどを聞きますね。

:その他に大切にしていることはありますか?

中村さん:あとは公的機関との密な連携。自分達だけでやっていてもだめなので、警察だったり、地元の消防団だったりと密に連携をしています。地元の山を知っている人たちと密に連携をして、情報交換することにより色んなことが見えてくるんですね。そういうことを大事にしていますね。自分達だけでは絶対的にできないですね。

一番つらいのは遭難者だけじゃない

悲しむ家族
出典:PIXTA
:先ほどおっしゃられていた「理想の捜索」とはどのようなものですか?

中村さん:山で遭難をした時にその人は怪我をしたり、亡くなってしまうんですけど、その人の家族が本当は一番つらいんです。今まで家族をクローズアップした人はいないと感じていたんですね。本業が看護師なのでどうしてもそういったところに目がいってしまって。捜索を行う中で見つけられる人と見つけられない人がいるんですけど、家族にとって必要なことだと思うし、やれるのは自分しかいないと思って。

:家族へのサポートはどのようなことをされているんですか?

中村さん:家族によって変わるんですけど、見つかったところへ家族を案内してあげたり、家族を連れて行けなさそうな場所であれば代わりに花を持って行ったりですかね。時には家族の話を1、2時間聞いてあげたり。そうすることで家族が捜索に参加しているという気持ちにもなってもらえるので、「何もできない」と自分を責めることもなくなります。これも一つの心のケアだと思っています。

ボロボロになった家族を休ませることも捜索の一部

中村さん 取材
撮影:YAMA HACK編集部
:メディアから非難を受けている家族の方って?

中村さん:一番追い込まれている家族のフォローも、時には遭難者と同じくらい大切なことなんですね。

一方で、遭難のニュースが広まることで、心無い非難を受けることもあるんです。

:家族の方はどういう風にとらえているのでしょう?

中村さん:辛いですよね。きちんと準備をしても遭難してしまう方もいるので。色んな方がいるんですけど、40代で亡くなった人は無事に見つかって手続き上はよかったのかもしれないですけど、じゃあそれから家族はどう生きていくのかだったり、高齢の人の場合だと「好きな山なんだから」というような人もいました。一番つらいのは、家族が自分達で探そうとして山に入る時。実際にあったのは、登山をしない家族が遭難者を探すために道具を揃えて、連日山に入って、ボロボロになっているんです。そういう時は私達も現場に行かず、家族についたりします。

:捜索せずに、家族と一緒にいるんですか?

中村さん:そういう時は臨機応変にメンバー構成を編成し、家族に付き添う隊員を設けて、その他の隊員で捜索に当たります。家族について話を聞かせてもらうことで、家族を休ませたりすることもできるんです。

:探さないと!という気持ちで周りが見えにくくなっていると、自分の疲労や危険にも気づきにくくなっていますもんね。

中村さん:そうですね。そういう時は顔色などを見ながら臨機応変に対応をしています。そういう柔軟さも強みですね。

登山者にこれだけは知っていて欲しいポイント



中村さん取材
撮影:YAMA HACK編集部
遭難しないためや、遭難した時のために登山者に気をつけて欲しいことを教えてくれました。

オールシーズン見つけやすいのは”青”

登山ウェア
出典:PIXTA
:万が一の時、山で見つけやすいのウェアは何色ですか?

中村さん:季節によって変わりますね。春夏だったら山に緑が多いので赤、オレンジ、黄色、青なんかが見つけやすいですね。でも、紅葉の季節だと暖色系は見えにくいですね。なので、青は自然にはあまりない色なので見つけやすいですね。

:最近多い、黒色のウェアはどうですか?

中村さん:黒は見にくいです!遠くから見たときに岩と間違えちゃうかもしれないですね。

登山道は変わるって、ご存知ですか?

迷いそうな道
出典:PIXTA
:道迷いしないために、登山者に知っていて欲しいことってありますか?

中村さん:季節によって登山道が変わるということですかね。

:ルートは同じでも、登山道が変わる?

中村さん:はい。植物の成長具合で見え方が変わるんです。春に来たときは笹薮が30cmくらいだった。それが6月7月に行ったら1mになっていたりとか。笹薮が短かった時になかった道が、藪が大きくなった時にちょっとした隙間ができて、それを道と勘違いして迷ってしまうということも実際あったんです。

:僕も昔、六甲山を登った時に春には短かった笹薮が夏に成長していて、全く別の景色だったことに驚いた事があります。

中村さん:そうなんですよね。なので、季節によって登山道の見え方が変わるということを知っていてほしいですね。

1番大切なのは体温管理。そして、自分の安全確保!

体温保存 :万が一迷ってしまったり、同行者が怪我や体調が悪くなった時はどうしたらよいですか?

中村さん:無理に下らない。沢に落ちてしまいますからね。その場にジッとしておくか、動けるなら上に登って見つけやすいところに行ってほしいですね。それと電波があれば救助の依頼をしたり、携帯の電源を入れておくとGPS機能で捜すこともできますね。

:最近ではスマートフォンなど多彩な機能を持ったアイテムがありますもんね。

中村さん:あと大切にしてほしいのは、自分の安全を第一にすることです。どうしても、「何かしなきゃ」と思うんですけど、意外と何もできないものですよ。一番避けなければいけないのは二次災害ですからね。

:元も子もないですもんね。自分の安全確保以外で何かすることはありますか?

中村さん一番は体温管理ですね。実際に救助した人でもツェルトで体温管理をして助かった人もいますよ。

:特別なことではなく、自分の安全を確保しながら体温管理などできることをして、2次災害を起こさないようにすることが重要ですね。

中村さん:体温管理をする上でも火を起こせるものを持っていくと良いですよ。

登山者に持っていて欲しい3つのアイテム

 登山アイテム
出典:PIXTA
中村さんへのインタビュー中に出た、登山者に持っていてほしいものをご紹介します。
①「ココヘリ」や「ヤマモリ(ヒトココ)」
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撮影:YAMA HACK編集部
遭難者はソロの人が多いようです。ココヘリというサービスに入っていれば、ヤマモリやヒトココと呼ばれる電波を発信する子機を使って、ヘリで上空から捜索できるので安心ですね。

※ココヘリは「ヒトココ」を使った遭難捜索サービスです。また、ヤマモリはjROが会員に対して貸与しているヒトココの愛称です。
▼ココヘリに関して詳しい情報はこちら

②多めの水分
遭難捜索 水分
出典:PIXTA
中村さんも熱い気温の日に水分不足を感じて不調を感じることもあったようです。体調や気温によって必要な水分は変わりますので、少し大目を意識して持って行きましょう。
▼水分をきちんと取って脱水症状をさけましょう

③体温管理のために、ツェルトやガスバーナー
遭難捜索 ツェルト
出典:PIXTA
万が一遭難してまった場合、一番大切なのは体温管理です。そのために、ツェルトや防寒着などを持っておくことが大切です。また、ガスバーナーなどを持っておけば火を起こして暖をとることもできます。
▼登山にオススメのガスバーナーに関して詳しい情報はこちら

遭難は自分だけでなく、家族も不幸にする

最近では、登山スタイルの多様化に伴い、山岳会に入っている一部の人だけでなく誰でも登山を楽しめるようになってきました。不幸にも遭難にあってしまった時、自分だけでなく周りの家族も不安な思いや悲しい思いをしてしまいます。安全に登山を楽しむために、山岳保険に入ったり、jROの山岳遭難対策制度を利用したりして、セルフレスキューについて学んでいきましょう。

■話を聞いた人:中村 富士美さん
中村富士美さん
山岳遭難の行方不明者捜索をサポートする民間団体 LiSS代表。国際山岳看護師、WMAJ医療アドバイザー、東京青梅市立総合病院外来看護師。
遭難事故の不明者について、丁寧な取材をしながら、家族に寄り添った捜索活動を行っている。
LISSについて知りたい方はこちら

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YAMA HACK編集部
YAMA HACK編集部

YAMA HACK運営&記事編集担当。登山をきっかけに自然の力に魅了される。山で飲むコーヒーが大好き。何かあれば必ず山に行き、心身共に整える。山について新しい視点を与えられるような記事作りを心がけて日々執筆活動を行う。

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