雪崩救助の必需品・ビーコン|一刻でも早い捜索のためにマスターしたい使用法

雪山登山に欠かせない「雪崩対策装備(アバランチセーフティギア)」と呼ばれる雪崩救助のアイテム。その最初のステップとなるビーコンを使った埋没者の捜索、素早く効率的に行うことができますか?今回は登山前の準備・チェックから捜索活動までをプロガイドのアドバイスで学びます。

目次

アイキャッチ画像撮影:鷲尾 太輔

使ったことがありますか?雪崩救助の必需品・ビーコン

雪崩発生時における埋没者の捜索・救助の流れ

撮影:鷲尾 太輔(雪崩発生時における埋没者の捜索・救助の流れ)

雪山登山者の誰もが遭遇する可能性のある雪崩、いざ巻き込まれてしまったら……。運良く無事だった場合、あなたは雪崩に埋没してしまった周囲の登山者を一刻も早く雪の中から掘り起こす大切な救助者になります。
埋没者救助の最初のステップで行うのが、ビーコンによる埋没場所の捜索。今回は国際山岳ガイド・天野和明さんの解説で、正しいビーコン捜索の方法をご紹介します。

 

\教えてくれた専門家/

 

天野
国際山岳ガイド・天野和明さん

 

クライマー・IFMGA 国際山岳ガイド。2009年にインドヒマラヤ・カランカ北壁のアルパインスタイル初登攀により、 登山界のアカデミー賞と呼ばれる“ピオレドール賞”を日本人として初めて受賞。現在は石井スポ ーツ登山学校校長として、スタンダードな登山技術、知識の伝達や後進の育成に努めている。

高価なビーコンだからこそ機能はしっかり吟味!

様々な種類の雪崩ビーコン

撮影:鷲尾 太輔(様々な種類の雪崩ビーコン)

様々なモデルが販売されているビーコン、そもそも他の雪山登山アイテムよりも高価なものです。さらにモデルによって搭載されている機能に少しずつ違いが。いざという時にしっかり役立つようおさえておきたいのが、アンテナの本数です。

素早い捜索が可能な3本アンテナのモデルがオススメ

3本のアンテナ配置イメージ

撮影:鷲尾 太輔(3本のアンテナ配置イメージ)

ビーコンに内蔵されているアンテナの本数には以下の3種類があります。

*1本:送受信アンテナのみ
*2本:送受信アンテナ1本+受信アンテナ1本
*3本:送受信アンテナ1本+受信アンテナ2本

1本アンテナのビーコンは安価ですが、捜索の際に雪崩ビーコンを向けた方向にある埋没者のビーコンの電波の強さしか表示されません。対して2本・3本アンテナは複数のアンテナで埋没者のビーコンの電波を解析して、埋没者のビーコンの方向・距離を示してくれます。

高価になりますが、より正確に埋没者の位置を特定できる3本アンテナのモデルがオススメ。一刻も早い捜索・救助が埋没者の生死を分ける雪崩遭難に使用するアイテム、極力しっかりしたスペックのモデルを携行したいものですね

行動開始前にチェック!装着方法と事前準備

ビーコンは必ずアウターシェルの内側に装着

撮影:鷲尾 太輔(ビーコンは必ずアウターシェルの内側に装着)

雪山での行動開始前に、ビーコンを身体に装着し電源をオンにします。多くのタイプはベルトを身体に巻き付けて装着する仕組みになっており、電源を入れると自動的に送信モード(電波を発信し捜索者のビーコンに反応する)になります。

この時ビーコンは、必ず行動中に脱ぎ着しないウェアの上に装着しましょう。ハードシェルなどの外側に装着していると雪崩に巻き込まれた際にビーコンが身体から外れてしまい、自分自身を捜索してもらうことができません。

スマートフォンなどは離れた場所に収納しましょう

撮影:鷲尾 太輔(スマートフォンなどは離れた場所に収納しましょう)

またスマートフォンやBluetooth接続機器などの電子デバイスがビーコンに近接していると様々なエラーが起こる可能性があり、捜索の妨げになる可能性があります。

例えばジャケットの胸ポケットへ収納すると、ビーコンとほぼ重なってしまいます。パンツのポケットなど、ビーコンからなるべく離れた場所に収納するようにしましょう。

同行者と動作チェックも欠かさずに

撮影:鷲尾 太輔(同行者と動作チェックも欠かさずに)

はじめてのメンバーと一緒に行動するときなどは、ビーコンが正しく作動するかを入山前に以下の手順でチェックします。

1.まずは電池残量がしっかりと残っているか確認
2.リーダーのビーコンのみを送信モードに切り替え、他のメンバーは受信モードにして受信ができるかどうかを確認
3.OKなら、今度は送信モードに切り替えハーネスにしまって行動できる服装に
4.リーダーだけが受信モードに切り替え、各メンバーを電源の入れ忘れがないかなどやきちんと発信しているかをチェック
5.最後にリーダーも送信モードに切り替えるのを忘れないように!
※機種によって使用する電池の種類なども異なるので、あらかじめ確認しておきましょう

写真では画面が見やすいようにビーコンを寝かせていますが、実際にはビーコンを立ててチェックします。送信モードと受信モードのビーコンは最低1m程度の間隔をあけてチェックしましょう。

全員が同一ブランド・同一モデルでないとNGだと思いがちですが、現在は多くのビーコンが国際的な規格に準じた同一の周波数を使用しており、別ブランド・別モデル同士でも発信・受信できるものが多数。雪山登山に出かける前にも動作チェックしておくと良いでしょう。

雪崩発生!埋没者を素早く発見するためのビーコン使用法

実際に雪崩が発生してしまったら……

出典:PIXTA(実際に雪崩が発生してしまったら……)

もしも実際に雪崩が発生した場合、運よく巻き込まれなかったり自力で雪の中から脱出できた登山者は、埋没してしまった登山者を捜索・救助する役割を担います。

雪崩捜索・救助の皮切りになるビーコン捜索

撮影:鷲尾 太輔(雪崩捜索・救助の皮切りになるビーコン捜索)

その一番最初の段階で使用するのがビーコン。まずは以下の2点に注意して捜索に取りかかりましょう。

1.周囲にいる無事だった登山者全員のビーコンを受信モードに切り替える
誰かひとりでも送信モードのままだと埋没者でなくその人のビーコンが反応してしまいます。
2.救助要請は捜索現場から25m以上離れた場所で行う
スマートフォンの電波が干渉してビーコン捜索に支障をきたしてしまいます。

ビーコン捜索の具体的な動き方

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撮影:鷲尾 太輔(ビーコン捜索の流れ)
ビーコンを受信モードに切り替えたら、以下のように埋没者のいる場所へ近づきます。
1.比較的早足で雪崩が起こった斜面をジグザグに下り、距離表示が近くなる場所を探す
2.距離表示が「12〜10」になったら進む速度を落とし、ビーコンを膝の高さに落として中腰で進む
3.距離表示が「3.0」を切ったらビーコンをさらに雪面付近に近づけ、さらに速度を落として進む
4.距離表示が「1.0」を切ったらビーコンの向きは変えずに雪面の真上を前後左右に移動し、最小の数値になるポイントを探す
5.距離表示が「最小の数値」になるポイントの雪面に、×印など目印を付けておく

この動きは「エアポートアプローチ」とも呼ばれます。飛行機が徐々に高度と速度を下げながら、飛行場の滑走路に着陸する動きをイメージすると理解しやすいですよ。

遺留品が手がかりになることも

撮影:鷲尾 太輔(遺留品が手がかりになることも)

雪面付近に埋没者から外れたグローブや帽子などが浮き上がり、捜索の手がかりになることも。メンバーの装着しているアイテムの色や特徴を覚えておくのも有効ですよ。

この後はプローブ(ゾンデ)による埋没者の特定、スノーショベルによる埋没者の掘り起こしへと捜索・救助活動が続いていきます。

▼プローブ(ゾンデ)の詳しい使用方法はこちらの記事に掲載


▼スノーショベルの詳しい使用方法はこちらの記事に掲載

確実な動作が必須のビーコン……電池残量とスイッチのチェックは確実に!

電池残量のチェックは欠かさずに

撮影:鷲尾 太輔(電池残量のチェックは欠かさずに)

ビーコン・プローブ(ゾンデ)・スノーショベルを合わせて「雪山三種の神器」と呼ぶ人も。しかし決して神器ではなく、生還には極めて限界のある装備でしかありません。

そんなビーコンだからこそ、最低限確実に動作するよう十分な電池残量が必要。もったいないと思うかもしれませんが、電池残量が60%を切ったら新しい電池と交換しましょう。古い電池と新しい電池を混ぜたり充電池を使うのもNGです。

精密機器であるビーコン、一刻でも早い捜索・救助で埋没者の生還率を少しでも上げるため、確実な充電と丁寧な取扱いで、その能力をきちんと発揮できるコンディションで雪山登山に持参しましょう。

オススメの雪崩ビーコン(3本アンテナモデル)

素早く正確な捜索ができる3本アンテナモデルがやはりオススメ

撮影:鷲尾 太輔(素早く正確な捜索ができる3本アンテナモデルがやはりオススメ)

前述の通り埋没者のビーコンの方向・距離を示し、より正確な捜索が可能なの3本アンテナモデル。生命に関わるアイテムだからこそ、性能には妥協せずに選びたいですね。

MAMMUT|Barryvox

PIEPS|PRO BT

Arva|Evo5


雪崩について書籍で学ぼう

増補改訂 雪崩リスク軽減の手引き|東京新聞出版部

天野ガイドの著書で雪山登山を学ぼう

雪山登山|山と溪谷社

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