夏道と冬道はこんなに違う!雪山に挑戦する前に知っておきたい「冬の登山道」のこと

2020/12/22 更新

無雪期の登山であれば、地図やアプリに記された「登山道(夏道)」を歩けば大丈夫。でも、積雪期にただ夏道をなぞり歩くと危険なこともあります。どこをどう歩けば良いかを判断するには知識や技術も必要。雪山特有の「冬道」や雪山でのさまざまなリスクを知って対策をして、安全に楽しく雪山を楽しみましょう。


アイキャッチ画像撮影:筆者(雪があるからこそ歩ける霞沢岳西尾根。どこをいったら安全??)

積雪期に「夏と同じ道を歩ける」とは限りません

山登りは登山道を歩くもの。雪が降っても登山道に雪が積もっただけでしょ?

そういうイメージを持っているひとが多いかもしれませんが、「雪が積もると危なくて歩けない」「そもそも道がわからない!」ということは雪山ではしばしば起こります。

積雪期に歩く道のことを無雪期の登山道「夏道」に対して冬道といいます。そんな冬道のことを知っていないと大事故になってしまうこともあります。

「冬道」をどう歩くか。選択を誤ると大きな事故につながる!

阿弥陀岳の事故
撮影:筆者(阿弥陀岳の東面。赤線は夏道、黄線は当時「冬道」と認識されていたルート)
1982年3月21日のことです。中岳と阿弥陀岳のコルに突き上げる中岳沢(黄色ルート)を登っていた山岳会のパーティ13名と単独行1名が阿弥陀岳上部の急斜面(赤線の上方)からの雪崩に遭い、うち12名が亡くなりました。黄色ルートは今ではほとんど歩かれませんが、当時はよく歩かれていた道です。

当時は早朝から気温が高く、雨も降っていて湿雪雪崩が起きやすい状況で霧も出ていました。そんな状況の中、パーティが固まって登っていました。つまり状況判断ミスがいちばんの原因でした。

加えて、当時は雪崩に対する理解がいまほど進んでおらず、「雪崩は豪雪地帯で起こるもので八ヶ岳ではまず起きない」という迷信めいたものが登山界にはあり、その先入観も邪魔したようです。雪道を歩く上では正しい知識がいかに大事かを教えてくれます

赤線は現在の「夏道」ですが、こちらは雪が積もると雪面が固くしまり、さらに急角度で傾いていて滑落のリスクが大きいですし、歩けたとしても時間が非常にかかりますので雪崩のリスクも高すぎます。

夏道と冬道はこんなに違う!6つのポイント

確かな知識と現場での的確な判断。どちらが欠けてもこのような事故につながりかねません。

とはいえ、いわゆる登山地図やアプリしか見たことがないと、「冬道ってどこかに書いてあるの?」という感じかもしれませんね。実は積雪の状況を判断し、地図に記された夏道とは違うルート=冬道を見つける必要があるのです。

登山道は雪が積もるとどうなるのか、どんなことに気を付けて歩けばいいのか、じっくり見ていきましょう。

樹林帯|そもそも夏道が見つけられない……

冬の樹林帯
撮影:筆者(白馬乗鞍岳から見下ろした天狗原。夏には湿原の歩道を歩くが(左上)、積雪期は一面の雪原となる(右下))
雪の多い樹林帯では登山道が雪で隠されてわからなくなってしまいます。事前にルートを考えておき、それを元にしながらも、現場で歩きやすく安全なルートを選ぶ必要があります。

撮影:筆者(木の周りはツリーホールと呼ばれる空洞があることが多い)
雪山の樹林帯特有の注意点として、ツリーホールにはまらないよう注意しましょう。

積雪で隠れていることもあるので木の周りには無闇に近づかないのが賢明です。特に子どもやスキーヤー・スノーボーダーは逆さに落ちると脱出が難しく危険です。

密な樹林帯|登山道もそうでない場所も同じに見える!

密な樹林
出典:PIXTA(幹が見えていると「登山道」はわかるが、枝が込み入ったところまで積もるとわからなくなる)
雪のない時期には周りに比べて木々の間隔が空いていることから容易に登山道だと分かっても、雪が積もると木々の間隔が周りと変わらなくなって登山道が分からなくなることがあります。

わかりやすい目標物がない場合には地形図とコンパスを駆使してナビゲーションする必要があります。

固い斜面・雪稜・岩稜|滑落や雪庇の踏み抜きに気を付けて!

西穂高
撮影:筆者(西穂高岳独立標高点手前の岩稜)
特に斜面のトラバースするところや雪庇が発達する場所では、転落や滑落防止のためにルートが一時的に閉鎖されたり、稜線や尾根にルートが変わることがあります。現場でよりリスクが少ない場所を判断して歩くことが必要です。

写真の稜線は、無雪期は黄色のルートで右側斜面をトラバースしますが、道が雪で埋まってしまうと滑落リスクが高くなります。このため、積雪期は尾根を行く赤色のルートに変わります。ただし、左側に雪庇が張り出しているので踏み抜かないように注意も必要です。

雪崩地形の中|巻きこまれないのがいちばん。リスクを考えた行動を!

千畳敷カール
撮影:筆者(木曽駒ヶ岳千畳敷から駒ヶ岳へ登るルートは雪山入門とされるが、雪崩への備えが必要という点で経験者向きのルートである)
雪崩が起きる可能性のある「雪崩地形」を登山道が通っている場合には、雪崩地形を避けるようにルートを変えましょう

やむを得ず通る場合には、ビーコン、ショベル、プローブなどセルフレスキューに必要な装備を携行した上で、雪崩地形にいる時間を最小限に、万が一雪崩が起きても複数人が埋まるように間隔をあけて行動します。雪崩れた雪が堆積したデブリでトレースが途絶えていることもあります。周りをよく観察して道迷いしないようにしましょう。

写真では雪崩が流れ下る可能性のある場所で固まってパーティが休憩しています。過去にはこの遥か下まで流れ下った大規模な雪崩も起こっていて、もし巻き込まれれば全滅する可能性が高いです。

降雪、風雪、濃霧|そもそも視界がなくなる。撤退の判断も重要

撮影:筆者(雪の中を西穂高岳登頂を試みるも、視界もなく、雪も強くなって、帰りのトレースが見えなくなってしまうと判断して手前で撤退した)
なかなか想像がつきにくいかもしれませんが、雪が強く降っているときは、自分の歩いた足跡でさえすぐに消えていってしまうことがあります。霧が出ていればなおさらです。帰り道が分からなくなったり、滑落や雪崩の危険がある場所に気づかずに踏み込んでしまう可能性があります。道がまだわかるうちに引き返す、目印の旗を持って行くなど対策が必要です。

残雪期の雪稜・雪渓|「雪が厚そうな部分」をつないで歩こう

撮影:筆者(梅雨頃の剱沢雪渓の真砂沢ロッジ付近)
春から夏にかけてのいわゆる残雪期になると、雪もしまり、雪渓や雪田、雪稜も歩きやすくなりますが、雪が融けて雪が割れたり薄くなったりしていきます。薄いところを踏み抜いたり割れ目にはまって冷たい流れに落ちないよう、どのあたりを歩けばよりリスクが低いか判断しながら歩きましょう。

写真の雪渓は夏山シーズンには橋が架かるところですが、梅雨時にはこのように橋はなく雪渓を渡るか渡渉するしかありません。地面から雪渓への段差が大きく、渡るにはアイゼンピッケルが必要でした。

「雪山ならではの自由」とそれを楽しむために必要なこと

道がわからなくなったり変わったりするのは不自由なことばかりではありません。雪のないときと比べて逆に自由度も上がります。

雪がたくさん積もれば基本的にどこでも歩ける

北穂高岳の夏道北穂高岳の冬道
撮影:筆者(北穂高岳の無雪期(上)と積雪期(下)。積雪期は雪の急斜面(無雪期はガレ場)を詰めていく)
雪がそれなりに積もるところならば、薮も埋まり、沢や池も埋まり、自分の好きなように歩いたり滑ったりできるようになります。

上は北穂高岳の無雪期と積雪期のルートを示したものですが、夏は岩稜帯を九十九折りに歩くため斜度が低くなります。一方、冬は斜度は急になりますが直登できます。

どちらがラクかは一長一短ありますが、不安定な岩や土砂が堆積している場所も雪が積もれば歩けるようになり、行動範囲が劇的に広がります。どこを行けばラクで楽しいか、考える楽しみも増えます。

1)地形図を読み、行き先を予測しよう

雪山を楽しむために必要なことは3つあります。まずは、あらかじめ地形図を読んでどこを行けば良いかを予測しておくことです。

作成・撮影:筆者(積雪期のバリエーションルート爺が岳東尾根の同定表)
事前にこのような同定表」を作り、ルートを考え、注意点やビバークポイントを予想しておきます。同定表は登山地図には記されていない薮山や沢登りでもよく使います。同定表には確認ポイントでのコンパスの角度も記入しておきます。

2) 現地では臨機応変にルートファインディングしよう

作った同定表とコンパスを使って実際に歩くわけですが、予想と違うこともよくあります。臨機応変に安全で歩きやすいルートを探して進みましょう。

GPSがあるからそれでよいという考え方は禁物です。低温では電池の消耗も早くなりますし、うっかり端末を落とせば雪の中に埋もれてわからなくなったり、雪面を滑って回収不能になることもあります。

端末やコンパスにはストラップなどをつけ、同定表や地形図はうっかり風に飛ばされてなくしても困らないように複数部持っていきましょう。

3) ラッセルは時間がかかる!撤退も視野に入れた行動を

撮影:筆者(ラッセル練習風景。ピッケルやストックで雪を切り崩し(左上)、足場を作って立ち込む(右下)。これを繰り返す)
すべてに共通することですが、積雪深によってはラッセル技術が求められます。ラッセルがあると時間を見積もるのが難しく、非常に極端な場合は1時間で数十mしか歩けない、ということもあります。

ラッセルが予想される場合には山行計画にあらかじめ予備日を設定したり、行動中も残された時間と装備を考えて、計画通りに進むのか、ルートを変更するのか、それとも撤退するのかを随時考え直すことも必要です。

とはいえ、これも逆に考えれば登り甲斐につながります。「ラッセル・ハイ」という言葉もあるほどです。

春を待つ「雪の下」への心遣いもお忘れなく

雪の下の植物
出典:PIXTA(雪の下には春を待つ植物もいます)
雪が積もればどこでも歩けるとはいっても、雪が薄い場合にはアイゼンやピッケルで地表の植生を痛める可能性があります。節度を守って楽しみましょう。

身体も頭も心もフルに使って、雪山を満喫しよう

撮影:由井義仲(雪国の里山をラッセルで進む筆者。後には自分たちで切り開いたトレースが見える)
雪のない山と比べると必要な技術も知識も装備も増えますが、それを補ってあまりある自由と楽しみを味わえる、それが雪山です。登山道のことに限りませんが、しっかり知識や技術を身に着けながら、みなさんもこの冬に一歩踏み出してみませんか。

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田村茂樹

登山ガイド/山伏。生き方に悩んでいた自分を救ってくれたお山に恩返ししたいと登山ガイドになる。日本の登山のルーツである信仰登山を再び日本によみがえらせることを夢見ている。大学で地学の研究をしていたため、地質や地形の解説も得意。https://www.tam-mountainguide.com/

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