積雪期に「夏と同じ道を歩ける」とは限りません
山登りは登山道を歩くもの。雪が降っても登山道に雪が積もっただけでしょ?そういうイメージを持っているひとが多いかもしれませんが、「雪が積もると危なくて歩けない」「そもそも道がわからない!」ということは雪山ではしばしば起こります。
積雪期に歩く道のことを無雪期の登山道「夏道」に対して「冬道」といいます。そんな冬道のことを知っていないと大事故になってしまうこともあります。
「冬道」をどう歩くか。選択を誤ると大きな事故につながる!

当時は早朝から気温が高く、雨も降っていて湿雪雪崩が起きやすい状況で霧も出ていました。そんな状況の中、パーティが固まって登っていました。つまり状況判断ミスがいちばんの原因でした。
加えて、当時は雪崩に対する理解がいまほど進んでおらず、「雪崩は豪雪地帯で起こるもので八ヶ岳ではまず起きない」という迷信めいたものが登山界にはあり、その先入観も邪魔したようです。雪道を歩く上では正しい知識がいかに大事かを教えてくれます。
赤線は現在の「夏道」ですが、こちらは雪が積もると雪面が固くしまり、さらに急角度で傾いていて滑落のリスクが大きいですし、歩けたとしても時間が非常にかかりますので雪崩のリスクも高すぎます。
夏道と冬道はこんなに違う!6つのポイント
確かな知識と現場での的確な判断。どちらが欠けてもこのような事故につながりかねません。とはいえ、いわゆる登山地図やアプリしか見たことがないと、「冬道ってどこかに書いてあるの?」という感じかもしれませんね。実は積雪の状況を判断し、地図に記された夏道とは違うルート=冬道を見つける必要があるのです。
登山道は雪が積もるとどうなるのか、どんなことに気を付けて歩けばいいのか、じっくり見ていきましょう。
樹林帯|そもそも夏道が見つけられない……


積雪で隠れていることもあるので木の周りには無闇に近づかないのが賢明です。特に子どもやスキーヤー・スノーボーダーは逆さに落ちると脱出が難しく危険です。
密な樹林帯|登山道もそうでない場所も同じに見える!
雪のない時期には周りに比べて木々の間隔が空いていることから容易に登山道だと分かっても、雪が積もると木々の間隔が周りと変わらなくなって登山道が分からなくなることがあります。わかりやすい目標物がない場合には地形図とコンパスを駆使してナビゲーションする必要があります。
固い斜面・雪稜・岩稜|滑落や雪庇の踏み抜きに気を付けて!

写真の稜線は、無雪期は黄色のルートで右側斜面をトラバースしますが、道が雪で埋まってしまうと滑落リスクが高くなります。このため、積雪期は尾根を行く赤色のルートに変わります。ただし、左側に雪庇が張り出しているので踏み抜かないように注意も必要です。
雪崩地形の中|巻きこまれないのがいちばん。リスクを考えた行動を!

やむを得ず通る場合には、ビーコン、ショベル、プローブなどセルフレスキューに必要な装備を携行した上で、雪崩地形にいる時間を最小限に、万が一雪崩が起きても複数人が埋まるように間隔をあけて行動します。雪崩れた雪が堆積したデブリでトレースが途絶えていることもあります。周りをよく観察して道迷いしないようにしましょう。
写真では雪崩が流れ下る可能性のある場所で固まってパーティが休憩しています。過去にはこの遥か下まで流れ下った大規模な雪崩も起こっていて、もし巻き込まれれば全滅する可能性が高いです。
降雪、風雪、濃霧|そもそも視界がなくなる。撤退の判断も重要

残雪期の雪稜・雪渓|「雪が厚そうな部分」をつないで歩こう

写真の雪渓は夏山シーズンには橋が架かるところですが、梅雨時にはこのように橋はなく雪渓を渡るか渡渉するしかありません。地面から雪渓への段差が大きく、渡るにはアイゼンピッケルが必要でした。
「雪山ならではの自由」とそれを楽しむために必要なこと
道がわからなくなったり変わったりするのは不自由なことばかりではありません。雪のないときと比べて逆に自由度も上がります。雪がたくさん積もれば基本的にどこでも歩ける


上は北穂高岳の無雪期と積雪期のルートを示したものですが、夏は岩稜帯を九十九折りに歩くため斜度が低くなります。一方、冬は斜度は急になりますが直登できます。
どちらがラクかは一長一短ありますが、不安定な岩や土砂が堆積している場所も雪が積もれば歩けるようになり、行動範囲が劇的に広がります。どこを行けばラクで楽しいか、考える楽しみも増えます。
1)地形図を読み、行き先を予測しよう
雪山を楽しむために必要なことは3つあります。まずは、あらかじめ地形図を読んでどこを行けば良いかを予測しておくことです。
2) 現地では臨機応変にルートファインディングしよう
作った同定表とコンパスを使って実際に歩くわけですが、予想と違うこともよくあります。臨機応変に安全で歩きやすいルートを探して進みましょう。GPSがあるからそれでよいという考え方は禁物です。低温では電池の消耗も早くなりますし、うっかり端末を落とせば雪の中に埋もれてわからなくなったり、雪面を滑って回収不能になることもあります。
端末やコンパスにはストラップなどをつけ、同定表や地形図はうっかり風に飛ばされてなくしても困らないように複数部持っていきましょう。
3) ラッセルは時間がかかる!撤退も視野に入れた行動を
すべてに共通することですが、積雪深によってはラッセル技術が求められます。ラッセルがあると時間を見積もるのが難しく、非常に極端な場合は1時間で数十mしか歩けない、ということもあります。ラッセルが予想される場合には山行計画にあらかじめ予備日を設定したり、行動中も残された時間と装備を考えて、計画通りに進むのか、ルートを変更するのか、それとも撤退するのかを随時考え直すことも必要です。
とはいえ、これも逆に考えれば登り甲斐につながります。「ラッセル・ハイ」という言葉もあるほどです。
春を待つ「雪の下」への心遣いもお忘れなく

身体も頭も心もフルに使って、雪山を満喫しよう
