アイキャッチ画像撮影:鷲尾 太輔
ステップアップを目指すなら……バックパックも雪山仕様にチェンジ!

いよいよ待望の雪山シーズン到来!この冬、さらなるレベルアップを目指している人も多いのではないでしょうか。
トレッキングポールからピッケルへ、6本爪の軽アイゼンから12本爪の多本爪アイゼンへ、レインウェアからハードシェルへ……本格的な雪山登山に向けた装備のアップデートは費用もかかりますが、心躍るものです。
ザックにも雪山登山用がある!?

登山に欠かせない背中の相棒・ザックにも、雪山登山に適したモデルがあります。
ザックというと、容量や収納性とフィット感くらいしか選択基準がないと思いがちですよね。けれども雪山登山での使用を想定すると、他にもチェックしておきたいポイントがあるのです。
そこで今回は、雪山登山で使用するザックを選ぶときのポイントを紹介します。
雪山登山に適したザックでより快適に!選ぶときのチェックポイント10箇条
各ブランドにラインナップしている雪山向けのザックには、「雪山登山専用」のモデルと「雪山登山に適した」モデルがあります。
もちろん、これらのザックが無積雪期の登山で使用できないことはありません。同様に、積雪環境によっては夏山で使っていたザックで十分な場合も。

しかし、雪山向けのモデルには、積雪による濡れや冷えが大きなリスクとなる環境での使い勝手を考慮した、様々な工夫が散りばめられているのです。
そんな雪山登山に適したザックを選ぶ際のチェックポイント10箇条を見ていきましょう。
必ずしも全ての条件をクリアしているザックでなければ雪山登山に使用できない、ということはありません。自分が目指している雪山登山のレベルやスタイルに合わせて、より快適かつ安全に楽しむために必要な条件をチェックしてみてください。
雪山登山用ザック選びのポイント10箇条
- 堅牢性を備えた生地により、アイゼン・ピッケルでの破損を防止
- 背中との隙間がなく、雪が付着しにくいフラットな背面で寒さを軽減
- ギアの外付けは凍結や紛失の危険も!シンプルなコンプレッションベルトで十分
- 厚着での激しい行動を邪魔しないショルダーハーネスやヒップベルトが快適
- ベルト類のアジャスター・ストッパーは、グローブを装着したまま操作できるかがキモ
- 雪崩対策装備など、全てのアイテムを収納できる容量・サイズを選択
- ピッケルホルダーは使用するピッケルをきちんと固定できるかチェック
- メッシュポケットのザックは雪山登山には不向き
- ほかのアイテムを濡らさない雪山ギア専用の収納スペースがあると便利
- 雪山登山ではハイドレーションの恩恵を受けにくいので注意
1. 堅牢性を備えた生地により、アイゼン・ピッケルでの破損を防止

ピッケルやアイゼンなどの鋭利な刃物を使用する雪山登山では、これらのアイテムを使用する前提での耐久性と堅牢性を備えた生地のザックである必要があります。
また、雪山登山ではザックカバーを使用しないため(詳しくは後述)、ある程度の防水性と雪が付着しても落ちやすく、転倒の際に長距離の滑落を抑制するザラザラとした生地を使用しているモデルだと安心です。
2. 背中との隙間がなく、雪が付着しにくいフラットな背面で寒さを軽減

暑い時期であれば、背中の汗蒸れ防止や通気性を確保するため、背面がメッシュ式のザックをセレクトするのもおすすめですが、雪山登山では逆効果。背面に冷気が入り込むため寒さを感じたり、隙間に雪が侵入して濡れや冷えにつながったりすることがあります。
また、背面に空間を設けるためのラウンドしたフレームによって、かさばるギアの取り出しや収納に時間がかかってしまう場合も。雪山登山では、とくに汗をかかないよう、こまめなレイヤリングで防寒対策を行います。このため必然的に、ウェアの取り出しや収納回数も多くなるのです。
荷物の出し入れにおいて、過度にラウンドした背面フレームよりも、フラットな背面の方が雪山での使い勝手は◎です。
ウエストやショルダーのベルト裏が厚手なメッシュパッドのザックも、雪が付着しやすく使用時に使い勝手が悪くなる場合があります。
3. ギアの外付けは凍結や紛失の危険も!シンプルなコンプレッションベルトで十分

ザック両サイドの厚みを調整するコンプレッションベルトには、内部に収納できないギアを引っ掛けたくなるものです。
しかし雪山登山では、不用意に外付けをすると濡れたギアが凍結したり、雪上で落とすとどこに落としたのか分からなくなり、大切なギアの紛失の原因になります。こうした観点から、ギアの外付けは控えましょう。
また、ベルトとザックの隙間に雪が詰まることも。アイテムを外付けを想定しない、シンプルなコンプレッションベルトがおすすめです。雪山登山などを想定したアルパインタイプのザックでは、コンプレッションベルトを廃したモデルもラインナップされています。
4. 厚着での激しい行動を邪魔しないショルダーハーネスやヒップベルトが快適
撮影:鷲尾 太輔(厚着での激しい動きを邪魔しないベルトが快適)
雪山登山では、そもそもハードシェルの着用で厚着になりがち。天候次第では、ジャケットのフードを被って行動することもあります。
さらに新雪の斜面でのラッセルでは、腕に持ったピッケルで除雪を行い、膝で雪を踏み固めて、靴底で次の一歩を踏み出すという全身運動が必要です。
こうした動きを邪魔しない、ベルトの形状やパッドの厚みを考慮する必要があるのです。ショップで試してみるときは、想定のウェアを着た状態で背負い、動きやすさも確認してみましょう。
5. ベルト類のアジャスター・ストッパーは、グローブを装着したまま操作できるかがキモ

アイゼンの着脱はもちろん、ザックのベルトを開閉・調整する際にも、これらの操作を素手で行うことは手指が凍傷になるリスクを考えると危険。
雪山登山用のグローブを装着した状態でも、操作しやすいアジャスターやストッパーが付属したベルトやストラップを搭載したモデルがおすすめです。
6. 雪崩対策装備など、全てのアイテムを収納できる容量・サイズを選択

前述の通り、過度なギアの外付けはおすすめできません。
天候や積雪状況にもよりますが、とくに雪崩対策装備の安易な外付けは避けたいところ。万が一の雪崩遭遇時には外付けしたプローブ(ゾンデ棒)やスノーショベルが流失してしまうことがあるからです。これでは運よく埋没せずに生還しても、埋没してしまった同行者や近くの登山者を探索・救出することが不可能になってしまいます。
また、無積雪期と雪山では必要なウェアやギアが増えるため、適したザックの容量・サイズが変わります。無積雪期の日帰り登山では20L程度のザックで十分ですが、同じ山・ルートであっても雪山登山では30〜40Lのザックが便利です。
テント泊の場合は、食糧・燃料・調理器具やシュラフカバーなどさらにアイテムが加わります。自身の山行に必要な装備をすべてザック内に収納できる容量・サイズのザックをセレクトしてください。
7. ピッケルホルダーは使用するピッケルをきちんと固定できるかチェック

ピッケルをリングの上から通し、折り返してサイドのベルトにシャフトを固定するピッケルホルダーは、大抵のザックに付属しています。しかし容量が小さいザックなどでは、アクセサリー的なピッケルホルダーで、きちんとザックに固定できない場合も。
雪山登山用のザックをセレクトする場合には、ピッケルが適正な位置と高さで固定できるホルダーが付属しているかを確認することが大切です。
アイスクライミングに使用するアイスアックスとアイスバイルは2本セットで使用するため、2箇所もしくは中央にまとめて固定できるピッケルホルダーが必須です。
8. メッシュポケットのザックは雪山登山には不向き

無積雪期であればペットボトルや水筒を収納して素早い水分補給に重宝するサイドポケットですが、気温が氷点下になる雪山登山では水分があっという間に凍結してしまいます。
またメッシュ仕様のポケットは雪が溜まってしまい、ザック内部へ浸水してしまうことも。先述の「紛失防止のため、全てのアイテムを収納できる容量・サイズを選択する」という観点からも、雪山登山には不向きと言えます。
雪山で使用するザックは、こうしたポケットがないシンプルなモデルがおすすめです。
9. ほかのアイテムを濡らさない雪山ギア専用の収納スペースがあると便利

雪山登山に欠かせないアイテムがアイゼンです。装着している際には問題ありませんが、外した後に収納する場所には注意が必要。アイゼンケースの仕様にもよりますが、雪が付着したアイゼンで他のアイテムも濡れてしまう可能性があります。
使い勝手がいいのは、写真のようにアイゼンなどの雪山ギアを外側に収納できたり、雪が溜まりにくい大きめのフロントポケットがあったりと、雪山ギアを他のアイテムとは別に収納できるモデルです。
ただしこうしたモデルでなくとも、雨蓋にループやテープ、ショックコードなどが付属していれば、アイゼンをザックの外側に固定して装着することができます。荷物を濡らさずに素早くアイゼンの着脱ができるだけでなく、アイゼンケースに収納する手間が省け、使用後のアイゼンの乾燥も速くなります。
10. 雪山登山ではハイドレーションの恩恵を受けにくいので注意

これまた無積雪期の素早い水分補給に重宝するハイドレーションシステムですが、雪山登山ではチューブや飲み口が凍結して使用できなくなってしまうことがほとんど。断熱カバーの併用や、吹き戻し(ホースに水を残さないよう息を吹きこんで水をバッグ内に戻す)などの凍結対策が必須です。
またチューブを通すためにザックに設けられた穴から、内部に雪が侵入してしまうことも。
汗をかきにくく、喉の渇きを感じにくい雪山登山では水分補給がおろそかになりがち。しかし、血流を良くして体調を整えたり、手先・足先の冷えを予防したりするためにも、こまめな水分補給が欠かせません。
また、低体温症になるリスクを抑えるために温かい飲み物を摂取するのも有効。凍結に注意しつつ通常の水筒を携行した上で、あわせて保温性の高い魔法瓶タイプの水筒を上手に利用するのがおすすめです。
雪山を楽しむスタイルに合わせたチョイスを

ここまでは雪山登山全体に関わるポイントを紹介してきましたが、冬の山を楽しむスタイルは様々。楽しみ方によっては、ザック選びで見るべきポイントがさらに増えます。
例えばアイスクライミングや雪稜登攀を想定する場合は、ヘルメットやロープ・ハーネス・スリング・カラビナなど登攀用のギアまで含めた収納性を考慮する必要があります。
さらにハーネスを装着してザックを背負う場合もあることを考えると、ハーネスと干渉しないヒップベルトの形状や調整方法のモデルと選ぶとよいでしょう。最初からハーネス装着を想定して、ヒップベルトを取り外しできるモデルもありますよ。
覚えておいて損なし!雪山登山用ザックを使いこなすコツ

せっかく雪山登山に適したザックを選んでも、きちんと使いこなせないと真価を発揮できません。ここでは安全・快適に雪山登山を楽しむためのコツを紹介します。
収納は「安定感」と「防水」がキーワード

無積雪期に比べて風が強く、あおられてバランスを崩すこともある雪山登山。重いアイテムをザックのフロント側に収納すると、遠心力でよりバランスを崩しやすくなります。どの季節も同じですが、重いアイテムは背中寄りの高い位置に収納しましょう。
またザック自体にある程度の防水性があっても、吹雪の時に中身の出し入れをすると、ザック内部に雪が侵入してしまいます。着替えなど絶対に濡らしたくないアイテムは、ジップ付きの袋や防水のスタッフバックなどに収納しておくのが無難です。
ザックカバーは使用しない

雪山登山用のザックには、ザックカバーは付属していません。前述の通り、いかに激しい風雪であっても雪が付着しにくく、ある程度の防水性がある生地を採用しているからです。
さらにこの生地は雪山登山用のハードシェルと同じく、転倒した際に長距離を滑落しないよう、ザラザラとした素材を採用しています。それなのにザックカバーを装着してしまうと、かえって滑りやすくなってしまうのです。
休憩時もザックの滑落に要注意
撮影:鷲尾 太輔(1枚目:ピッケルをショルダーハーネスに通しておくと安心、2枚目:ピッケルで雪面を平坦にしたザック置き場[通称:バケツ])
ザックを下ろして休憩する際にも注意が必要。ザックだけが滑落してしまい、大切なアイテムが全てなくなってしまう可能性があるからです。こうなると登山の続行が不可能になるだけでなく、安全な下山すら難しいリスクにさらされてしまいます。
休憩する時は写真のように、ザックのショルダーハーネスにピッケルを通して、しっかり雪面に差し込んでおきましょう。急斜面であれば2枚目の写真のように、ピッケルのヘッド部分で雪面を平坦になるように掘った「バケツ」にザックを置くとさらに安心です。
雪山登山をもっともっと楽しむなら、ザックも見直すのが吉!

撮影:撮影:鷲尾 太輔
厚手のウェアやグローブを着用して、アイゼンやピッケルを使用しつつも、スムーズでスピーディーな行動が要求される雪山登山。そんな過酷な環境での使い勝手を考え抜かれた雪山用ザックを相棒にして、快適かつ安全にウィンターシーズンを楽しみましょう。