赤岳で雪山ステップアップチャレンジ

参加メンバーは、読者代表の内山舞さん(写真右から2番目)、THE NORTH FACEマーケティングの中村真記子さん(写真左)、YAMA HACK編集部の荻原枝里子(写真右)。
一行を赤岳山頂まで連れて行ってくれたのは、山岳ガイドの馬目弘仁さん(写真左から2番目)と、サポートガイドの鳴海玄希さんです。山岳ガイド1名につき最大2名でロープ確保するため、3名のメンバーにガイド2名で赤岳を目指しました。
天候に恵まれ、冬の赤岳登頂に無事成功!

【計画編】、【準備編】で学んだことをもとに、各々が準備を万端にしてその日を迎えました。
幸運にも晴天&微風という天候に恵まれ、赤岳登頂は無事成功!

内山
山頂からは、北アルプスに中央アルプス、南アルプス、富士山に奥秩父などを見渡すことができました!
以前、歩いた冬の前穂高岳は無我夢中で登りました。
しかし、今回は天気も良かったし準備もしっかりできていたので、景色を楽しむ心の余裕をもちながら歩くことができてよかったです。
しかし、今回は天気も良かったし準備もしっかりできていたので、景色を楽しむ心の余裕をもちながら歩くことができてよかったです。

中村

荻原
雪のコンディションがよく、景色も最高!みんな笑顔でケガなく無事に下山できたことがなによりです。
3人とも、まったく問題なく歩けていましたよ!

馬目
実際に歩いた行程はこちら

今回は天候予備日を設けていたので2日目に赤岳へアタックした後、赤岳鉱泉まで戻ってさらに1泊しましたが、体力があればそのまま泊まらずに下山も可能。
天候の状況、自分自身やメンバーの体力を考慮して、泊数を調整しましょう。
では、実際に歩いた行程をお届けします!
≪1日目≫
美濃戸口~(南沢ルート)~行者小屋~赤岳鉱泉
≪2日目≫
赤岳鉱泉~行者小屋~赤岳~行者小屋~赤岳鉱泉
≪3日目≫
赤岳鉱泉~(北沢ルート)~美濃戸口
一番の難所は「山頂までの稜線歩き」と「地蔵尾根の下り」

雪のコンディションによっては、滑落の危険性が非常に高まる場所なので、一歩一歩、アイゼンの爪を確実に突き刺しながら進むことが肝心です。

こちらも斜度があるうえ、クサリやハシゴ、岩が露出している箇所をアイゼンで歩く場所があるので、バランスを取りながら慎重に!
アタック当日、山頂では快晴だったものの地蔵尾根を下るころには雲がかかりはじめたので、黙々と下山しました。

内山
山頂までは怖いと感じるところはなかったのですが、地蔵尾根から先は急な下りがあって雪面も凍っていたので、ピッケルの置き場に困りることもあり、ちょっと緊張しました。
ロープでつながっていても自分でしっかり歩く意識を

滑落のリスクに備え、文三郎尾根の途中からロープをつなぎ始めました。
頼れるガイドに確保されて安心感が得られることは確かですが、油断は絶対にNG!自分が滑落することによって、ガイドや他のメンバーを危険にさらすことになります。
メンバーのひとりひとりが、アイゼンとピッケルを適切に使って、「滑落しない」歩行を行うことが大切です。

荻原
ガイドさんとロープをつないで登るのは初めてでしたが、前の人との距離の間隔とか、慣れるのに少し時間がかかりました。
こんなコンディションだったら撤退してたかも?

しかし、「気温が低い」「風が強い」「降雪量が多い」「雪面が凍結している」など、困難な条件がいくつか重なっていれば、撤退やコース変更を余儀なくされていたかもしれません。

馬目
天気予報は100%ではありませんから、雪山ではとくに、現場での状況判断が大事になります。
経験を重ねるしかない部分もありますが、判断に自信がないという方はぜひ、私たちガイドを頼ってくださいね。
経験を重ねるしかない部分もありますが、判断に自信がないという方はぜひ、私たちガイドを頼ってくださいね。
体力を温存することが成功の秘訣
より多くの装備を使い、低い気温の中歩く雪山登山。さまざまなリスクを回避するため、変化する天候を判断するためにも体力を温存しておくことは非常に重要です。体力を蓄えつつ登るための歩き方や休憩の取り方でもコツがあります。
●身体の向きや足の置き方を少しずつ変えて、使う筋肉を分散

そこで馬目さんに教わったのは、足首やヒザをうまく使って、身体の向きや足の置き方を少しずつ変えながら歩く方法。少し意識しながら歩くだけで、筋力や体力を温存することができます。

内山
足の向きを変えて歩くことを教えてもらったので、以前、雪山を歩いたときよりも楽に歩けました。
●適切なスピード配分とこまめな休憩

大切なのは、ほどよいペース配分で歩くことと、こまめに休憩を取ること。
汗をかかないためにも、意識しながら歩きましょう。
登頂成功のカギは「事前準備」にあり。メンバーがアタックまでに備えたこととは?

メンバーが準備したことを、5つのポイントに絞って説明しましょう。

馬目
雪山では、トラブルがなにも起こらないことが基本。
トラブルの元をなくすために、事前準備が大切です。
トラブルの元をなくすために、事前準備が大切です。
【1】具体的なシーンを想定してアイテムを揃える
おすすめのアイテムについては【準備編】で紹介したとおりですが、できるだけ具体的に山行をシミュレーションして、持って行くウェアやギアを厳選することが重要です。行動時や休憩時などシーンに適したレイヤリングを

「行動時」とひとくちに言っても、快晴無風の場合と吹雪の場合では、着用するウェアも小物も異なりますし、歩く場所が樹林帯なのか稜線上なのかによっても適切な組み合わせは変わってきます。
事前に調べた天気予報が良さそうでも、天候の急変を想定に入れながら、自分にとってベストなレイヤリングができる準備をしましょう。

馬目
私も海外遠征の前には必ず、ウェアを何度も試着しながらレイヤリングを研究しています。
稜線上での防寒&紫外線対策をぬかりなく

寒さに関して意外と盲点なのが、露出している顔の防寒対策です。フードを被るだけでは顔のすべてを覆うことができないので、鼻や頬が凍傷になるリスクも。バラクラバは必携です。
また雪山では、太陽光が雪に反射することで紫外線による目へのダメージが、夏山より格段に上がります。
【準備編】でも触れたように、サングラスは顔の形状に沿ったモデルを選ぶことで、雪目などのトラブルを最小限に抑えることができます。
濡れたら致命的なアイテムはスペアを用意

湿った雪や自分の汗で濡れてしまい、凍ってしまったらアウト。
とくにグローブと靴下に関しては、スペアを用意しておけば安心です。
「凍りにくい」がポイント。馬目さんの行動食を拝見!

馬目さんのこだわりとしては、凍りにくいもので、甘味と塩気のあるものをバランスよく選んでいるとか。パンやおにぎりは凍りやすいので、稜線上に持って行く場合は、胸元ポケットなどに忍ばせて行くそうです。
そして、手袋をつけても食べやすいものもポイントとのこと。

馬目
以前は、緻密にカロリー計算をしていたのですが、最近はあまり気にせず、食べたいものを持っていくようにしてます。
歌舞伎揚、柿ピー、ブラックサンダーはマストですね(笑) 凍りにくいので、大福もよく持って行きます。
歌舞伎揚、柿ピー、ブラックサンダーはマストですね(笑) 凍りにくいので、大福もよく持って行きます。
冬の有人小屋泊で必要なものをチェック

小屋内の移動の際に、軽量コンパクトで保温性の高いスリッパを持ち込んでいるとグッと快適になります。
山小屋は消灯が早いので、ヘッドランプは必須アイテムなのは夏と同様です。
また、昨今、新型コロナウイルス感染症の影響で、マスクやインナーシーツを必携にしている山小屋が多くあります。山小屋で購入可能な場合もありますが、出かける前に各山小屋のウェブサイトなどで確認を。
サイト更新していない場合もあるので、直接電話で聞けば安心です。
【2】行動中にまごつかないためのパッキング
歩行時と休憩時に活動を止めているときの体温差が大きいため、ウェアの調整などは手早く行いたいもの。そのために事前に工夫できることもあります。
ウェアやグローブは取り出しやすいところへ

たとえば稜線上でウェアやグローブなどの出し入れを行うときに時間がかかりすぎると、冷えにつながってしまいます。
スムーズに出し入れができるよう、取り出さないものは下に、頻繁に取り出すものは上に詰め込むなど、行動をシミュレーションしながらパッキングしましょう。
【3】ギアの使い勝手を向上させるためのひと工夫

山へ向かう前に、できる限りの対処を施しておくのがおすすめです。

荻原
今までは気にならなかったのですが、稜線でヘルメットのストラップの余った部分が風に煽られて顔に「バチン!」とぶつかって痛かったです……。過酷な状況になるほど、自分の準備の雑な部分が命取りになりかねないなと実感。
引っかけや転倒防止のためにストラップの長さを調整しておく

巻き付けたストラップが歩いているうちにほどけてしまい、それで自分自身の足を引っかけてしまうと滑落につながる恐れがあります。
事前に予測できるリスクは極力潰しておくことが、雪山登山の鉄則です。
持ち替えにマストなピッケルリーシュは自作も可能

商品として販売されているものもありますが、スリングとカラビナがあれば自作することもできます。
【4】アイゼンの正しい使い方を事前に確認

読者代表の内山さんは、初冬の立山・雄山をアイゼンとピッケルを使って登頂しているのですが、正しい使い方ができているのか少し不安があったようです。
そこで1日目、赤岳鉱泉のアイスキャンディの下にある氷の斜面を使って、馬目さんにしっかりその使い方を教えてもらいました。

内山
今まで自己流でやっていたアイゼンとピッケルの正しい使い方を学ぶことができました。
カチカチに凍った急斜面でアイゼンの練習ができたので、アタック本番に怖がらずに歩くことができてよかったです。
練習は大事ですね!
練習は大事ですね!

荻原
チェーンスパイクと12本爪アイゼンの使い分け

しかし、急な斜面の道では硬くて安定感のある12本爪のアイゼンに履き替えましょう。
今回の山行の1日目は、美濃戸山荘から行者小屋までチェーンアイゼンを、行者小屋から赤岳鉱泉まで12本爪アイゼンを装着して歩きました。
雪のなかでの装着するときは雪をしっかり落とそう

靴とアイゼンの間に雪が挟まったままではフィット感が損なわれ、歩いている途中にアイゼンが外れてしまうという悲劇に見舞われる恐れも……!少し手間ですが、トレッキングポールやアイゼンの爪などをうまく使って、しっかり落としましょう。
アイゼン歩行のポイントは?
●握り拳分、カカトとカカトの間を空ける
転倒は滑落にもつながるので、絶対に避けなければなりません。
カカトとカカトの間は、握り拳ひとつ分以上を空けて歩くのがポイントです。
●前爪以外の爪全体を雪面に突き刺すイメージ

脚全体の疲労を分散させるために、ハの字または逆ハの字にしたり、片足だけ斜めに置いたり、足首の向きやヒザの屈伸をうまく使って歩き方を変えていくのがポイントです。
●歩幅は空けすぎず、できるだけ上半身は垂直に

怖さのあまり足元を見過ぎたり腰が引けていたりすると、アイゼンの爪に荷重かかからず、不安定になってしまいます。
●急斜面では前爪を突き刺す

一歩一歩、前爪を雪面に蹴り込んで、爪が雪を捉えていることを確認しながら登っていきます。
●岩場での歩き方

前爪以外の爪全体ができるだけ均等に地面に接するように、岩の形状を確認しながら進みましょう。

馬目
岩の上は足の置き場が限定的になるので、探りながら慎重に足を置かないと、自分のパンツに爪を引っ掛けてしまうことも。
【5】ピッケルの正しい使い方を事前に確認

タイミングは12本爪アイゼンと同じ

平坦な道や緩斜面ではトレッキングポール、急斜面ではピッケルと使い分けます。
基本的には、チェーンアイゼンを12本爪アイゼンに履き替えるタイミングと同じと考えましょう。
ピッケルの使い方
●手のひらの中央でヘッドとシャフトをしっかり掴む
登りのときはピック(細く尖ったほうの刃)が前方に、下りのときはブレード(広いほうの刃)が前方にくるように持つのが基本です。
●常に山側に突くよう、都度持ち替える

進むにつれて山側と谷側は変わるので、その都度、左右の手を持ち替えましょう。

馬目
ピッケルは杖ではないので、突くことを意識して前かがみになるくらいなら、突かないほうがいいですね。
●持ち替え時は、アイゼンを雪面に突き刺し身体を安定させてから
ピッケルを持ち替える一瞬の隙に、強風が吹くなどして上半身のバランスを崩す可能性もゼロではありません。
持ち替えの際は、足元が安定した状態であることを確認することが重要です。
ステップアップを実感できるガイド山行&講習会の魅力

自分自身で経験を積んで、試行錯誤しながらステップアップする醍醐味もありますが、経験豊富なプロガイドにガイディングをお願いすれば、安全に、ステップアップの質と速度を高めることができます。
プロショップなどが主催する雪山講習会もありますので、自分に合った学びの場を探してみてください。
知識と技術を身につけ、経験を積み重ねて、魅力あふれる雪山を長く安全に楽しみましょう!

馬目
3人とも無雪期の登山経験が豊富で体力があったことも、スムーズに登頂できた理由ですね。
赤岳以外にも魅力的な雪山はたくさんありますし、レベルに合わせて適切な雪山へお連れしますので、ぜひ一緒に登りに行きましょう!
赤岳以外にも魅力的な雪山はたくさんありますし、レベルに合わせて適切な雪山へお連れしますので、ぜひ一緒に登りに行きましょう!
今回、レイヤリングが大切という意識が芽生えました。
学んだことを活かして、今シーズン中にテント泊で雪山登山をしたいです!
学んだことを活かして、今シーズン中にテント泊で雪山登山をしたいです!

内山

荻原
アタック前日にアイゼン歩行の練習をしたときに、片足のアイゼンの長さが靴と合ってないことをガイドさんに指摘されて、直してもらいました。
ほかにも、ガイドさんがいたからこそ気づけたことはたくさんありましたね。
ほかにも、ガイドさんがいたからこそ気づけたことはたくさんありましたね。
事前に馬目さんに教わって装備を万端に準備できたことで、登ることに集中できましたね。
シーン想定を考えた準備をするなど、スキルアップを実感して自信につながりました。
シーン想定を考えた準備をするなど、スキルアップを実感して自信につながりました。

中村
Sponsored by THE NORTH FACE