登頂成功のカギは「事前準備」にあり。メンバーがアタックまでに備えたこととは?
好天に恵まれたことはもちろんですが、今回のチャレンジ成功は馬目さんに雪山の知識を教わり事前に準備できたことが、大きな要因であることは間違いありません。
メンバーが準備したことを、5つのポイントに絞って説明しましょう。

トラブルの元をなくすために、事前準備が大切です。
【1】具体的なシーンを想定してアイテムを揃える
おすすめのアイテムについては【準備編】で紹介したとおりですが、できるだけ具体的に山行をシミュレーションして、持って行くウェアやギアを厳選することが重要です。
行動時や休憩時などシーンに適したレイヤリングを
おもに考えるべきなのが、「行動時」「休憩時」といったシーン別のレイヤリングです。
「行動時」とひとくちに言っても、快晴無風の場合と吹雪の場合では、着用するウェアも小物も異なりますし、歩く場所が樹林帯なのか稜線上なのかによっても適切な組み合わせは変わってきます。
事前に調べた天気予報が良さそうでも、天候の急変を想定に入れながら、自分にとってベストなレイヤリングができる準備をしましょう。

稜線上での防寒&紫外線対策をぬかりなく
稜線上を歩く際に気を付けなければいけないのが、「寒さ」と「紫外線」。
寒さに関して意外と盲点なのが、露出している顔の防寒対策です。フードを被るだけでは顔のすべてを覆うことができないので、鼻や頬が凍傷になるリスクも。バラクラバは必携です。
また雪山では、太陽光が雪に反射することで紫外線による目へのダメージが、夏山より格段に上がります。
【準備編】でも触れたように、サングラスは顔の形状に沿ったモデルを選ぶことで、雪目などのトラブルを最小限に抑えることができます。
濡れたら致命的なアイテムはスペアを用意
凍傷のリスクが大きいのが手先や足先です。
湿った雪や自分の汗で濡れてしまい、凍ってしまったらアウト。
とくにグローブと靴下に関しては、スペアを用意しておけば安心です。
「凍りにくい」がポイント。馬目さんの行動食を拝見!
どんな行動食を持って行けばよいのかも、気になるところですよね。こちらは、馬目さんが2日目の赤岳アタック時に用意していた行動食。
馬目さんのこだわりとしては、凍りにくいもので、甘味と塩気のあるものをバランスよく選んでいるとか。パンやおにぎりは凍りやすいので、稜線上に持って行く場合は、胸元ポケットなどに忍ばせて行くそうです。
そして、手袋をつけても食べやすいものもポイントとのこと。

歌舞伎揚、柿ピー、ブラックサンダーはマストですね(笑) 凍りにくいので、大福もよく持って行きます。
冬の有人小屋泊で必要なものをチェック
山小屋泊であれば、テント泊よりも荷物が少なくて済み、暖房の効いた部屋で快適に過ごすことができるのですが、山小屋だからこそ必要なアイテムがあることも忘れずに。
小屋内の移動の際に、軽量コンパクトで保温性の高いスリッパを持ち込んでいるとグッと快適になります。
山小屋は消灯が早いので、ヘッドランプは必須アイテムなのは夏と同様です。
また、昨今、新型コロナウイルス感染症の影響で、マスクやインナーシーツを必携にしている山小屋が多くあります。山小屋で購入可能な場合もありますが、出かける前に各山小屋のウェブサイトなどで確認を。
サイト更新していない場合もあるので、直接電話で聞けば安心です。
【2】行動中にまごつかないためのパッキング
歩行時と休憩時に活動を止めているときの体温差が大きいため、ウェアの調整などは手早く行いたいもの。
そのために事前に工夫できることもあります。
ウェアやグローブは取り出しやすいところへ
雪山では、パッキングも超重要!
たとえば稜線上でウェアやグローブなどの出し入れを行うときに時間がかかりすぎると、冷えにつながってしまいます。
スムーズに出し入れができるよう、取り出さないものは下に、頻繁に取り出すものは上に詰め込むなど、行動をシミュレーションしながらパッキングしましょう。
【3】ギアの使い勝手を向上させるためのひと工夫
夏山では支障がなかった細かな部分が、雪山ではストレスやリスクに直結することもあります。
山へ向かう前に、できる限りの対処を施しておくのがおすすめです。

引っかけや転倒防止のためにストラップの長さを調整しておく
アイゼンを装着して余ったストラップを靴紐に巻き付けるている人を見かけますが、馬目さんが推奨しているのは、ゲイターをした状態でアイゼンを装着し、余った分は10cmほど残してカットすること。
巻き付けたストラップが歩いているうちにほどけてしまい、それで自分自身の足を引っかけてしまうと滑落につながる恐れがあります。
事前に予測できるリスクは極力潰しておくことが、雪山登山の鉄則です。
持ち替えにマストなピッケルリーシュは自作も可能
ピッケルは、斜面に応じて持ち替えながら使うので、写真のような「ピッケルリーシュ」を用意しておくのがベター。
商品として販売されているものもありますが、スリングとカラビナがあれば自作することもできます。
【4】アイゼンの正しい使い方を事前に確認
まず大前提として、厳冬期の赤岳にアタックするための技術面の条件は、アイゼンとピッケルを適切に使えること。
読者代表の内山さんは、初冬の立山・雄山をアイゼンとピッケルを使って登頂しているのですが、正しい使い方ができているのか少し不安があったようです。
そこで1日目、赤岳鉱泉のアイスキャンディの下にある氷の斜面を使って、馬目さんにしっかりその使い方を教えてもらいました。

練習は大事ですね!

チェーンスパイクと12本爪アイゼンの使い分け
樹林帯などで滑落の危険性がなく、フラットな道や緩斜面では、しなやかさのあるチェーンアイゼンが歩きやすくておすすめ。
しかし、急な斜面の道では硬くて安定感のある12本爪のアイゼンに履き替えましょう。
今回の山行の1日目は、美濃戸山荘から行者小屋までチェーンアイゼンを、行者小屋から赤岳鉱泉まで12本爪アイゼンを装着して歩きました。
雪のなかでの装着するときは雪をしっかり落とそう
アイゼンを装着するときは、靴底の雪をしっかりと落とすことが大切です。
靴とアイゼンの間に雪が挟まったままではフィット感が損なわれ、歩いている途中にアイゼンが外れてしまうという悲劇に見舞われる恐れも……!少し手間ですが、トレッキングポールやアイゼンの爪などをうまく使って、しっかり落としましょう。