登山のスキルを高めたい!そんなときは“山のプロ”にお任せ
登山を続けていると、「もう少し難易度の高い山に挑戦したい」「山のいろんな楽しみを味わいたい」という想いがわいてくるもの。実現のためには知識や技術の習得が欠かせません。
登山に詳しい人が身近にいない場合は、ガイド登山を依頼したり、講習会に参加したりするのもひとつの手です。必要なスキルはもちろん、その山や土地の歴史、植生についても学ぶことができるので、山の楽しみ方が広がります。
そうはいっても、誰にお願いしたらいいのか、どんな講習会に参加したらいいのか悩んでしまうことも。
そこで当企画では、自分の目標や目的、趣味趣向にあったガイドさんを見つけられるよう、さまざまなタイプのガイドさんにフィーチャー。今回は、山伏として毎年修行も行っている田村ガイドを紹介します。
田村 茂樹(たむら しげき)

提供:田村さん
自然とのさまざまな関わり方で、登山技術も心も進化・深化

提供:田村さん
ガイドや山伏として山に入ったり、狩猟や地質・地形の調査をしたり、歴史を解説しながら街道を案内したりと、様々な分野に精通し、山や地域との多様な関わり方をしている田村さん。
ホームページに書かれた「人生に山登りを。あなたに山登りの愉しさを贈ります。」の言葉のとおり、いろんな山の愉しみ方を提案してくれます。
そこには、“山で感じたことを自分の人生や世のため人のためにどう生かすのかを考えたり、心を豊かにしたりするきっかけになれば”、という想いも込められているのです。
山のいろんな姿や自然の素晴らしさを心から楽しんでほしい
提供:田村さん
街道歩きから、里山や高山、バリエーションルートまで幅広くガイドするなかでも、沢登りや地図読みが必要なバリエーションルートを好んでご案内しているそう。
「バリエーションルート」と聞くと、槍ヶ岳の北鎌尾根や前穂高岳の北尾根をはじめ、登攀が難しいルートをイメージするかもしれません。しかし本来の意味では、一般登山道以外のすべてのルートを指します。
田村さんが得意とするのは、そんな広い意味でのバリエーションルート。岩登り、沢登り、藪、岩稜、雪稜などのハードなルートだけでなく、身近な里山から見た景色の魅力も感じてほしいと言います。
自分を救ってくれた山に恩返ししたい
提供:田村さん
田村さんが本格的に山に登るようになったのは、社会人になってからのこと。入社して初めて取った長期休暇で訪れた立山で悪天候に見舞われ、雨風の中を必死に耐えながらなんとかテント場へ。「死ぬかと思った」というその経験が、ガイドの道へ進む一歩となります。
活動の様子を拝見!
多方面に造詣が深い田村さんだからこその、山の愉しみ方が広がるツアーや講習会が魅力。自分だけではなかなか踏み出せない挑戦を後押ししてくれます。
伊藤新道・黒部源流ツアー

提供:田村さん
故・伊藤正一氏が開拓した北アルプスの古道「伊藤新道」。高瀬渓谷の湯俣と三俣山荘を結ぶその道は、現在は一般登山道としては使われておらず、沢登りの経験を要するルートです。
しかし、伊藤新道を復活させたいという思いを温めて整備を続けていた、伊藤さんをはじめとする三俣山荘の方々と田村さんが出会います。
興味を持った田村さんが歩いてみたところ、「この景色をもっと多くの人に見てほしい」との思いを強くし、伊藤新道ツアーが始まりました。

提供:田村さん
黒部源流の秘境に身を置き、自然にどっぷりつかる山旅は、何ものにも代え難い思い出に。行程や日数を相談して決められるので安心です。
伊藤新道踏破のための総合力を鍛えるトレーニングコースも用意。段階を踏んで挑戦することもできます。
善光寺街道歩き旅
提供:田村さん
宗派、性別や年齢を問わず、すべての人の極楽往生の門として信仰されている「善光寺」。そんな善光寺へ参詣に向かう人々が往来した道「善光寺街道」を歩く旅です。
歴史を学び、古人たちに思いを馳せながら歩いてみると、街も山道もいつもとは違う面白さを感じられるはず。
山伏でもあり登山ガイドである田村さんの案内だからこそ、一生に一度はと皆が願って目指した善光寺参りの意味を心身で感じながら、峠道などの山道も安心して歩けます。
2022年は善光寺もご開帳の年。この機会に、街道を歩いて善光寺を目指してみてはいかがでしょうか。
里山歩き

提供:田村さん
田村さんいわく、信州の里山はほどよくワイルドで、都会近郊の里山と違う魅力があるのだとか。
たとえば猟師の視点で歩くと、獣の痕跡を見つけたり、罠を掛けるポイントを探したり。いつもと違う目線での山歩きは、発見がいっぱいです。
なかなか知る機会のない狩猟の際のポイントを教えてもらいながら里山を散策。下山後には実際にシカやイノシシのお肉を美味しくいただきます。
各種講習会
提供:田村さん
初心者向けに、登山に必要なノウハウを一通り伝授する講習会のほか、地図読みや岩場歩き、テント泊など、テーマ別の講習会も行っています。
雪山登山に関しても、基礎からピッケル・アイゼンワークの実践講習、雪洞のつくり方やビバーク技術、雪崩の知識・対策まで。各種講習会の講師を数を多く務めています。
巡り合わせに感謝。落ちこぼれたときも、山がそばにいてくれた
田村さんが登山をはじめたきっかけや山への想いを伺いました。山にまつわる多種多様な活動を続ける原動力とは?

提供:田村さん
——登山を始めたきっかけは?
本格的に登り始めたのは社会人になってからですが、山好きの父親の影響で子どもの頃から、ハイキングや里山歩きをしていました。高校ではワンダーフォーゲル部に。無雪期のテント泊くらいまではやりましたね。
大学時代は趣味として楽しみつつ、剱沢の野営管理場でアルバイトもして。キャンプ場のゴミ拾いをしたり、周辺のパトロールをしたり。山岳警備隊の方々と一緒に生活をしていました。

提供:田村さん
——探求心の強さは昔から?
小さい頃から調べ物はとても好きでしたが、大学で勉強したのが大きいですね。
大学では、実はいきなり落ちこぼれてしまいまして、道を変えないとマズイなと考え始めたときに、山の地質や植生の本と出会ったんです。
それまでは普通に山を登っていただけなんですが、山の面白さが広がってわくわくしました。そこから勉強しはじめました。
この転機が、山とのさまざまな関わり方に繋がることに
提供:田村さん
いま僕が所属しているガイド団体で、上高地や槍・穂高を中心とした山域のジオツアー(山の成り立ちや地質、歴史、文化を紹介するツアー)を本格的に普及させるための取り組みを始めていて、そういったところにも学んだことが活きています。
ガイドになったときからずっとやりたかったことに関われるのは、うれしいことです。
——山での調査の仕事もしているとのことですが?
普通の研究者が行けないようなところに行くお手伝いをすることが多いですが、大学で勉強した地質や地形の分野だと、自分にもできる範囲で調査してデータを提供することもあります。
大学で勉強した地質関係の調査はもちろん、動植物の生態調査などのお手伝いもしています。
写真は、北アルプス奥地で起きた噴気活動の調査に行ったときのものです。

提供:田村さん
登山道以外で作業をすることが多いので、ガイドの技能が活きることも多いんです。
調査会社などの雇い主からすると、自分で地図を読んで現場に行って、無事に帰って来られるというだけで余計な心配が減るわけです。
たとえばシカの生息数を推定するために、フンがどれだけ落ちているかを調べることがあります。
地図も読めなくちゃいけないし、場合によっては藪漕ぎとかもあって。それでも余裕がないとフンの数なんて数えていられないわけです。
——田村さんは「わっこ谷の山福農林舎」の理事でもあり、環境保全・保護しつつ、アウトドアフィールドを活用する取り組みをしている印象ですが?
※わっこ谷の山福農林舎:「~宝と宝がつながる未来~田畑、山、エネルギー、人を結び、100年先も輝く世界へ。」をスローガンに、農林業の仕事とその技術習得研修や講演会、修験道・登山道整備体験、山歩き体験等ツアー、地域住民の困りごとのお手伝いなどと、就労支援、居場所づくりをかけ合わせる活動をする特定非営利活動法人
やっぱり、自分の身近な里山との関わりは大事にしたいですね。
東京や関西にいたころは、北アルプスとか八ヶ岳とか有名な山ばかり通っていて、信州の里山は見向きもしていなかった存在でした。
信州に住んでみて感じたのは、里山にはしみじみとした良さがあるということ。
アルプスの山のようなインパクトはありませんが、いつまでも見ていられるというか。その土地の人たちの関わってきた歴史を感じられるのもいいですね。
提供:田村さん
メジャーな山に目が行きがちですが、里山のおもしろさにも目を向けてもらえたらうれしいです。
——狩猟を始めたのはどうして?
あるとき機会があって、サバイバル登山家の服部文祥さんと夏に沢に入ったんです。
そのときに僕は初めて釣りをして、食べ物を自分で手に入れる感覚って大事だなと。なんとなく興味があった狩猟もやってみた方がいいと思いました。
提供:田村さん
昔から農家の人たちは獣たちに食べられまいと頑張っていたわけですが、人工林が増えてえさが少なくなったり、集落近くの耕作放棄地や果樹がえさ場や隠れ場所になったり、狩猟者が減ったりして、昨今は農作物の害獣被害も多いですよね。
そういったこともあり、山の恵みをありがたく「いただきます」。

提供:田村さん
いま、ニワトリを飼っていまして、普段は卵をいただきながら一緒に暮らしていますが、寿命がきそうだなと思ったら、絞めていただくわけです。
人間も他の生き物も、今では生まれたり死ぬ瞬間に立ち会う機会が極端に少ないので、怖いものや仰々しいイメージがついてしまっていますが、本来は生活の一部であり当たり前にあることなんです。
もしかしたら急病や事故でこの一瞬後には命がないかもしれない、大事な人と会えるのもこれが最後かもしれない。
普段は忘れがちなことを忘れず、この一瞬一瞬を大切に生きていくために、身近に生死を感じながら生きていくのは大事だと思っています。
——街道の案内を始めたきっかけは?

提供:田村さん
いま住んでいるのは、多くの人が極楽往生を夢見て、一生に一度は行きたいと願った善光寺へと続く道の裏手なんです。
昔の巡礼は一生に一度の命がけの旅。すでに山伏修行を始めていて、昔の人たちの想いや宗教観がわかってきていた頃で、この出会いはもう運命だと思いました。往時を偲んで白装束でご案内しています。
2022年は善光寺も御開帳です。電車や車で行くのもいいですが、何日もかけて歩いて詣でると、善光寺さんにたどり着いたときの喜びはひとしおです。
山と深く関わり、先人たちのような身体と心と智慧を次世代へ

提供:田村さん
山伏としての修行を重ねていくにしたがって、自分にとってのガイドの理想像は、修行を導く「先達」だと思うようになりました。
つまり、安全に山に登って帰ってくるお手伝いだけでなく、自然を通して生きていく上での気づきを得るお手伝いをする存在ということですね。
——山伏の修行はどのくらいの頻度で?
お寺や神社の行事としての修行は年に1~2回。個人や仲間で登るような、自主練的な修行は自然にやっています。装束を着ていなくても、そういう心持ちでいれば、それは修行です。
提供:田村さん
こういう表現が適切かはわかりませんが、修験道ってひとつの型だと思うんですよね。祈り方をはじめ、山や自然と繋がるための道具というか型というか。
そういう感性や霊感が強い人は自然とできてしまうと思うんですけど、そうじゃない人が「繋がる」「より感じる」ための“とっかかり“みたいなものが、宗教ごとにいろいろ決められている作法ではないかなと思います。
——登山以外の趣味は?
音楽と読書。音楽はクラシックとジャスを聴くことが多いです。読書は、地質・地形・山の本・哲学・街道・歴史・地理・信仰などさまざま。
実は、大学時代に能の稽古をしていたんですよ。時間ができたら、またやりたいなと思っています。
それと、歴史や街道の案内をやっていると古文書に触れる機会が多くて、子どもの頃にやっていた書道をまたやりたいです。
提供:田村さん
——田村さんが思う登山の魅力って?
一言で言えば、「危ないから楽しい!」ということだと思います。
自然より怖いものはこの世にはありません。どんなに易しい山でも一歩間違えば命に関わります。
でも、怖いだけじゃない。自然の荒々しさや脅威と表裏の関係にあるのが、自然の美しさや自然の与えてくれる感動や楽しさです。
そして、(本当は普段の生活でもそうなのですが、)山登りでは一歩間違えば死ぬこともありうるからこそ、生というものを考える貴重な機会を与えてくれます。
自然に遊んでもらいながら、知らず知らずに全身全霊で人生の真理を学んでいる。そんなところが魅力のような気がします。
田村さんより、山好きのみなさん&登山を始めたい人へ
提供:田村さん
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YAMA HACK|田村茂樹