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グループ登山にはリーダーが必要!とは言うけど……
グループ登山ではリーダーが必要。雑誌などのメディアでもそういう記事が多いですよね。でも「リーダーがいなくても、ちゃんと無事に登って下りてきているよ」とか「同じようなレベルだし、リーダーができるメンバーがいないよ」という人も多いかもしれません。
「もっと気楽に登ってもいいじゃん」と言いたくなる気持ちもわかりますが、その前に、そう言われるその理由を考えてみましょう。
そもそもリーダーって何をする人?

◎メンバーの経験や実力を元に、登る山やルート、行動予定などの山行計画を立てる。
◎メンバーの持ち物や体調を確認する。
◎山行中は安全対策に配慮しながら、歩く順番やペースをコントロールする。
◎不慮の事態の際には率先して対応する。
こういったことをグループ内で行うのが、リーダーの役割です。
リーダー不在が大きな遭難要因とされる事故例
2010年7月にとある山岳団体が行った初心者対象の沢登り講習で起きた事故を紹介します。事故が起こったのは行動を開始してから9時間以上経ったとき。以前に登った他のパーティが張ったまま残していたロープ(残置ロープ)を頼りに滝壺の脇を通過しようとしていた受講生が足を滑らせ、いったんはロープにつかまってぶら下がったものの、持ちこたえられずに滝壺に落ちて流されて溺死しました。

◎初心者向けとしては不適当なレベルだった
◎事前の下見が不十分だった
◎不慮の事態発生時の下山方法を事前にきちんと検討していなかった
◎入山前にメンバーの装備確認を行わなかった
◎歩く順番や難所の通過方法の助言など受講者に対する配慮が不足していた
◎とにかく計画通りに先に進むしかないと思い込み、時間のプレッシャーに負けた
◎難所の通過方法をパーティ全員で共有しておらずメンバーに対する指示が曖昧だった
◎9時間以上行動して疲れが溜まっていたにもかかわらず追加の安全対策を怠った
ひとつだけでなく、多くの原因が指摘されています。
仮にこの事故のようにリーダーがいても、ひとつひとつ適切に判断できなければ、いちばん弱いメンバーを守れずに事故に繋がってしまうのです。
リーダーがいない場合、最低限押さえておくべきこととは?

友達同士の山行だとそこまで責任を持てるメンバーもいない、でも仲間だけで山に行きたい。
そんな登山者たちが最低限押さえておくべきことはなんでしょうか。「準備段階」「行動中」「万が一のとき」に分けて考えていきましょう。
【1】準備において気を付けること

とりあえず「誰か」を中心に動く
「リーダー」とまでは言えないかもしれませんが、山に行く計画を立てる上で中心となる人はいるでしょう。その人を中心にとりあえず動きましょう。中心となった人も、自分がわからないことや心配なことはメンバーに意見を求めていきましょう。
計画を人任せにしない
登山は自分の生命にかかわるアクティビティです。リーダーがいる登山でさえメンバーはリーダー任せにしないのは当たり前のこと。ましてや、全体を統括するリーダーがいないのなら、なおさら漏れがないようにみんなで装備や計画の確認を二重三重にやりましょう。SNSなども活用し、情報収集は万全に!

最近では登山記録を共有できる媒体やSNSが普及し、メジャーな山ならばたいてい直近の記録を見れますので、これらの情報も参考にしましょう。ただし、登山記録の所要時間は人それぞれ、あくまでも参考に留めてください。
全員で相談し、無理なく歩ける計画を立てる

何時までにここを通過するといった具合に、行動の判断となる時間の目安も考えます。これらを踏まえて登山計画をみんなで話し合いながら立ててみましょう。
準備段階でこれができていないようなら、そのメンバーとは行くのをやめた方がいいかもしれません。
最近ではオンラインでグループチャットできるので、これらを利用して、全員で情報を共有して話し合うのもよいでしょう。
▼準備に関してはこちらの記事をどうぞ
【2】行動中に気を付けること

出発前に体調と忘れ物を全員で再確認
全員集まったら、体調に問題ないか確認しましょう。寝不足や風邪気味ではないでしょうか。最悪の場合、無理したことが原因で山中で病気になってしまうかもしれません。山中では具合が悪くなってもすぐには下山できません。山は逃げませんので、大事をとって判断しましょう。忘れ物がないかも確認しておきます。もし忘れ物があった場合は、それがなくてもとりあえず問題ないものか、絶対ないと困るものなのか考え、後者ならば潔く諦めて、別のことでその日をみんなで楽しく過ごしましょう。
下山するまで一緒に行動する
ペースや体力が違ったり、用を足したかったり、いろんな事情があると思いますが、パーティを分けて行動することのないようにしましょう。私はどうしてもここに行きたい、でもメンバーで具合が悪くなってしまった人がいる。そんな場合でも潔くみんなで下山しましょう。全員が無理なく歩けるペースをキープ

靴紐が解けたり用を足したくなって止まりたい、後ろから追い越したい登山者が来たなどあれば、最後を歩く人は先頭を歩く人に伝えてあげましょう。
休憩は時間を決めてテキパキと

時間にかなり余裕があって山頂などでのんびりしに行くという目的で登るのなら話は別ですが、そうでないならば、水分やエネルギーの補給、ウェアや靴紐の調整、現在地やその先の行程の確認、お互いの体調の確認などを長くても10分ほどで済ませて先に進みましょう。
出発の時には忘れ物がないか確認を忘れずに。
【3】トラブル発生!こんな時どうする?

メンバーがバテてしまった
そのまま計画通りに歩き続けた場合、その日の最終目的地(山小屋や下山口など)に着けるのかどうか早めに考え、どうするかみんなで相談しましょう。着けないかもしれないと思ったら、引き返す、エスケープルートを使う、目的地を変更するなどしましょう。ケガをしたり、病気になってしまった
まずは落ち着きましょう。そして、自力で対応できるのかどうかまずは判断しましょう。自力で対応できない時は、どの程度の助けが必要なのかも含めて考えます。通りがかりの登山者に手伝ってもらえば何とかなりそうなのか、それとも山小屋や警察に救助要請をしなければならないのか。判断に迷ったら、より重大なケガや病気と考えて、大事をとった判断を下しましょう。
いちばん不安で心細いのは、ケガや病気をした人。常に誰かが必ずついて介助してあげましょう。もし余裕があれば、いつどんな症状が現れてどうなったか、どんな対応をしたか、メモをとっておくと救助隊や病院に引き継ぐときの参考になります。
天気が悪くなってきた
山の天気は麓と違って変わりやすいです。「予報をちゃんと確認したのに!」と思いますが、そういうものだと割り切りましょう。例えば、雷が鳴ってきたというのであればすぐに避難しなければなりませんが、夏の夕方の雷ならば1時間もすれば通り過ぎるでしょう。また、霧雨が降ってきたくらいなら、降り続くとしても、濡れないようにさえすれば、心細いかもしれませんがリスクは低いでしょう。
大事なのは、その変化が命に関わるものなのかどうか、長く続くのかどうかを落ち着いて判断するということです。
リーダーシップだけでなくメンバーシップも大事

何か言えずにいる人はいないか、トイレに行きたい人はいないか、調子の悪い人はいないか、気遣いを大切にしましょう。誰かひとりの不調はパーティ全体の一大事に繋がりかねないことをくれぐれもお忘れなく。また危険な行為や強引な判断などの注意すべきことはお互いに注意するのも大事です。
メンバーそれぞれも積極的に目的地やルート選び、計画立案や装備の準備、現場での行動に関わる。リーダーがいない登山では「メンバーシップ」が非常に大切なのです。
ひとりひとりが「自立した登山者」を目指そう

「自立した登山者」とは、準備から下山までの判断を自分で下し、不慮の事態が起きても基本的には自分で対処できる人のこと。もっと分かりやすくいえば、自信を持って単独行できる人のことです。これができるメンバーがグループにひとりでもいないと、何かあったときに生死に関わってきます。
自分にできていないことがあっても、たいていの場合は何事もなく下山でき、何か起こるまで自分に何が欠けていたのかに気づく機会がほとんどない、という特徴が登山にはあります。
でも何かが起こってからでは遅いのです。自分に何が足りないかをまずは知り、少しずつ身につけていきましょう。身につけた分だけ山の世界は広がってさらに楽しめるようになりますよ。