COCOHELI 山岳遭難対策制度(ココヘリ) 550万円までの捜索救助を実施 入会金1,100円OFFで申込む
野生動物と人間の適切な距離感について考える

出合ったからこそ気づけた、野生動物との適切な距離の保ち方

野生動物とニンゲンの境界線、距離感が縮まっているようです。その原因は、ニンゲン社会の変化と、ニンゲンの自然との接し方が変わってしまった、警戒心が薄れてしまっているからだと感じています。

では、どうしたら距離感を保てるのか?その方法を、考えてみました。

目次

アイキャッチ画像撮影:ポンチョ

近づいている境界線

撮影:ポンチョ

今夏、羅臼岳でのヒグマとニンゲンの不幸な遭遇をきっかけに、その境界線をどのように引くべきかが注目されています。羅臼岳が位置する知床国立公園に限らず、アルプス等を含む国立公園は、1日に入れる人数の規制を行う時期に来ているのかもしれません。

実際に、餌を与えられたり、ゴミを食べてしまったり、また日常的にニンゲンが傍にいることに慣れてしまって、ニンゲンに近づく、ニンゲンが近づくことを恐れない、警戒しない野生動物が増えていることは、私も体感としてあります。

奥多摩や奥秩父では、トレイル上で遭遇。距離2~3mとなっても、逃げないニホンジカやカモシカをよく見かけます。昨年訪れた羅臼岳では、ヒグマの気配はありませんでしたが、エゾシカがトレイル上に居座って15分程通れなかったり、駐車場では立派な角を生やした雄のエゾシカがニンゲンをまったく無視して草を食んでいました。

とはいえ、こうした野生動物とニンゲンの境界線の接近は、最近急激にはじまったことではなく、過疎化、里山林の荒廃、林業の衰退等々、私たちニンゲン社会の変化をきっかけにゆっくりと進行。SNSの普及で可視化されるようになっているとも感じます

だから、山や国立公園を利用するニンゲンの問題ではなく、もっと大きな、日本人の生き方、暮らし方の課題に思えています。

トレイルランニングについて

撮影:ポンチョ

ところで、私は登山だけでなく、野生動物との遭遇の確率が高くなるとされているトレイルランニングもするニンゲンです。

約25年、山を走っていますが、トレイルランニング中に野生動物に出合ったことはほとんどありません。私のランニングのレベル(レースに出ると真ん中あたり)では、登りは歩き、下りは歩くより少し早いジョグと呼ばれるペース。なので、メディアやSNSで言われているような、野生動物側からの体感で突然ニンゲンが現れるというのは、登山もランも大きな差はありません(私のレベルでは)。

ただし私は、登山でもランでも、見通しの効かないカーブ、ピーク、大木の影、なんとなく気配を感じるとき、ニオイがある時等々には、声を出し、手を叩き、指笛を吹いて、「ニンゲンが通過しますよ!」という、お知らせを頻繁にしています。特に、ソロの行動時、明らかに野生動物の気配がする山では、忙しいくらいに手を叩き、指笛を吹きます。

多くの人が装備している熊鈴の方が、きっとラクだろうなとも思いますが、私は使っていません。

理由は、それを持っていることで、安全だと安心したくないからです。
常に警戒心を持ち続けたいからです。
野生動物とニンゲンの双方が警戒心を持っていれば、不幸な遭遇の多くは防げるように思うからです。

警戒は、情報の入手、確認から

撮影:ポンチョ

ニンゲン側の警戒の第一歩は、情報の収集と確認です。

昨年の羅臼岳登山時、登山口の木下小屋にあった目撃情報では、9月に入ってから登山道でのヒグマの目撃はほぼありませんでした。サケを求めて海や川へと向かってしまったのか!?と想像しましたが、実際はどうなのかわかりません。

でも、ニンゲンが歩いている登山道付近に、これだけ頻繁にヒグマが出ているいう事実も、この目撃情報は教えてくれています。ニンゲンを特に警戒していないヒグマが、ココにはいるんです。つまり、私たちニンゲンが、普段以上の警戒心を持って行動しなければならないということだと、私は考えます。場合によっては、登山を中止する判断も、当然必要です。

ちなみに私は約30年間、登山道を使った登山を首都圏の山を中心にやってきましたが、クマと出合ったことは一度もありません。足跡や糞、爪痕等の形跡は見ていますが、クマ自体を見ていません。手を叩き、指笛を吹く効果かもしれませんが、ニンゲンに慣れたシカは警戒心を失い、そんなことにビクともしないので、偶然の遭遇があるように、偶然の非遭遇なのかもしれません。

撮影:ポンチョ

私の知人は、野生動物との遭遇を避けるために、多くの登山者が訪れる山を選択している……そう、話していました。でもその知人は、アルプスを中心に、度々クマを見て、接近したこともあると言います。

考え方がまるで反対なのですが、私は野生動物との遭遇を避けるために、登山者の少ない山を選択しています。そもそもニンゲンの多い山、ルートは、あまり好みではないという結果でもあります。

しかし根拠は体感でしかないのですが、登山者が多い山の野生動物はニンゲンを警戒しなくなっていて、逆に登山者が少ない山の野生動物はニンゲンを警戒して、近づきすぎる前に距離を取ってくれていると感じています。だから私は野生動物、特にクマと出合っていないのだと思います。

とはいえ、その野生動物とニンゲンの距離は、ちょっとしたことで急接近してしまうことも、あります。

野生動物とニンゲンの時間の狭間

撮影:ポンチョ

2013年の8月、信越トレイルをスルーハイクしたときのことです。

桂池のテントサイトを日の出とともに出発。仏ヶ峰へと向かう途中、いくつかの谷に入ります。つまり、スタート地点の桂池からは、一旦下るんです。

同行していた仲間と話しをしながら、ブナの大木がトレイル脇に倒れている場所を通過しようとした時、私たちは凍りつきました。

倒れた大木の向こう側の見えない森の中。「ガサッ」と何かが動き出した音がして歩みを止めた瞬間、「ガサササササッ、ドックァァ~ンンン」」と爆音が山に響きました。

それは、大木の向こう側にいた大きめの動物が私たちの声に驚き、駆け出し、慌てすぎて、立木か岩に激突して気絶した音に思えました。イノシシなのか、ツキノワグマなのか……。背丈を越える太さの大木を挟んで、すぐそこでの出来事。距離が近すぎて、向こう側を確認する勇気が出ません。

撮影:ポンチョ

一旦登り返して距離を取り、10分程待機しましたが、森は静まったままでした。恐怖からヒソヒソ声での会話になった私たちは、「行ってみようか」と、急ぎ足で谷を通過しました。

その後、谷から峰へと登る途中には、クマの足跡と糞がありました。

なるほど信越トレイルはブナの原生林が多い場所です。稜線沿いには食料となるブナの実が豊富にあり、クマが生きていくのに絶好です。そのときの季節は夏だったのでブナの実はなっていませんが、しかし野生動物は水分補給をするために、谷を利用しているのでしょう。実際、美しい清水がありました。

夜間から早朝まで行動していた熊は、倒木の影で休んでいたのかもしれません。または倒木に潜む虫を食べていたのかもしれません。そこに、普段は早朝にやって来ないニンゲンが現れ、慌てふためいたのです。

思い起こせば、桂池のテントサイトを出発する際にも、私たちを遠巻きして見ている一匹のキツネがいました。

早朝は、野生動物とニンゲンの行動時間の狭間。日没が近づく時間から夜であれば私たちニンゲンも警戒心が強まりますが、早朝は怖さを感じていた夜が終わり、油断しがちです。でも、野生動物にとっては、まだ行動時間の夜の続きなんですね。

それからは、一層の警戒心を持って、山での早朝の出発をするようになりました。

1 / 2ページ