登山道はどうやって【整備】されてる?安全を支える現場からのレポートです!

2020/07/14 更新

普段みなさんが気持ちよく歩いている「登山道」は誰がどのように整備してくれているか知っていますか。整備しないとどんなことになってしまうのか? そうならないためにどんな整備活動をしているか? 登山者にもできることがあるのか? 登山道の整備の実情をレポートします!


アイキャッチ画像撮影:筆者(黒部川下の廊下の登山道整備資材置き場。元々は、電源開発のために作られた作業道を現在は阿曽原温泉小屋が中心となって維持管理している)

登山道は整備しないと、なくなってしまう?!

撮影:筆者(奥秩父のバリエーションルート青笹尾根)
みなさんが普段何気なく歩いている登山道。草がきちんと刈られていたり「道」がはっきりしています。はじめての山でもどこを歩けばよいか見てすぐ分かりますよね。

しかし、登山道の脇を見てみてください。例えば上の写真のようにシダや草、笹や低木など植物がたくさん生えていることもありますし、石がガラガラ積み重なっていることもあります。このような状態ではどこを歩けばいいかわかりにくいですし、実際に足を踏み入れてみると登山道よりも遥かに歩きにくいです。

では、登山道はどうしてこんなに歩きやすいのでしょうか。場所によっては鎖やハシゴなどもあります。そう、登山道はだれかが整備してくれている、ということなのです。

快適に歩けるのは「整備してくれる人」がいるから

提供:(左)七丈小屋、(右)石橋玲江(2019年の台風19号の豪雨で崩落した甲斐駒ヶ岳黒戸尾根の5合目)
登山道は何もしないでいると、木が倒れてそのままになったり、崩れてきた土砂で埋まったり、崖崩れで寸断されてしまったり、さまざまな原因で荒れてしまったり、そもそも道が途切れてしまったりして歩けなくなってしまいます

上の左の写真は、2019年の台風19号の豪雨で崩れた甲斐駒ヶ岳黒戸尾根の5合目の写真です。左下から水平に道がきてハシゴに取り付くようになっていましたが、ハシゴの根元が大きく崩れてしまいました。同じ場所の整備後の状況が右の写真です。立派な桟橋が追加されて、今では登山道整備の大事さを実感できる場所にもなっています。

撮影:筆者(冬の間の倒木で荒れた長野県筑北村・麻績村境の四阿屋山登山道)
同様に、上の写真は筆者が登山道整備に関わっている、長野県筑北村と麻績村にまたがる里山の四阿屋山の登山道復旧の様子です。倒木とツルでどこに道があるか分からない有様でしたが、木を切り倒し、ツルを刈り払い、石段を作って見違える道になりました。

登山道は誰が整備してくれている?

登山道の整備にはさまざまな人が関わっています。山域によって異なるので一概に言うのは難しいのですが、山小屋、山岳会やガイド団体などの山岳団体や地元の有志、専門の業者、国有林では林野庁なども実際に山で整備作業に当たっています。

自治体や省庁(環境省、林野庁など)からの資金があることもありますが、十分とは言えないことが多いです。ボランティアとして山岳会などが整備しているところも少なくありません。
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登山道整備の「6つの基本」を紹介!

登山道整備の「6つの基本」を紹介!

ところで、これまで「登山道整備」と一言で言ってきましたが、具体的にどんなことをしているのでしょうか。

新しく道を作ることもありますが(「◯◯新道」と名付けられているのはこのケースです)、多くの場合はすでにある道の維持管理をしたり、転倒や滑落のリスクを減らしたり歩きやすくしたりするための改良をします

具体的な作業内容には、定期的に登山道を見回って点検するようなちょっとしたことから、先の甲斐駒ヶ岳の写真のような大工事に至るまで、いろんな作業が含まれます。それらを見ていきましょう。

①障害となる岩や木をよける、ゴミを拾う

提供:榎並真由子(登山道に倒れていた倒木を道の外に引きずり出す筆者)
些細なことですが、登山道上に散らばっている木の枝や石を避けたりごみを拾ったりするのも立派な登山道整備です。山にそれほど慣れていない方にとっては(あるいは慣れている方でも重い荷物を担いでいたり疲れていたりすれば)ちょっとした障害物でもケガの元になります。

また、道に被さっている草や笹を刈ったり、登山道に倒れかかっている木やそのままだと倒れてきそうな木を取り除くのも大事な仕事です。

②道を平らにする、水を切る

撮影:筆者(つるはしで登山道を平らに切り直す)
土の登山道の場合、雨水が流れたり、獣に荒らされたり、落ち葉や土砂が積もったりして、道が狭くなったり傾いてしまうことがあります。これはどうしようもないことなので、定期的に道を平らに直して歩きやすくします

また、雨水が登山道上をずっと流れてしまうと道がえぐられてしまうので、道を横切るように溝を切って雨水の逃げ道を作ります。ぬかるみになりやすい場所も、可能なら同様に水を逃がしてあげます。

③道標を設置する、マーキングをつける

提供(左):三俣山荘(道標を設置する山小屋の方々)、撮影(右):筆者(北穂高岳直下の岩場のマーキング)
どちらも登山者が道迷いしないようにするために重要な作業です。

マーキングは岩場では写真のように◯✗で表示されることが多いですが、その他、樹林帯では蛍光テープを木に巻いたり、雪渓上ではベンガラをまいてわかりやすくします。

視界の善し悪しや雪のあるなし、樹林帯の場合には木々の葉の茂り具合など、さまざまな条件によって目印などの見え方は変わりますので、どんな状況でも見えやすいように、いろんな状況を想像しながら目印をつけていきます

④木道を設置する

撮影:筆者(尾瀬の木道)
湿原やぬかるみなどでは、植生の保護や歩きやすさの向上のため、木道を設置します。ちょっとしたぬかるみの場合には輪切りにした丸太を並べたり、縦に半分に割った丸太を置いたりすることもあります

⑤階段やかけ橋を設置する

撮影:筆者(左:階段を固定するための杭を打ち込む、右:黒部川下の廊下のかけ橋)
滑りやすい場所や急な場所など、足場があると歩きやすくなる場所には木や岩で階段を作ります。足場に乏しいトラバース部分には木や足場板を渡してかけ橋を作り歩きやすくします。

⑥鎖やロープ、ハシゴを設置する

撮影:筆者(左:大キレット南岳直下の梯子、右:剱岳カニのタテバイ)
もっと急な場所や岩場などでは、手がかりになる鎖やロープやハシゴを設置したり、岩をハンマーとたがねで彫って足場も作ります。こうしたものがあるおかげで、本来であれば岩登りの技術が必要な領域が一般の登山者にも開かれています
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でも、登山道整備には「課題」もあります

でも、登山道整備には「課題」もあります……

提供:榎並真由子(整備資材を歩荷する筆者。これだけでも約25kgの重さなのに作業者ひとりが数時間で使い切ってしまう。人力での資材運搬には限界がある。)
登山道整備は本格的にやろうとすると資材も人手も資金もかなりかかります。どれもコンスタントに調達するのは大変なことです。
みなさんが気持ちよく歩ける登山道を維持していく作業はほとんど重機を使えないため、多くの人手がかかります。資金は確保しているけれども人手が集まらないという山域も少なくありません

また、こういった道作りの技術は昔は生活に必要な技術でしたが、今では建設業者が道路を造って管理してくれるため、手仕事でできる人も少なくなっていて、技術の伝承も課題です。

国立公園など保護されている地域内では現場の木を切ったりして調達できないので、麓から現場まで、人の手かヘリコプターかで運ばなければなりません

2019年の夏山シーズン前には山小屋への荷揚げを行うヘリコプターの運休により物資が届かず話題になりましたが、2020年の夏はさらに状況が悪化しています。登山道整備の資材の荷揚げも同様で、ヘリコプター輸送の引き受け手が極端に少なくなっているのも大きな問題です。

これまでにもYAMA HACKでは、法律の観点から登山道問題の記事を2回紹介してきました。今回の記事と併せ読むことで、より一層「日本の登山道」への理解が深まりますよ。



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実は一般登山者にもできることがあります!

実は一般登山者にもできることがあります!

撮影:蝶ヶ岳ヒュッテ(蝶ヶ岳ヒュッテの登山道整備資金の募金箱)
山を取り巻くこのような状況を考えると、登山道整備を仕事としてやっている方だけで整備するのは限界があります。任せっきりにしていては、人気のある山域でもそのうち維持できなくなる登山道が出てくるのは時間の問題です。では、一般の登山者にできることはどんなことでしょうか。

登りながらできることをやる

登山道を歩きながらでも、ごみを拾ったり、歩くのに邪魔な木の枝や岩をよけたり、落石を起こしそうな不安定な石を取り除いたりはできます。こうしたことを登山者がすることで、山の環境は格段によくなることでしょう。ただし、もちろん、自分の身の安全が最優先ですので、歩くのが苦しいときや非常時には話は別です。

登山道整備募金をする

山小屋などには募金箱が置いてあります。ここに募金をするというのも大きな一歩。整備の作業に当たる方々も、自分たちの仕事を見て募金が増えているととてもうれしいと仰っていました。

登山道整備のイベントに参加する

登山道整備は一般的にはかなり泥臭い力仕事ですが、一般の登山者でもできることをやってもらい登山道に対する理解を深めることができるイベントをやっている山もあります。こういった催しに参加すると、整備の大変さも分かりますし、実際に関わることでその山への愛情も深まることでしょう。

イベントはツアー会社などではなく地元自治体などで募集されるケースが多いので、こまめに「登山道 整備 イベント」などで検索するのがおすすめです。

山小屋で働く

山小屋がある山域では山小屋が登山道維持の担い手となっている場合が多いので、山小屋で働くと整備に関わる機会もあります。登山道整備はハイシーズンを避けて行われますので、長期のシフトに入るとよいでしょう。
思い入れがあったり行きつけにしている山小屋があれば、小屋の従業員の方にお手伝いさせてもらえないか聞いてみるのもよいでしょう。

整備している人に会ったら声をかける

もし山に登っていて登山道整備をしている方に出会ったらぜひ声をかけてみてください。その声が現場で働く人たちの何よりの力になります

整備されてるから安全に登山ができる。その意味を考えよう

撮影:筆者(北穂高岳南稜の鎖場を下る登山者たち)
登山道整備の現状を大まかに見てきましたが、いかがだったでしょうか。

歩きやすい登山道を歩けるのは実にありがたいことなのだとおわかりいただけたと思います。しかもそれは、多くの方の苦労の上にかろうじてバランスを取って成り立っているのです。大雨や地震などの後に復旧できずになくなってしまった登山道は過去にたくさんあり、いまは歩けている登山道もいつか整備の手が回らなくなるかもしれません。

登山者のみなさんひとりひとりが、山の自然を楽しめる幸せを噛みしめ、今後どのようにしていったら登山道を維持できるかを山に思いを寄せるひとりとして問題を共有し、それぞれの登山者が自分にできる範囲で関わっていただけるといいなと思います。

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田村茂樹
田村茂樹

登山ガイド/山伏。生き方に悩んでいた自分を救ってくれたお山に恩返ししたいと登山ガイドになり、日本の登山のルーツである信仰登山の復権をライフワークとしている。大学で地学の研究をしていたため、地質や地形の解説が得意。https://www.tam-mountainguide.com/

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