年間テント泊数100日の山岳ライターが語る!本当にあった嘘のようなテントの話

2019/11/14 更新

登山者の中には、強く憧れている人も多いというテント泊山行。だけど、山を一年中歩いているアウトドアライターの視界には、ちょっとイマイチなテント泊の様子も散見されるらしく……。どのようにイマイチなのか、テント設営の大切なポイントの解説と合わせて見ていきましょう。


アイキャッチ画像撮影:高橋庄太郎

年間テント泊数100日以上の山岳ライターが語る

撮影:高橋庄太郎
こんにちは。山岳系アウトドアライターの高橋庄太郎です。

山岳系アウトドアライターとして「山という現場」に向かうとき、僕の宿泊方法は大半がテント泊。多い年では軽く100泊以上、少ない年でも80泊はテントの中で寝ています。ガイドさんでもテント泊主体で登山者を案内する人は少数なので、「テント泊で過ごした時間」だけは業界内でもほとんど誰にも負けていないのではないでしょうか。

今回は、そんな僕がこの数年の山中で見かけた「こんなテント泊の方法はマズいよ……」という事例についてお話しします!

テントが張れない山岳部に遭遇……。

農鳥小屋のテント場
撮影:高橋庄太郎(まだテントが張られていない南アルプス農取小屋のテント場。この後、問題の山岳部が到着)
さて、この数年でいちばん衝撃だったのは「テントを正しく張れない山岳部」に遭遇したことでした。

記憶が薄れている部分もあるので、ディテールは間違っている可能性もありますが、よい実例なので紹介しますね。

『早く中に入って、テントを押さえろ!』

撮影:高橋庄太郎(テント場から見えた富士山。これからの悪天候になっていくのは間違いなく、気が重くなりました)
ある年の8月、場所は南アルプス農鳥小屋のテント場。早めに到着してテントを張っていた僕の近くに某大学の山岳部のみなさんがやってきて、みんなでテントを張り始めました。僕のテントからは20mほど離れていますが、「お隣」です。

そのときはかなりの強風が吹いていて、彼らはテントにポールを差し込んで立体化したものの、地面に固定はできていない様子。「荷物を入れて飛ばされないようにしろ!」「中に入って体重で押さえろ!」などという、先輩から後輩への指示が大声で飛んでいました。

なんとかテントは設営できたらしく、その後は大きな声を聞くこともなく夜を迎えたのでした。しかし空は荒れ模様で、小雨混じりの強風は変わらず。

夜が明けて、僕の視界に入ってきたのはなんと……。

撮影:高橋庄太郎(嵐が過ぎ去ったテント場の朝。山岳部のみなさんが壊れたテントを囲み、途方に暮れていました)
そして翌日の朝。出発のためにテントを撤収しようとした僕が見たものは、なんと半ば破壊された彼らのテント。
3張のテントのうち、まともに生き残っていたのは1張だけ。もう1張はすでにフライシートがはがされ、周囲に部員が集まって、折れたポールをテントから外そうとしていました。

残りのいちばん大きい1張(写真中央のテント)は一見立てられたままになっているものの、よく見ると少しつぶれてひしゃげている様子。おそらく何本かポールが折れているのでしょうが、まずは小さめのテントからなんとかしようと、そのままにしてあるようでした。
撮影:高橋庄太郎(参考までに、こちらは僕のテント。強風を避けやすいポイントを選び、もちろんしっかりペグを打っています。このときは雑誌『PEAKS』の取材でした)
高校で山岳部に入って山を始めた僕にとって、こういう若者は昔の自分を見ているようで非常にかわいいんですね。そこで、手助けしようと声をかけました。

━━どうしたの? テントが壊れた?
山岳部「はい、ポールが折れちゃって……。」

テントを間近で見た瞬間、僕は気付きました。あれ、ペグが1本も打たれていないぞ!

━━ペグを忘れてきちゃったの?
山岳部「いや、持ってきています」
━━それなのに、使っていないのかい……

そのテント場はペグが打てないほど地面が硬いわけではなく、持ってきているのにペグを使わない意味がわかりません。
要するに、壊れた2張のテントは荷物と人間の重みだけを頼りに、テントを「地面に置いていた」のですね。それでは強風にあおられたらテントには大きな負担がかかり、ポールも折れるはず。生き残った1張もペグを使ってはいませんでしたが、その代わりに張り綱を石に巻いて固定していたため、少しはマシだったようです。

聞いても理解できなかった、ペグを打たない理由

撮影:高橋庄太郎(聞いたところ、合宿は始まったばかり。応急処置は手伝ったけれど、その後、なんとかなったのでしょうか?)
━━どうしてペグを打たなかったの? 疲れて面倒だったから?
山岳部「いや、僕たちはいつも打たないんです」
━━えええ………。

それならば、はじめからペグを持ってくる必要もないとも言えますが、そもそもペグ打ちはテント設営の基本中の基本。自分の本の宣伝みたいで恐縮ですが、僕が書いた『テント泊登山の基本』(山と渓谷社)では、わざわざペグ(と、ペグを使えない場合の固定方法)だけで6ページも費やしたほど。

現代の山岳用テントというものは、きちんと設営すると強風・強雨くらいは余裕でしのげます。よほどの暴風・暴雨ならば別ですが、トラブルの90%は回避できるでしょう。それくらいペグ打ちはテント設営のキモともいえるほど大事なのです。

その後、僕は自分が持ってきていたポール修理用の金属スリーブを2本彼らに渡しました。でも、ポールが折れているのは3か所以上。そこでスリーブを使わないポールの応急処置も教え、彼らと別れたのでした……。

あなたは大丈夫?実は多い、テントを正しく張れない人

僕は山中のテント場で、他の人がどのようにテントを設営しているのか、いつもチェックしています。仕事柄、テントの張り方などを雑誌やウェブ媒体で紹介するときに、どのような間違いが多いか把握しておけば役立つからです。

その結果、いつも残念だと思うのは「テントをしっかり張れていない人」が多すぎるということなのでした。

テント設営の基本は「フロアの固定」

撮影:高橋庄太郎(「価格.comマガジン」で連載している「高橋庄太郎の山道具コレクト」用に撮影したものを流用)
テントの張り方でもっとも多い間違いは、テントのフロア(地面に触れる部分)を地面に固定することなく、ポール中央から延びるガイライン(張り綱)だけペグで打ってテントを設営しているというもの。

フロアはテントの底が長方形であれば四隅、6角形であれば六隅となり、それらの角の部分についているコードを利用し、フロアの生地をピンと張った状態でペグを打つと、それだけでテントはだいたいきれいな形状になります。

ペグ打ちは「テントのフロアがメイン、ガイラインはサブ」。上の写真で言えば、赤丸の位置がメインで、青色のポール中央から延ばしたガイラインにペグを打つ部分はサブということです。オレンジ色の丸の「前室部分」も、フロアと合わせて打たねばならない重要部分です。

撮影:高橋庄太郎(赤丸部分を拡大すると、このような感じに)
このフロアの部分のペグは、必ず打ちましょう!絶対に省略してはいけません。コンクリートで土台を作って柱を立てた家は倒れにくいですが、壁だけを組み合わせた家は簡単に崩れ落ちます。それと同じなのです。

本当はすべて固定するのが理想ですが、強風が吹きにくい樹林帯などではペグ打ちを少し簡略化できます。しかし、その場合に打たないで済まされるのはフロア部分ではなく、あくまでもガイラインのペグ。フロアを固定していないとテントが歪みやすく、少しの雨でも浸水しやすくなります。

フロア部分の固定がしっかりできていると、ポールの末端が固定されているので風の圧力を受けても位置がずれるのは、ほんの少しだけ。だからポールに負担がかかりません。

正しく設営できれば、台風並みの暴風でも平気!

撮影:高橋庄太郎(強風にさらされた上ホロ避難小屋前のテント場。風が弱まったタイミングで、トイレのために外へ出たときに撮影したカット)
適切にペグを打ってテントを設営すれば、山岳用のテントはよほどの暴風でも簡単には壊れません。数年前、僕は北海道の十勝岳に近い上ホロ避難小屋前のテント場で悪天候に遭遇し、テントに連泊して停滞したことがあります。

台風並みの暴風で、おそらく最大風速は15m以上。内部で寝転んでいると、テントのサイドの壁が顔の上にかぶさってくるほどテントは風で押されました。でも、すべての箇所をペグで打つだけではなく、雨水で緩んだ地面からペグが抜けにくいように大きな石を打ちこんだペグの上に載せたり、部分的にはガイラインを延長したりしてまで補強。その結果、大嵐のなかでも40時間近く、無事に過ごせました。

フロアをしっかり固定しないと、ポールが折れる!

撮影:高橋庄太郎(双六小屋のテント場。石に巻き付けたガイラインで、かろうじてテントはその場にありましたが、ガイラインが外れた途端、どこかに吹き飛びかねない状況でした)
テントというものはフロア部分を固定できていないと、地面に触れているポールの末端部分が風の圧力を受けて大きくずれてしまいます。その結果、ポールに大きな負担がかかって、バキッと折れてしまうのです。

上の写真は、北アルプスの双六小屋で見かけたテントです。テントのフロアが固定されていないので、ポールの末端が位置している部分が内側に押されてポールが過度に曲がり、テントのフロアが浮いています。

このままポールがさらに湾曲していけば、いずれ折れてしまうのは避けられません。まさにこれが、農取小屋の山岳部のポールが折れた原因です。

撮影:高橋庄太郎
写真は北アルプス針ノ木小屋のテント場での一枚。ここも強風が吹きやすい場所ですが、このようにフロア部分のペグを省略し、ガイラインのみ(しかもたるんでいる)にしているテントが多かったです。
ガイラインだけペグで固定しても、強風には耐えられません。必ず「フロアを固定」しましょう。

絶対に覚えておこう! ポールの修理方法

黄色は折れたポールで、上が金属製のスリーブ。スリーブは中空になっており、この部分に折れた部分を通します。
せっかくなので話を少し戻し、僕が農鳥小屋のテント場で出会った山岳部員にあげたポール補修用のスリーブ(大半のテントには、もともと付属)の使い方を簡単に説明します。

必携! ポール修理用の金属製スリーブ

撮影:高橋庄太郎(この説明カットを撮影するために、僕はわざわざ傷もないポールを1本折りました……)
スリーブを使った応急処置の方法はものすごく単純です。写真のようにポールの折れた部分を左右からスリーブに差し込み、スリーブの両サイドをテープで固定すれば完了。

ただ、ポールの折れた部分は歪んで太くなっているので、スリーブには簡単には通らないかもしれません。その場合、割れた部分を石で叩いたり、ペンチで潰したりして、形を整えて、無理やり押し込みます。こういう作業をする可能性もあるので、僕が山中に持っていくマルチツールは、いつもプライヤー(ペンチ)付き。

スリーブがなくても、ペグが使える

撮影:高橋庄太郎
スリーブがない、もしくは足りない場合は、ペグを添え木のようにして乗り切る方法もあります。

折れたポールの上にある赤いものが、本来はテント設営用のペグ。添え木的に使いやすいのは断面がV字型になっているタイプですが、緊急時は他の形状でもかまいません。

撮影:高橋庄太郎
ペグをポールに添え、あとはきつめにテープを巻いていきます。

わかりやすさのため、写真にはあまり巻いていない状態にしていますが、本当は全面的にグルグルと分厚く張り付けると強度が上がります。

ダクトテープのような強粘着テープは、さまざまなモノの補修に活躍する必需品です。登山店で購入すると高いのでホームセンターで買い、小巻きにして持ち運ぶとよいでしょう。分厚くて粘着力が高いタイプならば、ガムテープでもいいですよ。

「自分はできている」と思い込まず、設営方法の復習を!

高橋庄太郎
……という感じで、僕がテント場で目撃したいくつかの事例から、現在のテント場で頻出している問題をご紹介しました。いつのまにかテントを撮影されていたみなさん、ごめんなさい。ご連絡いただければ、なにかのときに正しいテントの張り方をより詳しくお教えしますので、お許しくださいね。

ともあれ、テントというものは、正しく設営できていないと、本来もっている強度が発揮できず、風に弱くなってしまいます。それでは、せっかく買ったテントを壊して悲しい思いをするだけではなく、なにより悪天候下で非常に危険な状況に陥ってしまいます。使い方がわるいのに、弱いテントだと思われたら、設計したテントメーカーもかわいそうです。購入後は付属の説明書をよく読みましょう。今はメーカーのウェブサイトの動画で設営方法を説明していることもあり、説明書以上にわかりやすいですから、ぜひチェックしてみてください。

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高橋庄太郎
高橋庄太郎

山岳/アウトドアライター。高校の山岳部から山歩きを始め、登山歴は30年以上に。好きな山域は北アルプスで、テント泊をこよなく愛する。テレビやイベントへの出演も多く、各メーカーとのコラボでアウトドアギア作りも。『トレッキング実践学 改訂版』『山道具 選び方、使い方』『テント泊登山の基本』など、著書も多数。

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