自分の足にフィットする登山靴とは

シューズのフィット感を左右するのは、シューズ内部の形状を作り出す、ラスト(足型)のデザイン。メーカー各社はそのラストをいかに理想的なものにするか、大量の「情報」を集めて研究を重ねています。
「情報」というのは、要するに人間の足の形状ですね。
ただ、足の形は人によって大きく特徴が変わり、最大公約数のラストを作ったところで誰の足にでも合うものが作れるわけではありません。その点は各メーカーも心得ており、だからこそ「足幅が広めな人に合いやすい」とか、「甲高の人に向く」などという特徴がそれぞれのシューズに出ているのです。
では、どんな足の形の人でも合うシューズは、本当にないのでしょうか?
自分の足の凹凸まで微調整!テクニカの「熱成型シューズ」
そこでひとつの可能性として登場してくるのが、今回ご紹介する「熱成型シューズ」なのです!「熱成型シューズ」とは、シューズ内部に熱を与えると変形するパーツが組み込まれ、使う人の足に合わせて細かな足の凹凸まで形状を微調整できるもの。足首の骨が出っ張っていたり、かかとの肉が薄かったりする人でも、十分なフィット感を得られるようになります。

テクニカはもともとスキー用品中心のメーカーだけに、そこで培った技術を登山靴に応用しているのです。

ショップではありませんが、オフィス内にシューズを熱成型できるマシンがあり、取材ということで特別に試作していただけることに。
今回熱成型シューズを作成してもらう僕は、山岳/アウトドアライターを仕事にしており、職業柄、新作だけでも年に10足以上の登山靴を履いています。また、老舗登山靴店で足型を測ってもらい、特注品をオーダーした経験も持っています。
でも、熱成型シューズは初めて。
どうやって作っていき、どんなものが仕上がるのか、わくわくしてしまいます。
オフィスで聞いた「テクニカ」の「テクニック」

現在、日本でテクニカが展開している熱成型シューズのうち、登山靴は「フォージGTX」のみ(2020年には別モデルも追加予定)。ヌバックレザーの下にはゴアテックスが使われていて防水性が高く、柔らかなアッパーをもつトレッキング系モデルになります。

これが「C.A.S.フットウェアキットニュートロ」という熱成型用のマシンで、シューズの熱成型はこれ1台で完了するのだそうです。ちなみに「C.A.S.」は「Custom Adaptive Shape」のこと。


いよいよ僕だけのフォージ作成の開始です。
ただし、これからの製作過程の説明に使われる写真は必然的に僕の小汚い足になりますが、そのあたりはご了承ください……。
製作開始!
フォージの熱成型は、2段階にわけて行ないます。
はじめにインソールのみ外してフィットさせ、その後にシューズ全体を合わせる、という流れです。


はじめはインソールを熱成型



汗が出るほどホカホカ。EVAが一気にソフトに

(このとき僕は女性のパンプスを履いているような気持ちになり、若干照れました…)

「ショップには、いつも山に使っている靴下を履いていくといいですよ」と浅野さん。分厚い靴下だと、足の形がきれいにとれない可能性があるのだとか。


ちなみにエアーサックは最大で150気圧になるそう。アウトドア系腕時計などの表示方法に従えば、深海1,500mくらいにいるのと同じ圧力を受けていることになるのかな。
それだけの圧力でインソールを足の形に合わせているのだから、すごいことですよね。
偏平足を反映し、妙に平らなインソールが完成。

一番わかりやすい部分で説明すれば、もともとのインソールでは高かったアーチの部分。ここが、見事に低くなっていました。
歩いているうちにアーチがつぶれやすい偏平足は疲れやすく、スポーツ向きではないことは多くの人に知られる事実で、その足で一生懸命に山を歩いている自分自身がいつもかわいそうになります。でも、このように僕のアーチに合うインソールであれば、これ以上はアーチがつぶれず、疲れにくいはず。
インソールだけでも作ってもらう甲斐はあるというものです。

インソールを戻したフォージに足を入れ、靴ごと圧をかけていきます。
フォージのアッパーで熱成型して足の形に合わせられるのは、足首からかかと、そして足の両サイドです。つま先部分は登山靴として使いやすいようにラバーで強化していることもあり、熱成型されるパートではありません。
そのため、足先の形状は合わせきれず、外反母趾などには対応していません。
それでも、他の部分がしっかりと合っていれば、足先にかかる負担は減るので、人によっては間接的に効果が発揮されるかもしれませんね。
ついに完成!

つまり、これで完成!
最後にエアーサックから足を取り出すときは、思わず「生まれる~」などと小声でつぶやいてしまいました。

まだホカホカのフォージを履いたまま、オフィスの一角を歩きまわってみましたが、やはりなんだかよさそうです。
専用フォージが完成!あとは山で使うのみ

実際、オフィス内を歩いているだけでも、フィット感のよさは体感できました。
しかし、実際の山ではどうなのか?
これまで僕が履いてきた登山靴とは、どう違うのか?
フォージには熱成型以外にもおもしろい特徴があるのも、見逃せません。

じつはフォージの熱成型は、アフターケアとして何度でも「焼き直し」が無料で行なえます。そのために「毎月のようにフィット感の調整をしているユーザーさんもいらっしゃいますよ」とのこと。毎月でなくても「1年に1回くらいは焼き直すのがおすすめ」と浅野さんはおっしゃっていました。
そもそも、フォージの価格は35,900円。似たタイプの登山靴に比べれば、少し高いかもしれませんが、専門の知識を身に着けたショップスタッフが時間をかけて熱成型してくれることを考えれば、まったく高価とは思えません。しかも何度でも焼き直ししてくれるんですから、むしろ安い気がします。C.A.S.フットウェアキットとともにフォージを扱っているショップは、全国に現在40店ほどあるそうですよ。
そんなわけで、近いうちに改めてフィールドでの使用感をレポートする予定です。