新緑の幌尻岳

幌尻岳|手つかずの自然が残る、最難関レベルの百名山!おすすめ2コースを紹介

日高山脈の最高峰で日本百名山にも名を連ねる幌尻岳。百名山の中でも難峰と言われる幌尻岳は、数十回もの渡渉や急登、藪こぎなど難路が続く上級者向けの山です。しかし、難路を抜けた先に広がる稜線や日本の地質百選にも選定されている「七つ沼カール」は必見!あたり一面お花畑が広がり、様々な動物の姿も見ることが出来ます。今回は代表的なコース2つと、見どころスポットなど紹介します。

目次

新型コロナウイルス感染拡大防止のため、山小屋営業ならびに交通状況などに変更が生じている可能性があります。
山小屋や行政・関連機関が発信する最新情報を入手したうえで登山計画を立て、安全登山をしましょう。
アイキャッチ画像提供:ヤマレコ/masatom
※2020年度の幌尻岳登山は新型コロナウイルス感染拡大のため中止になりました。
平取町|公式サイト

上級者向けの百名山「幌尻岳(ぽろしりだけ)」って?

幌尻岳

標高山頂所在地最高気温(6月-8月)最低気温(6月-8月)
2,052m北海道日高振興局沙流郡平取町・
新冠郡新冠町
11.8℃-0.9℃
参考:ヤマレコ

百名山にも選定されている、北海道の日高山脈最高峰の幌尻岳(標高2,052m)。アイヌ語で「ホロ・シリ」は「大きな・山」を意味し、カムイ(神の位を有する霊的存在)が登場する伝説の舞台として古くから崇拝されてきました。

また、ここでしか見られない数多くの固有植物や、天然記念物に指定される生き物も生息したりと、手つかずの大自然が残る山としても有名。山頂までの道のりは険しく、百名山の中でも最難関レベルの山といわれています。

カムイとして崇められた「幌尻岳の七つ沼カール」

七つ沼カール

出典:PIXTA

幌尻岳周辺には、その斜面をスプーンでえぐりとったような地形が点在しています。氷河期に氷河に削り取られ形成されたカールです。このカールに雨水が溜まってできた7つの沼は「七つ沼カール」と呼ばれ、カムイの遊び場として崇められていました。

カールに広がるお花畑!ナキウサギの姿も?!

幌尻岳チングルマ

提供:ヤマレコ/FLYMAN(カールの斜面に咲き誇るチングルマ)

幌尻岳は多様な高山植物が咲く事でも有名。夏になるとカールの斜面はチングルマやツガザクラなど色とりどりの植物に覆われ、可憐な花たちが迎えてくれます。

ナキウサギ

出典:PIXTA

高い独特な鳴き声が聞こえたら、それはナキウサギかもしれません。ナキウサギは「生きた化石」と呼ばれ、日本では北海道だけに生息する貴重な動物。
また、日本最大のキツツキ・クマゲラも生息しています。動物たちの声にも耳を澄ましてみましょう。

地図も必ずチェック!山と高原地図 大雪山(トムラウシ山・十勝岳・幌尻岳)

登山地図の定番といえばコレ!マップ詳細はもちろん、バスやマイカーでのアクセスにも便利!

昭文社 山と高原地図 大雪山 トムラウシ山・十勝岳・幌尻岳

幌尻岳の天気は?

幌尻岳に行く前に現地の天気をこちらでCHECK!
てんきとくらす|幌尻岳の週間天気

十数回もの渡渉を繰り返す「額平川コース」

額平川コースの最大の特徴は、何度も登場する渡渉(沢渡り)ポイント。一般的に1泊2日で進む行程になり、1日目に泊まる幌尻山荘までは額平川の源流に沿った道を、渡渉を繰り返しながら進みます。稜線に到達する2日目は、花畑やカールを眺めながら山頂を目指す上級者コース。

※渡渉は十数回を数えます。通常は深い所で大人の膝くらいまでですが、増水時は腰くらいまであり流れも速く大変危険。増水した場合は渡渉を中止し、引き返しましょう。

1日目:十数回もの渡渉~幌尻山荘まで

合計距離: 25.9 km
最高点の標高: 2025 m
最低点の標高: 559 m
累積標高(上り): 4221 m
累積標高(下り): -4221 m
【体力レベル】★★★★★
1泊2日
コースタイム:16時間10分
参考:ヤマプラ
【技術的難易度】★★★★☆
・岩場、雪渓を安定して通過できる技術が必要
・ルートファインディングの技術が必要
凡例はこちらをクリック:グレーディング表
ルート概要(1泊2日)
【1日目】第二ゲート(奥幌尻橋)(150分)→北海道電力取水施設(130分)→幌尻山荘
【2日目】幌尻山荘(110分)→命の水(140分)→幌尻岳山頂(100分)→命の水(80分)→幌尻山荘(260分)→第二ゲート(奥尻橋)

 

とよぬか山荘

幌尻岳の登山口である第二ゲート(奥幌尻橋)へは、一般の車両の乗り入れが禁止されているため、とよぬか山荘からシャトルバス(予約制)を利用して向かいます。

登山道入り口

登山口をスタートしてから約7kmは、額平川に沿った林道を歩きます。場合によっては崩落している箇所もあるので、気を付けて進みましょう。

へつり

北海道電力取水施設を過ぎると本格的な登山道に。沢沿いの斜面をへつるように慎重に進みます。滑りやすいので川に落ちないよう注意!

渡渉

いよいよ額平川コースの代名詞、渡渉の開始です。普段は膝くらいまでの水位ですが、天候次第で腰の高さまで増水したり、流れが急になることも。できるだけ浅く流れが緩やかな場所を探しつつ、一歩一歩気を付けて歩きましょう!

ピンクテープ

渡渉ポイントも多いこともあり、登山道は不明瞭。渡渉ポイントでは対岸にもピンクテープの目印があるので、登山道を見失わないようにしましょう。登山道の途中には、小さな滝の姿も見ることが出来ます。

幌尻山荘

十数回の渡渉を繰り返し最後の渡渉ポイントを通過すると、一日目に宿泊する幌尻山荘に到着です。二日目に備えて、濡れた身体をしっかり温めましょう。

2日目:壮大に広がる稜線から山頂へ

命の水

2日目は、樹林帯の急登からスタート。途中で戸蔦別岳の姿を見ることができます。幌尻岳の尾根を2時間ほど登ると「命の水」と呼ばれる水場に到着。秋には枯れている場合もありますのでご注意ください。

幌尻岳急登

命の水を過ぎると岩場が目立つ登山道に入り、かなりの急斜面の場所も。一気に標高も上がり視界も開けてきます。稜線まであと少し!

幌尻岳分岐

岩場を過ぎるといよいよ稜線に!隣接する戸蔦別岳やカールを眺めながらの稜線歩きを楽しめます。夏は高山植物、秋には紅葉など、季節に合わせた景色を堪能できます。新冠コース分岐を過ぎれば、山頂はすぐそこ!

山頂からの景色

最後の岩場を登りきるとついに山頂へ。戸蔦別岳~北戸蔦別岳方面への稜線は圧巻の景色!また振り返るとこれまで歩いてきた稜線の姿も眼下に広がります。最難関の山頂にたどり着けた人だけが望める、雄大な景色を存分に楽しみましょう!

帰りは登りと同じ道を下りますが、体力に自信のない方は幌尻山荘に宿泊し、2泊3日での登山日程をおすすめします。

余裕のある人は、戸蔦別岳・七つ沼もおすすめ!

戸蔦別岳と七ッ沼カール

幌尻岳山頂から片道約2.5Km(150分)ほどで、隣接する戸蔦別岳(1,959m)も一緒に楽しむことが出来ます。幌尻岳登山の見どころでもある七つ沼カールを間近に見下ろせる稜線。時間と体力に余裕のある方は是非足をのばしてみて下さい!

一筆書きで有名に!新冠(幌尻岳新冠陽希)コース

額平川コースと異なり渡渉ポイントは数回だけですが、新冠コースは約18Kmにもおよぶ林道の長さが最大の特徴。プロアドベンチャーレーサーの田中陽希さんが、日本百名山一筆書きで幌尻岳に新冠ルートを通って登ったことから、「幌尻岳新冠陽希コース」とも呼ばれます。

※平成30年8月11日、および21日の大雨による崩落の影響で、新冠林道は関係車両以外の通行が制限されております。また現在でも土石が落下しており、大きな崩土・落石の恐れがあります。詳細は北海道森林管理局を確認してください。
幌尻岳新冠コースの登山道についてはこちら

幌尻岳

出典:YAMAP
距離コースタイム日程難易度
18km約4時間分1泊2日★★★★
出典:ヤマプラ
ルート概要(1泊2日)
【1日目】イドンナップ山荘(約10分)→奥新冠発電所ゲート(約40分)→いこい橋ゲート→(約190分)→新冠ポロシリ山荘
【2日目】新冠ポロシリ山荘→幌尻岳→イドンナップ山荘

 

1日目:約18キロの林道~新冠ポロシリ山荘

奥新冠発電所ゲート

イドンナップ山荘から出発し、林道を1.5 km程歩くと発電所前ゲートに到着です。ゲートが2つありますが、右のゲートが正解。

林道

ゲートを通過すると、引き続き林道が続きます。ここからはアップダウンのある約18kmもの林道コースに。

いこいの橋

1時間ほど歩くと、いこい橋のゲートに到着。ゲートは閉まっていることが多く、真ん中についている小さい回転ゲートをくぐります。
ザックを背負ったままだと通れないので、先にザックだけを向こう側へ通してからくぐってみて下さい!
ゲートの先もまだまだ林道が続きます。

奥新冠ダム

ゲートを過ぎると、登山道の脇には沢や滝が姿を現します。ここまでの林道の景色とは少し違った景色を楽しみながら、引き続き林道を進みましょう。奥新冠ダムが見えてくると、長い林道歩きもいよいよ終盤!

新冠ポロシリ山荘

木々の向こうに青い三角の特徴的な屋根が見えてきたら、長い林道歩きもいよいよ終了。1日目の宿泊場所である、新冠ポロシリ山荘に到着です。

2日目:藪こぎ、急登を登り山頂へ

沢沿いの道

2日目は新冠ポロシリ山荘横の登山道からスタート。まずは沢沿いの道を登っていきます。小さな渡渉ポイントもいくつかあるので、気を付けて進みましょう。

藪漕ぎ道

渡渉箇所を越えると突然急登が始まり、藪こぎの道になります。場所によっては身長の高さくらいまで伸びている箇所もあるので、登山道を見失わないように十分に注意してくださいね。

沢

藪こぎの道と沢沿いの道を繰り返しながら、徐々に高度を上げていきます。山荘から約1時間弱で幌尻沢徒渉地点に到着。天気によってここも水位が上がるので、注意して渡りましょう!沢の左手側から再び登山道に入っていきます。

幌尻岳山頂手前

さらに藪こぎが続き、急登を登りきると見晴台に到着!もう少しで中間地点です。稜線手前では大きな岩を登る急登もありますが、視界が開けてくるので景色を楽しみながら頑張りましょう。

幌尻岳山頂手前

岩場を登りきり新冠コース分岐で額平川コースと合流します。ここから山頂までは最後の登り坂!

幌尻岳山頂

出典:PIXTA

山頂からは隣接する戸蔦別岳はもちろん、天気が良ければ大雪山・トムラウシ山・十勝岳の姿を見渡せます。さらに北カール、東カールには、季節ごとにさまざまな植物の絨毯が広がります。特に夏のお花畑は必見!北海道ならではの自然あふれる最高の景色を楽しみましょう。

2日目に下山することも可能ですが、かなり長いコースのため、2日目も新冠ポロシリ山荘に宿泊し2泊3日での行程もおすすめです。

必ず事前に確認を!幌尻岳登山での注意事項

百名山の中でもとりわけ多様な高山植物や動物など、素晴らしい景色が残る幌尻岳。しかし最難関レベルといわれれる山頂を目指すには、しっかりとした事前準備が必要です。安全な登山を行うため、しっかり準備していきましょう。

①「渡渉用道具」の準備を!

渡渉

今回紹介した2つのコースは渡渉を何度も繰り返します(特に額平川コースは十数回渡渉あり)。近年幌尻岳で発生している事故は、そのほとんどが渡渉中の事故です。増水時には流れが急になり、腰のあたりまで水位があがることも。沢歩き用の道具の準備をし、十分に注意して渡渉を行ってください。

また、増水時には渡れず下山できなくなることもあるので、食料も多めに持って登山するようにしましょう。

渡渉道具、何が必要?

渡渉する際は、靴はもちろんの事、水位が高い時には腰のあたりまでびしょ濡れに。
【足元】はだしは滑るのでおすすめしません。水抜けがよく、靴底のグリップ力が高い沢靴がおすすめ!
【服装】濡れることを想定して速乾性のある服がおすすめ。タイツ・短パンなどがあると便利でしょう。
【装備】滑って転倒する可能性があるので、ヘルメットを装着することをおすすめします。
また、着替えは必ず持参してください!

②目撃情報多数!ヒグマに注意

ヒグマ

出典:PIXTA

幌尻岳ではヒグマの目撃情報が多数上がっています。特に七つ沼カールはヒグマの生息エリア。熊鈴は必ず携帯しましょう!

幌尻岳の山小屋&アクセス情報

今回ご紹介した2つのコースは、どちらも最低1泊2日の長い行程。コース上にはいくつかの山荘・避難小屋がありますので、無理をせず自分の体力とスケジュールに合わせて利用しましょう。

額平川コース

《幌尻山荘》

幌尻山荘

出典:平取町HP

事前予約必須の山小屋。食事や寝具の提供はありませんので、すべて自身で用意する必要が。緊急時以外の指定野営地もありません。

電話番号:01457-3-3838(平取町山岳会事務所)
営業期間:7月1日~9月30日頃(管理人常駐時期)
予約期間:4月2日~9月下旬
収容人数:約50名
料金:1,500円(素泊まり)

《とよぬか山荘》
とよぬか山荘

とよぬか山荘より発着しているシャトルバスで向かいます。とよぬか山荘付近にバス利用者用の駐車場もあります。シャトルバスの利用には事前予約が必要!

住所:北海道沙流郡平取町字豊糠24-3
電話:01457-3-3568
収容人数:約24名
料金:1泊素泊まり¥3,000~

とよぬか山荘

《とよぬか山荘へのアクセス》
【クルマの場合】
札幌北IC→道央自動車道 苫小牧東IC→日高自動車道 日高富川→国道237号→道道71号→道道845号→道道638号を経て、とよぬか山荘

【公共交通の場合】
札幌駅(道南バス・高速ひだか号)ー振内案内所下車ー振内案内所からタクシー
道南バス日高号 時刻表

《とよぬか山荘から第二ゲートへのアクセス》

期間:7月1日~9月30日
運行区間:とよぬか山荘駐車場~第二ゲート間
所要時間:片道 約1時間
料金:片道2,000円

額平川コース側の宿泊・シャトルバスは以下よりネット予約が可能です
幌尻岳 平取(額平)コース施設予約

新冠(幌尻岳新冠陽希)コース

※イドンナップ山荘ゲートから避難小屋新冠ポロシリ山荘までは、管理道路となっていますので徒歩以外での通行はできません。自転車を含むすべての車両は通行できません。

《新冠ポロシリ山荘》
新冠ポロシリ山荘

無人の避難小屋ですが、事前に利用申請が必要。避難小屋としてはとても広く、簡易水洗トイレも利用できまです。

営業期間:7月1日~10月中旬
収容人数:約30名
利用料金:1,000円(協力金)

新冠ポロシリ山荘 利用許可申請について

《イドンナップ山荘へのアクセス》
新冠(幌尻岳新冠陽希)コースの入口に位置する無人の避難小屋。40キロ近い林道を進んだ先にあり、バスなどの公共交通機関は通っていません。車でのアクセスをおススメします。

【クルマの場合】
日高自動車道「苫小牧東」IC→日高自動車道「日高門別」IC→道道351号→国道235号→道道209号を経て、イドンナップ山荘駐車場

場所:イドンナップ山荘より1.5km先、北電ゲート脇の空きスペース
駐車台数:約10台

【公共交通の場合】
JR日高本線「苫小牧」駅→JR日高本線「鵡川」駅→「新冠」駅下車→タクシー

百名山踏破の締めくくり!上級者だけがたどり着ける山頂へ!!

幌尻岳

出典:PIXTA

百名山最難関レベルに部類される幌尻岳。繰り返される渡渉や、長い林道歩きなど、山頂までも道のりは決して容易ではありませんが、手つかずの自然を楽しむこともでき、山頂にたどり着けばそこには北海道ならではの大スケールの景色が広がります。

百名山踏破を目指している方には、その締めくくりに相応しい山です。十分な技術・知識、そして体力をつけて挑戦をしてください!

※この記事内の情報は特記がない限り公開初出時のものとなります。登山道の状況や交通アクセス、駐車場ならびに関連施設などの情報に関しては、最新情報をご確認のうえお出かけください。

こちらの記事もどうぞ