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パタゴニア PFCフリーの新素材「ゴアテックスePE」採用のシェル

<パタゴニア>から、PFCフリーの新素材「ゴアテックスePEメンブレン」採用のシェルが登場。メーカー担当者に聞くその実力とは!?

今秋のパタゴニアの新作でもっとも注目すべき点は、一部のゴアテックス製テクニカルシェルに、PFCフリーの新素材「ゴアテックスePEメンブレン」を採用していること。この新素材の魅力と実力について、パタゴニアとゴア社の担当者に根掘り葉掘り聞きました。

目次

アイキャッチ撮影:YAMA HACK編集部

機能性も環境への配慮も一切妥協なし。パタゴニアとゴア社が生み出した“PFCフリー防水性シェル”の新境地

過酷な環境下で活躍する、パタゴニアの新しいテクニカルシェル

Drew Smith © Patagonia, Inc.

パタゴニアから登場した、2023年秋冬の新製品「トリオレット・ジャケット」や「スーパー・フリー・アルパイン・ジャケット」、「アルパイン・スーツ」、「アントラックド・ジャケット」などのテクニカルシェルシリーズ。一見、今までと変わらないシェルのようですが、実は画期的な新素材「ゴアテックスePE」メンブレン(以下「ゴアePE」)を使用した、PFCフリーのゴアテックス製品なのです。

しかし、そもそもPFCとは何なのか、そして「ゴアePE」を使った製品の性能や使い心地はどうなのかなど、新しい技術だけにわからないことだらけ……。

パタゴニア マーチャンダイジング部の片桐星彦さん(写真左)と、日本ゴア合同会社 ファブリクスディビジョンの大貫英昭さん(写真右)

撮影:YAMA HACK編集部

そこで今回お話を伺ったのは、パタゴニア日本支社マーチャンダイジング部テクニカルライン担当の片桐星彦さん(写真左)と、日本ゴア合同会社 ファブリクス・ディビジョンの大貫英昭さん(写真右)のお二人です。

約10年前からパタゴニアとゴア社が水面下で取り組んできたという、PFCフリーのゴアテックス製品の開発。その背景や想い、そして新製品の性能やメンテナンスについて教えてもらいました。

そもそもPFCって何が悪いの?

アウトドアウェアの撥水加工のイメージ

提供:パタゴニア

PFC(*1)とは有機フッ素化合物の総称で、実際にはたくさんの化学物質がその中に含まれます。水や油を弾き、薬品や熱に強いといった性質を持つことから、フライパンのフッ素加工や、アウトドア製品のDWR(耐久性撥水)加工など、多くの工業製品に使用されてきました。

*1 PFAS(有機フッ素化合物)と呼ばれることもある

ところが近年、PFCの中のPFOS(パーフルオロオクタンスルホン酸)に有害性があることが判明。環境中で分解されにくく、また人体やその他の生物に様々な悪影響を与えることが確認されました。現在この物質は国内外で製造や使用が規制されています。

その他のPFCについても、環境への残留が懸念されるため、包括的に規制する動きが世界で広がっており、アウトドア業界でもその対応が急がれています。

パタゴニアのPFCフリーへの取り組み

PFCフリーについて語るパタゴニアの片桐さん

撮影:YAMA HACK編集部

環境への配慮で業界をリードしてきたパタゴニアは、PFCの問題にもかなり前から取り組んでいました。

約20年前にPFOAフリーのDWR加工の研究開発に着手し、2019年にはパタゴニアで最初のPFCフリーDWR加工を施した製品を発表。2021年には、PFCフリーの「H2No(オリジナル防水透湿素材)」を採用したテクニカルシェルを発売するなど、着実にその歩みを進めていました。

PFCフリーをエクストリームなレベルに。パタゴニアとゴア社が共に歩んだ10年

アンバサダーによるフィールドテストのイメージ

Hiroya Nakata © Patagonia, Inc.

しかし、すべての防水性シェルをPFCフリー化するには、まだ越えなければならない課題がありました。

ハードな環境下で使用するテクニカルシェルの中には、高い防水透湿性と耐久性を誇るゴアテックスを採用した製品もあります。どんなアクティビティでもPFCフリーのシェルを選べるようにするためには、ゴア社との協力が欠かせなかったのです。

パタゴニア片桐さん

片桐さん

「DWR加工だけでなく、ゴアテックスのメンブレン(フィルム状の膜)も含めて、完全にPFCフリーのシェルを作りたい」と、パタゴニアからゴア社に提案したのは、2012年のことでした。当時はまだPFCについて世間では話題にもなっていない頃でしたね。

ゴア大貫さん

大貫さん

そうでしたね。当時としてはかなり先進的な提案でしたし、なんて難しいことを言い出すのかと、正直びっくりしました(笑)。

とはいえ、ゴア社も当時PFCフリーのDWR加工の研究に取り組んでおり、パタゴニアと問題意識を共有していました。PFCフリーのゴアテックスファブリクスの開発は、ゴア社にとっても避けて通れない重要課題だったのです。

実は、従来のゴアテックスメンブレンは「ePTFE」というフッ素ポリマー(つまりはPFCの一種)からできています。この物質自体は安定性が高く生分解もされないため安全性は高いのですが、「完全なPFCフリー」を達成するためにはメンブレン自体を別の材料から作り直す必要があったのです。

日本ゴア合同会社 ファブリクスディビジョンの大貫英昭さん

撮影:YAMA HACK編集部

苦心の末にゴア社は、PFCを含まない新素材「ゴアePE」の開発に成功します。しかし、プロトタイプが出来てから実際に製品を発表するまでにも、数えきれないほどの苦労があったといいます。

ゴア大貫さん

大貫さん

ゴアテックスファブリクスは、メンブレンに表地や裏地を貼り合わせて作ります。どんな生地を組み合わせるかによって接着方法も表面のDWR加工のやり方も変わってきますので、ここからはパタゴニアさんとの試行錯誤の日々でした。

パタゴニア片桐さん

片桐さん

プロトタイプの生地を供給してもらったら、パタゴニアで試作品を作って独自のラボテストやフィールドテストを行います。

アルパインクライミングやバックカントリーなど過酷な環境下で活躍するアンバサダーにも試作品を使用してもらい、その結果をゴア社さんにフィードバックして、生地をブラッシュアップしていきました。

ゴア大貫さん

大貫さん

開発の初期段階の詳しいやり取りはトップシークレットですが、数多くの失敗やダメ出しを乗り越えたと聞いています。最終的にはゴア社が自社で定めるエクストリーム&エクステンデッドの基準を満たす製品が完成しました。

2022年秋には、「ゴアePE」を採用した史上初のスノー用アウターウェアがパタゴニアから限定リリースされました。

それからもテストや改良を重ね、ついに今秋、「ゴアePE」を採用したテクニカルシェルをはじめとする全6製品が発売されるに至ったのです。

パタゴニア片桐さん

片桐さん

開発スタートから10年の間にPFCへの関心は高まり、2025年には各国でPFASを含む製品の輸入が禁止されようとしています。

パタゴニアでは、2025年までにすべてのアパレル製品をPFCフリーに切り替えようと取り組んでいますが、今回もっとも過酷な環境下で使うアルパイン・スノーカテゴリのゴアテックス製品でPFCフリーが実現したことは、その重要な一歩になったと思います。

新素材「ゴアePE」を採用した新製品の特徴とは?

パタゴニア×「ゴアテックスePE」製品

撮影:YAMA HACK編集部(メンズ・トリオレット・ジャケット)

「性能を落とすことなくPFCフリーを実現したい」という、パタゴニアとゴア社の強い想いの下で誕生した、今回の新製品の数々。従来のゴアテックス製品と比較しての性能や使い心地はどうなのでしょうか?

持続する防水性・防風性・透湿性の機能で、ハードな山行でも安心して使える

提供:日本ゴア合同会社

ゴア大貫さん

大貫さん

「ゴアePE」を使用したゴアテックスファブリクスも、従来と同じくゴア社独自の厳しい基準をパスしています。

防水・防風・透湿性が持続し、製品の耐久性も従来のものと遜色ないので、冬山登山やバックカントリー、アルパインクライミングなどのエクストリームな山行でも、問題なく使っていただけます!

パタゴニア片桐さん

片桐さん

PFCフリーのDWR(耐久性撥水)加工についても、持続性は決して従来のものに劣っていません。こまめな洗濯など、正しくメンテナンスをすることで、安心して長くお使いいただけます。

生地の強度が向上したことで、より軽量かつしなやかな着心地に

「ゴアePE」生地感

撮影:YAMA HACK編集部(メンズ・トリオレット・ジャケット)

従来製品と比べて、「ゴアePE」を採用することで良くなった部分はあるのでしょうか?

パタゴニア片桐さん

片桐さん

トリオレットジャケットの新旧製品を触り比べるとわかりますが、「ゴアePE」を使用した新製品は、生地のゴワゴワ感が軽減し、より軽くて柔らかい着心地が実現しています。

ゴア大貫さん

大貫さん

実は、「ゴアePE」は従来製品よりも重量当たりの強度が高いんです。このおかげで、製品の耐久性を維持しながら、生地をより軽く作ることができました。

着心地が良くなるだけでなく、製造や運搬にかかるエネルギーを削減できるので、カーボンフットプリントも大幅に削減できました。

メンテナンスで撥水性能がより長持ちに。PFCフリー製品との付き合い方

DWR(耐久撥水)加工のイメージ

提供:パタゴニア

新素材を使った製品だけに、メンテナンスはどうすればいいのか不安です。今までのゴアテックス製品と同じように扱って問題ないのでしょうか?

ゴア大貫さん

大貫さん

従来のゴアテックス製品と、基本的な扱い方は同じです。

いろいろ悩んで洗わないよりは、雑でもいいからこまめに洗濯してほしいですね。洗うと性能が落ちると思っている方もいらっしゃいますが、逆に洗わないと撥水性や透湿性が損なわれてしまいます。

パタゴニア片桐さん

片桐さん

とくにPFCフリーのDWR加工の場合、油や汚れをしっかりと落とすことが長持ちの秘訣になります。使用したら毎回洗濯するのを習慣にしてほしいです。

パタゴニアでは「STORM」というPFCフリーのアウトドアウェア専用洗剤を推奨しています。パタゴニアのショップでは量り売りもしているので、ぜひマイボトル持参でお越しください!

撮影:TAKESHI

ゴア大貫さん

大貫さん

もしそのほかの洗剤を使う場合は、漂白剤や蛍光剤、柔軟剤、香料など撥水を妨げる成分が入っていない中性洗剤を使うといいですね。

従来のゴアテックス製品と同じく、撥水性を回復させるためには、仕上げに熱処理を行うことも大切です。自然乾燥後に乾燥機にかけるか、あて布をしてアイロンをかけると効果がありますよ。

美しい自然を守りながら山に登る。環境への配慮をウェア選びの新基準に

パタゴニア×「ゴアテックスePE」製品のタグ

撮影:YAMA HACK編集部(メンズ・スーパー・フリー・アルパイン・ジャケット)


パタゴニアとゴア社の協業によって誕生したPFCフリーのゴアテックス アウターウェアですが、今後は他社も含めて「ゴアテックスePE」がアウトドア業界に広く普及することが予想されます。

そんな状況について片桐さんは、「新しいプラットフォームを作り上げたことを誇らしく思うし、どんどんこの技術が広まってほしい」と語ってくれました。

『私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む』をミッション・ステートメントにしているパタゴニアの精神が、ここに凝縮しているように感じられました。

パタゴニア「ゴアテックスePE」製品という選択肢を

アルパインカテゴリー
トリオレット・ジャケットトリオレット・パンツスーパー・フリー・アルパイン・ジャケットアルパイン・スーツ
メンズ・トリオレット・ジャケットメンズ・トリオレット・パンツメンズ・スーパー・フリー・アルパイン・ジャケットアルパイン・スーツ
メンズメンズメンズユニセックス
ウィメンズウィメンズウィメンズ
提供:パタゴニア

実際に「トリオレット」を着てみると、その軽くしなやかな着心地と動きやすさにびっくり!3層構造で耐久性も高く、これからの冬山登山の定番になりそうです。

同じく3層構造の「スーパー・フリー・アルパイン」や「アルパイン・スーツ」は、さらに動きやすさと軽さを追求した上級者モデルです。

スノーカテゴリー
ストーム・シフト・ジャケットストーム・シフト・パンツアントラックド・ジャケットアントラックド・ビブ
ストーム・シフト・ジャケットメンズ・ストーム・シフト・パンツ(レギュラー)ストーム・シフト・ジャケットアントラックド・ビブ
メンズメンズメンズメンズ
ウィメンズウィメンズウィメンズウィメンズ
提供:パタゴニア

スノーカテゴリーでは、昨年限定リリースされた2.5層の「ストームシフト」に加え、よりハードなバックカントリーにも対応した3層構造の「アントラックド」も登場しました。

ライフ・アウトドアカテゴリー
ストームシャドー・パーカ
ストーム・シャドー・パーカ
メンズ
提供:パタゴニア

普段使いできる「ストームシャドー」もラインナップに加わり、どんな状況でもPFCフリーを選択できる環境が整いました。「性能が同じならより環境に配慮した製品を選ぶ」というのが、これからのウェア選びの新基準になるのかもしれませんね。