安全登山のカギは睡眠にアリ!事前対策&山行中にも取り入れたい”快眠実践法”

2021/06/28 更新

山に出かける際、いつもより早起きをして登山をおこなうケースは多いのではないでしょうか。行き先によっては前泊したり、場合によっては未明・前夜から家を出たり。睡眠不足の状態で活動することも出てくると思います。それなのに、山小屋やテントでなかなか寝付けない、ぐっすり眠れない、疲れが抜けない・・・そんな経験はないでしょうか?今回は、睡眠健康指導士として睡眠講座もおこなう筆者が、登山時に気をつけたい睡眠のコツをご紹介します。

制作者

日本睡眠学会正会員/上級睡眠健康指導士/全米NLP協会認定 NLPトレーナー

RIE

ライターとしてさまざまな分野の記事を執筆しながら、睡眠健康指導士としても活動。「今日からできる快眠実践法」を企業、行政、学校等で伝える。学生時代は、野宿しながら歩いて北海道横断、九州縦断などを楽しみ、社会人になって、登山、トレイルランニング、トライアスロンにハマる。 自分の足で歩く、走る、アウトドアの魅力を伝えていきます!

RIEのプロフィール

...続きを読む


アイキャッチ画像撮影:RIE

登山時の睡眠不足問題

撮影:RIE
「日の出を見たい!」「明るいうちに活動したい!」
登山では、いつもの生活リズムと違う形で活動することが多くなりがちですよね。
そんな中で抱える「睡眠」の問題といえば…
・早朝出発で寝不足
・車中泊でぐっすり眠れない
・前夜に遅くまで準備をしていて就寝時間が遅くなってしまう
・翌朝早いからと、いつもより早めに布団に入ったのに、寝付けない

など、普段と違う活動リズムによる寝不足問題があります。
また他にも、
・寒い、かたい、隣が気になる、など、いつもと違う睡眠環境で眠れない
・疲れすぎて、体が興奮状態でうまく眠れない

など・・・いつもと違う環境によって、「眠りたいのに、眠れない!」そんな悩みを抱えている方も多いようです。

高地では、睡眠の質が下がる

出典:PIXTA

標高の高い場所では酸素濃度が低く、睡眠の質が下がる

1週間程度高地に滞在すれば、低酸素に体が順応することがわかっていますが、ほとんどの場合、登山日数はそれより短いと思います。体が事前に順応するまでの日数を考えると、山で普段通り熟睡するのはなかなか至難のワザ。

そのため、たとえ寝不足でも…少しくらい疲れていても…ついつい頑張ってしまうという人が多いのではないでしょうか。
しかし、安全面・事故やケガ防止の観点からみて、睡眠不足の登山はリスクが高くなります。

眠気だけじゃない!なぜ眠らないとダメ?

そもそも睡眠の役割は 『脳と体の疲労回復』です。
特に、脳の疲労を回復させるのは睡眠だけ。

資料引用:『山岳遭難の構図』青山千彰著(東京新聞出版局)
上のグラフを見ると、日帰り登山の事故のピークは「午後2時」
この時間は、実は体内時計のリズム的もに眠気が起きやすい時間なのです。
そして眠くなる最大の原因は「睡眠不足」。結果的に睡眠不足は、おのずと事故に繋がりやすくなります。

また、自動車の運転の事故率は、7時間以上の睡眠をとっている人と比べて、それ以下の方が事故率が上がるというデータもあります。

6~7時間睡眠:1.3倍
5~6時間の睡眠:1.9倍
4~5時間:4.3倍
4時間未満:11.5倍

これは睡眠不足による集中力・判断力の低下が招いた事故といえます。
眠たい時は、体に力が入らない、体の反応が遅いなど、ケガのリスクも上がることに。

仮に眠気を感じていなくても、睡眠不足の状態は、いつもより判断ミスやふらつきが起きやすくなっていことを頭に入れて活動しましょう。

 快眠で安全に登山を!事前対策編

出典:PIXTA
では、具体的にどのような対策をおこなえばよいのでしょうか。
ここからは、上級睡眠健康指導士としても活動する筆者が、登山者向けの睡眠のコツをご紹介します。
三輪田理恵(スリーピングマスター)
日本睡眠学会正会員/上級睡眠健康指導士/全米NLP協会認定 NLPトレーナー
ライターとしてさまざまな分野の記事を執筆しながら、睡眠健康指導士としても活動。「今日からできる快眠実践法」を企業、行政、学校等で伝える。
<趣味>登山、トレイルランニング、トライアスロン

まずは、出発前に行いたい対策です。

「睡眠負債」を溜めない

早朝出発の多い登山では、睡眠不足のまま活動することになりがち。

そもそも「寝だめ」はできませんが、寝不足の蓄積である「睡眠負債」のある状態での登山は避けたいです。
「睡眠負債」が溜まった状態で登山に行くのは、疲れのたまった体で出かけるということ。

登山に行くことが決まったら、できるだけ早い段階から睡眠をしっかりとって体調を整えていきましょう。

早く寝るために、前日から調整を

翌朝3時に起きるからといって、20時に布団に入っても…恐らくなかなか寝付けないのではないでしょうか。

人間の体内時計のリズムは、朝起きてから15時間後に眠気がやってくるようにできています。
早寝をしたい日は、いつもより早起きした方が、寝付きやすくなります。

《例:いつも23時に寝て6時に起きている人の場合》
画像作成:RIE
また、早めにお風呂に入ってあたたまる、ストレッチをして体をゆるめるなど、就寝の準備も早めにおこなうようにしましょう。
寝る前に、強い光を浴びないことも大切です。カフェインの覚醒作用は、30分後がピークで、半減するのに4時間程度かかるといわれています。
早寝をしたい日の午後は、カフェイン(コーヒー、紅茶、緑茶、ココア、チョコレートなど)を避けるようにしましょう。

行動中にできることは?当日対策編

出典:PIXTA
あくまでも出発前に十分な対策をして、体調を整えておくのが基本。そしてそれができないのであれば、無理をして出かけないという選択も必要です。

ただ、出発してみたものの「どうしても眠たい…」という時の対策をご紹介します。

休憩をこまめにとる

睡眠不足での登山は、熱中症のリスク、高山病のリスクが上がります。
とにかく無理をしない、短めの休憩をこまめにとって体に負担をかけないように動くようにしましょう。

仮眠をとる

コーヒーやガムなど、小手先のテクニックで眠気をごまかしても、根本解決にはなりません。
「眠い」というのは、脳が疲れて休息を求めているサイン。眠い時は、寝るのが一番の解決方法です。
あたたかい気候で体が冷える心配がなければ、仮眠をとるようにしましょう。

撮影:RIE
眠るときの体勢ですが、左の写真のように横になると倒れているように見え、救助が必要だと勘違いされてしまうことも。
右の写真のように、以下の3点をおさえられるとよいでしょう。

●安全な場所をみつけて腰掛ける
●リュックなどで首・頭を固定する形で休む
●スマホのタイマーなどを活用し、寝過ぎない

可能なら15分程度が理想ですが、長時間止まることで汗冷えによる体温低下の懸念も。
気候や体調と相談し、時間は調整しましょう。たとえ1分でも十分効果はあります。

「眠った!」という感覚がなくても、視覚から入る情報をシャットダウンするだけで脳の疲労回復になりますよ。

姿勢を変える

ずっと同じ姿勢で登り続けたり、下り続けたりを繰り返すと、首や肩がかたまって血流が悪くなってしまうことも。
血流が悪くなり、脳に送られる酸素量が少なくなると、より眠気が起きやすくなります。

活動中も、ときどき伸びをする、首や肩をまわすなど、ストレッチを取り入れて姿勢を変えるようにしましょう。

ツボを刺激する

首の後ろ、生え際にある凹んだ部分、「風池(ふうち)」というツボは、脳への血流が促進するといわれています。
首こり、肩こりの他、眠気覚ましにも効果的なので、試してみてもよいですね。

出典:写真AC(筆者により追記)
<風池のツボの場所>
髪の生え際あたり、左右の外側のいちばん凹んでいるところが風池。
首の後ろの骨の左右の筋肉の両脇に指をおいて、すり上げていきます。
指の腹で痛気持ちいい強さで押してみましょう。

ぐっすり眠るためには?宿泊地編

その日の目的地である山小屋などに到着したら、ゆっくり眠れるように準備をしたいですね。
ここでは「宿泊地でぜひやってほしいこと」をご紹介します。

到着したら…

①快眠&肩こり解消に!肩まわし

重たいリュックを背負って一日動いていると、肩まわりはガチガチです。体が固まった状態では、血流が悪くなり、熟睡ができなくなってしまいます。
宿泊地に着いてリュックを下ろしたら、まずは肩まわしをおこないましょう。

肩をまわすときに使う背中の筋肉は大きな筋肉なので、ここを動かすことで体をあたためる効果も。
夕方に体温を上げると、夜にかけて体温がグッと下がって、寝付きやすくなりますよ。

撮影:RIE
前回しと後ろ回し、それぞれゆっくり5周程度おこないます。
撮影:RIE
ポイントは、肩甲骨!
腕からではなく、肩甲骨から大きくしっかり動かすことで、上半身がポカポカあたたまり、ほぐれますよ。

 
②コーヒーは14時までに、飲酒もほどほどに
出典:PIXTA
山でお湯を沸かして飲むコーヒーは、格別の味。
ですが、コーヒーや紅茶、ココア、チョコレートなどに含まれるカフェインには覚醒作用があります。
特に、山に泊まる日のカフェイン摂取は、夜の睡眠に影響がでます。できればお昼くらいまで、遅くても14時くらいまでにしておきましょう。

また、アルコールを飲むと、寝付きはよくなりますが、睡眠の質を下げてしまいます。仮に飲む場合も、寝る直前は避けて、量も控えるようにしましょう。

 
③環境を整える

暑い、寒い、かたい寝床、騒がしい場所などではぐっすり眠ることができません。
できる範囲で、山小屋やテントでも睡眠に適した環境を整えてあげることが大切です。
こちらの記事もぜひ参考にしてみてください。

寝る前に…

①体を緩めてリラックス

一日動き、疲れて筋肉が固まった状態だと、血流が悪くなり、寝ている間に疲労がうまく抜けません。寝る前にストレッチなどをおこない、体を緩めてあげましょう。
山小屋やテントでもできる簡単な体操を2つご紹介します。

★足首まわし★
足の先は心臓から一番遠い場所になるため、足指や足首をほぐしてあげることで、血流がよくなります。
撮影:RIE
足の指の間に手の指を入れて、右まわしと左まわし、1周あたり10秒以上かけてゆっくり3周程度おこないます。

撮影:RIE
ポイントは、距骨(きょこつ)をつかんで、ゆっくりまわすこと!
距骨はくるぶしの内側にあり、他の骨とつながっていない足と脚をつなぐベアリングのような役割を果たす骨。
ここを中心にゆっくり丁寧にまわすことで、じんわり血液が流れていくのを感じられます。

★お魚ポーズ(胸を広げる)★
ヨガでおなじみの「お魚のポーズ」は、リラックス効果が高く、寝る前におすすめのポーズ。固まった背中を緩め、胸を広げることで深い呼吸ができるようになります。
出典:イラストAC
1)手の平を下に向けてて、お尻の下に入れます。
2)左右の肩甲骨を中心に寄せるようにして、両腕を伸ばしたまま近づけます。
3)胸を空に向けて持ち上げて、頭頂部が床につくように首を伸ばします。
4)肘から下の腕で床を押すようにして、体を支えます。
5)ゆっくり呼吸をします。
就寝前に、寝袋の中で試してみてくださいね。

 
②呼吸法でリラックス
出典:PIXTA
人間の体は、活動モードでは「交感神経」、リラックスモードでは「副交感神経」が優位になっています。
この、自律神経(交感神経・副交感神経)によって、心臓の動きや、発汗、腸の蠕動運動、呼吸などが自動で制御されていて、基本的には自分の意志ではコントロールができません。

ただし、呼吸だけは意志でもコントロールできます。
寝る前の呼吸法で副交感神経を優位に、リラックスモードにすることで、ぐっすり眠りやすくなります。

★ボックス呼吸法★
「吸って・止めて・吐いて・止めて」これを、1-1-1-1のリズムで繰り返します。

4秒吸って・4秒止めて・4秒吐いて・4秒止めて…
はじめておこなう人は、4秒ずつからスタートしてみましょう。

これを数分間繰り返すことで、副交感神経が優位になり、自然と心も体も緩まっていきますよ。

登山を楽しむために、睡眠の優先順位を上げよう

出典:PIXTA
まずは、安全な登山のために「睡眠が大切」だと知ること。その上で、睡眠不足の状態でムリな登山をおこなわないようにしましょう。
適切な対策をとり、登山を楽しんでくださいね。

この記事を読んでいる人にはこちらもおすすめ


関連する記事

関連する山行記録 byヤマレコ

この記事が気に入ったら
「いいね!」をしよう
登山専用コミュニティサイト「ヤマレコ」