【現役ガイド直伝】 登山初級者でも安心「実用的ファーストエイドキット」を大公開!

2021/07/28 更新

登山にケガやトラブルリスクはつきもの。いざという時のためのファーストエイドキット、皆さん持参していますか?登山初級者の場合、携行する必要はわかっていても、何を買ったら良いかわからない、または買ったは良いけどザックに放り込んだままお守り状態になっていることも。そこで、実際に役立つ中身を現役ガイドに聞いてみました!

アイキャッチ画像撮影:三宅 雅也

登山中のケガや病気。そのとき「備え」はありますか?

出典:PIXTA  ※画像は山小屋のイメージです
不整地を歩く登山では、ケガやトラブルのリスクは切り離せません。下界であればすぐに診療や治療を受けることが可能ですが、山岳というシチュエーションではそれ自体が困難です。それは上級者でも初級者でも山に入るという点では同じです。

かつ、今年は新型コロナの影響で休業を余儀なくされている山小屋もあり、夏山診療所も開設していないところも。そのため、例年以上に有事の際の応急処置は自分で行なえるよう、備えておくことが大切ですね。

今回はそもそも持っていない」「市販品のキットを持っているけど、これで大丈夫?など、イマイチ使用する場面のイメージがわかない登山初級者が「ファーストエイドキット」を持って使えるようになるためのヒントをお届けします!

「ファーストエイドキット」とはどんなものなの?

出典:Amazon
そもそも「ファーストエイドキット」とは、その名の通り、ケガなどが起こった際にまず最初の処置として行うための道具を詰め合わせたキットです。

筆者の周りの登山仲間にヒアリングしてみたところ、登山歴が長いため基本的にほぼ全員が万が一に備えファーストエイドキットを持参していました。

が、買ってほぼそのままという人や自分用にカスタマイズしている人もいたり、その内容はまちまち。また、その内容に自信満々!という人は稀…。

ところで、一般的なファーストエイドキットには、何が入っているか知ってますか?

ファーストエイドキットといっても、中身はさまざま!

撮影:三宅 雅也
上の写真はあくまで一例ですが、大判&標準サイズの絆創膏が各数枚、滅菌ガーゼ数枚に固定用テープが約3メートル分。ミニマルなセット内容ですが、ちょっとしたすり傷や靴ずれ、足首固定などの処置なら対処できそうです。

撮影:YAMA HACK編集部
こちらは内容量が多いタイプのものになりますが、先のキットにハサミやピンセット、綿棒、安全ピンやホイッスルなど、さらに多くのエイドアイテムが付与されていますが、逆にテーピングなどは入っていません。

また、ホイッスルはザックのチェスト・ストラップに付いていることが多く、必ずしも含む必要はなさそうです。

滅多に出番のないファーストエイドキット。出費という意味でも重量という意味でも「負荷」になりますが、せっかく持っていくなら本当に役立つものを持っていきたい!と思いますし、市販キットのそのままでも良いのかどうか悩みますよね。

例えば、筆者の「ファーストエイドキット」を紹介すると…

撮影:三宅 雅也
ちなみに上の写真は、30km~50kmのソロでの日帰りロングハイクをメインとする筆者が携行しているファーストエイドの中身ですが、軽量化のためポーチは使用していません。自身の用途にカスタマイズしたうえ、ジップロックに自分なりにカテゴライズして小分けにしています。

「自分の心配」に合わせてカスタマイズした結果

撮影:三宅 雅也
中身を詳しく見ていくと、ポイズンリムーバーやマダニ除去用ツイスター、挫創時の止血目的での瞬間接着剤や簡易裁縫セット、医療用カッター、アナフィラキシーショック回避用「エピペン」(医師による処方が必要) や予備コンタクトレンズなど、自分自身の懸念を補うアイテムを持参しています。

 
ライター三宅の「心配」
・ポイズンリムーバーやエピペンは、1ヶ月でたまたま3度も蜂に刺された経験から
・予備用コンタクトレンズは、あまりの暴風に目から剥がれ飛んでいきそうになった経験から
 

幸い、絆創膏とテーピング、ポイズンリムーバー程度しか使用実績はありませんが、いざという時に命運を分けるかもしれないため、日帰り・泊まりに関わらず、グリーンシーズン向けハイク時には常に携行するようにしています。

しかし、山行形態や心配事は人それぞれのため、これがみんなに当てはまるわけではないのが悩ましいところ!

そこで、クライアントである登山者の安全を担うガイドであれば、さまざまなケースに対応できるキットを教えてくれるのではないか?ということで、元・遭対協(山岳遭難防止対策協会)で多くのレスキュー活動にも携わった現役ガイドに聞いてみました!

気になるガイド携行のエイド内容は?

撮影:三宅 雅也
今回、取材に協力いただいたのは、これまで涸沢ヒュッテでの小屋番や北アルプス遭対協でレスキューに携わった現役ガイドで、われわれ登山者の多くが情報収集でお世話になっている『ヤマレコ』の山岳アドバイザリースタッフでもある伊藤嘉一ガイド。白馬村在住で北アルプスをメインにガイドを行っています。

まずは伊藤ガイドがクライアントをガイドする際に携行する「ファーストエイドキット」を見せてもらいました。

 
伊藤ガイドのキット内容
①手指消毒用アルコール
②使い捨てビニール手袋
③コットン球(またはガーゼ)
④ヨードチンキ(またはオキシドールなど)
⑤滅菌粘着パッド
⑥三角巾
⑦サムスプリント(固定・副木用)
⑧テーピング各種+巻軸包帯2種 (10cm+5cm)
⑨ハサミ
⑩60cmスリング(仮固定など)
⑪絆創膏
⑫ポイズンリムーバー
⑬人工呼吸用マウスピース
⑭綿棒
⑮刺抜き
⑯オイルライター(⑮の滅菌消毒用)
⑰ハッカ油
⑱水
⑲胃腸薬、鎮痛剤、目薬などの常備薬(個人用)
 

ガイドが持参するものは「対外的応急処置」を想定

ライター三宅
さすがにガイドが携行するエイド内容は通常の登山者のものとは違いますね!


伊藤ガイド
そうですね、通常のファーストエイドキットは自分自身を応急処置する対内的が基本になります。

一方われわれガイドは「医療行為は行なわない」を前提としたうえで、クライアントであるお客さんに対する応急処置を想定した対外的なものになります。


ライター三宅
三角巾やサムスプリント、マウスピースなど、持参している登山者はまずいないですよね。


伊藤ガイド
20年以上ガイドをしていますが、遭対協での経験も含め、さまざまなアクシデントのケースがありました。

有事を未然に防ぐことが最善ですが、万が一の時、おおむね対応できる内容として現在のエイド内容となっています。


ライター三宅
なるほど、長い経験から厳選されたアイテムなんですね!ということは、人工呼吸が必要な深刻なケースも…


伊藤ガイド
ええ、遭対協時代ですが、胸部マッサージと人工呼吸で心肺停止の遭難者が蘇生したケースもありましたね。

残念ながらその逆のケースもありましたが…


ライター三宅
レスキューに携わる方々に、心からの敬意を表します。

意外な盲点!薬は自分自身で持っていかなくてはならない理由

出典:PIXTA
ライター三宅
ところで、薬も各種持参されてますよね。

やはりガイド時のお客さんの体調不良に備えてですか?


伊藤ガイド
いえ、あくまで個人用としての携行です。

実は薬品を他人に与えるのは「薬機法(旧薬事法)」に違反するのです。


ライター三宅
え!!そうなんですか?!それはまったく知りませんでした。


伊藤ガイド
厳密に言えば、処方箋医薬品、指定第一類医薬品、同二類・三類とありますが、処方されたものは絶対にNG、第一類のロキソニンSやガスターのほか、第二類も留意が必要です。第三類であれば特に問題はありません。

※厚生労働省・大町保健所薬剤師とも確認済み


ライター三宅
処方箋薬品はわかるとして、指定第一類のロキソニンなど、誰もが薬局で買い求められるもののため、これはかなり意外でした。

これまでも痛み止めや足攣り対策の漢方薬など、お困りの登山者に差し上げたことがありましたが…


伊藤ガイド
そうですよね、そこには善意もありますので、やはりグレーな部分もありますね。

ただ、なにより怖いのはやはり副作用です。人から「もらう」「あげる」ことには「副作用」というリスクが少なからず潜んでいるため、自身での携行が必要です。つまりファーストエイドの中に薬は不可欠ということです。

ケガの応急処置はどんなケース?

ライター三宅
なるほど、よくわかりました。

ところで、登山時はケガのケースも多いですよね。


伊藤ガイド
やはり、すり傷、切り傷、捻挫など。酷いときは開放骨折 (複雑骨折) 含む手足の骨折や、肋骨、鎖骨などの骨折もあります。


ライター三宅
比較的軽症の場合、持参のエイド内容での処置が有効になりそうです。
しかし、骨折はおおごとですね!


伊藤ガイド
骨折の場合は部位にもよりますが、基本的には直ちに救助要請をします。

骨折は患部が動くことにより悪化する可能性があります。ひどい捻挫の場合も素人では骨折との判断がつきません。足首の捻挫で歩行が困難な場合も救助を要請したほうが無難です。

「ファーストエイドキット」が実際に役立ったのは、こんな場面!

提供:伊藤ガイド
とはいえ、「ファーストエイドキットが役立つ場面は本当にあるの?」と考えると、使った経験がない人にとってリアリティが薄いかもしれません。でも実際に以下のようなケースで役に立ったという事例を、伊藤ガイドに教えてもらいました。

■ケース①
ガイド時、登山者の1人が転倒、胸痛を訴えたため、幅広包帯で胸部をぐるぐると巻いて固定。下山後病院での診察で肋骨骨折が判明。幅広包帯が有効となった。

■ケース②
ガイド中、登山者の1人が熱中症に。 飲み水に加え、消毒用の予備水を持参していたため、ツェルトで日陰を作って寝かせ、内股、および両脇の動脈部に水を入れたビニール袋をはさみ救助要請。病院から適切な処置があったため回復と報告あり。

■ケース③
縫合処置が必要なほど深い裂傷を負った血だらけの登山者に遭遇。当人はファーストエイドキットを持参していなかったため、代わって予備水で洗浄し汚れを落とし、消毒液滅菌ガーゼで応急処置と適度な圧迫止血を行ない下山。

ライター三宅
いろいろなケースがありますが、やはり備えあれば憂いなし、ということですね。


伊藤ガイド
そうですね、やはり現地現物での対処は一般的には困難なため、最低限の応急処置ができるエイドアイテムは各自携行しておくことを推奨します。


ライター三宅
では、それら経験を通し、伊藤ガイドが推奨するわれわれ一般登山者が携行しておいた方が良いアイテムをズバリ!教えてください!


伊藤ガイド
わかりました。
これとこれとこれ…
あと、これも念のため!


ライター三宅
なるほど!!
これがファーストエイドキット 「何を持ってたら良いんだ問題」の答え ですね!

【結論】ガイド推奨の登山初級者向けエイド内容はこれだ!

撮影:三宅 雅也 (飲み水と洗浄用の水は完全に区別)

品目用途
手指消毒用アルコール処置前の手指消毒用 (コロナ対策にも◎)
コットン球 (またはガーゼ)すり傷や切り傷等、患部に当てる用
滅菌粘着パッド消毒後の患部保護
絆創膏消毒後の患部保護
包帯+固定用テープ止血やガーゼ固定、患部保護・固定
テーピングガーゼの固定や捻挫での手足固定、登山靴のアウトソール剥がれ処置にも
ハサミテープや包帯などをカット
ポイズンリムーバー蚊・アブなどの全身症状が表れない虫刺されに
綿棒患部の汚れ・異物除去に使用
水 (500mLペットボトルなど)患部の汚れや血の洗浄・消毒
常備薬胃腸薬、鎮痛剤、目薬など個人用
 

ついにファーストエイドキットの推奨アイテムが明らかに! 過不足ない内容ってどんなだろう?とずっと疑問に思ってきましたが、基本のセットは、多いように見えてもポーチにすべて収まってしまう程度です。

それと、とても重要なのが「予備水」です。患部を洗浄するのに清潔な水は不可欠。余れば飲み水にもできますし、万が一のビバーク時にも有効。これらを備えておくだけで、いざという時の安心感がまったく違ってきそうですね。

ライター三宅
いずれもドラッグストアで普通に買えるものばかりで安心しました。


伊藤ガイド
基本的には、切り傷、すり傷、捻挫など、比較的軽症なケースへの応急処置ができる内容を考えればOKです。重症時は救助要請をしましょう。

そして、虫が苦手な方なら虫除けスプレーやバグズネット、虫刺され軟膏など、お腹が心配な方なら自分にあった下痢止めや胃腸薬の携行など、個人の心配に応じた足し算のカスタマイズを検討してみてください。


伊藤ガイドのアドバイスをまとめると、
・軽症なケガに対応できるものを用意
・処方薬など替えがきかないものは自分で用意
・「個人の心配」に合わせてアイテムを足す

そう考えると、市販のキットをベースにしたとしても、何を持っていくかの選択は意外とシンプルでわかりやすくなりませんか?

コロナ禍で新たな登山様式が求められ、これまで以上に安全登山への配慮、そしていざという時の備えが必要となってきている昨今。 もちろんそれらは元々から重要なことではありますが、滅多に出番のないファーストエイドキットは疎かになりがちなのも否めません。

今回の記事で「なんだ!意外にシンプルじゃん!」とわかり、ファーストエイドキット携行のお役に立てば幸いです。

それでは皆さま、どうぞ良いハイクを!

教えてくれた人


伊藤 嘉一ガイド
長野県信州登山案内人/白馬山案内人組合
株式会社ヤマレコ 山岳アドバイザリースタッフ
北アルプス 北部・南部遭対協 前隊員

取材・文:三宅 雅也 (山岳ライター/長野県自然保護レンジャー)

ITEM
OHKEY|ファーストエイド キット
20アイテムセット
ケースサイズ:20cm x 13cm x 5cm
重量:360g

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三宅 雅也

長野県自然保護レンジャー、山岳ライター。 アルプスを中心に、トレランから厳冬期登山まで幅広く活動。 鷲羽-水晶-赤牛岳、槍ヶ岳~笠ヶ岳、荒川三山、中央アルプス主峰全山など、ロング日帰りのスピードハイクを得意とする。 また、キャンピングカーにて、登山と旅を掛け合わせた「外遊び人生漫遊術」を構築中。 スピードハイクの詳細はこちら! ウェブサイトはこちら

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