快適登山に欠かせない「ミドルレイヤー」って?
天候の変化が大きく気温の低い山の環境では、体温の低下を防ぐために体を保温することが欠かせません。
だからといって、登山ではたくさんの汗をかきますし、モコモコの防寒着で山を登るわけにはいきませんよね。そこで登場するのが「ミドルレイヤー」と呼ばれるウェアです。
ミドルレイヤーとは、ベースレイヤーとアウターレイヤーの間に着用する中間着のこと。体を保温しつつ、ベースレイヤーから送られてきた汗を吸収、蒸発させ、アウターレイヤーへ送る役割があります。
そもそもベースレイヤーやアウターレイヤーってなに?という方のために登山のレイヤリングシステムについてもみていきましょう。
登山の服装は「レイヤリング」が基本
登山の服装で基本とされているのが、「レイヤリング」と呼ばれる重ね着のテクニック。
4種のレイヤーに分類され、それぞれの役割は、
アウターレイヤー(シェルレイヤー)
雨や風から身を守るウェア。防水・防風の機能が求められます。ミドルレイヤー(ミッドレイヤー)
保温が主な役割。また、ベースレイヤーから移行された汗を、外へ逃したりアウターレイヤーへ移す機能も求められます。ベースレイヤー
肌に直接触れるウェアです。汗を吸収して乾かす役割があります。ドライ系インナー
ベースレイヤーのさらに下に着るウェア。汗の逆戻りを防ぎ、ベトつきや汗冷えを軽減します。
この4レイヤーが上手に組み合わせることで、変わりやすい山の天気に合わせた、体温調整が可能になります。
その中でも、ミドルレイヤーはベースレイヤーとアウターレイヤーの調整役ともいえるウェアです。
種類が豊富なミドルレイヤー。どうやって選べばいい?
そんなミドルレイヤーには多くの種類が登場しています。涼しく夏向きなシャツタイプのもの、中わたの入った冬の行動着向きなもの、撥水性がありアウターに近い機能をもったものなど、とにかく選択肢が多いのが特徴です。
だからこそ、さまざまな選択肢の中から季節や標高に応じたウェアを選ぶことができるのですが、逆を言えば、どれをどうやって選べばいいのか、悩んでしまいますよね。
最適なミドルレイヤーを選ぶためには、種類ごとの特徴や向いているシチュエーションを理解する必要があります。
それぞれの種類にはどんな特徴があるの?
今回はミドルレイヤーを6種に分類しました。
ミドルレイヤーの種類と特徴 | ||
① | ジャケット | 定番のミドルレイヤー。オールラウンドに使える |
② | 山シャツ | 空気がウェア内を流れ、熱がこもりにくい |
③ | フリース | 保温性と汗処理機能のバランスが良い |
④ | 化繊インサレーション | 保温性が高く、汗で濡れても保温力が維持される |
⑤ | ソフトシェル | 防風性とストレッチ性、撥水性を備えている |
⑥ | ダウンインサレーション | 保温性の高さに秀でる。濡れると保温性が低下するため行動には向いていない |
ここで注意したいのが、同じ種類であっても生地の“厚み”によって保温性は変わり、適した使用シーンも異なってくるということ。
例えばフリースでも、薄手のものはオールシーズン使えますが、厚手のものは冬に特化していたり行動着には向いていなかったりします。そのため上図の関係性はあくまでも大まかな概念として捉えてもらえればと思います。
ここからは、これらのミドルレイヤーを取り入れた、季節やシーンごとのレイヤリング例を紹介します。
【真夏のアルプス・晴天下での行動】を想定したレイヤリング
真夏であっても、標高の高いアルプスなどでは、麓よりも気温が低く、動けば汗をかき、止まれば寒くなる、という状況です。保温性を考慮しつつも汗処理機能を最優先に考え、吸汗速乾性の高いウェアを選びましょう。
ベースレイヤー
吸水速乾性の高いものがマスト。ドライインナーは汗冷えやベタつきを軽減できるが、真夏の山では一枚多く重ね着する=その分汗をかきやすくなる、ということを念頭に置いておきましょう。ミドルレイヤー
薄手のジャケットやシャツなど、通気性や透湿性、速乾性の高いウェアが便利。標高が高くなるほど保温性が求められるため、山の環境や天候にあわせて使い分けましょう。アウターレイヤー
晴天下でも稜線上の強い風で寒さを感じることは珍しくありません。そういったときは、防風性のあるレインウェアやウィンドシェルが便利。またソフトシェルも防風アウターとして有効です。
【春秋の低山・のんびりハイキング】のレイヤリング例
昼夜の寒暖差が大きく、朝の出発時はブルっと震える気温でも、日中はポカポカ陽気になることも多いです。ほどよい保温性を意識しつつ、汗や蒸れの対処はレイヤリングを着脱して調整しましょう。
ベースレイヤー
ウール素材は濡れても保温が持続する機能があり、薄手〜中厚手のウールやハイブリッド(ウールと化繊の混紡素材)がおすすめ。ドライインナーも積極的に取り入れるとよいでしょう。ミドルレイヤー
保温性と汗処理機能のバランスが良い、ジャケットやフリース、ソフトシェルがおすすめ。休憩時などのじっとしている時用にダウンなどの保温着も持っておきましょう。アウターレイヤー
軽くて動きやすいウィンドシェルは、行動中もストレスなく着ていられるのでおすすめ。ウィンドシェルは防水性がないため、天気の急変に備えてレインウェアの携行も忘れずに。
【厳冬期・本格的な雪山登山】のレイヤリング例
ベースレイヤー
中厚手や厚手のウールやハイブリッドが定番。汗冷えを軽減するドライインナーは雪山では利便性が非常に大きいため、雪山のマストアイテムと考えてもよいでしょう。ミドルレイヤー
厚手すぎるとかえって熱くなりすぎてしまう場合があるので、厚みには注意が必要。ミドルレイヤーを2枚重ねすることもあり、「薄手のフリース」+「化繊インサレーション」などを組み合わせて温度調節をする方法も有効的です。アウターレイヤー
雪山では、生地が厚く耐久性や防風性の高いハードシェルが一般的。厳冬期の稜線上では必須となるアイテムです。
それでは、ミドルレイヤーの種類ごとに、細かな特徴や向いているシーンなどをみていきましょう。
▼さっと羽織れて便利な「山シャツ」
▼保温と汗処理のバランスが良い「フリース」
▼秋冬登山の定番「化繊インサレーション」
▼アウターにも使える万能ウェア「ソフトシェル」
▼休憩時に便利「ダウンインサレーション」
「ジャケット」はオールラウンドに使えて便利
薄手の化繊素材のものが多く、夏山ではもっともスタンダードなミドルレイヤーです。フロントファスナーの開閉で体温調節しやすく、高い汗処理機能が特徴。冬はミドルレイヤーをもう一枚重ね着するなど、レイヤリングの調整によりオールラウンドに使える便利なウェアです。
・寒暖差の大きい春秋登山の行動着として
・気温の低い雪山登山のインナーとして
気になる「ジャケット」をチェック!
<ファイントラック>ドラウトセンサージャケット
優れた汗処理機能を備えたドラウト®構造生地により、汗を素早く吸い上げ蒸散させます。やや薄手の生地で、高い通気性と適度な保温性を両立。春から秋まで、オールラウンドに使える一着です。
<アークテリクス>デルタジャケット
ポーラテック・パワードライ採用のジャケット。体温調節機能やストレッチ性、高い汎用性が求められる場面で頼りになる軽量ウェアです。本格登山からハイキングまで、幅広いアクティビティに対応します。
<ミレー>ロッカ ジャケット Ⅲ
春から秋にかけて幅広く活躍する、薄手のサーマルジャケット。高い通気性と速乾性を備え、アクティブなシーンではもちろん、デイリーユースでも快適さを提供します。
「山シャツ」は暑い夏山でも涼しく快適!
ウェア内に空気が循環しやすく、夏山にピッタリの涼しくて快適なミドルレイヤーです。保温性はあまり高くないので、山シャツの上にレイヤリングできる保温着も忘れずに。半袖タイプは日焼けや虫刺されに注意しましょう。
・スリーシーズンの低山ハイクの行動着として
・日常着として着用
気になる「山シャツ」をチェック!
<コロンビア>エンジョイマウンテンライフオムニフリーズゼロロングスリーブシャツ
コロンビア独自の冷却機能「オムニフリーズゼロ」と吸湿速乾機能「オムニウィック」を搭載した、快適で涼しいトレッキングシャツ。春〜夏の中低山におすすめのミドルレイヤーです。
<マウンテンハードウェア>キャニオンロングスリーブシャツ
吸湿速乾性に優れたポリエステル100%素材で、さらりとした着心地と薄手の生地ならではの通気性が魅力。発汗量の多い夏にもおすすめの山シャツです。
<カリマー>ブリーザブル ショートスリーブ シャツ
重量わずか100gの快適と機動性を兼ね備えた超軽量半袖シャツ。気温の高い夏の山でも、衣類内の蒸れを軽減し、快適に行動できる一着です。
「フリース」は保温と汗処理のバランスがgood!
寒い時期におなじみ、ほわほわ起毛が特徴のミドルレイヤーです。保温性の高さと汗処理機能を両立し、ストレッチ性が高いため動きやすく快適なのもポイント。擦れにも強く、岩場の行動着にも向いています。
・春秋冬の肌寒い場面での行動着として
・厳冬期登山のインナーとして
気になる「フリース」をチェック!
<ザ・ノース・フェイス>マウンテンバーサマイクロジャケット
軽量ながらも高い保温性をもつ薄手のフリース。あらゆる季節でアクティブに使えます。リサイクルフリースを使用しており、環境にも配慮された商品です。
<モンベル>シャミースジャケット
モンベルの独自素材「シャミース™」使用した軽量フリース。薄手ながらも暖かく、通気性に優れています。生地にはストレッチ性があり、運動量の大きい場面でも快適な行動をサポート。コスパの良さも魅力です。
<マウンテンハードウェア>ポーラテックマイクロフリースFZ
リサイクルポリエステル100%の「ポーラテック マイクロ ベロア」を採用。ほどよい厚みで保温性を発揮。軽量で速乾性や通気性にも優れています。3,000m級の高所登山や雪山で活躍。夏の保温着としても有効です。
「化繊インサレーション」は秋冬登山の定番
濡れても保温性が落ちにくく、フリースよりもあたたかく、通気・速乾性が高い特徴があります。そのため、本格的な雪山登山では欠かせないミドルレイヤーともいえるでしょう。撥水性を搭載したモデルも多く、アウターに近い感覚で着用できるウェアです。
・アイスクライミングやバックカントリーなど、ストップ&ゴーを繰り返す冬のアクティビティに
・夏山のテント泊などでの保温着として
気になる「化繊インサレーション」をチェック!
<アークテリクス>アトム LT フーディ・アトム フーディ
アークテリクスが独自開発する中わた「コアロフト™」採用の、軽量・コンパクトで保温性に優れたインサレーションウェア。耐久性や撥水性もあるので、幅広いシーズンで頼もしい行動着として活躍します。
<ミレー>ブリーズバリヤー トイ アルファ ダイレクト ジャケット
ミレーを代表する、保温・通気・伸縮・撥水性を兼ね備えた軽量なアクティブインサレーション。アウターとしても使いやすく、低温下で高いパフォーマンスを発揮します。
<ザ・ノース・フェイス>ベントリックスジャケット
秋冬の登山やウィンタースポーツで活躍する化繊インサレーションジャケット。独自の中わた構造により、運動時には通気が促され、停滞時には保温を高めます。
<ファイントラック>ポリゴン2ULフーディ
中わたがシート状になった「ファインポリゴン®」を2枚封入した、濡れに強い行動保温着。軽く、適度な通気性と撥水性、透湿性により、行動中もウェア内の濡れや蒸れを軽減。寒い時期のミドルレイヤーとして、安定した機能を発揮します。
「ソフトシェル」はアウターにも使える万能ウェア
ストレッチ性・撥水性・通気性・防風性を備えたソフトシェルは活用の幅が広いアイテムです。ミドルレイヤーとアウターとの中間的な機能を持っており、春や秋は動きやすいアウターとして、夏はサッと羽織り、冬は動きやすいミドルレイヤーとして活躍します。
・小雨が降っていたり、降りそうな、天気のグズついた登山に
・雪山登山のミドルレイヤーとして
・夏山の風除けとして
気になる「ソフトシェル」をチェック!
<マムート>アルティメイト VII SO フーディッド ジャケット AF
7度の改良が加えられたロングセラー商品。耐久性と防風性、撥水性に優れたやや厚みのある生地は、あらゆる登山シーンで快適な着心地を実現。秋冬春はアウターとして、夏はサッと羽織れる保温着としても信頼のおける一着です。
<ザ・ノース・フェイス>マウンテンソフトシェルフーディ
高いストレッチ性と人間工学に基づいた立体裁断により、登山中の複雑な動きにもスムーズに追従。薄手のソフトシェルで持ち運びもしやすく、比較的リーズナブルな価格帯も魅力です。
<ファイントラック>フロウラップフーディ
「オールラウンド・オールシーズン着続ける」がコンセプトのソフトシェル。春夏は稜線や早朝行動のアウターとして、秋冬は気温の低いフィールドで常に着用できます。
「ダウンインサレーション」で休憩時もあたたかく
圧倒的な保温力が特徴です。ただし、濡れると保温性が低下するため基本的には行動着には向いていないとされています。小屋泊やテント泊など、“山のじっとする場面”で積極的に使っていきたいウェアです。
また、山に持っていく場合は軽量性やコンパクト性も重視しましょう。アウターの上に着用する場合もあるので、ゆとりのあるサイズ感がおすすめです。
気になる「ダウンインサレーション」をチェック!
<ザ・ノース・フェイス>サンダージャケット
ダウンと化繊わたを配合した軽量のハイブリッドダウンジャケット。ダウンに化繊わたを加えることで濡れても暖かさを保つため、行動着としても使える汎用性の高い一着です。
<パタゴニア>ダウン・セーター
パタゴニアを代表する定番のダウンインサレーション。800フィルパワーのダウンは軽量・コンパクト性に優れ、高い保温性を発揮します。生地にはリサイクルされた漁網が使用され、環境に配慮された製品です。
<ミズノ>ブレスサーモライトウェイトダウンジャケット
吸湿することで熱を生み出す発熱素材「ブレスサーモ」とダウンを掛け合わせた保温性の高いジャケット。登山だけでなく、街着としても使いやすい一着です。比較的安価な価格帯も見逃せません。
<モンベル>イグニスダウン パーカ
モンベルの中でもハイエンドモデルにあたるダウン製品。生地には高い透湿性と防風性、撥水性が施された「ゴアテックス・インフィニアム」を採用。1000フィルパワーの最高品質ダウンにより、軽くて温かく、あらゆるアウトドアシーンで活躍します。
フリースやダウンもしっかり洗濯しよう!
ミドルレイヤーをはじめとする高機能なアウトドアウェアはメンテナンスが大変だと思っている人も多いのではないでしょうか。しかし、大半は自宅で洗濯が可能です。
またウェアを汚れたままにしておくと、生地が劣化する恐れがあるため、長く使い続けるためにも洗濯は大切です。ただし、通常の衣類よりもデリケートなので、洗濯方法には注意しましょう。
・洗濯表示を確認しよう|洗濯機を使う場合は、裏返しにしたりネットに入れて、表面が傷つかないように保護する
・使用する洗剤に注意|成分に柔軟剤や蛍光剤、漂白剤を含まない中性洗剤を使用する(アウトドア衣類専用の洗剤を使うと安心です)
・すすぎ、脱水は短時間で|乾燥機は生地が縮む可能性があるため基本は使用せず、日陰で吊干しがおすすめです
・ダウン製品は難易度高め|ダウンも自宅で洗濯可能ですが、コツが必要です。心配な場合はクリーニングに出してもよいでしょう
ワークマンやユニクロなど、お手頃メーカーも登山で使える?
作業着ブランドの<ワークマン>やファストファッションブランドの<ユニクロ>などからも、アウトドア・スポーツ向けのラインナップが展開され、フリースやソフトシェル、ダウンなどが登場しています。
お手頃な価格で購入できるのが何よりの魅力ですが、その一方で「本当に山で使えるの?」という疑問を持っている方も多いのではないでしょうか。
あくまでも筆者の意見ですが、ケースバイケースだと思っています。
筆者の場合、ワークマンのダウン製品(フュージョンダウンシリーズ)は夏山のテント泊でよく使っていますし、低山ハイクではユニクロの「ドライEXパンツ」を履いていくこともあります。
安いからダメ、高いからイイと判断するのではなく、そのウェアの特徴とどんな山のどんなシーンで使うかを照らし合わせながら使っていくとよいでしょう。
最適なミドルレイヤーで、登山をもっと快適に
ミドルレイヤーは、登山を安全で快適に楽しむうえで欠かせないウェアです。種類やモデルによって、機能だけでなく見た目の違いも幅広く、登山のコーデにアクセントを加えられるのもミドルレイヤーの魅力のひとつ。
普段使いからアウトドアまで使える便利なアイテムですので、お気に入りの一着を見つけてみてください。