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侮るなかれ、低体温症

実際に起きた登山中の死亡事故
2012年GW 白馬岳

全員の死因は低体温症でした。

2018年5月、新潟県五頭連峰で親子2名が遭難し、帰らぬ人となってしまいました。報道によると、本件の死因も低体温症。遺体は標高1000mにも満たない場所で発見されました。
2009年7月 トムラウシ山

様々な判断ミスが重なり、厳しい天候に晒された結果、低体温症を引き起こし、多くの尊い命が失われる結果となってしまいました。
ここで分かることは、低体温症に標高や季節は関係ないということ。低い山でも、真夏であっても、悪天候に見舞われれば低体温症を引き起こす危険性は十分にあり得るのです。
低体温症の分類

①急性低体温症(冷水などに浸かって6時間以内に発症)
②亜急性低体温症(寒冷に曝されて6~24時間以内に発症)
③慢性低体温症(病的なもの)
登山においては、急性も亜急性も起こり得ます。寒冷に強風が加わると、夏山でも体温は下降し、これにより加速的に急性低体温症になるケースがあるのです。
どういうときに起こるの? 条件は?

・気温10℃以下
・雨か雪(体が濡れる)
・10m/秒以上の強風下
特に風速はピンとこないかもしれませんが、10mとは風に向かって歩きにくくなり、傘がさせなくなる強さの風(*)のこと。山の天気予報を見れば、この10mという数字が出てくることは珍しくありません。
『山で低体温症になること』の恐ろしさ
体温 | 症状 |
---|---|
35℃台 | 歩行が遅れ、震えが始まる |
34℃台 | 震えが激しくなる。ヨロヨロする。口ごもる。眠気がする。 |
33℃台 | 転倒する。意識が薄れる。 |
32℃台 | 起立不能。震えがとまる。意識が消失する。 |
31℃~ | 昏睡状態 |
28℃~ | 心肺停止 |
最初に自覚するのは「寒気」と「全身的震え」

山では意識障害が早くに来る

深部温度が下がり始めると血液の温度も下がるため、血液の中の酸

ちなみに、先述のトムラウシ山の事故では実際に15分で体温が1度下がっており、発症してから2時間で亡くなっています。
つまりいったん低体温症になると、山では時間が切迫するということが恐ろしい点なのです。
低体温症にならないための予防策

体温が奪われる原因は、濡れた衣服を着続ける、悪天候下で行動を続ける、など様々考えられます。
また、エネルギーの摂取不足も原因の一つ。体内で熱を作ることができず、結果内部体温が下がってしまうのです。
低体温症になってからでは遅い!
先述した通り、山では加速的に意識障害が来ます。最初に寒気や震えを覚えると、そこからが早いのが恐ろしいところ。それを未然に防ぐためには、・雨具、防寒着を着用する
・濡れたものは着替える
・カロリーをこまめに摂る
・冷たい雨風を防ぐ
・意識的に暖かいものを飲む
当たり前のことですが、これらの対策を必ず行うということを頭に入れておきましょう。
対処・予防方法を覚えて、低体温症のリスクを減らそう!

監修:金田 正樹
整形外科専門医
日本山岳ガイド協会前ファーストエイド研修委員長
元国立登山研修所専門調査委員
日本集団災害医学会評議委員
NPO災害人道医療支援会常任理事(HuMA)
【著書】
2002年「災害ドクター世界を行く」(東京新聞出版局)
2007年「感謝されない医者」(山と渓谷社)
2010年「トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか」(山と渓谷社)
2018年9月下旬に新刊「図解 山の救急法」(東京新聞出版局)出版予定。