低体温症とは|実際に起きた登山中の遭難事故と対策まとめ【医師監修】

『低体温症』がどんな症状かご存知ですか? 「高い山には行かないし、自分には関係ない!大丈夫!」と思っている人にこそ、その症状や予防策をぜひ知ってほしいのです。低体温症を甘くみてはいけません。なぜなら、標高1,000mに満たない低山や、真夏の登山においても低体温症による遭難死亡事故が起きています。そう、低体温症に季節や標高は関係ありません。いざという時のために、正しい対処法・予防策をしっかりと学んでおきましょう。


アイキャッチ画像出典:Facebook/Survive Outdoors Longer

侮るなかれ、低体温症

夏山の低山
出典:PIXTA
低体温症、という症状を知っていますか? 登山をする人なら一度は耳にしたことがある言葉だと思います。人間が生命維持をするための脳や心臓、肺といった器官の温度(深部体温)が35℃以下に下がった状態を指すものです。
近年、この低体温症による山岳遭難が発生しています。中には悲しい結果になってしまった事故もあるのが現実です。まずは、低体温症が原因となった過去の事故事例を見ていきましょう。

実際に起きた登山中の死亡事故

2012年GW 白馬岳

白馬岳
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2012年のGW。白馬岳三国境付近で6名の登山パーティー全員が亡くなる遭難事故がありました。事故発生当時、現場付近の山は突発的な気候の変化が起こったといいます。青空の好天から約1時間ほどでみぞれ混じりの吹雪に見舞われ、身動きが取れなくなってしまったのです。
全員の死因は低体温症でした。

ブナ林
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白馬岳で発生した遭難死亡事故の現場は、標高2,700mの高所。しかし、何も標高の高い山だけ危険性があるわけではありません。低体温症による死亡事故は低山でも発生しています。
2018年5月、新潟県五頭連峰で親子2名が遭難し、帰らぬ人となってしまいました。報道によると、本件の死因も低体温症。遺体は標高1000mにも満たない場所で発見されました。

2009年7月 トムラウシ山

トムラウシ山
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夏でも低体温症による事故は発生しています。2009年7月、ツアーガイドを含む8名の登山者が低体温症により亡くなりました。北海道大雪山系トムラウシ山で起こった遭難事故です。
様々な判断ミスが重なり、厳しい天候に晒された結果、低体温症を引き起こし、多くの尊い命が失われる結果となってしまいました。

ここで分かることは、低体温症に標高や季節は関係ないということ。低い山でも、真夏であっても、悪天候に見舞われれば低体温症を引き起こす危険性は十分にあり得るのです。

低体温症の分類

夏山 登山者
出典:PIXTA
夏の時期は日射病や熱中症などについつい注意が向いてしまいますが、悪天候に見舞われれば低体温症を引き起こす危険性は十分にあり得るのです。低体温症は、分類すると下記の3つに分かれます。

①急性低体温症(冷水などに浸かって6時間以内に発症)
②亜急性低体温症(寒冷に曝されて6~24時間以内に発症)
③慢性低体温症(病的なもの)

登山においては、急性も亜急性も起こり得ます。寒冷に強風が加わると、夏山でも体温は下降し、これにより加速的に急性低体温症になるケースがあるのです。

どういうときに起こるの? 条件は?

ガスの爺ヶ岳
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では、低体温症が起こる条件とはいったい何なのでしょうか? 日本集団災害医学会評議委員で、NPO災害人道医療支援会常任理事(HuMA)の金田正樹氏によるとそれは以下の3つ。

・気温10℃以下
・雨か雪(体が濡れる)
・10m/秒以上の強風下

特に風速はピンとこないかもしれませんが、10mとは風に向かって歩きにくくなり、傘がさせなくなる強さの風(*)のこと。山の天気予報を見れば、この10mという数字が出てくることは珍しくありません。

『山で低体温症になること』の恐ろしさ

体温症状
35℃台歩行が遅れ、震えが始まる
34℃台震えが激しくなる。ヨロヨロする。口ごもる。眠気がする。
33℃台転倒する。意識が薄れる。
32℃台起立不能。震えがとまる。意識が消失する。
31℃~昏睡状態
28℃~心肺停止
低体温症の症状は、体温の推移に伴い上記が発症すると言われています。

最初に自覚するのは「寒気」と「全身的震え」

出典:いらすとや
まず最初に自覚するのは「寒気」と「全身的震え」です。それを過ぎると意識障害が生じます。もし発症したら、この段階でいかに対策をできるかが最重要ポイントです。

山では意識障害が早くに来る

高山病の登山者
出典:いらすとや
なぜこの段階での対策が重要かというと、山で起こる低体温症は早期に意識障害が来るからです。上記の表でいうと、  から  への推移が急速であるということ。

深部温度が下がり始めると血液の温度も下がるため、血液の中の酸素を運ぶヘモグロビンから酸素が放出されなくなります。これにより、体の約20%の酸素消費量を要する脳は酸素不足に陥ってしまい意識障害を起こすのです。

霧の白馬連峰・朝日岳稜線
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小屋が近くにあればいいですが、山では周りに雨風を凌げる場所がないケースが非常に多く、山と山を繋ぐ稜線上を歩いている時に悪天候に見舞われては、身を守ることが格段に難しくなります。

ちなみに、先述のトムラウシ山の事故では実際に15分で体温が1度下がっており、発症してから2時間で亡くなっています。
つまりいったん低体温症になると、山では時間が切迫するということが恐ろしい点なのです。

低体温症にならないための予防策

凍える人 低体温症は、体の表面から失われる熱量が、体内で作られる熱量や外部から得られる熱を上回ることで発生する症状です。
体温が奪われる原因は、濡れた衣服を着続ける悪天候下で行動を続ける、など様々考えられます。
また、エネルギーの摂取不足も原因の一つ。体内で熱を作ることができず、結果内部体温が下がってしまうのです。

低体温症になってからでは遅い!

先述した通り、山では加速的に意識障害が来ます。最初に寒気や震えを覚えると、そこからが早いのが恐ろしいところ。それを未然に防ぐためには、

・雨具、防寒着を着用する
・濡れたものは着替える
・カロリーをこまめに摂る

・冷たい雨風を防ぐ
・意識的に暖かいものを飲む

当たり前のことですが、これらの対策を必ず行うということを頭に入れておきましょう。

ツェルト

出典:Amazon
また、1つの対策として悪天候の中ではツエルトがあると低体温症を防ぐことができます。現在のツエルトは軽量でコンパクトなので、天候が変わりやすい複雑な山岳地形へ行く時何日か山へ入りかつ山小屋泊の時などに緊急時対策用として準備することをおすすめします。

対処・予防方法を覚えて、低体温症のリスクを減らそう!

夏山 登山
出典:PIXTA
低体温症は季節や標高に関係なく、誰もが陥る可能性のある危険な症状です。今回学んだ対処・予防方法は必ず頭に入れておき、低体温症を引き起こす原因を回避しましょう。さらに、山に入る前には必ず天気予報を確認すること。悪天候が予想される場合は計画を中止するなど、事前の情報収集から適切な判断を下すように心がけましょう。




監修:金田 正樹
整形外科専門医
日本山岳ガイド協会前ファーストエイド研修委員長
元国立登山研修所専門調査委員
日本集団災害医学会評議委員
NPO災害人道医療支援会常任理事(HuMA)

【著書】
2002年「災害ドクター世界を行く」(東京新聞出版局)
2007年「感謝されない医者」(山と渓谷社)
2010年「トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか」(山と渓谷社)
2018年9月下旬に新刊「図解 山の救急法」(東京新聞出版局)出版予定。


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悪天候を行く登山者
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吉澤英晃
吉澤英晃

群馬県出身。大学時代に所属した探検部で登山を開始。以降、沢登り、クライミング、雪山、アイスクライミング、山スキーなど、オールジャンルで山を楽しむ。登山用品の営業職を経て、現在はフリーの編集・ライターとして活動中。

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