『山で低体温症になること』の恐ろしさ
体温 | 症状 |
---|---|
35℃台 | 歩行が遅れ、震えが始まる |
34℃台 | 震えが激しくなる。ヨロヨロする。口ごもる。眠気がする |
33℃台 | 転倒する。意識が薄れる |
32℃台 | 起立不能。震えがとまる。意識が消失する |
31℃~ | 昏睡状態 |
28℃~ | 心肺停止 |
低体温症の症状は、体温の推移に伴い上記が発症すると言われています。
最初に自覚するのは「寒気」と「全身的震え」

まず最初に自覚するのは「寒気」と「全身的震え」です。それを過ぎると意識障害が生じます。もし発症したら、この段階でいかに対策をできるかが最重要ポイントです。
山では意識障害が早くに来る

なぜこの段階での対策が重要かというと、山で起こる低体温症は早期に意識障害が来るからです。下記の表でいうと、「35・34℃台」から「33・32℃台」への推移が急速であるということ。
体温 | 症状 |
---|---|
35℃台 | 歩行が遅れ、震えが始まる |
34℃台 | 震えが激しくなる。ヨロヨロする。口ごもる。眠気がする |
33℃台 | 転倒する。意識が薄れる |
32℃台 | 起立不能。震えがとまる。意識が消失する |
31℃~ | 昏睡状態 |
28℃~ | 心肺停止 |
深部温度が下がり始めると血液の温度も下がるため、血液の中の酸素を運ぶヘモグロビンから酸素が放出されなくなります。これにより、体の約20%の酸素消費量を要する脳は酸素不足に陥ってしまい意識障害を起こすのです。

小屋が近くにあればいいですが、山では周りに雨風を凌げる場所がないケースが非常に多く、山と山を繋ぐ稜線上を歩いている時に悪天候に見舞われては、身を守ることが格段に難しくなります。
ちなみに、先述のトムラウシ山の事故では実際に15分で体温が1度下がっており、発症してから2時間で亡くなっています。
つまりいったん低体温症になると、山では時間が切迫するということが恐ろしい点なのです。
低体温症にならないための予防策

低体温症は、体の表面から失われる熱量が、体内で作られる熱量や外部から得られる熱を上回ることで発生する症状です。
体温が奪われる原因は、濡れた衣服を着続ける、悪天候下で行動を続ける、など様々考えられます。
また、エネルギーの摂取不足も原因の一つ。体内で熱を作ることができず、結果内部体温が下がってしまうのです。
低体温症になってからでは遅い!
先述した通り、山では加速的に意識障害が来ます。最初に寒気や震えを覚えると、そこからが早いのが恐ろしいところ。それを未然に防ぐためには、
- 雨具、防寒着を着用する
- 濡れたものは着替える
- カロリーをこまめに摂る
- 冷たい雨風を防ぐ
- 意識的に暖かいものを飲む
当たり前のことですが、これらの対策を必ず行うということを頭に入れておきましょう。

また、1つの対策として悪天候の中ではツエルトがあると低体温症を防ぐことができます。
現在のツエルトは軽量でコンパクトなので、日帰りの低山登山を含む天候が変わりやすい複雑な山岳地形へ行くとき、何日か山へ入りかつ山小屋泊の時の“緊急時対策用”として準備することをおすすめします。
対処・予防方法を覚えて、低体温症のリスクを減らそう!

低体温症は季節や標高に関係なく、誰もが陥る可能性のある危険な症状です。今回学んだ対処・予防方法は必ず頭に入れておき、低体温症を引き起こす原因を回避しましょう。さらに、山に入る前には必ず天気予報を確認すること。悪天候が予想される場合は計画を中止するなど、事前の情報収集から適切な判断を下すように心がけましょう。
監修:金田 正樹
整形外科専門医
日本山岳ガイド協会前ファーストエイド研修委員長
元国立登山研修所専門調査委員
日本集団災害医学会評議委員
NPO災害人道医療支援会常任理事(HuMA)
【著書】
2002年「災害ドクター世界を行く」(東京新聞出版局)
2007年「感謝されない医者」(山と渓谷社)
2010年「トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか」(山と渓谷社)
2018年「図解 山の救急法」(東京新聞出版局)