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世界遺産に登録されているのは「富士山」だけじゃない?

富士山が世界遺産に登録され、世界から注目を集めて多くの観光客が国内外から訪れるようになりました。古来より日本人の心の拠り所として日本で知らない人はいないと言っても過言ではない山、富士山。実は富士山の山体だけが世界遺産に登録されたわけではないと知っていましたか?
富士山が世界遺産に登録されたのはいつ?
2013年6月26日、カンボジアのプノンペンで開かれた国連教育科学文化機関(ユネスコ)の第37回世界遺産委員会において、富士山が「富士山 — 信仰の対象と芸術の源泉」という名称で世界文化遺産に登録されました。
世界遺産に登録された範囲は?

富士山の世界遺産への登録は、富士山の山体だけでなく、富士山に関わる文化的な価値を持つ周辺の神社や登山道、風穴、溶岩樹型、山中湖や河口湖といった湖沼など
全部で25ヶ所あります。それは、富士山の文化的価値がさまざまな範囲に及んでおり、富士山の価値を構成する資産として現在へ受け継がれてきたからです。
世界遺産の構成資産
【富士山域およびそれと一体化した範囲】 ・富士山(富士山域)
・山頂の信仰遺跡群
・登山道(富士宮口・須山口・須走口・吉田口)
・北口本宮冨士浅間神社
・西湖
・精進湖
・本栖湖
【周辺神社・巡礼地など】 ・富士山本宮浅間神社
・山宮浅間神社
・村山浅間神社
・須山浅間神社
・冨士浅間神社(須走浅間神社)
・河口浅間神社
・冨士御室浅間神社
・御師住宅(旧 外川家宅・小佐野家住宅)
・山中湖
・河口湖
・忍野八海(出口池・お釜池・底抜池・銚子池・湧池・濁池・鏡池・菖蒲池)
・船津胎内樹型
・吉田胎内樹型
・人穴富士講遺跡
・白糸ノ滝
・三保の松原
21年をかけて……富士山が世界遺産に登録されるまでの道のり

多くの人の努力が実り、無事世界遺産へ登録された富士山ですが、そこへ至るまでには実に21年もの長い時間がかかりました。富士山は山なので、本来は世界「自然」遺産になるんじゃないの?世界「文化」遺産へ登録されたのはなぜ?といった疑問も、登録までの経緯を知ることで見えてきます。富士山の世界遺産登録までの歴史を見ていきましょう。
世界遺産条約加盟から15年かけてユネスコに提出

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1992年に日本が世界遺産条約に加盟して以降、民間を中心に富士山の世界自然遺産への登録を目指した動きがスタート。2003年には国の検討会で検討対象として取り上げられるものの、ユネスコへの推薦候補からは外れました。その後、文化遺産登録を目指す方針に切り替え、2007年にユネスコの暫定リストに登録されました。
「自然遺産」登録から「文化遺産」登録へ目標転換

出典:PIXTA(自然遺産に登録されている屋久島)
世界遺産はその内容によって
自然遺産・文化遺産・複合遺産と3つに分類されます。自然遺産は後世に引き継いでいくべき自然環境について認定され、文化遺産は建築物や遺跡、複合遺産はその両方があるもの、とされています。
富士山も当初は自然遺産登録を目指していましたが、登山者のし尿処理の不備やごみ投機問題など環境保全の状況が障害になり、推薦候補からは外れました。
富士山は日本最高峰として古くから信仰対象で、浮世絵など多くの芸術に影響を与えてきた存在です。そこで視点を変え、富士山の文化的意義に着目。世界文化遺産としての登録を目指すことにしたのです。
2013年、世界遺産登録が決定

一連の手続きや現地視察などを経て、2013年に富士山は世界遺産に認定されました。荘厳な姿を見せる富士山は、古来より山岳信仰といった宗教的側面やその姿に対する深い憧憬、自然との共生を重んじる伝統などを育み、日本はもとより、世界的にも多くの芸術の源泉となってきたことが評価されました。
三保の松原も含めて認定

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富士山の南西45kmの距離に位置し、富士山の構成資産としては最も離れたところにある「三保の松原」。歌川広重の浮世絵をはじめ数々の芸術作品で三保の松原から見た富士山が織りなす美しい風景が表現されています。
当初ユネスコの諮問機関イコモスから、登録対象から除外すべきとの勧告を受けました。しかし、日本の説得が実ってその文化的価値が認められ、無事に含められて認定されました。
世界遺産に登録されたことによるメリットとデメリット

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世界遺産に登録されたことは、日本人の心に深く根差した象徴的な存在である富士山が世界的にもその価値をしっかり認められたことを意味するので、とても喜ばしいことです。ただ、世界遺産登録にはメリットとデメリットが表裏一体となって横たわっています。ここでは、世界遺産登録による光と影について見ていきましょう。
経済効果はどのくらい?世界遺産登録のメリット

世界遺産に登録されることで世界的な認知度が飛躍的に上がり、国内海外問わず多くの観光客が訪れるようになります。
観光客は現地で食事や宿泊、お土産の購入などにお金を使ってくれるので、周辺地域の収益が上がり経済が潤うといった効果が期待できます。さらに旅行会社がツアーを企画したり、現地までの移動で交通機関の利用者が増えたりと、現地以外でも効果が波及していきます。
世界遺産に登録された2013年は、現地周辺で前年よりも1~2割ほど観光客数が増加しており、日銀甲府支店は全体で推計194億円の経済効果があると発表しました。
気になるデメリットは?

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観光客が増えることは経済的なメリットをもたらす一方、ゴミが増えて自然環境が害されるおそれや、交通の混雑や人が多く集まることで地元住民の生活に悪影響が出るおそれ、登山客の遭難といった事故のリスクの増加など、デメリット面も懸念されています。
今後の課題と私たちにできること

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無事に世界文化遺産として認められた富士山ですが、課題も多岐に渡って残されています。また、世界遺産は「人類が共有すべき顕著な普遍的価値」のあるものとされているので、登録がゴールではなく、しっかりと保全して後世へ引き継いでいかなければなりません。ではどういった課題があり、私たちにできることは何があるのでしょうか。
富士山に課せられた課題とは

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世界遺産への登録に際してユネスコの諮問機関イコモスからは主に「景観保全」の課題と「登山者への対応」に関しての課題が指摘されました。景観保全の課題は、富士山やその周辺で行われる開発や現代的な施設が、富士山の文化的価値を傷つけているといった内容です。また、登山者への対応に関する課題では、世界遺産を守るためには増え続ける登山者をしっかり管理する必要があるとの指摘がなされました。
ゴミ問題は特に深刻

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ボランティアや山小屋スタッフの方たちの努力をはじめ、登山客のマナーも向上してきたことからゴミは次第に減ってきてはいるものの、麓では不法投棄が続いており、ゴミ問題はまだ解決されていません。世界遺産に登録されると、保全状況を6年ごとにユネスコへ報告して審査を受けなければならず、問題の解決を怠れば登録抹消もありえるため、深刻な問題となっています。
私たちができることは?

登山の際にひとりひとりがマナーを守ることはもちろん大事ですが、環境保全や登山者の安全対策などを図る「富士山保全協力金」や定期的に富士山の清掃活動を行っている団体へ参加することもできます。また、富士山の清掃ツアーを企画している旅行会社もあります。このようなツアーには、アルピニストの野口健さんや女優さんなどのトークイベントも組まれていることも多く、楽しく参加できますよ。4~5月には野口健さんも参加している富士山・エベレスト同時清掃が行われています。気になる人はぜひチェックしてみましょう。
NPO法人ピーク・エイド|清掃活動について 世界遺産センターでもっと富士山について知ろう!

富士山を訪れる多くの訪問者に対して、もっと富士山について知ってもらえるように、「富士山世界遺産センター」が山梨・静岡両県で開館しました。富士山に関する自然や文化を深く知ることができる”博物館”のような施設です。観光に訪れた際には是非こちらも立ち寄ってみてください!
富士山世界遺産センター(山梨県)

北館と南館に分かれており、北館は「自然」としての富士山を知ることができる展示が行われ、南館では「文化」としての富士山を知ることができる展示が行われています。松岡修造さんが音声を担当している展示ガイドアプリ「ふじめぐり」があるので、訪れた際は松岡修造さんにガイドしてもらいながら巡ってみるのも楽しいかも!
山梨県富士山世界遺産センター富士山世界遺産センター(静岡県)

北棟・西棟・展示棟から構成され、展示棟では1階から最上階の5階を繋ぐらせんスロープを登りながら展示を鑑賞できます。最上階のホールやテラスでは富士山の素晴らしい眺めが堪能できます。
静岡県富士山世界遺産センター愛すべき富士山の価値を後世へ

アルピニストや一般登山者だけでなく、登山とは無縁な人からも、多くの人から愛されている富士山。世界遺産に登録され、後世へ残していくべき貴重な存在だと世界に認められましたが、残された課題も多いのが現状です。富士山を守っていくために、私たちもひとりひとりにできることからはじめてみましょう!
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