【雪山登山の基礎知識】教えて! 今さら聞けないピッケルの持ち運び方
登山に行くとき、あなたはどんな風にピッケルを持ち運んでいますか? 「他の登山者の見よう見まねでザックに取り付けているけど、これって正解なのかな?」と自信がない人もいるのではないでしょうか。街中でうっかり人にぶつかってを傷付けてしまった! なんてアクシデントを起こさないように、公共交通機関でのピッケルの持ち運び方のマナーや、ザックへの取り付け方法をしっかり確認しておきましょう。
2020/01/08 更新
制作者
山岳ライター
吉澤英晃
群馬県出身。大学時代に所属した探検部で登山を開始。以降、沢登り、クライミング、雪山、アイスクライミング、山スキーなど、オールジャンルで山を楽しむ。登山用品の営業職を経て、現在はフリーの編集・ライターとして活動中。
吉澤英晃のプロフィール
雪山登山の必須アイテム「ピッケル」の正しい持ち運び方って…?
みなさんは、公共交通機関で雪山登山に行くときに、どんな風にピッケルを携行していますか?

出典:PIXTA
ピッケルの先端は尖っているし、取り扱いに注意しないと危険なことは確か。しかし、「正しい持ち運び方が分からない」「知らずに危険な持ち運び方をしてしまっている」という人もいるのではないでしょうか。ザックに装着していたり、手で持っていたりと、様々な人を見かけます。
とある電車の中でのできごと
ある日、メガネくんは電車の中で不安そうな表情をしたピッケルさんに出会いました。



心配になったメガネくんは、かけるだけで物と会話ができるようになる『魔法のメガネ』を使うことに。

撮影:YAMA HACK編集部
ピッケルさんの気持ちに耳を傾けてみたら…
話を聞いてみると、ピッケルさんは、電車内やホームで人を傷つけてしまわないか心配になることが多いと言います。
過去には人混みの中で誰かに接触したことがあるそうで、幸い相手に怪我はなかったようですが、もし負傷させてしまったらと最悪の状況を考えると、心配で移動中も眠れないのだとか。
「人を傷つけてしまわないか、不安で不安で」

撮影:YAMA HACK編集部
ピッケルさん、なんだか浮かない顔をしていますがどうしたんですか?
ちょっと心配事がありまして。私の先端って、尖っているじゃないですか。鋭利な刃物なので人に当たると危険なんですが、この通り…
おや、カバーこそしていますが丸出しですね。先も長いですし。

撮影:YAMA HACK編集部
なんだか体がブラブラ振られて、このままだとどこかに引っ掛かったり、誰かを傷つけてしまいそうで常に不安なんです。
確かに、ぶつかったら痛いでは済まなそうですし、満員電車や狭いホームでどこかに引っ掛かったら大きな事故につながる危険もありそうです。
「移動する時は、手で持ってもらえると嬉しい」

撮影:YAMA HACK編集部
ご主人はいつも、バックパックの外に私を取り付けて駅の構内を歩いたり、電車に乗ったりするんです。
バックパックにピッケルを取り付けている写真をよく見ますが、あれはダメなんですか?
背中側はどうしても意識がいかなかったり、どんな状況になっているのかが見えないので、街中の移動中はできるだけ手で持ってもらいたいです。そうすれば不用意に人にぶつかる心配がなくなります。
常に目の届く手元で持ち運んでもらいたいということですね。ただ、手で持っているのもなんだか物騒な感じがしませんか? それから両手が塞がれている場合もあると思いますが。

撮影:吉澤英晃(肩がけや手提げ袋に入れれば、より安全)
その場合は、肩がけできるトートバックなどに入れてもらえると嬉しいです。
なるほど、軽量な折りたたみバッグがあると便利そうですね。
電車やバス、山でロープウェイに乗るときは、ぜひお願いしたいです。そうすれば私も移動中に安心して眠れます。

撮影:吉澤英晃(ヘッドにプロテクターを取り付ける)
はい! もともと付属している場合もありますが、ついていないときは、袋状のものでもピック・ブレード・スパイクにそれぞれ取り付けるキャップタイプでもいいので、カバーも必ず準備してほしいです。
マジックマウンテン:アックスヘッドカバー
丈夫な布でヘッドを覆うタイプ。大きいヘッドには合わないので、自前のピッケルに装着できるか確認すること
重量:22g
ブラックダイヤモンド:アックスプロテクター
ヘッドのピックとブレードを覆うプロテクター。ほぼ全てのピッケルに使用可能
重量:39g
ブラックダイヤモンド:スパイクプロテクター
スパイクに取り付けるプロテクター。ほぼ全てのピッケルに使用可能。
重量:13g
「山中では、バックパックの背面に取り付けても大丈夫!」

出典:PIXTA
あの、入山したらピッケルさんを手放す状況もありえますよね。例えばストックを使いたいから、ピッケルさんは一旦休憩のとき。この場合はどうやって運んでもらいたいですか?
山の中ではバックパックに取り付けてもらって大丈夫です。でも、ひとつ注意してもらいたいことがあって…

撮影:吉澤英晃(ほとんどのバックパックにはピッケルホルダーが装備されている。サイドに取り付けると、前後左右の人にもブレードやピッケルが当たる危険がある)
可能な限りバックパックの背面に取り付けてもらいたいんです。もし横に取り付けられると、周りの人どころか、倒れた時に大切なご主人も傷つけてしまうかもしれません。
なるほど。横に取り付けると、岩や枝にも引っ掛けそうですね。
それから、ループ状のピッケルホルダーに間違った方法で取り付けられている仲間をたまに見かけたりします。
ほぅ、ピッケルホルダーの正しい使い方といいますと?




撮影:YAMA HACK編集部
ザックのサイズやピッケルの長さによっては、上がだいぶ飛び出しますね…
そうですね…なので、
街での移動中はやはり手で持ってもらえると安心です。
山中でも、先端を人にぶつけたり枝に引っ掛けたりしないように注意しましょう。
私が誰かを傷つけてしまったら、辛い思いをするのはご主人なので…。
ピッケルさん、ご主人想いで優しいですね。ご主人には僕から「正しい持ち運び方」を伝えておきますよ!
「“銃刀法”に触れるのでは?と噂されることがある」
ちょっと待ってください! もう一つ聞いてほしい話がありまして。

撮影:YAMA HACK編集部
私たち、見た目だけで危険だと思われて…。私たちを連れて街を歩くと“銃刀法違反”になるんじゃないの!?って言われることがあるんです。
そういえば、僕の周りでも話題に上がったことがあります。
やっぱり…。銃刀法と言われている法律の正式な名前は「銃砲刀剣類所持等取締法」。この法律の第二条の2に、刀剣類についての定義が書いてあります。

撮影:YAMA HACK編集部
銃砲刀剣類所持取締法 第二条 2
「刀剣類」とは、刃渡り十五センチメートル以上の刀、やり及びなぎなた、刃渡り五・五センチメートル以上の剣、あいくち並びに四十五度以上に自動的に開刃する装置を有する飛出しナイフ(刃渡り五・五センチメートル以下の飛出しナイフで、開刃した刃体をさやと直線に固定させる装置を有せず、刃先が直線であつてみねの先端部が丸みを帯び、かつ、みねの上における切先から直線で一センチメートルの点と切先とを結ぶ線が刃先の線に対して六十度以上の角度で交わるものを除く。)をいう
えーっと、ピッケルは「刀剣類」に当てはまるってことですよね?
そうなんですが、登山で使うとか、仕事で必要だとか、正当な理由があれば違反にはならないんです。なので、登山の行き帰りに携行している分には問題ないですよ。
ただ、日常で車に積みっぱなしにしておくのは取り締まりの対象になる場合があるので、注意した方がいいですよ。アウトドアナイフなども同じですが、登山の行き帰り以外は家に入れてくださいね!
基本を押さえて安全にピッケルを扱おう!

出典:PIXTA(編集:YAMA HACK編集部)
ピッケルは雪山登山では危険から身を護ってくれる道具ですが、ひとたび扱いを誤ると、逆に周りを傷つける危険な道具になってしまいます。今回聞くことができたピッケルさんの思いを胸に刻んで、正しく安全に持ち運んであげましょう!
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今シーズンに初めて雪山に挑戦しようかと思っております。
クランポンはケースに入れザック内に、と言うのはイメージがつくのですが、ピッケルはケースに入れザックに付けずに、手で持ち運ぶのが正しいのかと考えています。人によりザックに付けてと言う方もいるようですが、安全面から鑑みると手の方がやはり良いのでしょうか。
相談者 knng さん
トレッキングポールやアイゼンやピッケルなど登山ザックに外付けしてる人が多くいると思うのですが、先日、公共機関など電車・バス移動時に、危ないと怒られてる人を目撃しました。たまたま外付けの荷物と接触したのだと思いますが、どうするのが良いのかな〜と疑問に思ってます。
公共交通機関や都市部の移動の場合、トレッキングポール、クランポン(アイゼン)、アックス(ピッケル)はバックパック(ルックザック)に取り付けないで、ポケッタブルタイプ(折りたためるタイプ)のトートバッグなどに入れて、手で持ち運ぶのがよいと思います。その場合でもプロテクターをつけて鋭利な部分が他の人やものを傷つけないように配慮しましょう。
笹倉孝昭 ガイド

出典:PIXTA
こんな風に、「ピッケルもち運び方がイマイチ分からない」そんなモヤモヤもすっきり解決できちゃいます。身近に聞ける人がいない、今さら聞きづらい…そんな人は『Sherpa』で相談してみてはいかがでしょう。
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それでは、今シーズンも安全で楽しい雪山登山を!