ピッケルの基本説明
雪山登山のサポートをしてくれる「ピッケル」。杖の替わりとしてピッケルを使って安全に歩行したり、また滑落した時にブレーキをかけるなど、ピッケルは雪山に必須の道具です。また「アックス」とも呼び、氷壁を登ったり、雪かきにも使います。材質はアルミや鋼鉄で作られ、長さや形は用途によりさまざま。
ピッケルの各部位の名称
【シャフト】長い柄の部分のことで、まっすぐなものとカーブしているものがあります。
【ヘッド】シャフトの上端に付いた頭部全体のこと。ヘッドを持って歩くと、歩行バランスが保持できます。
【ピック】ヘッドの細く尖った先端の部分。体勢が不安定になるシーンで、ピックを刺して支持点にします。
【ブレード】ピックの逆側部分で「アッズ」とも呼び、氷雪を削って足場を作る時に役立ちます。
【スパイク】シャフト末端の尖った部分。「スピッツェ」や「石突」とも呼び、雪面に刺して使います。
ピッケルの種類
ピッケルは、シャフトのカーブや長さ、ピックの形状、また材質などにより、適した登山スタイルが異なります。
【縦走向け】
主に杖の替わりとして使うことが多い縦走は、シャフトがまっすぐなものが適しています。
【ミックス向け】
岩場や氷雪面などが混ざった路面、また急斜面を歩くのに向いているのが、シャフトが緩やかにカーブしたものです。
【アイスクライミング向け】
ピックを氷壁に打ち込むのが多い時は、シャフトが短くカーブのきついものが適しています。
基本的な使い方と運搬の注意
ピックやブレードなどの刃物が付いていると、振りかざしてガツガツ登るイメージを持つ人も多いかもしれませんが、実は杖のように使うことメインです。講習会などに参加して、安全で正しい使い方を習得しましょう!
基本はバランス保持!
歩行時の持ち方は2種類。どちらも滑落した時に素早くピックを刺せるような持ち方です。
【ピックが前になるように持つ】
登りや平坦な道を歩く時の持ち方。急斜面を登る時は、ヘッド真下からシャフトを持ってピックを雪面に刺して登ると、ピッケルが支持点となり安定して登れます。
【ブレードが前になるように持つ】
トラバースや稜線歩き、下り斜面の時の持ち方。トラバースの時は体に対して山側の方の手にピッケルを持ちます。
滑落した場合の停止(ピッケルストップ)
ザックやピッケルの有無、雪質、滑った時の体勢など状況もいろいろ。滑落停止は、滑り出した瞬間の初動作がいかに素早くできるかが重要。今回は一般的な滑落停止を紹介します。
【持ち方】
ブレードを前にして持ち、反対の手でシャフト下部を持ちます。滑り出したらヘッドを持った方へ反転し、ブレードに体重を乗せるようにピックを雪面に刺す。この時アイゼンで雪を引っ掛けないように、膝を曲げて足を浮かせましょう。
持ち運び方法
雪山では必需品のピッケルですが、一歩間違うと凶器にもなるので扱い方には注意が必要。公共機関で移動する際はカバーで保護し、可能であればザックの中にしまうと安全です。山の中で使用しない時はカバーで保護し、ザックの背面に収納しましょう。
初めての一本の選び方
ピッケルは雪山を歩きやすく、また、不測の事態が起きた時に唯一頼りになる道具。ピッケルの特質を活かすためには、自分に合ったものを選ぶことが重要です。これから紹介する3つのポイントで、自分に合うピッケルを絞り込みましょう。
①タイプ
ピッケルの選び方は、自分の登山スタイルに合わせて選ぶことが大切です。スノーハイキングならトレッキングポールで十分ですが、雪山の稜線歩きや登頂を考えている人にはストレートタイプのピッケルがおすすめ。杖の替わりにピッケルを使うシーンが多く、登山初級者にもぴったりです。
②長さ
次に重要なのは長さ。無雪期登山ではトレッキングポールが地面に直接触れますが、雪山の場合は地面に積もった雪面に触れるので、ピッケルが長過ぎると緩い斜面では使いにくく、短過ぎると雪面に突きにくく歩行バランスが崩れます。ヘッドを持って体の横に付けた時に、スパイクがくるぶし辺りの位置になる長さがジャストサイズです。
③重量
ニッケルやクロムモリブデンなどの鋼鉄素材は重さと強度があり、硬く締まった氷雪面を刺すのに適しています。一方、アルミやカーボン素材で作られたピッケルは軽量でやや高価ですが、縦走などで長時間持っても疲れにくいのが利点。鋼鉄素材より強度は劣りますが、比較的傾斜の緩い縦走登山で使うには十分な強度が備わっています。
初級者におすすめモデル4選
急斜面を登降したり硬く締まった氷雪を刺して登る登山スタイルと違い、縦走登山の一般ルートで一番使いやすいのはストレートタイプ。初めてピッケルを使う初級者にも扱いやすいモデルを紹介します。
<ブラックダイヤモンド> レイブン ウィズ グリップ
縦走向けのピッケルを展開しているのがレイブンシリーズ。その中でウィズグリップはシャフトにグリップを追加し、リーシュをセットにしたモデルです。ヘッドも大きくて持ちやすいのが特徴。
ブラックダイヤモンド レイブン ウィズ グリップ
【サイズ】55、60、65、70cm
【重量】505g(55cm、スライダーリーシュ含む)
【付属品】スライダーリーシュ
<ペツル> グレイシャー
高い強度のヘッドには部分的なプラスチック加工で持ちやすく、シャフト下部は凹凸のある形状でグリップ性が向上。シャフトのアルマイト処理も施され、強度と耐久性を備えた末永く使える軽量ピッケルです。
ペツル グレイシャー
【サイズ】60、68、75cm
【重量】60cm(350g)、68cm(370g)、75cm(390g)
【付属品】-
<グリベル> モンテローザ プラス
ヘッドの全長は女性でも使いやすい24cmです。シャフト下部にはラバーも付いて、持ちやすさも抜群。さらにヘッドとスパイクを保護するカバーも付いています。コスパも良く、初めてのピッケルに最適。
グリベル モンテローザ プラス
【サイズ】58、66cm
【重量】 512g(58cm)、530g(66cm)
【付属品】ヘッドカバー、スピッツェカバー
<カンプ> ネーヴェ
ネーヴェは登山用品店の限定モデルです。シャフトのグリップを省いたシンプルな形状は、傾斜の緩い雪山や稜線歩きにおすすめ。ヘッドは初級者にも持ちやすく、安定した使用感です。
カンプ ネーヴェ
【サイズ】50、57cm
【重量】約425g(50cm)、約480g(57cm)
【付属品】ヘッドとブレードの簡易カバー
中級者におすすめモデル4選
シャフトを持つことも多くなるのが、テクニカルな雪山登山スタイル。シャフトの太さや形状もメーカーごとに異なり、メーカーそれぞれの良さがあります。しっかり持てるピッケルを選ぶために、グローブを着用して実際にシャフトを持ってみましょう。
<ペツル> サミットエボ
杖の替わりはもちろん、ピック先端の3mmの厚みと先端上部のノコギリ状の歯、そしてシャフトのカーブは急斜面のある雪山にも対応。強度と耐久性もあり、バランスの良いピッケルです。
ペツル サミットエボ
【サイズ】52、59、66cm
【重量】400g (52cm)、420g (59cm)、450g (66cm)
【付属品】-
<カンプ> アルピナ
シャフトに沿うような作りのリーシュは手元が安定し、シャフト最上部のプラスチックキャップが歩行の時も手が滑りにくい。中級者でも満足できる雪山登山を可能にします。
カンプ アルピナ
【サイズ】50、57、65、73cm
【重量】約500g(50cm)
【付属品】リーシュ
<グリベル> エアーテックエヴォリューション
アイスアックスに採用していたGボーンシャフトを導入。シャフトの断面を犬の骨のような形状にすることで、強度と軽量化、そして持ちやすさを実現しました。優しいミックスルートから縦走登山にもおすすめです。
グリベル エアーテックエヴォリューション
【サイズ】48、53、58cm
【重量】535g(53cm、リーシュ含む)
【付属品】ロングリーシュ
<DMM> サーク
初めてピッケルを使う人にも馴染みやすい、緩やかなカーブのシャフトです。ヘッドの接合部とシャフト下部は、メーカー独自の特殊技術で信頼性の高い強度と剛性を実現。
DMM サーク
【サイズ】50、55、60、65cm
【重量】565g(50cm)、583g(55cm)、604g(60cm)、626g(65cm)
【付属品】リーシュ
必需品のアクセサリー
ピッケルを不意に落下させてしまうと命の危険にさらされるうえ、他の登山者が怪我をする可能性も。落下防止と両手の動作を妨げないリーシュのほか、ピッケルを安全に運搬するためのアイテムを紹介します。
<ブラックダイヤモンド> スライダーリーシュ
ストレートタイプのピッケルで紹介した、レイブンウィズグリップに付属しているリーシュの単品商品。金属製スライダーに引き手が付いて、グローブ着用でも簡単に手首のフィットを調整できます。
<グリベル> スプリングリーシュベルト
リーシュが付属していないピッケルにおすすめのリーシュ。伸縮性のあるストラップにピッケルをつなげて使います。ピックとスパイクを保護するラバー製のカバー付き。ピッケルを一時的に収納するループもあります。
<グリベル> ショルダーリーシュ
ピッケルに付属されているリーシュを活用できるのが、このショルダーリーシュ。リーシュにつなげるカラビナはロック機能付きなので、不意に外れることなく安心です。
<ブラックダイヤモンド> アックスプロテクター
プロテクターの材質は、スマートフォンの保護ケースに使われるプラスチックの1種であるTPUです。TPUは適度な柔らかさと弾力性があり、ピックを傷つけることがなく安全に保護できます。
<ブラックダイヤモンド> スパイクプロテクター
ブラックダイヤモンドのアックスプロテクターと同じシリーズの、スパイク専用のカバー。アックスプロテクターと同様にスパイクプロテクターも、他メーカーの大半のピッケルに付けられます。
自分のピッケルで雪山デビュー
積雪期の冬山は魅力がたくさん!とても静かで、山の奥深さを実感できます。自分にぴったりのピッケルを見つけたら、講習会などで使い方を練習しましょう。その先には、今まで見たことのない素晴らしい白銀の世界が待っています。