―――御嶽山自体もかなり魅力的ですけど、このこたつもいいですね。
でしょ?(笑)この丸いテーブルの板は、知り合いが切り出して作ってくれたんですよ。
―――おぉ、すごい!しかも、これニトリのこたつ布団じゃないですか。色のバランスもいいですし、なんか山小屋で見ると新鮮ですね。
ありがとうございます。この椅子も私が冬の間に働いている温泉から買い取らせてもらったんです。雰囲気出るでしょ?
―――いい味出してますね。でも長方形の方が、たくさん座れそうな気もするんですけど・・・。
そうですね。土日とかお客さんが多い時は、長机と座布団を出してたくさんの人が座れるようにします。でも、今日みたいにお客さんが多くない時は、できるだけゆっくり過ごして欲しいので。
―――わざわざ机入れ替えてるんですか?地味に大変ですね。
―――この机の上のネームプレートって、何のためにあるんですか?
席をこちらで決めることで、知らない人同士でも自然と一緒に座ってもらえるようにしています。山小屋に泊まる人って交流したい人も多いので、きっかけくらいは提供したいなと。
―――僕、話をしたいけど話しかけられないタイプなので、これはありがたいです。実際、他のお客さんと楽しく話ができて、いい思い出ができました。
苦手は人はごはんを食べたら部屋に戻ればOKだし、同じこたつを囲ってゆっくりしながら交流できるのはいい。
「少しでも小屋で過ごす時間を楽しんで欲しい」
―――うれしい気づかいが随所に感じられて、居心地のいい場所だな~と感じているんですが、二の池ヒュッテさんが課題に感じていることって?
来てくれる人がうれしくなるような山小屋にしたいので、いろいろと設備も整えていきたいですね。昨年、広間の窓を木枠からサッシに変えたんです。するとすきま風がなくなって、小屋の中が格段に過ごしやすくなりました。
―――厳しい山の環境だからこそ、ちょっとした設備改修に思えることでも効果が大きいのかもしれませんね。
もちろん経済的なこともあるのでまだできていないこともあります。でも、できることで良さを出していくしかないですね。こたつだったり、いろんな食事のメニューだったり。
―――食事といえば坦坦麺が人気ですよね。京都の「まる担おがわ」さんが監修しているという。
そうですね。知りあいのつながりでご縁をいただいて。麺も茹でやすいように二の池ヒュッテ特製の細めの生麺を用意していただいてます。
―――この坦坦麺を食べるために訪れる登山者がいるのも、納得の商品ですね。
―――最近流行りのタピオカやなんともいい写真が撮れそうな鳥のオブジェなど、本当にたくさんの工夫がありますよね。この、フリードリンクっていうのもお酒を飲めない人にとってはめちゃくちゃお得。
フリードリンクにするとこちらの手が空くメリットもあるんですが、基本的に少しでも小屋で過ごす時間を楽しんでもらうため。こういったうちの山小屋を楽しんでもらうための工夫は、できる限りいろいろとやっていきたいですね。
―――普段なかなか手に取りにくい噴火に関する資料や書籍も、御嶽山であればつい手に取ってしまいます。ゆっくりコタツに入りながらこの山のことを勉強するのも、いい楽しみ方ですね。
「疲れた体を自然の味で癒やして欲しい」
―――晩ごはんの「鶏肉とトマト煮」みたいな料理めっちゃ美味しかったです。料理にこだわりってあるんですか?
私自身が化学物質過敏症なので、今日の献立で化学調味料を使っているのはスープのコンソメだけ。登山で疲れている体を自然の優しい味で癒やして欲しいんです。
―――最初に盛りつけてあるごはんの量も少なめですよね?
ごはんをたくさん食べたい人は、おかわりしてもらえればいいと思っています。この料理も最初はトマト煮だったんですけど、焼いたチキンにソースをかけるようにしました。手間はかかるんですけど、ソースがあればごはんをたくさん食べたい人のおかずになるじゃないですか。
―――山小屋だと食べ物を残しちゃいけないって気持ちがあるけど、たくさん食べられない人もいると思うので、ある程度自分で食べる量を選べるのは女性やたくさん食べられない人には嬉しい心づかいです。
御嶽山全体をもっと盛り上げるために
―――御嶽山のおすすめの楽しみ方ってありますか?
ん~。仕事の都合とかで難しいとは思うんですけど、2泊くらいして御嶽山をゆっくり味わって欲しいです。
継子岳とか、五の池小屋さんの方面はアクセスもそんなに良くないんですけど、いいところだから。うちでも他の小屋でもいいので、どこかの小屋を利用してじっくり楽しんでみてください。
―――せっかく来たのであれば、存分に楽しみたいですもんね。
あっち方面は、今年バスがないんです。臨時バスとか予約制の乗り合いバスとか、何か交通手段を用意できるようになれば、もう少し山の楽しみ方が増えると思うんですけど・・・。
まぁバスがなくなったのにも理由があると思うので、まずはたくさんの人に御嶽山に来て欲しいですね。
―――御嶽山を登った登山者から声があがる可能性もあります。ちなみに御嶽山って何度も来る人が多いんですか?
登っている人を見ると、リピーターが多いですね。魅力を感じると繰り返し登りたくなる山なんだと思いますよ。山小屋にも去年泊まって、今年も予約入れてくれる人って結構いるんです。
「紅葉の時期にまた来るね~」って言ってくれたり。本当にありがたい。
―――普段あまり山小屋を利用するほうじゃないんですけど、今回すごくゆったり過ごせました。
うちはできるだけ、詰め込みをしないようにしています。もちろん、緊急事態の人を断るということではないですが。
泊まってくれる方にできるだけゆっくりと過ごしてもらいたいという思いから予約制を取っているので、当日いきなり来られても予約の方と同じ食事は出せないこともあります。
―――準備もありますし、それは仕方ないことですね。
予約のお電話をいただいても、お断りしている方もいるので。
―――その分泊まれた時は、なんだか付加価値を感じられますね。
いつもできるわけじゃないんですけど(笑)。できるだけ、この小屋や御嶽山にいる時間を楽しんでもらえるようにしたいんです。
『知ってもらうための努力をしなきゃいけない』
―――二の池ヒュッテさんって、いろんなメディアに出られてますよね。FacebookとかのSNSの更新も多いように感じます。
やっぱり来てもらうためには、こっちを見てもらう努力をしないといけないですから。SNSなどを含めて、いろいろなメディアにも出していただくと若い人たちにも知ってもらえるので。ただ、一生懸命やるだけですね。
―――もちろん登山を楽しむという観点でも魅力的な山ですが、やはり噴火の後を直接感じる場所として貴重な面もありますね。自然に対する畏敬の念を感じられるというか。
日帰りの人でも「部屋を見せて欲しい」と言ってくれる方もいるんです。だから、楽しさも自然の厳しさも知れる御嶽山の魅力を伝えないといけないし、そのために山小屋を続けていかないといけません。
「次に小屋を引き継いでくれる人を探すのは、まだ早いんじゃない?」なんて言われることもありますが、そうは思っていないんです。
―――どうしてですか?
必要になってからでは遅い気がするんです。今からいろんな情報を発信して「ここならやりたい」と思ってもらえる、魅力的な山小屋にしておかないといけないと思うので。そのためにもやらないといけないことが、まだまだたくさんありますね。
『また御嶽山に帰ってきたい』そう思わせてくれる山小屋
出発の朝は、昨日の雷雨とは打って変わって絶好の登山日和。早く出発したい気持ちもあったのですが、あまりの居心地の良さについゆっくりしすぎて出発予定を過ぎてしまいました。
設備が最新の山小屋か?と言われればそうではありません。しかし、高岡さんやスタッフの皆さんの「笑顔で帰ってもらいたい」「小屋で過ごす時間を楽しんで欲しい」という、小さな気配りをたくさん感じられる居心地のいい山小屋です。
皆さん、御嶽山に登る時にはぜひ二の池ヒュッテに立ち寄ってみてください。