一体いくつあるんだ!?ファンを生み出す山小屋の女将の”小さな工夫”/御嶽山・二の池ヒュッテ

2019/08/14 更新

長野県と岐阜県の境に位置する、木曽の名峰・御嶽山。2014年に起きた噴火のイメージが強い山ですが、ロープウェイや整備された登山道により、3,000m級の高さを誇る山ながら子供や登山初級者でも楽しめる山です。今回は2018年より名前を新たに再開した「二の池ヒュッテ」の高岡さんに、御嶽山の魅力や山小屋についてお話を伺いました。


アイキャッチ画像撮影:YAMA HACK編集部

再開から約1年。二の池ヒュッテの今!

二の池ヒュッテ
撮影:YAMA HACK編集部
登山者がいつもお世話になっている“山小屋”。山の中で安心して寝食ができる、ありがたい場所です。

そんな“山小屋”を徹底取材する当企画。第3段の今回は2014年の噴火により営業停止になっていた二の池小屋新館より新たに生まれ変わった、御嶽山の《二の池ヒュッテ》に行ってきました。
歩荷中の高岡さん
撮影:YAMA HACK編集部(発泡スチロール3箱分の荷物を背負っているのが高岡さん)
二の池ヒュッテに向かう途中、大きな荷物を背負っている女性を発見。
この方が二の池ヒュッテのオーナーの高岡ゆりさん。まさかこんなカタチでお会いするなんて。

異色のカタチでオーナーに就任

二の池山荘の高岡さん
撮影:YAMA HACK編集部
高岡さんは東京でOLを経験した後、金峰山小屋で山小屋仕事の経験を積みます。
2017年に、二の池ヒュッテの前身である「二の池山荘新館」のオーナーが小屋の譲渡先を探してるというニュースを発見し、高岡さんはすぐに御嶽山に登りました。
そこで、御嶽山の魅力を伝えることや安全を確保する重要性を感じ、新たなオーナーとして「二の池ヒュッテ」を2018年8月に営業を再開させました。

基本的に、親から子供に受け継がれる世襲が多い山小屋経営。ですが、高岡さんは前オーナーから小屋を譲渡してもらうカタチでスタート。

山小屋再開から1年経った今、高岡さんはどんな気持ちで山小屋を運営しているのでしょうか?

御嶽山という山でしか味わえない山の魅力

御嶽山
撮影:YAMA HACK編集部
―――歩荷お疲れ様です。スゴい荷物でしたね。

今日の荷物の重さは29kgでした。やれば多少慣れてくるんですけど、さすがにちょっときつかったですね(笑)。

―――あんな悪天候の中、尊敬しかないです。
※当日は9合目付近から土砂降り。さらに最終的には雷雨という、悪天候に見舞われた。
でも、小屋に上がる時は何かしら持って上がらないとね。明日は土曜日で予約も入ってるから。

―――今回はじめて御嶽山に登ったんですけど、変化に富んだおもしろい山ですね。ロープウェイを降りてすぐの道は木のチップが敷かれていて歩きやすいし、樹林帯から始まって、途中からは完全に岩がむき出しになった火山っぽい道もある。

さらに継子岳の方面は、こっち側(剣ヶ峰)の火山のような雰囲気と違って緑が広がってるんですよ。

『いろんな人が楽しめる、幅の広い山なんです』

御嶽山からの景色
撮影:YAMA HACK編集部
―――3,000mの標高の山っていうと、初級者の人はチャレンジしにくいイメージがありますけど、御嶽山はちょっと違いますよね。

ロープウェイもありますし、山小屋も一合ごとにあるので3,000m級という標高の割にハードルの低い山だと思います。もちろん高山病にならなかったり、天候に恵まれればということはありますが。

―――噴火で登山道が荒れたという話も聞いていたので、どこまで登山道が歩きやすいかは気になっていたんですけど、普通の登山道とあまり変わりないと感じました。

山頂付近以外はそうですね。でも、山頂付近には屋根が壊れたままの山小屋なんかもまだ残っていて、悲しい景色も残っているんです。うちの小屋も、当時落ちてきた噴石をそのままにして置いてます。

『ヘルメットを持ってくる〈意味〉を考えて欲しい』

噴火当時の部屋
撮影:YAMA HACK編集部(噴火のことを忘れないために、当時の様子が残されている)
―――このサイズの石が落ちてきたら、ヘルメットしていてもひとたまりもないですね。この部屋をきれいにしないのは、なにか理由があるんですか?

ええ。悲しい事故なんですけど、剣ヶ峰付近の壊れた小屋が撤去された後には、噴火の事実を伝えられる場所が無くなってしまうので。きっとこの部屋は、しばらくこのままにすると思います。

―――自然の厳しさや、そういう場所に登っているという心構えを忘れないためには大切なのかもしれません。
ただ、今年からヘルメットの携帯が義務から推奨に変わった影響か、ヘルメットを持っていない人もチラホラ見かけました。「ヘルメットの準備」というハードルが下がって多くの登山者が訪れやすくなるという面もあると思うんですが、「本当に持っていなくても良いのか?」という疑問があります。

宿泊の予約をいただく時に、「ヘルメットを持ってきて欲しい」ということは伝えるようにしています。山頂に行くためだけでなく、ヘルメットを準備してくる意味を考えて欲しいですね。

―――そういった意味も考えながら登るほうが、御嶽山という山の魅力やそこから学べることが増えて、より充実した登山になりそうですね。

火山らしい岩の感じだけでなく、継子岳なんかは花畑もきれいです。ひとつの山の中にたくさんの楽しみや学びがあるので、その全部を感じてほしい。本当にいい山なんですよ。

”小さな気配り”の積み重ねが生む、居心地の良さ。



二の池ヒュッテのこたつ
撮影:YAMA HACK編集部(平日などのお客さんが少ない時は、こたつでゆっくりすることができる)
―――御嶽山自体もかなり魅力的ですけど、このこたつもいいですね。

でしょ?(笑)この丸いテーブルの板は、知り合いが切り出して作ってくれたんですよ。

―――おぉ、すごい!しかも、これニトリのこたつ布団じゃないですか。色のバランスもいいですし、なんか山小屋で見ると新鮮ですね。

ありがとうございます。この椅子も私が冬の間に働いている温泉から買い取らせてもらったんです。雰囲気出るでしょ?

―――いい味出してますね。でも長方形の方が、たくさん座れそうな気もするんですけど・・・。

そうですね。土日とかお客さんが多い時は、長机と座布団を出してたくさんの人が座れるようにします。でも、今日みたいにお客さんが多くない時は、できるだけゆっくり過ごして欲しいので。

―――わざわざ机入れ替えてるんですか?地味に大変ですね。

二の池ヒュッテの様子
撮影:YAMA HACK編集部(暗くなると、裸電球がいい雰囲気を醸し出します)
―――この机の上のネームプレートって、何のためにあるんですか?

席をこちらで決めることで、知らない人同士でも自然と一緒に座ってもらえるようにしています。山小屋に泊まる人って交流したい人も多いので、きっかけくらいは提供したいなと。

―――僕、話をしたいけど話しかけられないタイプなので、これはありがたいです。実際、他のお客さんと楽しく話ができて、いい思い出ができました。
苦手は人はごはんを食べたら部屋に戻ればOKだし、同じこたつを囲ってゆっくりしながら交流できるのはいい。

「少しでも小屋で過ごす時間を楽しんで欲しい」

二の池山荘の受付にある鳥の置物
撮影:YAMA HACK編集部(受付にはかわいらしい鳥の置物が。友人がデザインしてくれたそう)
―――うれしい気づかいが随所に感じられて、居心地のいい場所だな~と感じているんですが、二の池ヒュッテさんが課題に感じていることって?

来てくれる人がうれしくなるような山小屋にしたいので、いろいろと設備も整えていきたいですね。昨年、広間の窓を木枠からサッシに変えたんです。するとすきま風がなくなって、小屋の中が格段に過ごしやすくなりました。

―――厳しい山の環境だからこそ、ちょっとした設備改修に思えることでも効果が大きいのかもしれませんね。

もちろん経済的なこともあるのでまだできていないこともあります。でも、できることで良さを出していくしかないですね。こたつだったり、いろんな食事のメニューだったり。

担々麺
提供:二の池ヒュッテ(名物の坦坦麺)
―――食事といえば坦坦麺が人気ですよね。京都の「まる担おがわ」さんが監修しているという。
※まる担おがわさんで「坦坦麺」の表記しているため、二の池ヒュッテでも同じ表現を使用
そうですね。知りあいのつながりでご縁をいただいて。麺も茹でやすいように二の池ヒュッテ特製の細めの生麺を用意していただいてます。

―――この坦坦麺を食べるために訪れる登山者がいるのも、納得の商品ですね。

御嶽山の魅力
撮影:YAMA HACK編集部
―――最近流行りのタピオカやなんともいい写真が撮れそうな鳥のオブジェなど、本当にたくさんの工夫がありますよね。この、フリードリンクっていうのもお酒を飲めない人にとってはめちゃくちゃお得。

フリードリンクにするとこちらの手が空くメリットもあるんですが、基本的に少しでも小屋で過ごす時間を楽しんでもらうため。こういったうちの山小屋を楽しんでもらうための工夫は、できる限りいろいろとやっていきたいですね。

―――普段なかなか手に取りにくい噴火に関する資料や書籍も、御嶽山であればつい手に取ってしまいます。ゆっくりコタツに入りながらこの山のことを勉強するのも、いい楽しみ方ですね。

「疲れた体を自然の味で癒やして欲しい」

二の池ヒュッテの晩ごはん
撮影:YAMA HACK編集部(高岡さんは調理師の免許も持っていて、晩ごはんもバツグンにおいしい)
―――晩ごはんの「鶏肉とトマト煮」みたいな料理めっちゃ美味しかったです。料理にこだわりってあるんですか?

私自身が化学物質過敏症なので、今日の献立で化学調味料を使っているのはスープのコンソメだけ。登山で疲れている体を自然の優しい味で癒やして欲しいんです。

―――最初に盛りつけてあるごはんの量も少なめですよね?

ごはんをたくさん食べたい人は、おかわりしてもらえればいいと思っています。この料理も最初はトマト煮だったんですけど、焼いたチキンにソースをかけるようにしました。手間はかかるんですけど、ソースがあればごはんをたくさん食べたい人のおかずになるじゃないですか。

―――山小屋だと食べ物を残しちゃいけないって気持ちがあるけど、たくさん食べられない人もいると思うので、ある程度自分で食べる量を選べるのは女性やたくさん食べられない人には嬉しい心づかいです。

御嶽山全体をもっと盛り上げるために

二の池ヒュッテ
撮影:YAMA HACK編集部(山頂から見た二の池)
―――御嶽山のおすすめの楽しみ方ってありますか?

ん~。仕事の都合とかで難しいとは思うんですけど、2泊くらいして御嶽山をゆっくり味わって欲しいです。
継子岳とか、五の池小屋さんの方面はアクセスもそんなに良くないんですけど、いいところだから。うちでも他の小屋でもいいので、どこかの小屋を利用してじっくり楽しんでみてください。
―――せっかく来たのであれば、存分に楽しみたいですもんね。

あっち方面は、今年バスがないんです。臨時バスとか予約制の乗り合いバスとか、何か交通手段を用意できるようになれば、もう少し山の楽しみ方が増えると思うんですけど・・・。
まぁバスがなくなったのにも理由があると思うので、まずはたくさんの人に御嶽山に来て欲しいですね。

―――御嶽山を登った登山者から声があがる可能性もあります。ちなみに御嶽山って何度も来る人が多いんですか?

登っている人を見ると、リピーターが多いですね。魅力を感じると繰り返し登りたくなる山なんだと思いますよ。山小屋にも去年泊まって、今年も予約入れてくれる人って結構いるんです。
「紅葉の時期にまた来るね~」って言ってくれたり。本当にありがたい。

二の池ヒュッテ
撮影:YAMA HACK編集部(朝焼けに照らされる二の池ヒュッテ)
―――普段あまり山小屋を利用するほうじゃないんですけど、今回すごくゆったり過ごせました。

うちはできるだけ、詰め込みをしないようにしています。もちろん、緊急事態の人を断るということではないですが。
泊まってくれる方にできるだけゆっくりと過ごしてもらいたいという思いから予約制を取っているので、当日いきなり来られても予約の方と同じ食事は出せないこともあります。

―――準備もありますし、それは仕方ないことですね。

予約のお電話をいただいても、お断りしている方もいるので。

―――その分泊まれた時は、なんだか付加価値を感じられますね。

いつもできるわけじゃないんですけど(笑)。できるだけ、この小屋や御嶽山にいる時間を楽しんでもらえるようにしたいんです。

『知ってもらうための努力をしなきゃいけない』

二の池ヒュッテ
撮影:YAMA HACK編集部
―――二の池ヒュッテさんって、いろんなメディアに出られてますよね。FacebookとかのSNSの更新も多いように感じます。

やっぱり来てもらうためには、こっちを見てもらう努力をしないといけないですから。SNSなどを含めて、いろいろなメディアにも出していただくと若い人たちにも知ってもらえるので。ただ、一生懸命やるだけですね。

―――もちろん登山を楽しむという観点でも魅力的な山ですが、やはり噴火の後を直接感じる場所として貴重な面もありますね。自然に対する畏敬の念を感じられるというか。

日帰りの人でも「部屋を見せて欲しい」と言ってくれる方もいるんです。だから、楽しさも自然の厳しさも知れる御嶽山の魅力を伝えないといけないし、そのために山小屋を続けていかないといけません。
「次に小屋を引き継いでくれる人を探すのは、まだ早いんじゃない?」なんて言われることもありますが、そうは思っていないんです。

―――どうしてですか?

必要になってからでは遅い気がするんです。今からいろんな情報を発信して「ここならやりたい」と思ってもらえる、魅力的な山小屋にしておかないといけないと思うので。そのためにもやらないといけないことが、まだまだたくさんありますね。

『また御嶽山に帰ってきたい』そう思わせてくれる山小屋

二の池ヒュッテのみなさん
撮影:YAMA HACK編集部(この看板も知り合いの方が、作ってくれたそう)
出発の朝は、昨日の雷雨とは打って変わって絶好の登山日和。早く出発したい気持ちもあったのですが、あまりの居心地の良さについゆっくりしすぎて出発予定を過ぎてしまいました。

設備が最新の山小屋か?と言われればそうではありません。しかし、高岡さんやスタッフの皆さんの「笑顔で帰ってもらいたい」「小屋で過ごす時間を楽しんで欲しい」という、小さな気配りをたくさん感じられる居心地のいい山小屋です。

皆さん、御嶽山に登る時にはぜひ二の池ヒュッテに立ち寄ってみてください。

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二の池山荘の高岡さん
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YAMA HACK編集部 大迫
YAMA HACK編集部 大迫

YAMA HACK運営&記事編集担当。六甲山で山歩きをはじめ、関西・中四国の山を歩き回る。 燕岳の山頂でビビるほど高所恐怖症が酷い。 高度感を感じずに、ただひたすら歩き回るのが好きです。安全に気をつけてながら山を楽しむための記事をお届けします。

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