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アイキャッチ画像出典:PIXTA(真夏の不帰キレット)
不穏なネーミング…! 不帰ノ嶮(かえらずのけん)とは?

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不帰ノ嶮(かえらずのけん)という、何とも不穏な字面のこの場所、みなさんは知っていますか? 不帰ノ嶮は、別名「不帰キレット」とも呼ばれ、急峻な岩場地帯であることから「日本3大キレット」の一つとなっています。

『かえらず』だなんて、なんだか名前からしてヤバそうな感じがする場所。岩場好きや登山者の中には、興味があってもなかなか手が出せないでいるという方も少なくないかもしれません。不帰ノ嶮は、白馬方面の「天狗の大下り」と唐松岳の中間に位置し、一度入ったら生還が難しい山域ということが名前の由来とされています。いったいどれだけ恐ろしい場所なのでしょうか?
3つの峰からなる不帰ノ嶮

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不帰ノ嶮は、Ⅰ峰・Ⅱ峰・Ⅲ峰と3つの峰から成るエリアで、特定の山の名前を指すわけではありません。急峻な岩場から緊張感の続く箇所が多く点在し、その中でも
Ⅱ峰北峰とⅠ峰の間は最も危ない核心部となっています。
不帰ノ嶮のコース全てが危険というわけではないですが、恐ろしいネーミングはあながち間違いではないのです。

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ではなぜ、Ⅱ峰北峰とⅠ峰の間が最も危険とされるかというと、三峰の中でも
一気に下る箇所が多く、鎖場が長く続くからです。高度差のある岩場地帯を長時間緊張しながら歩くことになるので、体力も精神も消耗しやすいといえます。
過去には滑落・死亡事故も
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そんな場所なので、過去には事故も発生しています。そのため、登山中の滑落や落石には十分な注意が必要ですが、基本は一般登山道なので、高度感にさえ慣れれば三点支持で問題なく登れるルート。とはいえ、もちろん登山を全くやったことのない人が行くべきではないのも明白です。
ずばり! 不帰ノ嶮の難易度は?
不穏な気配のする不帰ノ嶮ですが、ズバリ難易度はどんなものなのでしょうか? 初心者はダメといっても、自分の体力や技術レベルで行けるのかどうか、一番知りたいのはそこですよね。
三点支持を自然にこなせなければ×

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不帰ノ嶮は、この区間ずっと難しい箇所が続く訳ではありません。
局所的に、Ⅱ峰北峰とⅠ峰の間の難易度が高くなります。
何をもって『初心者』とするのか、その細かい定義については今回は明言しませんが、少なくとも
岩場歩きの基本(三点支持)をスムーズにこなせない人は挑戦すべきではありません。岩場の山登りを十分に経験しており、体の運び方を自分で判断できる人でなければ危険です。

出典:PIXTA(乾徳山の岩場を歩く女性登山者)
まずは近場の山などで岩場を登る(歩く)ことに対する耐性をつけ、体を慣れさせましょう。キレットは険峻な岩場地帯であり、尾根が鋭く切り落ちた場所です。登山中は、ほとんど崖のような箇所を登り下りすることになるため、柔軟に手足や体を移動させるスキルが必須といえます。
3大キレットの中では?

出典:PIXTA(大キレットを行く登山者)
日本最難関の登山ルートとされる3大キレットは、「不帰ノ嶮」「八峰キレット」「大キレット」の3つを指します。気になるのは不帰ノ嶮の難易度ですが、結論からいえば、3大キレットの中で最も難しいのは大キレットです。一箇所だけが難しい不帰ノ嶮と八峰キレットに対して、大キレットは難所が複数存在するため、全体的な難易度から判断して不帰ノ嶮よりも難関といえます。
実際に行くならどんなコースがいいの?
では、実際にコースを考える時、不帰ノ嶮へは白馬方面から唐松岳に向かうコースと、唐松岳から白馬へ向かうコースの2つがあります。実際に行くならどっちのコースがいいのでしょうか?
ヤマレコで調べてみた
登山の記録を共有できるコミュニティサイト『
ヤマレコ』で「不帰ノ嶮」を調べたら…
【検索結果1ページ目】 白馬→唐松/21
唐松→白馬/11
※記事制作時のデータ
【検索結果2ページ目】 白馬→唐松/21
唐松→白馬/7
※記事制作時のデータ
と、圧倒的に
白馬から向かう人が多いことがわかりました。それは一体なぜなのかというと…

出典:YAMA HACK編集部
どうやらこの難所が
登りか下りかの違いのようです。
白馬方面からだと、核心部が登り!

出典:YAMA HACK編集部(白馬方面から見るⅡ峰の頂上付近)
白馬方面から不帰ノ嶮へ向かうと、核心部であるⅠ峰とⅡ峰北峰の間が登りとなります。難所を登りにするメリットは、重心が安定しやすくなり、滑落やスリップの危険が減ることです。
下りは恐怖心から腰が引けることも多く、鎖場や断崖絶壁では足元を確認するのが困難な場合もあります。その点、登りは足場やホールドを見極めやすく、気持ちにもゆとりが出るため、白馬方面からの登山者が多くなっているのです。
ただし、唐松側からは早くに難所を通過できるメリットも

出典:PIXTA(唐松岳から見た不帰キレット)
白馬方面から不帰ノ嶮へ向かうコースは、登りが中心で、気持ちも少し楽かもしれません。しかし核心部前の下りで足が疲れると、思わぬミスが出る可能性ももちろんあります。
一方、唐松岳から向かうメリットは、難所を早朝に通過できるため、体力の温存とペースの維持がしやすいことです。ただし、下りは高度感が増し精神的負担も大きいため、健脚かつ技術のある上級者向けのコースといえます。
どちらのコースを選ぶにせよ、三点支持や鎖に頼りすぎないなど一定の登山技術は必須です。
▼高度感がすごい…田中陽希氏の不帰ノ嶮下りの動画写真でポイント解説!不帰ノ嶮の核心部
危険なネーミングの不帰ノ嶮は、中・上級者向きの登山エリア。ここでは白馬側から唐松へ向かうコースの核心部について説明していきますので、ぜひ登山イメージの参考にしてみてくださいね!
①まずは天狗の大下りでとんでもなく下る!

出典:YAMA HACK編集部
天狗の大下りは、白馬から進み、天狗ノ頭を超えた先にあります。写真右上の赤く囲ったところからの急斜面が「天狗の大下り」と呼ばれていて、写真で見ても落差がハンパないです!

ご丁寧に天狗の大下りの始まりを知らせてくれる看板。高度感がとてつもなく「本当にここを下るのか…」とげんなりしそうなほど。距離にして300mを一気に下ります。気を引き締めていきましょう!

一歩間違えれば、滑落してしまいそうな鎖場は慎重に足場を確保して進みましょう。振り返れば絶景が広がっていますが、ゆっくり見ている余裕はないかも。

天狗の大下りの鎖場は、ほとんど垂直な崖です。下るときは三点支持を意識して、鎖を信用すぎないようにしましょう。イメージできるかと思いますが、両手で鎖を握り完全に頼ってしまうと、体が左右へ振られて危険です。長い鎖場を抜けるとガレ場が多くなるので、落石には十分注意してください。

出典:YAMA HACK編集部
緊張の鎖場を下り切ったら、最低コル・不帰キレットに到着します。不帰キレットは歩きやすい道で、最低コルは休みやすい場所。できればここで休憩し、来る登りに備えましょう!
②続いてⅠ峰へ

出典:YAMA HACK編集部
最低コルまで来たら、次はここ「Ⅰ峰」を目指します。

撮影:A.kida
Ⅰ峰は、不帰ノ嶮の核心部でこそありませんが、うっかりミスが怖いところ。切り立った岩場は、鋭く尖っていてかっこいいです。

撮影:A.kida
黄色い看板が見えたら頂上に到着。ですが、Ⅰ峰の登りはまだまだ序の口で、これから迎える難所と比べたら大したことはありません。本当の核心は次ですよ!
③いよいよ難所!Ⅰ峰からⅡ峰北峰へ

出典:YAMA HACK編集部
次はここの赤枠から、いよいよ核心のⅡ峰北峰へとアタックしていきます。

難所であるⅡ峰北峰は、来る者を拒む勢いの険峻な岩場地帯。本当に登れるのか不安になりますが、ここを下るよりはまだマシ…?

唐松側から降りてきている人の写真。逆コースを行く人は、写真のようにここを降りなければなりません。

Ⅱ峰の鎖場に到着。ここから本格的な登りがスタートがするので、気合いを入れていきましょう!

登り始めたら、あとは頂上を目指して登り切るだけ!ぐんぐん登ります。
④名物?空中ハシゴ

空中ハシゴはとってもスリリング。思わず鎖を強く握ってしまいます。

かかっているのか倒れているのか分からない空中ハシゴは、写真のように幅がかなり狭いです。集中して渡り切りましょう!
⑤Ⅱ峰北峰の直下は高度感がすごい

険しい岩場と青い空のコントラストが美しい写真。このような鎖場を引き続き登っていきます。

依然として鎖場が続くⅡ峰。ガレ場も出現するので、浮石でスリップしないように足場もしっかり確保です。

高度感のある景色は、足がすくんでしまうほどスリルのある光景。不思議に収まっているあのチョックストーンが落ちたらどうなるのか、つい考えてしまいます。

ついにⅡ峰北峰のピークに到着!長い緊張状態から解き放たれる瞬間です。ようやく核心部を登り切りました!
核心部はこれでおわり!でも気は緩めずに

不帰ノ嶮の「Ⅱ峰」を超えたら核心部はおわり。ほっと一息といったところですが、この先も険しい岩稜地帯は続くので、最後まで気を抜かずにいきましょう!
まとめ
・白馬から唐松岳を目指すコースが主流
・最大の難所はⅠ峰⇔Ⅱ峰北峰
おすすめの日程:2泊3日
1日目:栂池~白馬岳~白馬山荘(7時間)
2日目:白馬山荘~天狗の大下り~不帰ノ嶮~唐松岳~唐松岳頂上山荘(8時間10分)
3日目:唐松岳頂上山荘~丸山~八方池~八方池山荘(3時間20分)
()は休憩を含まないコースタイム。
核心部は2日目です。1日目の夜はしっかり英気を養いましょう!
不帰ノ嶮は登山中級者から!核心部の攻略がポイント

出典:PIXTA(唐松岳と不帰ノ嶮)
ネーミングが恐ろしい不帰ノ嶮は、険しい岩場や鎖場が多発するエリア。三点支持など「登山の基本」をマスターしていることが条件です。さらに、局所的に斜度が高いのと岩場続きのため、雨の日や雨が降った翌日でルートが濡れている日などは避けた方がよいでしょう。絶景と高度感を味わいたい方は、ぜひ不帰ノ嶮にチャレンジしてみてはいかがでしょうか?