「お客様を無事に帰す」山岳ガイドが本気で挑んだ、八ヶ岳トレーニングとは(2ページ目)

基礎をしっかり。今回の2つのトレーニングテーマ

①自分の装備を”的確に”、”素早く”取扱いをする

雪山で登山靴の紐を直す登山者撮影:小番政典

12月から八ヶ岳でトレーニングを始めました。私が彼に提示した課題は、装備を的確に、かつ素早く取り扱うことができるようになることです。冬山では指がかじかむし、服装も分厚くなるので、装備の取り扱いは、夏より難しくなります。彼はアイゼンの装着からハーネスの調整などを、インナーグローブをしたままでできるようにならなければなりません。

②”転ばない”アイゼン歩行

アイゼン歩行トレーニング撮影:山田祐士

冬富士は、傾斜はそれほどないものの、夏のそれとは全くの別世界で、全面スケートリンクのようにカチカチのアイスバーンになっています。その状況で一つでもミスをすれば、怪我では済みません。もちろんガイドがロープで確保しているので、お客様が転ぶ前に態勢をコントロールします。しかし、つまずいてアイゼンをもう片方の足に引っ掛けるということは、絶対にやってはいけないことなのです。

今回の八ヶ岳トレーニングルート紹介

①赤岳、硫黄岳のノーマルルート

【歩行時間】硫黄岳(赤岳鉱泉から)3時間/赤岳(赤岳鉱泉から)5時間半
【ルート選択理由】
硫黄岳は、南八ヶ岳の赤岳鉱泉(山小屋)をベースにして登れる、難所のないルートの為、冬山入門者に適しているからです。
赤岳は、ロープで確保しながら登り下りする練習にちょうど良いのと、岩と氷雪の混じった所を慎重に歩く練習にちょうど良いからです。

このルートの注意箇所

厳しい雪山に挑戦する登山者

硫黄岳:稜線に出る所から山頂まで、暴風が吹き荒れることで有名です。吹き飛ばされないように注意することと、凍傷への注意が必要です。また稜線から山頂まではだだっ広いので、視界不良の時は無理して登らないようにしてください。私たちは暴風と視界不良の為、山頂手前で引き返しました。

赤岳:アイゼンとピッケルを駆使して、岩と氷雪のルートを歩きます。アイゼン歩行で転んだり、氷雪に足を滑らせないことが重要です。どちらも経験者やガイドと登るようにしましょう。

②阿弥陀岳、赤岳のバリエーションルート

雪をかぶった阿弥陀岳と赤岳
出典:wikipedia/C1815

【歩行時間】阿弥陀岳北稜 3時間/赤岳主稜 4時間
【ルート選択の理由】
阿弥陀北稜:アイゼンを履いてヤセ尾根やちょっとした岩場を登る経験ができるとともに、山頂からの下りは非常にデリケートな為、下りの集中力を養うのに適しているからです。

赤岳主稜:冬富士とは趣が異なりますが、寒風吹きすさぶ中での厳しいルート攻略は、精神力・総合的技術力を高めるのに適しているからです。

このルートの注意箇所

①必ず信頼できる経験者やガイドと登るようにしましょう。ロープが必要なので、決して単独では行かないようにしてください。
②阿弥陀岳から行者小屋への下りは、通常中岳沢を下降するのが早いです。ただしここは雪崩のリスクがあります。降雪直後や雪の安定していない時は、中岳経由で文三郎道まで歩いてから下降するようにしましょう。
③赤岳主稜を登って、疲れた体で難所を下ることは、集中力の持続と、体力が必要です。絶対に転んではいけません。

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