ツェルトを買って備えは万全!でも、広げたことありますか?

撮影:筆者
登山のお守りといえばツェルト。遭難など万が一の緊急時に備えて、いまでは多くの登山者がバックパックに装備しています。いざというときがツエルトの出番のため、実際に使ったことがある登山者は、あまり多くはないかもしれません。
持っているだけでは使えない!

撮影:筆者
しかし、ツェルトを一度も広げることなく、ただバックパックに入れているだけでは、緊急事態にさらなる緊急事態に直面することに。
使い方が分からず呆然……忍び寄る寒さ

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緊急時にツェルトをいざ広げてみたら、ただのシートで、どう設営したらいいのか分からずフリーズ状態に……。
ツエルトがあるからという安心感は、一気に不安感に逆転。ひとまず毛布のように包まってみても、体温を守る効率が悪く、夜の山の寒さが身に染みる辛いビバークになってしまいます。
手間取るほどに、迫る闇夜と削られる体力

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ビバークを覚悟したら、迫る闇夜との闘いがはじまります。いかに早く条件がいいビバークポイントを探して、ツェルトで体温を守れる安全な体勢や空間を作れるかが勝負所。
しかし、ツェルトの使い方を知らず、設営に手間取っていては、時間もカロリーも温存しておきたい体力も無駄に消費してしまいます。
頭が真っ白で、過酷な座りビバークに

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遭難などのトラブルに直面したとき、冷静でいられる人はあまり多くなく、体や頭に染み付いたことしか行動できなくなるものです。
そんな状態で、ツェルトに慣れていないと、持っていることすら頭から抜けてしまい、心細い闇夜のなか体ひとつでビバークする羽目になるかもしれません。冷気や暗い闇などの外環境を隔てられるツエルトを使えない座りビバークは、とてもつらくて不安なものです。
ツェルトを使いこなせないと、高まる低体温症リスク……

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想像以上に冷え込む夜の山、体温を徐々に奪っていく汗に濡れたウェア。
そんな過酷な状況のビバークで、ツエルトを使いこなせないと、低体温症になるおそれがあります。低体温症は、深刻になると命を脅かすほどの登山リスクです。
なのに、一度も広げたことがない登山者が10人中8人!?

撮影:筆者
ツェルトの知識やビバークした経験をもち、登山専門店でツェルトの使い方講習なども開催しているアライテントの福永さんによると、ツェルトをただ持っているだけの人が実に多いそうです。
アライテント福永さん
登山のイベントや講習会などでお客さんに聞くと、ツェルトを持っているけど一度も広げたことがない人が、10人のうち8人ほどはいるんですよね。
ひと昔前に比べると、ツェルトを持つ登山者は増えていて、ひとりひとりの安全登山の意識が高まっているとのこと。ではなぜ、ツェルトを広げないのでしょうか。
登山者Aさん
一度広げたら、収納袋に元通り収納できなさそうだから。
登山者Bさん
すぐに必要のない緊急時にしか使わない道具だから、いちいち広げない……。
どうやら、広げたあとの収納の心配や限られた用途などによって、ツェルトを広げにくいようです。
アライテント福永さん
ツェルトをいざ使うときに大切なのは事前のシミュレーションや、ツェルトに慣れておくことです。まずは袋から出して広げ、どんな形の道具なのかを確認しましょう。
ツェルトを「備え」にするために、やるべき3つのこと

撮影:筆者
安心感を得るための「お守り」ではなく、緊急時にリスクを軽減するための「備え」にするためには、登山に行く前にツェルトを広げ、特徴を理解することが大切です。
今回は、個人用装備として定番のアライテントの「ビバークツェルト ソロ」を使って確認しておきたいポイントなどを紹介します。
元のように収納できないのでは……と不安な方、ご安心ください!のちほど、簡単な収納方法を紹介します。
①まずは、形や構造を確認しよう

撮影:筆者(アライテント/ビバークツェルト ソロ)
「ハサミは使いよう」とよく言われますが、使い方を知らなければ、物をうまく活用できません。使いこなすための一歩が、形や構造を把握することです。
ツェルトは、底辺があいた袋状のシンプルな構造です。入口のファスナー、換気用のベンチレーター、設営時にツェルトポールやロープを通すフレーム受けを備えています。底辺はフラップ式で、連結できるループやひもが付いています。
袋から出したら、まず上下を確認しましょう。上辺にあるベンチレーターを探すと、上下を確認できます。
②家でビバークのシミュレーションをしてみよう

撮影:筆者
形や構造を確認できたら、実際に被ってみましょう。いざというときに落ち着いて使えるように、シミュレーションが大事です。
ツェルトを底辺から被ってしゃがむだけで、オーソドックスなビバーク態勢に。動かずともツェルトに包まれていると、じんわりとした暖かさを実感できます。
もうワンステップ体験したい方は、そのままご自宅の庭やベランダに出ましょう。安全な外環境で実際の緊急時により近いビバーク体験ができます。
③フィールドで設営してみると、なお良し!

撮影:筆者(アライテント/スーパーライト・ツェルト1)
緊急時のビバークには、ツェルトを被るだけでもリスクを軽減できます。
しかし、寒さや雨などの外的要因から体温をより守るためには、設営することがポイントです。たった一枚の布で、暗闇が迫るフィールドから隔てるだけですが、空間による暖かさと大きな安心感を得られます。
アライテントの「スーパーライト・ツェルト1」にように設営できるタイプのツエルトは、立てて使用した方が安全性を高められます。ただし、トレッキングポールなどを利用した設営には、ツェルトのほかにも道具が必要なため、しっかりチェックして準備しましょう。

撮影:筆者
トレッキングポールを利用したツェルト設営に必要な道具
・トレッキングポール(またはツェルトポール)
・張り綱
・ペグ
ツェルトの設営にはテントよりもコツがいります。いざというときでもスムーズに設営できるよう、キャンプ場などで練習をしておくことをおすすめします。設営に適した条件などの知識もつけ、いつもの登山で適したポイントのシミュレーションもしておくと、素早く対応できるようになります。
アライテント福永さん
若かりし頃、アイスクライミングをしていて時間切れになり、2人でポンチョ1枚を被ってビバークしました。でも、たった1枚のポンチョは2人では狭く、体にぴったり張り付いた状態だったのでとても寒かったのを今でも覚えています。
空気の層は断熱効果が高いので、空間って大事だと実感した、いいビバークでした。
プラスα|ツェルトを積極的に使って身近なアイテムに
ツェルトは、ビバーク時だけ有用なわけではありません。さまざまな登山シーンで活躍します。ツェルトを積極的に使用して、より身近な装備にしましょう。
休憩シートとして敷く

撮影:筆者
休憩時にシートとして敷くこともできます。雨などで地面が濡れたりぬかるんだりしていても、体を休められます。折り畳んだまま使えば、座布団代わりにも。積極的に活用すると、座布団やシートの分を軽量化できそうです。
ポンチョのように使う

撮影:筆者
アイテムによっては、ツェルトを被ってベンチレーターから顔を出せば、ポンチョのように使用できます。万が一、雨具を忘れてしまった場合にも対応できるため、知っておくと安心できる活用方法です。
これらの他にも、冬などの寒い日の休憩時にブランケット代わりにしたり、キジ撃ちやお花摘み時の目隠しにしたりと、ツェルトにはたくさんの活用方法があります。
収納は簡単!ポイントはシーツを畳むように

撮影:筆者
ツェルトは一枚の生地のため、たたみ方は簡単です。シーツを畳むように折りたたんで、くるくるして、ギュッと押し込むだけ。
付属の小さい収納袋に収めるのは一見すると難しそうですが、大事なのはきっちりし過ぎないこと。きっちり半分に折りたたむ、収納袋ときっちり同じ大きさに丸めるとなると、余裕がなくて大変です。
ある程度合っていれば十分に収納できます。ツェルトの生地はつるつるして、言うことをなかなか聞いてくれないため、多少ズレても大きな心で受け入れ、どんどん折りたたんでいきましょう。
1. 換気口の上をつまんで広げて、半分に折りたたむ

撮影:筆者
換気口がある上辺の両端を持ち、半分に折りたたみます。両手をピンと張りながらやると、折りたたみやすくなります。
2. 胸で押さえながら、さらに半分に折り畳む

撮影:筆者
生地が滑らないように胸でしっかり押さえて、長方形をイメージしながら折りたたみましょう。このあたりから、生地が多少ズレ始めますが、問題ないため気にせず進みましょう。
3. 収納袋よりすこし長くなるように、さらにもう半分に折りたたむ

撮影:筆者
収納袋の長さよりも少し長いくらいになるよう意識して、もう半分に折りたたみましょう。実際に収納袋を持って合わせなくても、ある程度合っていれば大丈夫です。
4.空気を抜きながら、縦1/3に折りたたむ

撮影:筆者
アゴなどで押さえながら折り目を整えて、空気を抜きながら、縦1/3くらいに折り畳みます。空気を抜いておくと、これから先の行程がスムーズになります。
【地面に置いて畳んでも〇】
立って畳むのが難しい場合は、地面に置いて収納しても大丈夫です。ただ、フィールドでは風で飛ばされるリスクもあるため、立った状態で収納できるように練習しておくと安心です。
5. くるくる丸めるように巻く

撮影:筆者
上端から空気を抜くように、収納袋の入口よりも細くなるように、くるくる巻いていきます。このとき、生地がズレて畳んだ長さよりも長くなることもありますが、それには目をつむって、とにかく細く巻けるように集中しましょう。
6. 収納袋に収めて、飛び出た部分をギュッと押し込む

撮影:筆者
巻き終えたら収納袋に収めましょう。細めに巻いたため少し長くなって収納袋から飛び出しますが、親指でギュッギュッと押し込めば、ぴっちり収納できます。
収納をラクにする工夫

撮影:筆者
やってみると意外と簡単なツェルトの収納。それでも収納しにくい場合は、収納袋を大きいサイズに変更するのもひとつの手。
アライテント福永さん
収納のコンパクトさよりも、収納のしやすさを重視してください。スムーズに収納できれば、積極的にツェルトを使うようにもなります。
安心から安全へ。ツェルトを持つ意味を再確認

撮影:筆者
ツェルトはただ持っていても安心感を得るための「お守り」でしかありません。
登山で緊急事態に陥ると、どうしてもパニックになり、視野が狭くなります。そうなると、いつもスムーズにできていることも手間取ってしまうため、よく知らない・慣れていない道具を使うことは非常に困難です。
安全登山のためにせっかく買ったツェルト。緊急時に低体温症といったリスクを軽減するための「備え」にするために、まずはツェルトを袋から出して広げてみましょう。きちんと使いこなすことで、もしものときにあなたを救う一助となるはずです。
ツェルトについてもっと詳しくなりたい方は、こちらの記事もおすすめ!
アライテントのツェルト一覧
アライテント ビバークツェルト ソロ(1人用)
重量 | 105g |
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サイズ | 設営時:間口80×奥行70×高さ90cm 収納時:9×7(幅4)cm |
カラー | イエロー |
素材 | 15dnリップストップナイロンPUコーティング |
アライテント ビバークツェルト デュオ (2人用)
重量 | 150g |
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サイズ | 設営時:間口80×奥行120×高さ90cm 収納時:9×7(幅4)cm |
カラー | イエロー |
素材 | 15dnリップストップナイロンPUコーティング |
アライテント ビバークツェルト1 ロング(1~2人用)
重量 | 240g |
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サイズ | 設営時:間口80×奥行210×高さ90cm 収納時:16×7(幅6)cm |
カラー | イエロー |
素材 | 15dnリップストップナイロンPUコーティング |
アライテント スーパーライト・ツェルト1(1~2人用)
重量 | 280g |
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サイズ | 設営時:間口90×奥行200×高さ90cm 収納時:10×10cm |
カラー | イエロー |
素材 | 28dnリップストップナイロンPUコーティング (東レ「ファリーロ」中空糸) |
アライテント スーパーライト・ツェルト2 ロング(2~3人用)
重量 | 280g |
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サイズ | 設営時:間口90×奥行200×高さ90cm 収納時:10×10cm |
カラー | イエロー |
素材 | 28dnリップストップナイロンPUコーティング |