登山のスキルを高めたい!そんなときは“山のプロ”にお任せ
登山を続けていると、「もう少し難易度の高い山に挑戦したい」「山のいろんな楽しみを味わいたい」という想いがわいてくるもの。実現のためには知識や技術の習得が欠かせません。
登山に詳しい人が身近にいない場合は、ガイド登山を依頼したり、講習会に参加したりするのもひとつの手です。必要なスキルはもちろん、その山や土地の歴史、植生についても学ぶことができるので、山の楽しみ方が広がります。
そうはいっても、誰にお願いしたらいいのか、どんな講習会に参加したらいいのか悩んでしまうことも。
そこで当企画では、自分の目標や目的、趣味趣向にあったガイドさんを見つけられるよう、さまざまなタイプのガイドさんにフィーチャー。今回は、プロカメラマンとしても活動し、YAMA HACKでもフォトトレッキングの楽しみを紹介してくれた廣田ガイドを紹介します。
廣田 勇介(ひろた ゆうすけ)
日本固有の古から続く山とのスタンスを、現代へ伝えたい
2021年12月、宮崎県高千穂町にある天岩戸神社のご神体である天岩戸にしめ縄を張る「天岩戸注連縄神事」が執り行われました。
天岩戸は神話以来、禁足地として永らく人跡未踏でした。近年、聖地として整備し、しめ縄を張る計画が立てられましたが、急峻な断崖にあるため計画は失敗。最後の頼みとして登山家に声がかけれらました。
これを実現したのが、日本人初の8,000m峰全14座登頂を成し遂げた登山家・竹内洋岳さんと石井スポーツ登山学校校長でもある国際山岳ガイド・天野和明さんという2人の日本を代表する登山家。
そしてこの2人を「現代の山伏」として招聘し、記録映像の撮影など影で支えた仕掛人こそが、今回ご紹介する廣田勇介ガイドなのです。
日本古来の名山の魅力を伝えたい
修行ではなくリフレッシュのための「山岳お遍路」
活動の様子を拝見!
ここまでをご覧いただくと、廣田さんは「日本の歴史・文化を重んじる人」と言う印象を持つと思います。しかし実際は、それだけに留まらないインターナショナルな活動を展開しているガイドなのです。
山岳お遍路はプリミティブな日本の登山スタイルの現代版
山そのものを神様として崇め、その神様に近い場所で祈りを捧げるために山に登る「登拝」は、古来から続く日本独自の登山スタイル。
その山にまつわる伝説・伝承を聴きながら、その山の歴史的バックグラウンドを学びながら歩くことで“単なるピークハント”だけに留まらない日本ならではの登山の醍醐味を体感することができるのです。
廣田さんの登山の原点……沢登りで自然と触れ合う
後にご紹介しますが、本格的な登山を始めたばかりの廣田少年が熱中していたのが奥多摩での沢登り。
廣田さんは沢登りのことを「総合充実登山」と呼んでいます。クライミングから読図まで様々な登山スキルが要求されるアクティビティだからこそ、経験豊富なガイドと臨みたいと言うお客様が多いそうです。
日本の山の魅力を世界に発信!インバウンド(訪日外国人観光客)向けガイド
洋楽好きの母親が唄う英語の歌がいつも家にこだましていたという廣田さん。自然と自分からも勉強するようになり、なんと英語も堪能です。2022年現在は新型コロナウイルスの影響で休止状態ですが、インバウンド(訪日外国人観光客)を案内することも多いそうですよ。
東洋的なエキゾチックイメージを抱いて日本を訪れる人々、特にキリスト教文化で育った欧米豪からの観光客の興味をそそる日本ならではの山岳信仰や歴史・文化の解説を交えながら登山をサポートできるのも、廣田さんならではですね。
世界有数の豪雪地帯・日本の雪をとことん楽しんでもらうバックカントリースキーガイド
実はカナダでのバックカントリースプリットボード(*)ガイド資格を最初に取得したガイドのひとりでもある廣田さん。つい数年前までは、カナダでのバックカントリーガイド業務も行っていました。
日本に帰国後も冬はバックカントリーガイドがメイン。これまた世界有数の豪雪地帯を有する日本に魅力を感じて訪れるインバウンドの参加者が多いそうです。
中にはカナダ在住の知己のガイドに「日本に行ったらユースケを訪ねろ」と言われて来る人も。必然的に長期滞在となるため、冬はほとんど休みなし……という年も珍しくなかったそうです。
何と独学!写真家としての感性のルーツは「雪との対峙」
プロカメラマンとして登山雑誌から依頼されてルポ撮影も担当する廣田さんですが、自身のライフワークとして撮影しているのは、ガイド業務も行う信仰の山や山岳スキーがモチーフ。加えて歴史好きが高じて、ここ数年は日本各地にある偉人の銅像を撮り歩いているそうです。
そんな廣田さんですが何と写真は独学、しかしその感性のルーツはやはり山にありました。バックカントリースキーは常に雪崩の危険性と隣り合わせ。常に山を観察して、ほんのわずかな変化から雪崩の予兆を認識することが生命を守ることにつながるため、そのトレーニングは欠かさなかったそうです。
山岳気象の書籍で雪崩と気象の関係を執筆したこともある廣田さんだからこそ、自然を緻密に観察する眼が自然と養われたのですね。
好きなことにとことん没頭……その根源は「格好いい!」という直感!?
廣田さんが登山を始めたきっかけや青春時代、そして山への想いについて伺いました。そこにはこれまでご紹介してきた多彩な活動の根源が垣間見える、様々なストーリーが。
東京に残された自然の中で遊んだ少年時代
——山や自然に親しんだきっかけを教えてください。
あとは焚き火です。出身地の大田区は湾岸地域に埋立地が多かったのですが、中学生の頃までは利用の目処が立たずに放置されてジャングルのようになっていました。
そんなワイルドな場所で、放課後は毎日のようにブラックバス釣りと焚き火をしていましたね。

——本格的な登山はいつ頃から始めたのですか?
週末はほとんど奥多摩の山に入り浸って、沢登りや焚き火を楽しんでいましたね。
大学では他校の学生と登山に行くことに制約があった山岳部には入らず、高校時代からの仲間と登山を続けていました。

作家志望から一転、カナダに渡ってクライミングとバックカントリースノーボードの武者修行
——日本大学藝術学部に在籍されていたそうですが、元々はガイドでなく芸術家になりたかったのですか?
ただ途中で挫折してしまって(笑)。
そこで大学を1年間休学して、カナダにあるヤムナスカ登山学校というスクールに入ったんです。

——文学から一転して、登山を本格的に学ぼうと思ったきっかけは?
ただ登山者として次のステップに進むためには、クライミングをきちんと学ばないといけないと思って。
そこで調べたところ、山岳雑誌の記事でスイスとカナダに長期間登山を学べる学校があるのを見つけたのです。
アルバイトでお金を貯めて、ロッキー山脈があるバンフ国立公園の隣にあるキャモアという街で1年間生活しました。

——バックカントリースノーボードもカナダで?
卒業した後もカナダに残って、各地を旅しながら雪山に登ってはスノーボードで滑降していましたね。

——そのバックカントリースノーボードが、今もガイド活動の大きな柱になっているのですね。
「これが自分のやりたいことだ!」と直感して、そこからは人生のすべてをバックカントリースノーボードに捧げて来ました(笑)。

——趣味ではなく、職業ガイドとしてバックカントリースノーボードに取り組むきっかけは?
それ以来、冬は白馬村でバックカントリーガイド、夏は全国の山々のガイドや海外遠征、という日々を送っていました。

信仰登山の魅力を教えてくれた「富士山」
——もうひとつの活動の柱である信仰登山への興味はいつから芽生えたのですか?
そこで富士講と言われる山岳信仰の信者さんたちとすれ違うことが度々あって。
当時は北米かぶれで髪もブルーやピンクに染めていた自分からすると、白装束に身を包み金剛杖を突きながら経文を唱えて登っている姿がメチャメチャ格好よく新鮮に見えたんですね。
それをきっかけに、全国の霊山を調べたり取材するようになりました。

——「格好いい!」というインスピレーションが、活動の源になることが多いのですね!
けれども彼らとは身体能力も違うからそこまで先鋭的な登山はできない……自分らしいスタイルの登山って何だろうと常々考えていたんですね。
そこで巡礼登山・山岳お遍路という登山を、活動のもうひとつの柱に据えることにしたのです。
登山雑誌『ランドネ』での「神様百名山を旅する」連載は、もう10年近く続いています。

——山と神様を知るためにオススメの本は?
今でも入手できるものでオススメは『日本の神様読み解き事典』。
山で出会った史跡の案内板などに記された神様のことが、すぐに分かります。事典ということで分厚く重いので、ザックに入れておけばトレーニングにもなりますよ(笑)。

日本の神様読み解き事典 [ 川口謙二 ]
ページ数:560p
ISBN:9784760118243
第1編で、日本における神祇の系譜、ならびに神々・神社にまつわる基本的事項を概論として収録。第2編では、記紀神話に登場する神々を五十音順に収録し、その神の系譜・神話および神名の由来について述べる。第3編では、民俗の神様を中心にして、これに関係する神社などを五十音順に収録。別冊付録で第2編の記紀神話に登場する神々の系譜を一枚の大系図として表した「記紀神話の神々・系図一覧」がある。神名・神社の総索引、別冊付録の大系図の五十音別索引・神明番号別索引付き。『日本神祇由来事典』を縮小して普及版としたもの。

——廣田さんが思う登山の魅力って?
憧れの頂に立った感動やそこで出会った絶景は、心にも深く刻まれますよね。
それに加えてその山の歴史や由緒を知ってから登ることで、朽ちた石仏や文字が消えかけた石碑、果ては路傍の小さな石からも、ありがたみを感じ取ることができるのです。
試験勉強では出来事と年号をリンクさせるだけの日本史も、山やそこで活動した人物をからめることでぐっと面白く感じられるようになるんですよ。

廣田さんより、山好きのみなさん&登山を始めたい人へ