山のプロ=ガイドは「登山のレベルアップ」の心強い存在!

そこで頼りになるのが、山のプロである「ガイド」。ヨーロッパでは国家資格として位置付けられています。日本の場合は、各ガイド団体で定められたさまざまな資格認定制度があります。各資格認定団体が設けた検定試験や研修を受けながら、所属ガイドたちはクライアント(顧客)の登山を安全にサポートするために、日々そのスキル・知識を磨いています。
ガイドと一緒に登山することは安全面だけでなく、そのスキル・知識を学ぶ貴重な機会にもなります。
でも「ガイド」資格にはいろいろあってわかりづらい……
前述の通り、山のガイド資格には種類があります。夏の高原ハイキングと冬の岩稜登山では、ガイド自身に要求されるスキル・知識がまったく異なるため、資格も細分化されてきました。今回は世界的なガイド組織・国際山岳ガイド連盟(IFMGA)にも加盟している日本有数のガイド組織「公益社団法人日本山岳ガイド協会」(以下JMGA)の畠山浩一さんに取材。各資格でガイド可能な山の難易度や季節を通じて、必要なスキル・知識をご紹介します。
日本のニーズに合わせて、独自に進化したガイド制度

しかし、ヨーロッパの資格は「アルパインガイド」の1種類のみ。クレバスへの転落の危険性がある氷河や、スキーでの移動も必要な雪が年間を通して存在するヨーロッパアルプスのガイドは、ロープでの安全確保や雪山登山・スキー技術をそなえているのが当たり前だったのです。
9割以上が「雪のない夏山」という日本のニーズ

そこで無雪期限定から冬季の岩稜登攀も可能な資格まで、細分化されたガイド資格制度が誕生したのです。
今回は「登山」を目的とした、登山ガイド・山岳ガイドについてご紹介しますが、JMGAにはエコツアーに特化した自然ガイド、登山とは別のスポーツとして定着しつつあるフリークライミングガイド、スキーガイドなどの資格もあります。
資格別に紹介!ガイディング可能な山とガイドのスキル

登山ガイドが活動可能な山域では基本的にこれらの用具は使用せずとも登山可能で、使用は緊急時の安全確保やレスキューに限定されます。
ひるがえって山岳ガイドは、これらの用具を積極的に使用して安全確保を行う必要がある山域もガイディング可能です。
それでは各資格別に、ガイディング可能な範囲や資格取得の際に身に付けているスキルを紹介します。
登山ガイドステージⅠ〜無積雪期の整備された登山道〜

国内の無積雪期においての山地・山岳地帯での整備された登山道で、登山ガイド行為を行うことができる。
<活動エリア>
無積雪期の一般登山道。登山地図の実線で示された登山道。破線、難路と示された登山道は除く。沢登りはできない。
けれども基礎的知識(スポーツ科学・自然環境の保護)・ガイド業務関連知識(関連する法制や倫理・マナー)・登山ガイド専門知識(気象・読図)・安全管理(健康管理・事故予防・セルフレスキュー)から、ロープ技術(ロープ操作・固定ロープの方法・ショートロ ープ技術)・ 緊急露営技術までマスターして初めて、この資格取得が可能なのです。
JMGAのガイドには、次項以降で紹介する資格も含め、スキル維持のための有効期間が存在します。資格認定されてから有効期間内に更新研修に参加する義務もあります。登山初級者がメジャーな夏山にチャレンジする場合にも、心強いパートナーになってくれますね。
登山ガイドステージⅡ〜無積雪期の整備された登山道&森林限界を越えない積雪期の登山道〜

国内で四季を通じて整備された登山道において登山ガイド行為を行うことができる。但し、スキーガイド分野は別に資格を取得する。
<活動エリア>
無積雪期の一般登山道。登山地図の実線で示されたコース。破線、難路と示された登山道は除く。沢登りはできない。
積雪期は、森林限界を越えないで、ロープウェイなど冬季も開設されている施設から2~3時間の日帰りできる範囲。
例:北八ヶ岳中山峠~高見石、縞枯山、北横岳まで。天狗岳・硫黄岳は範囲外。
特に2017年3月に発生した「那須岳雪崩事故」をきっかけに、雪崩に関する知識と技術は必須。雪上で活動する以上、資格認定研修ではビーコンによる埋没者の探索やゾンデ・スコップによる救助作業もしっかり履修してもらっています。
ステージⅡの職能範囲である「森林限界を越えない雪山」では、雪崩のリスクはそう高い頻度では発生しません。それでも万が一の事態に備え、雪崩救助技術の経験を積むことが要求されるのです。
登山ガイドステージⅢ〜無積雪期の難路・破線ルートの登山道&積雪期の日帰りルート〜

国内で無積雪期を通じて登山道が示されているコースの登山ガイド行為を行うことができる。
積雪期においては、通年営業を行う施設(山小屋、レストハウスなど)から容易に登山出来る領域で岩稜、急峻な雪稜を持たない範囲をガイドできる。但し、スキーガイド分野は別に資格を取得する。
<活動エリア>
無積雪期の一般登山道。登山地図の実線、破線で示されたコース。東北、北海道などのテント泊や避難小屋を利用する縦走コース、容易な沢登りコースなど。
積雪期は、山小屋から日帰り可能な容易な雪山登山(例:北八ヶ岳中山峠~高見石、縞枯山、北横岳、天狗岳・硫黄岳、蓼科山など)
堅牢な鎖・ハシゴ・ピンなどが設置された無積雪期の剱岳・別山尾根コースなど、山岳ガイドの登攀技術までは要求されないものの登山ガイドステージⅡでは対応できない難路などの「グレーゾーン」を解消するために生まれた比較的新しい資格が、登山ガイドステージⅢです。
マスターしなければいけない知識・技術の項目だけで言えば、山岳ガイドよりも厳しい資格認定研修かもしれません。
山岳ガイドステージⅠ〜無積雪期のバリエーションルート&積雪期の宿泊ルート〜

通年の国内山岳と縦走路のある岩稜コース。国内にて一年を通して登山ルートのガイド行為を行うことができる。但し、岩壁登攀、雪稜バリエーション、積雪期の岩稜バリエーション、フリークライミング講習は不可。
<活動エリアと業務範囲例>
・無積雪期:西穂~奥穂縦走、奥穂~槍縦走、剱岳別山尾根~北方稜線、北鎌尾根、前穂北尾根、剱岳源次郎尾根、八ツ峰縦走など
・積雪期:八ヶ岳縦走(赤岳~硫黄岳)、阿弥陀岳南稜、北稜、四季を通じた北海道の山々、東北の山々など。
・ポピュラーな沢登り(滝の登攀はシングルピッチまで)ルート。
・但し、スキーガイド分野は別に資格を取得する。
業務範囲には、大キレット・ジャンダルムなどを含む槍・穂高連峰や剱岳の難路やバリエーションルートがずらりと並びます。無雪期であればこうしたチャレンジングなルートもガイディングできる資格です。
そのため、先輩ガイドなどの指導者に頼らない岩壁登攀・フリークライミング・アイスクライミングの経験も、受験資格としています。
山岳ガイドステージⅡ〜積雪期のバリエーションルートもガイディング可能〜

日本国内で季節を問わず全ての山岳ガイドおよびインストラクター行為を行うことができる。但し、スキーガイド分野は別に資格を取得する。
日本国内ではほぼオールマイティな活動可能な資格。山岳ガイドステージⅠでは無積雪期のみガイディング可能な北アルプスなどのバリエーションルートを積雪期にもガイディング可能です。
併せてスキーガイドの取得も必要なことからもわかる通り、確かなスキー技術が必要とされる国際山岳ガイドへの通過過程的な位置付けの資格ですね。
国際山岳ガイド〜海外の名峰もガイディング可能〜

国際山岳ガイド連盟加盟諸国の山岳全エリア。活動エリアの制限は、各国の法律による(労働ビザの取得など)。
世界中の名峰をガイディングできる資格。TV番組で世界の名峰に挑む企画をサポートしているのも、多くはこの資格を所持しているガイド達ですね。
クライアントと年間を通して国内の山々でトレーニングを行いながら、海外遠征をめざしている国際山岳ガイドも大勢います。
ここまで紹介した資格の活動可能範囲を、以下の通り一覧表にまとめてみました。

また、今回は詳しくご紹介しなかった登山関係以外の資格も含めて、下記HPにまとめて掲載されていますよ。
日本山岳ガイド協会|資格の種類
ガイド資格を知って、よきガイドと出会おう!

一言で「山のガイド」といっても、資格によってガイドできる範囲が随分と異なることがわかりました。「このガイドはこの資格だから、こういった技術でサポートしてくれる」と事前に知っておくことは、安全面だけではなくスキルを見て学ぶ上でも重要。ぜひステップアップの際には「ガイド登山」も選択肢に加えてみてくださいね。