目次
高山にのみ暮らす神の鳥「ライチョウ」を知っていますか?

古来より、日本では山は信仰の対象であったため、神聖な”神の鳥”として敬われてきました。そのため、日本のライチョウは人間が寄っても逃げることがない、世界でも珍しい珍しい鳥なのです。
しかし、今そのライチョウは絶滅の危機に晒されています。
ライチョウについて知り、私たち登山者が山や自然をどう守っていくのか、一緒に考えていきましょう!
日本の高山にいる「ニホンライチョウ」

分類 | キジ目 キジ科 ライチョウ属 |
---|---|
サイズ | 全長/約37cm 体重/450〜550g |
寿命 | 約10年(野生では5〜6年程度とも言われている) |
生息場所 | 主に高山の標高2,200m〜2,400m以上のハイマツ林帯や岩石帯 |
生息数 | (推定)2000羽以下 |
現在の生息域は、北アルプスと南アルプス、その周辺の高山、乗鞍岳、御嶽山に限られています。かつては、八ヶ岳、蓼科山、白山にも生息していましたが、すでにこれらの地域では絶滅してしまいました。
そのため、近い将来、野性での絶滅の危険が高い種類として環境省のレッドリスト「絶滅危惧ⅠB類」となっています。
なお、北海道にのみ「エゾライチョウ」が生息しています。こちらは、同じキジ科ですが『属』が違い、里山で暮らす北海道では一般的な山鳥。
今回は、「ニホンライチョウ」についてみていきますよ!
【ライチョウ豆知識】高山での生活と衣食住
ライチョウの1年!季節によって羽が3回抜けかわる
▼春|オスとメスの出会い、そして繁殖・産卵
4月の中旬ごろオスとメスがつがいとなり5月末から6月上旬に卵を産み抱卵を開始。メスが卵を温めている間、オスは巣(ナワバリ)を警護します。
▼夏|メスは子育てに大忙し

オスは、卵からヒナが孵るとナワバリの警護をやめ単独で過ごすようになります。
一方、お母さんライチョウは夏の間は子育てで大忙し。体温調節機能が未熟なヒナのために、餌をついばんでは温めるという繰り返しの日々を送ります。
また、梅雨時期とも重なるため、ヒナの低体温症リスクも高まります。まだ飛べないので天敵に襲われるのも大きな要因。ヒナが大人に成長できるのは10羽のうち1羽という非常に低い生存率なのです。
▼秋|群れを形成し冬に備える

▼冬|風雪に耐え省エネ生活

寒さから身を守るために雪の中に潜っていることも。雪が積もると、ダケカンバの冬芽などを食べて春を待ちます。
防御力はゼロ。だからこそ敵を欺く力がすごい

子育て中の夏季に、オスが白黒、メスがまだら模様の羽になるのは、オスは縄張りを守り、メスはハイマツの中で卵を温めたり子どもを守ったりする生活に対応した保護色だからなのです。
石のように微動だにせず、2〜3時間ひたすらじっとしていることもあるんですよ。
実は…飛べます!

2018年にすでに絶滅していると考えられていた木曽駒ヶ岳で半世紀ぶりに見つかったメスのライチョウは、羽毛の遺伝子解析の結果、乗鞍岳から飛んできたものだと分かりました。
なぜ絶滅の危機に?ライチョウは環境にとても敏感

さらに、天敵の増加も絶滅危機の一因。年々、高山に暮らす動植物にとっては不利な気候になってきており、下界で暮らす動植物も暮らせる環境になりつつあります。サルやテン、シカ、キツネなどの野生動物たちが高山へと侵入してきて高山植物を食べ尽くし、ライチョウだけでなく貴重な植物などへの被害も深刻となっています。
もちろん、気候だけが原因ではなく、里で彼らの住む場所を奪ってしまっている面など、さまざまな要因が積み重なった問題なのです。
また、一部の心ない登山者が高山にゴミを放置することで、天敵であるキツネやテン、カラスなどを高山帯に誘引し、ライチョウ減少の原因にもなっているのです。
ライチョウを守るための活動

例えば、「山にゴミを捨てない」というマナーを守る。これも当たり前のことですが、自然を守るための行動です。
ケージ保護活動でライチョウの子育てサポート

絶滅危惧種のライチョウを守るため、つまり山の自然を未来につなぐためにできることを考えて、実行していきたいですね。
【観察ノウハウ】ガイドさんと「ライチョウ」に会いに行ってみた!

どこで出会えるのか、何に注意して観察すればいいのか、ライチョウにまつわることをツアーガイドに教えてもらいました。
ライター高橋
1泊2日で”3羽のオス”と”メス&ヒナの2親子”と遭遇。すっかりその愛らしさに魅了されました。ヒナの歩く姿といったらもう、可愛くて…キュンです!
▼ライチョウについて教えてくれたのは…

観察する時の注意点
田村ガイド
ライチョウは、ストレスを受けやすいので観察ルールは必ず守ってください。
ライチョウを捕まえることはもちろん、触れることもご法度。
ライチョウを許可なく触れたり捕まえたりすることは違法となり、処罰の対象となります。
ライチョウを捕まえることはもちろん、触れることもご法度。
ライチョウを許可なく触れたり捕まえたりすることは違法となり、処罰の対象となります。
【注意】首を伸ばしてキョロキョロしている時は、低姿勢&距離をとってあげる

これ、実はライチョウがかなりストレスを感じている状態。
このような姿を見かけた場合、私たち登山者はどうするべきなのでしょうか?
田村ガイド
徐々にライチョウと距離をとってあげるといいですね。
この時、距離を取るために慌てて動くと、ライチョウはよりストレスを受けるので、ゆっくりと後退りする感じで今より距離を開けてあげましょう。
また、距離を取る以外に姿勢を低くするのも効果的です。
この時、距離を取るために慌てて動くと、ライチョウはよりストレスを受けるので、ゆっくりと後退りする感じで今より距離を開けてあげましょう。
また、距離を取る以外に姿勢を低くするのも効果的です。
田村ガイド
特に、子育て中のメスが人間との遭遇に驚いてパニックになり、ヒナとはぐれてしまうということは避けたい事態です。
体温調整機能が低いヒナは、お母さんとはぐれてしまうと生存確率が著しく低下してしまうんですよ。
間違っても追いかけたりしないでくださいね!!
体温調整機能が低いヒナは、お母さんとはぐれてしまうと生存確率が著しく低下してしまうんですよ。
間違っても追いかけたりしないでくださいね!!

ライター高橋
乗鞍の大黒岳を散策中、登山道のすぐ脇のハイマツ帯でライチョウに遭遇。
5mほどの離れた場所で気が付き、距離を保ったまま双眼鏡を使って観察しました。写真撮影には望遠レンズを使用するのがいいですね。
5mほどの離れた場所で気が付き、距離を保ったまま双眼鏡を使って観察しました。写真撮影には望遠レンズを使用するのがいいですね。
こんなところに注目!ライチョウに出会いやす場所や時間
絶対に出会えるわけではないけれど、できることならお目にかかりたいですよね。そこで、ライチョウ探しのヒントを教えてもらいました。■生活痕や鳴き声に注目して探してみよう!

田村ガイド
ライチョウが生息している場所には色々な痕跡があります。
特に、フンは見つけやすくハイマツの下によく落ちています。古いものは乾いていて、新しいものは湿っています。
新しいフンは最近までそこにライチョウがいた証なので、その周辺を注意して探してみてください!
特に、フンは見つけやすくハイマツの下によく落ちています。古いものは乾いていて、新しいものは湿っています。
新しいフンは最近までそこにライチョウがいた証なので、その周辺を注意して探してみてください!
田村ガイド
ライチョウは「ゲェ、ガッガーッ」と特徴のある鳴き方をします。また、ヒナを呼ぶ母鳥は「クークー」と優しく、鳴き声が聞こえた時は、耳を澄まして周囲を見渡してみましょう。
ちなみに、ヒナは「ピヨピヨ」といわゆるヒヨコのような可愛い鳴き声ですよ。
ちなみに、ヒナは「ピヨピヨ」といわゆるヒヨコのような可愛い鳴き声ですよ。
■ライチョウに出会いやすい時間帯や場所


田村ガイド
ライチョウが最も活動するのは早朝と夕方です。実際、ツアーでよく見かけるのも日の出後・日の入り前の2〜3時間の間です。
穏やかな霧なら現れる確率は高いですが、暴風雨などの悪天候や寒い場合、晴れた夏の日には観察が難しいでしょう。
とはいえ、晴れた夏の日でも猛禽類がいないときならば出てくる可能性もあり一概には言えません。その時期のライチョウたちが何を気にしているかを考えるといいですね!
穏やかな霧なら現れる確率は高いですが、暴風雨などの悪天候や寒い場合、晴れた夏の日には観察が難しいでしょう。
とはいえ、晴れた夏の日でも猛禽類がいないときならば出てくる可能性もあり一概には言えません。その時期のライチョウたちが何を気にしているかを考えるといいですね!
田村ガイド
登山道に沿ったハイマツ帯や縄張りを守る時期のオスなら岩の上でも見かけます。
運が良ければ、登山道の脇で砂浴びをしているシーンに遭遇することもありますよ!
運が良ければ、登山道の脇で砂浴びをしているシーンに遭遇することもありますよ!
必須&あると便利な観察アイテム

田村ガイド
他にもあると便利なアイテムは双眼鏡です。
”距離をとって観察するのが基本ルール”のため、双眼鏡があればライチョウの表情や食べているものなど、観察するのに有効です。アウトドアに適した防水タイプだとより安心ですね。
”距離をとって観察するのが基本ルール”のため、双眼鏡があればライチョウの表情や食べているものなど、観察するのに有効です。アウトドアに適した防水タイプだとより安心ですね。
ライチョウを絶滅から守るため、私たち登山者ができること

まずは、ライチョウ観察のルールをきちんと守ことが大切ですね。ストレスを与えることなく、そっと見守ってあげましょう。
そして、ライチョウが暮らせる自然を守ためにできることは何があるでしょうか?
田村ガイド
地球の中で、低緯度にもかかわらず、高山は相当な雪が積もる寒冷な気候で氷河期の動植物が独自の進化を遂げている環境は日本だけです。日本の高山環境は世界に誇れる貴重な存在と言えます。
そして、そこに暮らすライチョウはまさに日本の宝と言っても過言ではありませんね。
そして、そこに暮らすライチョウはまさに日本の宝と言っても過言ではありませんね。
ライター高橋
貴重な日本の高山環境は絶対に守って未来に繋げていきたいもの。私たち登山者の小さな心がけの積み重ねがライチョウの未来、すなわち山を含めた自然を守ることにつながっていきます。
自分にできることを考えて実行していきたいものですね!
自分にできることを考えて実行していきたいものですね!
ライチョウツアーに参加して正しい知識で自然と向き合う

⽇本アルプスライチョウ観察ガイドツアー
『ライチョウ観察ルールハンドブック』でより知識を深める

ライチョウ観察ルールハンドブック