絶滅危惧種・神の鳥「ライチョウ」を守りたい!私たち登山者が自然保護のためにできることとは

2021/08/24 更新

北アルプスのアイドル「ライチョウ」をみたことがありますか?古来より、日本では神聖な”神の鳥”として敬われてきました。しかし、今、そのライチョウは絶滅の危機に晒されています。今回は、ライチョウの生態や保護活動について知ることで、私たち登山者が山や自然をどう守っていくのか、一緒に考えていきましょう。ガイドによるライチョウ観察ノウハウもありますよ!


アイキャッチ出典:PIXTA

高山にのみ暮らす神の鳥「ライチョウ」を知っていますか?

出典:PIXTA
氷河時代からの生き残りと言われ、高山帯の生態系を代表する野生生物「ライチョウ」。
古来より、日本では山は信仰の対象であったため、神聖な”神の鳥”として敬われてきました。そのため、日本のライチョウは人間が寄っても逃げることがない、世界でも珍しい珍しい鳥なのです。

しかし、今そのライチョウは絶滅の危機に晒されています。
ライチョウについて知り、私たち登山者が山や自然をどう守っていくのか、一緒に考えていきましょう!

日本の高山にいる「ニホンライチョウ」

出典:PIXTA(作成:YAMA HACK編集部 左・オス 真ん中・メス 右・ヒナ)
【ニホンライチョウデータ】
分類キジ目 キジ科 ライチョウ属
サイズ全長/約37cm 体重/450〜550g
寿命 約10年(野生では5〜6年程度とも言われている)
生息場所主に高山の標高2,200m〜2,400m以上のハイマツ林帯や岩石帯
生息数(推定)2000羽以下
日本の高山帯にいるライチョウは、北半球北部に広く分布するライチョウの中で最も南に生息する「亜種ニホンライチョウ」。氷河期に日本にやってきた生き残りだと考えられ、国の特別天然記念物に指定されています。

現在の生息域は、北アルプスと南アルプス、その周辺の高山、乗鞍岳、御嶽山に限られています。かつては、八ヶ岳、蓼科山、白山にも生息していましたが、すでにこれらの地域では絶滅してしまいました。
そのため、近い将来、野性での絶滅の危険が高い種類として環境省のレッドリスト「絶滅危惧ⅠB類」となっています。

なお、北海道にのみ「エゾライチョウ」が生息しています。こちらは、同じキジ科ですが『属』が違い、里山で暮らす北海道では一般的な山鳥。
今回は、「ニホンライチョウ」についてみていきますよ!

【ライチョウ豆知識】高山での生活と衣食住

ライチョウの1年!季節によって羽が3回抜けかわる

▼春|オスとメスの出会い、そして繁殖・産卵
出典:PIXTA(春のライチョウ。左がオス、右がメス)
春がやってくると、冬の間に標高の低い場所に移動していたライチョウが高山帯に戻ってきます。そして雪解けが進むと、オスはナワバリ争いを始めます。
4月の中旬ごろオスとメスがつがいとなり5月末から6月上旬に卵を産み抱卵を開始。メスが卵を温めている間、オスは巣(ナワバリ)を警護します。

▼夏|メスは子育てに大忙し
出典:PIXTA(換羽の最中で徐々に夏の色に。左がメス、右がオス)
夏の前には羽毛が抜けかわり、オスとメスの見分けがはっきりとつくように。
オスは、卵からヒナが孵るとナワバリの警護をやめ単独で過ごすようになります。

一方、お母さんライチョウは夏の間は子育てで大忙し。体温調節機能が未熟なヒナのために、餌をついばんでは温めるという繰り返しの日々を送ります。
また、梅雨時期とも重なるため、ヒナの低体温症リスクも高まります。まだ飛べないので天敵に襲われるのも大きな要因。ヒナが大人に成長できるのは10羽のうち1羽という非常に低い生存率なのです。

▼秋|群れを形成し冬に備える
出典:PIXTA(秋のライチョウ親子。子どももだいぶ大きくなり、羽の色も親鳥と同じに。)
秋にはヒナも大きくなり、羽も抜けかわることで親鳥と似た色になります。さらに秋が深まるにつれ、オス・メスともくすんだ灰褐色の秋羽になり徐々に集まりはじめ、性別ごとに群れをつくります。

▼冬|風雪に耐え省エネ生活
出典:PIXTA(風雪を雪に潜って凌ぐ)
冬には真っ白の羽に変わります。厳冬期は基本的にオスとメス別々の群れで、餌がある森林限界付近まで標高を下げて越冬すると言われています。
寒さから身を守るために雪の中に潜っていることも。雪が積もると、ダケカンバの冬芽などを食べて春を待ちます。

防御力はゼロ。だからこそ敵を欺く力がすごい

出典:PIXTA(岩に同化するライチョウ)
猛禽類全般やキツネ、テンやオコジョ、カラスなどがライチョウの天敵。羽が年に3回も抜けかわるのも、季節にあわせて周りの景色にとけ込み、天敵に見つかりにくくするため。
子育て中の夏季に、オスが白黒、メスがまだら模様の羽になるのは、オスは縄張りを守り、メスはハイマツの中で卵を温めたり子どもを守ったりする生活に対応した保護色だからなのです。
石のように微動だにせず、2〜3時間ひたすらじっとしていることもあるんですよ。

実は…飛べます!

出典:PIXTA
普段、歩く姿を見かけることが多く飛ぶイメージはあまりありません。しかし、あの丸い体で飛び、最長で30km以上も移動すると考えられています。
2018年にすでに絶滅していると考えられていた木曽駒ヶ岳で半世紀ぶりに見つかったメスのライチョウは、羽毛の遺伝子解析の結果、乗鞍岳から飛んできたものだと分かりました。

なぜ絶滅の危機に?ライチョウは環境にとても敏感



出典:PIXTA(岩場にいるオコジョ)
ライチョウが絶滅危惧種になってしまったのは、地球温暖化による生息域の減少が要因のひとつ。氷河期の生き残りであるライチョウは寒いところを好むため、これ以上生息域の気温が上がると行き場がなくなってしまうと言われています。

さらに、天敵の増加も絶滅危機の一因。年々、高山に暮らす動植物にとっては不利な気候になってきており、下界で暮らす動植物も暮らせる環境になりつつあります。サルやテン、シカ、キツネなどの野生動物たちが高山へと侵入してきて高山植物を食べ尽くし、ライチョウだけでなく貴重な植物などへの被害も深刻となっています。
もちろん、気候だけが原因ではなく、里で彼らの住む場所を奪ってしまっている面など、さまざまな要因が積み重なった問題なのです。

また、一部の心ない登山者が高山にゴミを放置することで、天敵であるキツネやテン、カラスなどを高山帯に誘引し、ライチョウ減少の原因にもなっているのです。

ライチョウを守るための活動

出典:PIXTA
ライチョウにとって高山が住みにくい環境となってしまったことは、とても残念な事実です。それでも、ライチョウは私たちの前に愛らしい姿を見せてくれます。これ以上、ライチョウが減ってしまわないように私たち登山者にもできることがありますね。
例えば、「山にゴミを捨てない」というマナーを守る。これも当たり前のことですが、自然を守るための行動です。

ケージ保護活動でライチョウの子育てサポート

ライチョウ保護ゲージ ライチョウは生後4週の間がもっとも生存率が低いことがわかっています。そのため、生息域にケージを設置し、夜間はその中に入れて保護する活動が開始されました。ケージ保護により、死因である低体温や天敵に捕食される危険を避け、ヒナの生存率が格段にアップします。

絶滅危惧種のライチョウを守るため、つまり山の自然を未来につなぐためにできることを考えて、実行していきたいですね。

【観察ノウハウ】ガイドさんと「ライチョウ」に会いに行ってみた!

ライチョウツアー
撮影:YAMA HACK編集部(7月中旬の乗鞍岳・畳平)
ライチョウのことを知れば知るほど、実際に見てみたくなりますね。そこで、乗鞍岳で行われている「ライチョウ観察ガイドツアー(1泊2日)」に参加してきました。
どこで出会えるのか、何に注意して観察すればいいのか、ライチョウにまつわることをツアーガイドに教えてもらいました。

ライター高橋
1泊2日で”3羽のオス”と”メス&ヒナの2親子”と遭遇。すっかりその愛らしさに魅了されました。ヒナの歩く姿といったらもう、可愛くて…キュンです!


▼ライチョウについて教えてくれたのは…
提供:田村 茂樹
登山ガイド 田村 茂樹
街歩きから岩稜や沢登りや雪山までマルチに案内する登山ガイド。日本古来の信仰登山や北アルプスの伝説の名ルート「伊藤新道」の復活、山々の生い立ちの面白さに焦点を当てたジオトレッキングの普及に情熱を燃やしている。昨年、木曽駒ヶ岳で行われたライチョウ保護高度技術者養成事業に参加し、ライチョウサポーターズエースに認定される。

観察する時の注意点

田村ガイド
ライチョウは、ストレスを受けやすいので観察ルールは必ず守ってください
ライチョウを捕まえることはもちろん、触れることもご法度。
ライチョウを許可なく触れたり捕まえたりすることは違法となり、処罰の対象となります。

《ライチョウ観察の基本ルール》
■静かにそっと見守る

■基本的には5m以上の距離をとる
■ストレスを感じている行動をとった場合は、ライチョウから離れる
■他の人の邪魔にならないように観察する

 
《これは絶対NG!》
●ライチョウを見ても追いかけない
●ライチョウに触れたり捕まえたりしない
●決められた道を歩く

●鳴き声を真似しない
●写真撮影の際にフラッシュは使用しない
●ドローンも使用しない

【注意】首を伸ばしてキョロキョロしている時は、低姿勢&距離をとってあげる

乗鞍岳 ライチョウ
撮影:YAMA HACK編集部(少しストレスを感じているライチョウの様子。首を伸ばして周囲を警戒しています。)
実際にライチョウと遭遇した際に、我々の存在に気がついて警戒しはじめました。緊張した面持ちで周囲を見渡し、キョロキョロしています
これ、実はライチョウがかなりストレスを感じている状態
このような姿を見かけた場合、私たち登山者はどうするべきなのでしょうか?

田村ガイド
徐々にライチョウと距離をとってあげるといいですね。

この時、距離を取るために慌てて動くと、ライチョウはよりストレスを受けるので、ゆっくりと後退りする感じで今より距離を開けてあげましょう。
また、距離を取る以外に姿勢を低くするのも効果的です。


田村ガイド
特に、子育て中のメスが人間との遭遇に驚いてパニックになり、ヒナとはぐれてしまうということは避けたい事態です。
体温調整機能が低いヒナは、お母さんとはぐれてしまうと生存確率が著しく低下してしまうんですよ。

間違っても追いかけたりしないでくださいね!!


乗鞍岳 ライチョウ
撮影:YAMA HACK編集部(大黒岳で夕方に遭遇。写真の緑色の線の向こう側、登山道から外れた場所にいました)
ライター高橋
乗鞍の大黒岳を散策中、登山道のすぐ脇のハイマツ帯でライチョウに遭遇。
5mほどの離れた場所で気が付き、距離を保ったまま双眼鏡を使って観察しました。写真撮影には望遠レンズを使用するのがいいですね。

こんなところに注目!ライチョウに出会いやす場所や時間

絶対に出会えるわけではないけれど、できることならお目にかかりたいですよね。そこで、ライチョウ探しのヒントを教えてもらいました。

■生活痕や鳴き声に注目して探してみよう!
撮影:YAMA HACK編集部(右下の写真は「抱卵中のメスが餌を食べるために一時的に卵を離れた際にまとめてするフン」)
田村ガイド
ライチョウが生息している場所には色々な痕跡があります。
特に、フンは見つけやすくハイマツの下によく落ちています。古いものは乾いていて、新しいものは湿っています。

新しいフンは最近までそこにライチョウがいた証なので、その周辺を注意して探してみてください!

田村ガイド
ライチョウは「ゲェ、ガッガーッ」と特徴のある鳴き方をします。また、ヒナを呼ぶ母鳥は「クークー」と優しく、鳴き声が聞こえた時は、耳を澄まして周囲を見渡してみましょう。
ちなみに、ヒナは「ピヨピヨ」といわゆるヒヨコのような可愛い鳴き声ですよ。


■ライチョウに出会いやすい時間帯や場所
撮影:YAMA HACK編集部
上の写真の赤丸の箇所にライチョウがいます。風を避けるためにハイマツの陰にじっと身を潜めているところに遭遇。

撮影:YAMA HACK編集部(一眼レフ・望遠レンズで撮影)
田村ガイド
ライチョウが最も活動するのは早朝と夕方です。実際、ツアーでよく見かけるのも日の出後・日の入り前の2〜3時間の間です。
穏やかな霧なら現れる確率は高いですが、暴風雨などの悪天候や寒い場合、晴れた夏の日には観察が難しいでしょう。
とはいえ、晴れた夏の日でも猛禽類がいないときならば出てくる可能性もあり一概には言えません。その時期のライチョウたちが何を気にしているかを考えるといいですね!


田村ガイド
登山道に沿ったハイマツ帯や縄張りを守る時期のオスなら岩の上でも見かけます。
運が良ければ、登山道の脇で砂浴びをしているシーンに遭遇することもありますよ!

必須&あると便利な観察アイテム

撮影:YAMA HACK編集部
観察するために立ち止まったりゆっくり歩くため、防寒対策が必要です。登山用のレインウェアは雨だけでなく風や冷たい空気を防いでくれるので必須アイテム。フリースや薄手のダウン、手袋なども用意しましょう。

田村ガイド
他にもあると便利なアイテムは双眼鏡です。
”距離をとって観察するのが基本ルール”のため、双眼鏡があればライチョウの表情や食べているものなど、観察するのに有効です。アウトドアに適した防水タイプだとより安心ですね。

ライチョウを絶滅から守るため、私たち登山者ができること

出典:PIXTA
逃げることなく登山者の前に愛くるしい姿を見せてくれるライチョウ。つぶらな瞳とモフっとしたシルエットがたまりません。「この子達にまた会いたい、守りたい」と感じたら、これ以上ライチョウが減ってしまわないように何ができるか考えてみましょう。

まずは、ライチョウ観察のルールをきちんと守ことが大切ですね。ストレスを与えることなく、そっと見守ってあげましょう。
そして、ライチョウが暮らせる自然を守ためにできることは何があるでしょうか?
《山・自然を守るためにできること》
ゴミは必ず持ち帰る
登山者のマナーとして当然ですが、捨てられた食べ物などを目当てに、本来高山帯に生息していない動物が侵入してきて生態系が崩れるため。
トイレは決められたところでする
人の尿に含まれる大腸菌などにより、高山帯の動植物に影響を与えるため。
高山植物は採らない
高山植物は固有種であることも多く、高所でしか育たない貴重なもの。採取してしまうことでその種が絶滅してしまうため。

田村ガイド
地球の中で、低緯度にもかかわらず、高山は相当な雪が積もる寒冷な気候で氷河期の動植物が独自の進化を遂げている環境は日本だけです。日本の高山環境は世界に誇れる貴重な存在と言えます。
そして、そこに暮らすライチョウはまさに日本の宝と言っても過言ではありませんね。


ライター高橋
貴重な日本の高山環境は絶対に守って未来に繋げていきたいもの。私たち登山者の小さな心がけの積み重ねがライチョウの未来、すなわち山を含めた自然を守ることにつながっていきます。
自分にできることを考えて実行していきたいものですね!

ライチョウツアーに参加して正しい知識で自然と向き合う

ライチョウ ツアー
撮影:YAMA HACK編集部(ツアー1日目の夜にはライチョウについてのレクチャーも開催されます)
ライチョウについて専門的な知識を持ったガイドと歩くツアーが開催されています。ライチョウ観察のノウハウを教えてもらいながら、ゆっくりと歩き自然を観察できるところが魅力。また、ライチョウについてレクチャーもしてくれるため、より知識が深まります。
※第1期は終了していますが、第2期の開催(8月下旬から10月上旬開催)も予定されています。
⽇本アルプスライチョウ観察ガイドツアー

『ライチョウ観察ルールハンドブック』でより知識を深める

ライチョウハンドブック
撮影:YAMAHACK編集部
『ライチョウ観察ルールハンドブック』は、日本アルプスガイドセンターと環境省とが共同でライチョウを観察する際のガイドラインをまとめたもの。観察時のマナーをはじめ、登山者がライチョウについて知識を深め、正しい行動をとることができるような内容となっています。1人でも多くの登山者に読んで欲しい1冊。

ライチョウ観察ルールハンドブック

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高橋 典子

ハイクとミニマルキャンプをこよなく愛するフリーライター。次はどこに行こうか、9歳の息子と地図を眺めるのが日課。最近は、山岳気象予報に興味津々!

登山専用コミュニティサイト「ヤマレコ」