「スキーはやったことがないんですけど……」
以前【前編】の記事では「うろこスキーってどういうもの?」「うろこスキーの楽しみ方」を紹介しました。ですが、友人をうろこスキーに誘うときに当たる壁が「そもそもスキーをやったことがない」「学生時代にスキーをやったっきり」というもの。だからちょっと躊躇されてしまいます。「歩くスキーだから」「転んでも平気だから」と言っても、なかなかイメージが湧きにくいようです。
なので今回は「うろこスキーってどんなふうに滑ればいいの?難しいの?」を知ってもらうために、長野県白馬村でうろこスキーのツアーを開催している、「うろこ先生」こと高橋誠さん(落倉バックカントリーフィールド)に、うろこスキーでの基本の動作(歩く/登る/滑る)を教えてもらいました。

高橋 誠さん
NPO法人落倉バックカントリーフィールド代表。30年以上前に白馬村に移住。落倉エリアの里山の整備なども行い、うろこスキーやスノーシューでのガイドツアーを行っている。イベント「うろこざんまい」のメインオーガナイザーでもあり、うろこ先生として初心者でも楽しめる歩くスキーを伝導中。
「スキーをしたことのない人のほうが1日で上達しますよ」
冒頭の質問に対して、高橋さんの答えはきっぱり。高橋さん
スキーをやったことがあるお父さんが転びまくってバテてしまい、経験のないお母さんと子どもがスイスイ滑れてしまうというパターンも多いんですよ(笑)
その理由は、前編でも紹介したうろこスキーならではの「不安定さ」。
アルペンスキーであれば足とプラスチック製ブーツと板がしっかり固定されているので、スピードを出したり、多少力任せにターンをすることができます。
一方のうろこスキーは、革製のブーツの先端だけが板に固定されているという状態。足元が常に不安定なので、勢いをつければ前のめりになり、力任せにターンをすれば転んでしまうのです。
だから、アルペンスキーの経験があるからといって、同じようにできるわけではない。むしろ先入観がないひとのほうが上達が早いこともあるのです。

初めてでもテンションが上がる場所へGO!

今回教えてもらうために行った場所は、登山でもおなじみの「栂池自然園」。夏は湿原が広がる場所なので急斜面もなく、初心者の練習にはぴったりです。
何よりこのロケーション!目の前に白馬三山がドーーーンとお出迎え!! ここをスノーシューより速く、自由に歩けるというだけで、ものすごくテンションが上ります。
まずは基本の「歩く」からスタート
ちなみに今回のうろこ生徒は以下の3名です。まず、友人AとカメラTが1日滑った感想。「いまさらスキーでこんなに転ぶとは思わなかった……」。そうなのです、それがうろこ。
転ばずに滑るのは最初は難しいですが、「歩き」をマスターするだけでも、スノーシューの倍くらいの速さで移動できるので、雪原ハイキングを十分に楽しめます!
歩く前に「基本の姿勢」を確認!
まずはじめに、足元が不安定な道具であるうろこスキーを使いこなすポイントを押さえておきましょう。
正しいポジションがスキーを制する。スキーの「基本のき」として教わることは、うろこでも同じなのです。
スノーシューやアイゼンとは違う「スキーの歩き方」とは?
スノーシューやアイゼンは普段歩くのと同じく、脚を上げて歩きます。ですが、うろこの場合は「スキーを滑らせて歩く」のが基本。それによって雪上での歩行が速くスムーズになります。とはいえ、「滑らせて歩く」というのはよくわかりませんよね?動画でどのような動きになるか、紹介します。
普段歩くように脚を後ろに蹴り上げてしまうと、スキーだけが滑り前進できません。スキーを前方に滑らせて踏み込む。少しコツがいりますが、これが歩き方の基本です。
ただし、前方に滑らせる際に脚で板をただ送り出すだけだと、ヒザ下や体幹がスキーに垂直に乗っていないため重心が不安定に。これがクセになると滑る際にも苦労します。変なクセがつく前に、まずはしっかりと「歩く」をマスターしておきましょう。
OKとNG、ポジションを比較してみた

OKポジションはヒザ下と体幹の両方がしっかりスキーと雪面に対して垂直になっています。スキー中心部に荷重がかかり押さえられていることで、安定したコントロールができます。

一方、NGポジションの場合はヒザ下がスキーに対して垂直になっていません。平地を歩くときはまだコントロールできますが、登りの場合にはスキーが滑り落ち、滑りの場合には足が先行してしまうことで腰が引けてしまい、スキーのコントロールが不安定になってしまいます。
高橋さん
せっかちに歩かず、そろりそろりと板を平行にすることを意識するといいですよ。猫背になりがちな人は、真正面を向くのもポイントです。

うろこの醍醐味「登る」をマスター
歩くことができたら、次は「登り」です。うろこスキーの良さは自由自在に山の中を移動できること。そこには地形の起伏による「登り」や「下り(滑り)」があります。登ることができたら、行動範囲はぐっと広がりますよ!基本は「歩く」」と同じ。ただしエッジを効かせる必要あり!
こちらも動画でまずは見てみましょう。うろこスキーは板の中央部に滑らないよううろこ加工がされています。ですので、歩くとき以上にぐいっと踏み込むことでうろこのグリップが効きます。その際に斜面に対してスキーのエッジを食い込ませる(立てる)ように意識しましょう。

とはいえ、雪のコンディションや斜面の傾斜角度によっては、なかなかグリップが効かずに滑ってしまうことも。
その場合、より強く山足のスキーを踏み込みこませ、エッジを立てることで滑り落ちを防ぐことができます。
急斜面が苦手なうろこ。直登できない場合は?

うろこ加工されたスキーでは緩斜面を登ることはできますが、斜度がきつくなると真っ直ぐ直登をすると滑ってしまいます。その際はジグザグ(つづら折り)に「ステップターン」で方向転換をしながら登っていきます。
ステップターンの手順は動画を見てもらうほうがわかりやすいので、そちらを見てくださいね。
転ぶのは必至!「滑る」にはどうすればいい?
「歩く」「登る」までは大体の人が数時間もあればできてしまうかと思いますが、難関は「滑る」です。ただアルペンスキーと違って、うろこスキーは滑ることだけが目的ではありません。山を歩いていくときに小さな丘を上り下りできれば必要最低限の滑走技術でも問題ありません。もちろん上手さを求めてもOKですが、ゆっくりでも移動ができれば大丈夫。
それにアルペン経験者でも面白いくらいに転んでしまうので、恥ずかしいことはありません(断言)。「転んでも起き上がって滑ればいいや!」くらいの気持ちでトライしてみましょう。
大まかに分けて、うろこでの滑りは3つの方法があります。
もちろん直滑降でもいいのですが、森の木々の間を滑ったりする際にターンができたほうが楽しめます。
(1)の斜滑降は歩きの動作を斜面で行いながらターンで方向転換をしていきます。(2)のボーゲンはアルペンスキー経験者にはおなじみの「ハの字滑り」です。スピードコントロールもしやすいので、初心者にはおすすめ。(3)のテレマークは上級者向け。今回は高橋さんのお手本で紹介します。
高橋さんと生徒の滑りを見比べると、体幹の安定感がまったく違います。歩くことはできても、いざ斜面でスピードが出てくると、怖さもあって腰が引けてしまい、足が体に先行してしまいます。そうするとポジションをキープできなくなり転んでしまう。
「歩く」の基本を思い出し、しっかりポジションキープと踏み込みを行うことがポイントです。
高橋さん
斜面を滑るときに谷足(斜面下側の足)に荷重をかけすぎると、足が逃げてしまい、左右の足が広がっていきます。そういう場合は山足にも荷重をかけて踏ん張ればいいですよ。
お次はボーゲンです。スキーをハの字にすることで、エッジによるスピードを抑えることができます。ターンは弧を描く際の外側の足に体重を乗せると、曲がることができます。
高橋さん
基本目線を向けた方向に滑っていきますよ。だから樹林を滑りたいときは、木ではなく、木と木のあいだを見ないと木にぶつかります!

今回は半日程度うろこスキーをやってみましたが、紹介した3つの動作が転びながらも数時間でできるようになりました。途中木陰で持参したパンを食べたり、ちょっとしたピクニック気分も味わいつつの栂池自然園でのうろこスキー体験。
ゲレンデスキーとは違って、どこを滑ってもいい。そんなうろこスキーの魅力、感じてもらえましたでしょうか?
里山を楽しむならガイドツアーがおすすめ!

どんなギアなのか、どうやって滑ればいいのか、謎が多い「うろこスキー」。前編後編で紹介した記事でイメージはつかんでもらえたかとおもいます。
でもいちばんの謎は「どこで滑ればいいの?」ということかもしれません。ゲレンデのように「決まったフィールドがない=自由」だからこその謎。
最初はギアもレンタルから始めることになるので、前回の記事で紹介したNORDの「スノーピクニック」や、今回の高橋さんが行っているうろこスキーツアーにまずは参加するのがおすすめです。どんな場所を選んで滑るといいのか、まずはツアーで感触をつかみながら、自分の楽しめそうなフィールドを開拓していく。それがうろこスキーの醍醐味でもあります。
3月中旬〜GWまでは栂池自然園でのツアーも開催されているので、ぜひ絶景とうろこを楽しんでみてください!
落倉バックカントリーフィールド|公式サイト
NORD|公式サイト
撮影協力:小谷ファットバイクセンター