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「雪山」って上級者しか楽しめないんでしょ?

難易度の高い登山技術や吹雪など天候の急変、雪崩の危険など、チャレンジするためのハードルが高い。かといって、低山は別に冬でなくとも登れるし、いまいち気分が盛り上がらない。そう思って悶々しているうちに、冬は何もせずに終わってた……なんて経験ありませんか?
この冬おすすめしたいのが「うろこスキー」!
「え、登山の話をしているのになんでスキー?」と思いましたよね?
そういったスキーはアルペンに対して「ノルディックスキー」と呼ばれており、オリンピックにもある、スキーをつけて走る競技「クロスカントリースキー」などもここに含まれます。
今回紹介するのは、ノルディックスキーのひとつであり、滑走面がうろこ状になった「うろこスキー」を使う遊びです。
厳密には「うろこスキー」は道具の名前なのでアルペンスキーでも使うことがありますし、アクティビティそのものを指すわけではありません。
今回は狭義として「うろこ加工をされたスキーを使ったノルディックスキーのうちのクロスカントリースキー(ただし走るわけではない)」の紹介になります。
この遊びは「BCクロカン」とも呼ばれているため、定義うんぬんとなると難しいのですが、スキーをしない人目線だと「BC」も「クロカン」も何のことだか意味がよくわからない。それならば、「うろこスキー」と言われたほうが楽しいよね!難しくなさそうだよね!というところから、あえて「うろこスキー」として紹介します。
言葉についてこれなくても大丈夫。これから紹介するのは、簡単に言うと「登れて、滑れて、歩ける」スキーを使った楽しい山遊びなのです。
アルペンとうろこスキー、どう違うの?

スキー板、ブーツ、ビンディング(ブーツを板に固定する器具)の3つが使われるのは同じですが、それぞれ明確に異なります。
いちばん大きな違いが「かかとが固定されているか、いないか」です。普段歩くときを思い出してほしいのですが、踏み出すときにかかとが少し上がっています。これは「歩く」上で大事な動作のひとつ。それができるのが、うろこスキーで使用するブーツです。
また「かかとを上げる」という動作を容易にするために、アルペンブーツのように脚を固定するための硬いプラスチック素材ではなく、ソフトな素材が選ばれています。イメージとしてはちょっと硬めのハイカットの登山靴。
「うろこ加工」と「軽さ」については、別項でもう少し詳しく説明します。
うろこ加工って何のためにするの?

アルペンスキーは滑走面がフラットだから摩擦が少なく、斜面を滑ることができます。一方のうろこスキー。魚を頭→尾に向かってさわるとスムースですが、尾→頭に向かってさわるとざらざらとうろこが引っかかります。その原理と同じく、ノーズ(先頭)を下に向けるとスムースに滑り、上に向けるとうろこ面が引っかかる。それによって、斜面を登ることができるのです。
これが「登れて、滑れて、歩けるスキー」こと、うろこスキーというものなのです。

登れて滑れて歩ける「うろこスキー」だからできること
前置きが長くなりましたが、アルペンスキーとの違いはわかったかと思います。ここからが本題です。なぜうろこスキーが楽しく、登山者にも向いているのか?という点。「それってテレマークとか山スキーと同じだし、アルペン以上に滑走技術いるよね?」とか「結局雪山に登れる=上級者というのは変わらないのでは?」との異論反論は、至極まっとう。実はこの原稿を書いている私も同じことを思っていたのですが、とあるイベントに参加して、それこそ「目からうろこ」だったのがこの企画の発端。
まずは「いかにうろこスキーが楽しいか?」ということを、スキーショップ<NORD>店長の藤田良江さんに教えてもらいました。
醍醐味は「軽快な足取りで、雪山をハイキング!」

軽さ+機動力で楽しめる「スノーピクニック」
そして、アルペンスキーとは決定的に異なるのが、「軽さ」。スキーをしたことがある人は知っていると思いますが、「板+ビンディング+ブーツ」って実は重い。片足で5kg前後の重さになります。一方のうろこスキーはアルペンスキーの1/3〜1/2程度と軽い!軽さ+滑走が可能なうろこスキーの特長は雪山での機動力に大きく影響します。スキーではちょっとした斜面を登るのも一苦労ですが、うろこならそのまま登れてしまいます。また雪面を歩くスノーシューでは斜面を登れるけれど、滑れない分移動に時間がかかります。
この機動力を活かしたうろこならではの遊びが、藤田さんいわく「スノーピクニック」とのこと。なかなかの魅力的ワードです。でもどんなことをやってるんですか?
藤田さん
ワインや食材を背負っていって、いい場所を見つけたら、雪で椅子とテーブルを作ります。
そしてパエリアを作ったり、のんびりとランチしたりするんですよ。あとハンモックを張ったり。
そんなピクニック時間の合間に、近くの丘を登って滑って、また飲んで食べて……。
そしてパエリアを作ったり、のんびりとランチしたりするんですよ。あとハンモックを張ったり。
そんなピクニック時間の合間に、近くの丘を登って滑って、また飲んで食べて……。


見せてもらった写真は、厳しい雪山登山とはまったくイメージが違って、まさにピクニック(しかも本気度高い)!
上手く滑れなくても大丈夫。転んでも恥ずかしくない!

かかとが固定されていないということは、ターンをするときに足元が不安定になります。上の写真のようなヒールフリーで滑る「テレマークスキー」という滑走法も昔からありますが、技術的に習得が難しい。となると、せっかくうろこスキーに興味があっても「うまく滑れない」。そのあたりを藤田さんに確認すると……。
藤田さん
大丈夫。転んでも恥ずかしくないのがうろこはいいんです。滑り方はボーゲンでも大丈夫。滑走が目的じゃないから。
逆に転ぶのも楽しかったりして、みんな笑顔になってます。
逆に転ぶのも楽しかったりして、みんな笑顔になってます。
うろこが転んでも恥ずかしくないのは、「こうやって滑らないとダメ!」という決まった型がないから。実際にうろこにハマった人が元々やっていたスタイルも、アルペン、クロスカントリー、テレマーク、スノーシューなどさまざまだそうです。
「うろこでできないことはしない」が楽しみ方のコツ

藤田さん
山田誠司さんといううろこ先生がいるんですが、元SAJ公認のナショナルスキーデモンストレーターでテレマークスキーで世界選手権にも出たようなひと。彼が言うには、『うろこスキーで逆ハの字にして頑張って登るなんてけしからん!』と(笑)。
登れるといっても、うろこは急斜面を登るのは得意でない。その道具でできることを最大限活かして楽しもうということなんです。
登れるといっても、うろこは急斜面を登るのは得意でない。その道具でできることを最大限活かして楽しもうということなんです。
急斜面は滑るのも登るのも苦手、深い新雪も沈んでしまう。でもスケーティングをすれば歩くより圧倒的に速い、道具一式がとにかく軽い。短所と長所を知った上で、楽しく遊ぶのがうろこスキーの醍醐味なのです。
ちなみにどんな人がうろこスキーに向いていますか?
藤田さん
「登るのが嫌い!」というひとはムリかもしれませんが、(ピークを目指す)登山というよりは、トレッキングや歩くことが好きなひとですね。
「うろこスキー」って、いつ・どこでできるの?
そもそも雪山が難しい理由は、気象と環境に「雪」が加わるから。とりわけ怖いのが「雪崩」です。雪崩に関しては、自分だけでなく周りも巻き込む危険があり、命の関わる大きな事故につながる可能性もあります。ただ、雪崩に関しては「発生しやすい条件」があるので、それを避けることで回避することができます。
そこで、以下のフィールド図を見てみましょう。

まず「ゲレンデゾーン」。ここはスキー場の管理区域のため、雪崩に関しても安全管理がなされています。ただし、基本はスキーやスノーボードの「滑走エリア」になるため、うろこで登るのはNGです。
次に「高山BCゾーン」。ゲレンデが管理された区域であるのに対して、管理区域外になります。除雪や圧雪などもされておらず、雪崩の危険があります。またルートファインディングの必要性もあります。特に標高が高い高山では猛烈な吹雪に見舞われる危険など、夏山との違いが非常に大きくあるゾーンです。
そして最後の「低山BCゾーン」。里山と呼ばれる低山エリアです。車道からもアクセスがしやすく、樹木が生えており、比較的斜面も緩やかな場所を選びやすいのが特徴です。

藤田さん
うろこは里山BCゾーン、それも春がメインですね。斜度も緩く、雪崩なども起こりにくい季節なので、ビーコンなどのアバランチギアはなくても大丈夫です。
ハイシーズンに行けなくもないけど、板が太くないから新雪だと沈むし、ラッセルは大変だし、寒かったり……楽しくないです(笑)。
ハイシーズンに行けなくもないけど、板が太くないから新雪だと沈むし、ラッセルは大変だし、寒かったり……楽しくないです(笑)。
雪崩条件に当てはまらない緩やかな斜面の里山、かつ安定した春の雪を滑るから、初級〜中級者も安心。イメージとしてはスノーシューでハイキングするような場所がうろこ好適地だそう。
やってみたい!でも道具はどうすればいい?
「うろこスキー、何だか面白そう!」と思っても、スキー場のようにフィールドが決まっていないなら、現地レンタルというわけにもいかなさそう。道具をどうやって用意すればいいのかもよくわからない。これが実はいちばんの難関かもしれません。藤田さん
道具はうちの店(目黒)でもレンタルをしていますよ。1週間で5,000円、シーズンレンタルで20,000円ですね。
あとは志賀高原にショップがあるのでそちらでも。でも大体翌年にみなさん自前のものを揃えちゃいますけどね。
あとは志賀高原にショップがあるのでそちらでも。でも大体翌年にみなさん自前のものを揃えちゃいますけどね。
いわゆるゲレンデのスキーレンタルが1日5,000円程度なのを考えると、良心的プライス。「普段スキーをしないから、どれくらい違うかわからない!」という人のために、簡単に表にまとめました。

次回は「うろこスキーやってみた!」編です

なので、雪が積もったころに実際にうろこスキーをどこでどうやって始めるかの「実践編」、誰もがうろこファンになってしまうというイベント「うろこざんまい」の紹介など続報をお送りしたいと思います!
▼取材協力
NORD|公式サイト