目次
テント泊登山はじめの一歩|心得編

山小屋泊と何が違う? 魅力と課題を理解しよう

道具を揃えるだけでは、テント泊は始められません。山の中で食事を作ってテントで寝るのが楽しそう、オートキャンプには慣れているから何とかなるだろうなどと、あやふやなイメージで始めると、思わぬ失敗でつらい思いをするばかりか、危険にさらされることにもなりかねません。
まずは、テント泊と山小屋泊を比較しながら、魅力と課題の両面から考えてみましょう。
■山にどっぷりと浸る感覚を味わえる
大自然のなか、薄い布に遮られただけの空間で眠り目覚める感覚は、一度味わったら忘れることはできません。同じ山の中にいても山小屋とはまったく違う世界が、そこには広がります。
■精神的な自由
一人で、または気の合った仲間とプライベートな空間で過ごす山の時間。好きな時に好きなことをして、好きなものを食べる、すべてを自分で決められる自由は、テント泊でなければ手に入りません。
■宿泊費用を節約できる
必要な道具を一度揃えてしまえば、1人1泊500円程度で泊まれることが多く、食費も自由に調整できるのでかなりの節約になります。
多くの魅力がある反面、当然リスクや代償も付きまといます。小さなミスや準備不足が、結果として安全面にまで影響を及ぼすことを、しっかりと理解しておかなくてはなりません。
山小屋泊と比較して、テント泊で注意しなくてはならないのは…
■天候の影響をダイレクトに受ける
■荷物が重くなり歩くペースが遅くなる
■とにかくやることが多い
■必要な知識や技術が増える
■道具にお金がかかる
などの要素。これらの解決なしに、安全で快適なテント泊登山は成り立たないのです。
「私、テント泊に行けますか?」 テント泊デビューの条件とは

では、何を目安に山小屋泊からテント泊にステップアップしたらいいのでしょうか? いくつかの目安となるポイントをチェックしましょう。
基本的な登山技術が身についている

常にコースタイムで歩ける

軽い荷物でさえペースが守れなければ、テント場にたどり着けない危険も。まずは日帰りや山小屋泊で、どんな条件でもコースタイムを下回らずに歩ける体力をつけることが先決です。
必要な荷物を背負える筋力がある

テント泊の荷物は、1泊2日でもおおよそ20㎏前後。地面に置いたその重さを背負ってみれば、いかに上半身の筋力が必要かを実感できるでしょう。歩いている間も、荷重を支えるために上半身の筋力への負荷がかかり続けます。
平川ガイド
▼ワンポイントアドバイス
トレイルランナーなどのスピードに自信のある人ほど、テント泊でいきなり動けなくなることがあります。日ごろ軽い荷物で登っていると、心肺機能は上がっても筋力が不足して、荷重の負荷に対応できません。ペース配分も空身のときとは違います。
テント泊登山ならではの力が必要だということを意識することを忘れずに。普段軽い荷物で歩いている人は、あえて日帰りで荷物を増やして歩く練習をおすすめします。
トレイルランナーなどのスピードに自信のある人ほど、テント泊でいきなり動けなくなることがあります。日ごろ軽い荷物で登っていると、心肺機能は上がっても筋力が不足して、荷重の負荷に対応できません。ペース配分も空身のときとは違います。
テント泊登山ならではの力が必要だということを意識することを忘れずに。普段軽い荷物で歩いている人は、あえて日帰りで荷物を増やして歩く練習をおすすめします。
このように、テント泊には魅力と同時にリスクを充分理解して、準備を怠らないことが重要です。
荷物を背負いきる体力、テント場に着くまで持ちこたえる精神力、到着後の手早く正確な段取りと設営技術など、総合的に自分に備わっているか、また不足する部分を補う努力ができるのか、自分の能力を客観的に判断する力も必要なのかもしれません。
テント泊デビューは『ステップ バイ ステップ』がマスト!
テント泊デビューには、充分な心構えと準備が必要なのがわかったところで、具体的にはどのようなことから始めればいいのかを考えていきましょう。
日帰り登山でできることがテント泊になったとたん思うようにできないことや、予想外のことが起こるのが当たり前。失敗も笑い話で済めばいいですが、何らかのトラブルでテントが張れなければ、その日は山の中で宿無しとなってしまうのです!
最初にそんな失敗をしたら、テント泊どころか、山を嫌いになってしまうかも。それどころか、無事に帰って来られる保証すらありません。

そこでぜひおすすめしたいのが、『ステップ バイ ステップ』方式。テント泊の要素を、段階を踏んでレベルを上げていくプランです。
《STEP0》
テント泊の雰囲気をつかむ

テント泊慣れした人に同行するのもいいですが、できるだけ条件のいい時に、無理なく行けて、清潔で快適なテント場を選ぶことが重要。ツアーやガイド講習などを利用するのがおすすめです。
《STEP1》
テントを張って泊まってみる

まずは、テントを張って泊まってみることから始めましょう。
自宅の庭やオートキャンプ場、交通機関から近くのテントサイトなど、何か問題があれば中止して帰れるという安心感がある場所を選びます。
テントは借り物で構いませんが、必ず事前に張り方や、必要な道具がすべて揃っているかを確認しておきましょう。季節に応じて、シュラフやマット、衣類などをどんなものが必要かを考えることが、ここでの大切な課題です。
食事は目的ではないので、レストランやコンビニを利用するなど、できるだけ簡単に済ませるようにします。
《STEP2》
バーナーとシュラフを持って
避難小屋に泊まる

無人小屋や避難小屋は、清潔で快適に使えるところが多く、できるだけ混雑のない時期を選び個人で利用するのなら、緊急避難以外の目的でも利用できます。
テントを張る必要はないので荷物を減らすことができますが、調理器具や食材を事前に準備して、自分で背負って歩かなければなりません。出発の日の昼食、夕食、次の日の朝食、昼食と行動食に飲み物など、どれだけの食材が必要でどれほどの重さと量になるのか、調理のために何が必要なのかを、実際に考えて実践することで、必要なものと不要なものを選別する力を養います。
背負って歩く体力があるのなら、レストラン並みの山ごはんを堪能するのもいいし、フリーズドライなどに絞って軽量化の工夫をするのもよし。重さと食欲のバランスを知るいい機会にもなるでしょう。
平川ガイド
▼ワンポイントアドバイス
道具は最初からすべて揃える必要はありません。ステップを踏むうちに、自分のほしい道具がわかってきたら、優先順位をつけて順に買いそろえていけばいいでしょう。
雑誌や本、ネットなどで情報を集めるのもいいですが、テント場や避難小屋などの宿泊地で、ほかの登山者に用具を選んだ理由を聞いてみてはいかがでしょうか。自分で悩みに悩んで手に入れた道具には思い入れがあり、長く使うほどいい点も悪い点もよく見えているはず。自分の道具のことを人に話したいと思っている人は、意外と多いようです。
人によって好みも価値観も違うのは当然なので、薦められたものがあなたにとっていい物とは限りませんが、生の声を聞くことは、マイナスにはならないはずです。もちろん実際に購入するときには、登山用品店で実物を見て、しっかりと説明を受けて購入するようにしてください。
道具は最初からすべて揃える必要はありません。ステップを踏むうちに、自分のほしい道具がわかってきたら、優先順位をつけて順に買いそろえていけばいいでしょう。
雑誌や本、ネットなどで情報を集めるのもいいですが、テント場や避難小屋などの宿泊地で、ほかの登山者に用具を選んだ理由を聞いてみてはいかがでしょうか。自分で悩みに悩んで手に入れた道具には思い入れがあり、長く使うほどいい点も悪い点もよく見えているはず。自分の道具のことを人に話したいと思っている人は、意外と多いようです。
人によって好みも価値観も違うのは当然なので、薦められたものがあなたにとっていい物とは限りませんが、生の声を聞くことは、マイナスにはならないはずです。もちろん実際に購入するときには、登山用品店で実物を見て、しっかりと説明を受けて購入するようにしてください。
《STEP3》
荷物を背負って日帰り登山をする

必要な装備と食料をすべて揃えてパッキングをし、日帰り登山に出かけましょう。すべて揃えるといっても、荷物の総量の重さが同じなら、中身はなんでも構いません。要は、その重量を背負っていつも歩きなれた山を歩いて、どれほどの違いがあるかを感じることが目的です。
この荷物で2日間歩き通すことが難しい、大幅にペースダウンしてしまうと感じたら、荷物を減らすか、目的の山をもっと負荷の少ないところに変更するかのどちらか。もしくは、充分な体力がつくまで、荷物を背負う練習を積むかです。
平川ガイド
▼ワンポイントアドバイス
荷物を減らすのに最初に行なうのは、食料計画の見直しです。フリーズドライなどをうまく使って、より軽い食材で充分な栄養を取れるよう工夫をしましょう。こだわりの山ごはんレシピは、体力がついて重い荷物が背負えるようになるまでお預けです。
ただし、食料以外の装備を、むやみに軽量化するのはNG。軽さを重視したテントやバックパックなどは、初心者には扱いにくく、かえって疲れやすい傾向があります。
荷物を減らすのに最初に行なうのは、食料計画の見直しです。フリーズドライなどをうまく使って、より軽い食材で充分な栄養を取れるよう工夫をしましょう。こだわりの山ごはんレシピは、体力がついて重い荷物が背負えるようになるまでお預けです。
ただし、食料以外の装備を、むやみに軽量化するのはNG。軽さを重視したテントやバックパックなどは、初心者には扱いにくく、かえって疲れやすい傾向があります。
《STEP4》
テーマを絞ったテント泊をする

例えば、山ごはんをテーマにするのなら、ピークハントにこだわらず、テント場を目的地にする、少し負荷の高い山に行くのなら、朝食と行動食だけを用意し、夕食は山小屋で予約ができるところを探すなど、メリハリをつけることで、それぞれの経験値を上げながら、安全に着実に、技術を上げることができます。
また、意識しておきたいのは、設営と撤収のスピードを上げていくこと。これをいかに短くできるかが、後々のテント泊の計画を大きく左右する、重要な要素になってきます。
《STEP5》
行き慣れた山で
1泊2日のフルコーステント泊をする

ここでのテーマはフルコース。衣食住のすべてのバランスを考えて、自炊で山頂を目指しましょう。もちろんそれぞれの体力や経験値、登山の目的によって内容はさまざま。寒がりなので多少重くても防寒着とマットは充実させる、食事は簡単でいいけれどビールは外せない、カメラを持って登りたいから、食事はすべてフリーズドライにするなど、経験を積んできたからこそできる工夫があるに違いありません。
ただし、ここで守りたいのは、必ず実力に合った、無理せず楽に登れる山を選ぶこと。何度も登ったことのある「いつもの山」が、フルコースデビューの舞台にふさわしいのです。
平川ガイド
▼ワンポイントアドバイス
少しテント泊に慣れてくると、一度にいくつのもピークを踏みたいと思うのは当然ですが、縦走のテント泊は1泊2日と比べて負担が急激に大きくなってしまいます。
そこでおすすめなのが、麓のキャンプ施設を利用した放射状登山。麓にテントを張り余分な荷物を置いて、必要なものだけを持って身軽に山頂を目指せば、重い荷物を長時間背負わずに、一度でいくつもの山を楽しむことができます。
少しテント泊に慣れてくると、一度にいくつのもピークを踏みたいと思うのは当然ですが、縦走のテント泊は1泊2日と比べて負担が急激に大きくなってしまいます。
そこでおすすめなのが、麓のキャンプ施設を利用した放射状登山。麓にテントを張り余分な荷物を置いて、必要なものだけを持って身軽に山頂を目指せば、重い荷物を長時間背負わずに、一度でいくつもの山を楽しむことができます。
《STEP∞》
さらに難易度の高いテント泊へ

もうお分かりのように、一気に複数の要素をレベルアップするのではなく、一歩ずつ着実に進みましょう。
平川ガイド
▼ワンポイントアドバイス
縦走テント泊でもっとも意識しなくてはいけないのは、時間管理です。
1泊2日なら、初日に疲れ果てて次の日寝坊したとしても、なんとか下山できればよいのですが、縦走の場合そうはいきません。
荷物の重さによる歩行スピードの低下を見越したうえで、必ず早出早着の鉄則を守ること。テント場に着いて日没までに設営と食事の準備と片付けを済ませるために、テント場に午後2時に着くことを目標に行動しましょう。
そこから逆算すると、例えば休憩を含む行動時間が8時間の山行だとすると、重荷の影響を考えて行動時間は2割増しと考えて9.8時間、午後2時に到着するためには、出発時間は午前4時、それまでに朝食と撤収を全て済ませるには、早朝2時には起床したいところ。
こう考えると、行きたい場所と行ける場所は違う、ということがよくわかるでしょう。設営や撤収のスピードが重要な理由も理解できると思います。
縦走テント泊でもっとも意識しなくてはいけないのは、時間管理です。
1泊2日なら、初日に疲れ果てて次の日寝坊したとしても、なんとか下山できればよいのですが、縦走の場合そうはいきません。

そこから逆算すると、例えば休憩を含む行動時間が8時間の山行だとすると、重荷の影響を考えて行動時間は2割増しと考えて9.8時間、午後2時に到着するためには、出発時間は午前4時、それまでに朝食と撤収を全て済ませるには、早朝2時には起床したいところ。
こう考えると、行きたい場所と行ける場所は違う、ということがよくわかるでしょう。設営や撤収のスピードが重要な理由も理解できると思います。
多くのステップを踏むのは、少しじれったい気がするかもしれませんが、ステップを飛ばして背伸びをすると、どこかに必ずしわ寄せがきます。
完璧に用意をして細かくステップを踏んだとしても、天候の悪化や予期せぬトラブルで、思い通りの行動ができないことが当然出てくるでしょう。でも、いくつもの悪条件が重なることを避ければ、ダメージも抑えられ、不安やショックも軽減できます。
小さな歩幅で一歩ずつ。さあ、勇気をもってディープな山の世界へ踏み出そう!

憧れはあっても自信が持てない……。そんな不安を解消する方法は、一歩を踏み出す勇気と、小さな歩幅で少しずつ進むこと。その向こうには、まだ見たことのない、限りなく広がる山の世界が待っています!
教えてくれた人|登山ガイド・平川陽一郎さん
