登山が好き! でもあんまり体重減らないのはナゼ?
健康的なダイエットに、運動が不可欠なのは常識です。スポーツジムで運動するのもいいですが、大好きな山歩きでダイエットできたら一石二鳥ですよね。
でも、1日中歩き続けて登りでさんざんつらい思いをしたのに、帰って体重計に乗ってみたらそれほど体重が落ちていない…と思うことが多い気がします。
山では歩いている間、行動食でエネルギー補給をしながら歩きますが、行動食の中心は、炭水化物や砂糖などの「糖質」。安全な登山には絶対に欠かせないものですが、ダイエットには大敵というイメージです。歩いても痩せないのは、もしかして行動食が原因?
武田さん、登山でダイエットできますか?
たくさん歩く分、しっかり食べなければいけない登山で、ダイエットするのは難しいのでしょうか?
トレーニングや脂肪燃焼など、目的に合わせたフィットネストレッキング「山ジム」を提唱する、登山ガイドの武田佐和子さんにお話を伺いました。
むしろ、登山ほどダイエットに向いている運動はないかもしれません!
いきなり心強い言葉! これは期待が持てそうです。具体的にどのようにすれば、登山で効率的にダイエットできるのか、じっくり教えていただきました。
POINT①ダイエットの秘訣は笑顔!?
同じ山に登るのでも、ダイエット目的とトレーニング目的とでは、登り方がまったく違います。ダイエットに必要なのは、体脂肪や内臓燃焼させる登り方。その秘訣が、『ニコニコペース』です。
話をしながら、笑顔で休まず歩き続けられるペースが大事!
脂肪を効率よく燃焼させるには、キツイ運動を短時間するのではなく、一定の心拍数を保ちながら長時間運動する有酸素運動がポイント。ダイエットに最適な心拍数の目安は
最大心拍数(220-年齢)×0.65~0.7
で計算できます。たとえば35歳の人なら、120~133の心拍数をキープして歩くと、もっとも効率よく脂肪を燃焼させられます。
最近は手ごろな値段で買える心拍計があるので、心拍数を計測しながら歩くのが一番確実ですが、もっと手軽にわかるのが「話をしながら笑顔で休まず歩き続けられる」早さ。つまり、ニコニコと笑顔で歩けるペースが、ちょうどこの最適な心拍数の目安になるのです。
逆に、
・話をするのがつらい
・つい無表情になる
・1時間くらいで休憩したい
上記のように思う場合はペースが速すぎ。どれだけキツくても、脂肪を燃やすという意味では、あまり効率的ではありません。
POINT②ダイエット向きの山に登る
山でのダイエットで重要なのは「本番の山ではやらない」ということです。がんばって登れる山、目標とする山など、自分の実力ぎりぎりの山では、精神的にも肉体的にも普段以上にエネルギーを使います。そこでダイエットをするのは、リスクも大きいし効果も期待できません。
ダイエットに必要なのはズバリ『傾斜』
日ごろハイキングをする体力がある人が、平坦な場所でどれだけ早歩きをしても、なかなか心拍数が脂肪燃焼ゾーンに到達しません。ふつうのウォーキングは、健康やリフレッシュにはとてもよいのですが、実はダイエット効果はそれほど期待できません。
ゆるい登りが30分くらい続く山がおすすめ
しかしほんの少しの傾斜があれば、すぐに理想の心拍数に達します。ダイエットには、この傾斜が重要なのです。逆に傾斜がきついと、長い時間歩き続けることができず、心拍数のコントロールも難しい。ダイエットが目的なら、手軽なハイキングしかしない人も、アルプス縦走をする人も、登山の実力にかかわらず、休まず長時間登り続けられるゆるい登りが長く続く山がベストなのです。
そんなに都合のいい山がない、という場合も大丈夫。途中に多少急な登りや階段があってキツイときにはスピードをぐっと落として、逆に平坦なところでは、スピードを上げて、ニコニコペースをうまくキープしましょう。
人通りがあり、エスケープルートのある安全な山を選ぶ
心拍数は年齢や体力で個人差があり、人とペースを合わせて歩くのは、ダイエット登山ではあまり効果的ではありません。一緒に行っても、待ち合わせ場所を決めて、それぞれのペースで登るのが理想的。そのためには、道迷いのリスクが少なく、万が一のときもリカバリーしやすい、安全な山が安心です。
東京でいうなら、高尾山などはまさに、ダイエットのためにあるような山。ひざや足への負担が心配なら、登りは歩いて、下りはケーブルカーを使うというのもあり。これなら1日に登りだけを何度も繰りかえすこともできて、ダイエットとしてはとても効率的です。
短い時間でもいいので、月1回を目標に、週に1回登れたら理想的。できるだけ登る機会を増やせば、それだけ効果が高まります!
POINT③脂肪を燃やす食べ方をする
ダイエットに関心がある人なら「糖質オフ」という言葉を知っているでしょう。炭水化物や糖分を制限するダイエット法です。
しかし、山では糖質をとらないと安全性に問題があるばかりか、糖質がないとダイエットは成功しないのです。
炭水化物は脂肪燃焼のガソリン!
ダイエットのためには、運動によって体に蓄えられた脂肪を燃焼させなくてはいけません。ところが脂肪はすぐには燃えにくく、必要なエネルギーが体内で不足すると、脂肪よりも先に骨や筋肉が先に燃えてしまい、疲労や筋肉痛を引き起こしてしまいます。
たとえば焚き火をするとき、太い薪は長時間強い火力が得られますが、なかなか火がつかないので、燃えやすい細い枝や新聞紙などを燃やして薪に火を移していきますよね。
脂肪も太い薪のようなもの。燃えやすい炭水化物がなければ、脂肪に火をつけることができません。
ニコニコペースなら普段の食事量が基本
とはいえ、やはりダイエットに食べすぎは禁物。具体的にどれくらい食べればいいのでしょうか?
あまり厳密にカロリー計算などしなくても、普段のお昼ごはんとして職場や学校に行くときに持っていく、お弁当をイメージするといいですよ。
もちろんお弁当として持っていく必要はなく、自分が普段食べる昼食と量が大きく変わらないことがポイント。いろいろな行動食を食べると全体量がつかみにくくて必要以上に食べてしまうことがあるので、行動食の全体がお弁当の量になるようイメージして、これをベースに体調やおなかのすき具合をみて調整をしましょう。
ちょこちょこ食べて脂肪を燃やし続ける
普段おにぎりを2個食べるなら、小さめのものを4個にする、同じものなら小さいサイズを選ぶなどの工夫が大事。これらはいずれもちょこちょこ食べられるようにするためです。
量は普段の昼食と同じですが、食べ方はまったく違います。炭水化物は体の中に蓄えられる量が少ないので、行動中に小分けに何度も食べて、体内で枯渇しないようにしなければなりません。
また一度に食べると、血液が消化のために集中して使われるため、運動中はできるだけ筋肉などに血液が回るよう、ちょこちょこ食べることはとても大切なのです。
バランスよく消化のいいものを食べる
食べるものも普段の食事と同じで構いません。炭水化物やたんぱく質、ビタミンなどをバランスよく、できるだけ胃に負担をかけない、食べやすくて消化のよいものを選びましょう。日帰りの登山なら、特に荷物を軽量化する必要もないので、エナジーバーやパワージェルのような、特別なものである必要もありません。
山から戻った後の食事にも気をつける
ニコニコペースの登山なら、それほどダメージはないはずですが、登山経験や体調などによっては疲労感を感じることもあります。そのような場合は、下山後すぐ200kcalを目安にリカバリーのため栄養補給をしましょう。ポイントは、炭水化物とたんぱく質を2対1の割合でとること。鮭のおにぎりなどがおすすめです。
ただし、今日はたくさん歩いたからと油断して、下山後にいろいろ買い食いをしたり、帰りの電車でおやつを食べたりしていては、ダイエットは達成できません。ここは目的意識をしっかり持って、誘惑に打ち勝ちましょう!
やっぱり山好きはダイエットに有利!
年齢などによって異なりますが、おおまかな目安として、1kgの体脂肪を減らすために必要な消費カロリーは9000 kcal。平地のウォーキングでは、30分でだいたい自分の体重分のカロリーが消費されるので、たとえば50kgの人なら、1時間歩いても100 kcal。ダイエットにはかなりの時間がかかります。
それだけの時間、街中を歩くのは飽きてしまいそうですが、山なら自然と長い時間歩けるし、苦痛どころか楽しくリフレッシュができて、充実した時間が過ごせます。しかも、平地よりもはるかに効率的にカロリーが消費できるのだから、山でダイエットしない手はありません。
ただし、一度山に登ったからといって、即ダイエット効果が得られるわけではありません。「下山後に1kg体重が減った!」というのは、ほとんどが脂肪ではなく水分が減った結果。ダイエットに即効性がないことも覚えておきましょう。
体重45kgの人が5 kgの荷物を背負った場合:1.237Kcal(日本アルプス登山ルートガイドより)
「早すぎず、急すぎず、食べ過ぎず」が登山ダイエットの3カ条
体重が減ると、自分の体を持ち上げるのが楽になり、ひざなどへの負担が減って痛みが軽減されるなど、登山がもっと楽しくなります。また登山のダイエットをするうちに、少しずつ筋力や体力アップにもつながって、より痩せやすい体がつくれます。
夏の登山シーズンに向けて、ちょうど今がスタートのチャンス。基本を守り正しい方法で、無理をせず安全に、登山でダイエットを成功させましょう!
登山のダイエットを正しく学びたい、トレーニングでさらに体力をアップしたいなら「山ジム」がおすすめ
今回ダイエットについて教えていただいた、武田佐和子さんが主宰する「TRACE」では、自然の環境を利用して、強く美しく身体を整えていくセミパーソナル(少人数制)トレーニングを実施しています。ダイエット目的なら、最初は『山ジム Light(4時間程度)』からの参加がおすすめ。それぞれの体力や経験に合わせたペースで、効率のよいダイエット法を学べます。軽やかな体を手に入れて、山のステップアップを目指しましょう!
TRACEが編集を担当した「山ジム」に関する書籍も発売中。
山で痩せるメカニズムや、登山に役立つ食べ方も詳しく解説されています。
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