遭難事故の多い旭岳。なぜ?どこで?実際の事故原因から学ぶ対策方法

北海道最高峰の旭岳。日本百名山にも名を連ねる大雪山の中の一座です。麓から1,600m付近までロープウェイが完備されており、観光客も多い旭岳ですが、実は遭難による死亡者も出ている山。「自分は大丈夫!」その考えが北海道の山では危険です。今回は、旭岳に登るときの注意点から対策まで、事前にかならずチェックしておいて欲しいポイントを紹介します。遭難対策をしっかり行い、安全に登山を楽しみましょう。


撮影:YAMAHACK編集部

初心者も多い旭岳。実は遭難事故が多発!

大雪山の主峰にして北海道の最高峰でもある旭岳は標高2,290m。ロープウェイでアクセスできることから、登山者や多くの観光客が訪れる人気の山です。しかし、実は遭難事故が多い山でもあります。

2015年6月上旬 家族で登山を楽しんでいた2名が遭難

出典:PIXTA(※画像はイメージです)

日帰り予定で下山中に、ガスと強風のため2人が別々に。それぞれの姿が 目視も出来ず、声も届かない状況に陥り、別々に警察へ携帯電話で救助要請。1名は警察からの指示により同日中に自力下山。 翌日、自衛隊捜索隊が金庫岩から地獄谷へ降りてしまった1名を双眼鏡で発見。 警察経由で救助ヘリへ情報を伝え、ヘリにてピックアップ。生還した。

情報提供:jRO日本山岳救助機構

2016年1月下旬 単独登山の男性が遭難。7月に死亡した状態で発見

出典:PIXTA(※画像はイメージです)

下山予定日になっても帰らないと家族が通報。登山届も出され、冬山装備もしっかりと持ち、 雪中の幕営準備もしていた。 捜索開始日天候悪化により捜索はいったん打ち切り、翌日朝に再開する。自衛隊も出動したが発見できず。 入山日に旭岳山頂での目撃情報があったため、ヘリで捜索し、旭岳頂上付近にテントを発見。登山用具等も残置されていたが本人を発見できなかった。捜索出動も数次にわたったが発見できなかった。その後の降雪により痕跡も全く消えてしまったので、雪解けを待つことにした。 捜索再開を準備中、7月中旬に登山者により旭岳7合目付近にて発見される。

情報提供:jRO日本山岳救助機構

2017年10月 外国人含む男女4名が遭難

出典:PIXTA(※画像はイメージです)
また2017年10月にも、外国人を含む4名が天候悪化で道に迷い遭難。翌日救出される、という遭難事故が実際に発生しています。

【旭岳遭難の原因①:道迷い】道標もあるのに?!

旭岳は標高1,600m付近までロープウェイで一気に登れるため、山頂まですぐに行ける!と軽い気持ちでの登山する人も多い山。しかし実際の遭難原因1位は”道迷い”
「私は大丈夫!」「今日は晴れ予報だから軽装備でいいよね。」…その考えが危険なんです。

旭岳は山頂までほぼ一本道の登山道

出典:ヤマプラ
地図上では、本格的な登山道が始まる姿見ノ池から山頂までは、ほぼ一直線のわかりやすい登山道。距離にして約2kmです。
提供:ヤマレコ/pinkDJEBEL(晴れた日の旭岳登山道)
森林限界を超えほとんど樹木がないため、晴れている日は見通しが良く雄大な景色を眺めながらの登山が楽しめます。少し歩きにくい場所もありますが、登山道の両脇にはロープが張られている個所もあり、道迷いのリスクはなさそうに思えます。

天気が崩れると一転、少し先も見えない状態に

提供:ヤマレコ/mikuri(霧が発生した旭岳登山道)
しかし、天候が崩れ霧などが発生すると、先ほどの晴天時とは一転。辺り一面真っ白で視界がなくなり、少し離れると同行者の姿も見えなくなるほどの視界不良に。障害物がほとんどないため、方向感覚もなくなります。

提供:ヤマレコ/Qtaro(左:金庫岩、右:ニセ金庫岩
稜線上には、山頂に近い道標として「金庫岩」という大岩があります。しかし、近くに「ニセ金庫岩」と呼ばれる金庫岩によく似た大岩があり、目印に間違えてしまう人も多数。過去には見間違えによる遭難事故も起こっています。非常に間違えやすい箇所のため、ニセ金庫岩のあたりにはロープが張られていますが、天気が悪い時には特に注意が必要です。

【旭岳遭難の原因②:低体温症】夏でも凍死の可能性が!



夏の旭岳
出典:PIXTA(夏の旭岳)
旭岳では夏でも雪が残る事が珍しくなく、時には氷点下になることすらあります。猛暑となる本州とは全く違った気候であることに注意しましょう。8月下旬には紅葉がはじまり、9月下旬には雪が降りだします。やがて12月~5月までの長い期間、雪に閉ざされた冬シーズンとなります。

同じ2,000m級の山でも本州とは気温が違う!


出典:左/ヤマレコ(旭岳の気温)、右/ヤマレコ(槍ヶ岳の気温)(※画像をクリックすると大きい画像が見られます)
2,290mの旭岳(北海道)と、3,180m槍ヶ岳(長野県・岐阜県)の気温を比較してみました。 見ていただきたいのが、真夏8月の気温。何と標高が1,000m近くも違うのに、最低気温が同じ4.6℃。 北海道は緯度が高いため、道内2,000m級の山の気候が、本州3,000m級の山の気候に匹敵すると言われています。

山では『標高差による気温の低下・風による体感温度の低下』

気温の違い
作成:YAMAHACK編集部
山では、標高が100m上がると気温が-0.6℃低下、さらに風速1mの風が吹くと体感温度が-1℃下がるといわれています。標高2,290mの旭岳の場合、麓と山頂では約13℃もの気温差。さらに風速5m/sの風が吹いた場合、体感温度がそこから5℃下がります。結果的に約20℃もの気温差が出る事になるため、たとえ真夏であっても防寒対策が必要なのです。

気象庁 風の強さと吹き方を加工して作成(※画像をクリックすると大きい画像が見られます)
登山道上に樹木などの障害物がほとんどない旭岳では、山頂や稜線部でかなり強い風が吹くことも多く、強い時には風速20m/s近い強風となる場合も。強風は気温にプラスして体温をさらに奪うため、真夏でも低体温症になる危険性があります。

低体温症って…?

低体温症とは、人間の生命維持に必要な器官の温度(深部体温)が35℃以下に下がった状態のこと。低体温症になると、最初に「寒気」と「全身的震え」が自覚症状として現れます。その後、早い段階で意識障害が生じ、筋肉硬直、呼吸や脈拍が弱くなりやがて死に至るのです。同じ北海道のトムラウシ山では、2009年7月という夏の時期に、低体温症によって8名が亡くなる悲しい遭難事故が起こっています。

▼低体温症のリスクを知ろう

遭難しないために、最低限注意したいこと

ちょっとした判断ミスや準備不足によって遭難は発生します。そんな万が一の事態を引き起こさないために、最低限注意したいことを考えてみましょう。

天気が悪い日は登山延期する判断も!

出典:PIXTA
山の天気と麓の天気とは違います。入山前に気象情報を確認するとともに、天候は変わりやすいためその変化に気を配り臨機応変に対応しましょう。また、天気と併せて風速もチェック!

▼山の天気は「山専用」の天気予報

【旭岳遭難の原因①:道迷い】の対策は?

①GPSの地図アプリ・充電バッテリーを持参しましょう!
携帯電話と充電器
出典:PIXTA
ネット環境のある場所で事前に地図をダウンロードし、山の中ではオフライン(機内モード)にしてGPSで現在地を把握する登山用GPS地図アプリ。現在地を正確に把握することが出来るため、道迷い防止に最適です。また携帯電話の電池切れを防ぐため、充電バッテリーも必ず持参しましょう。

▼GPSアプリはとっても便利!

▼「もしも」に備えたココヘリもおすすめ

②余裕を持った山行計画を!登山計画書は必ず提出!
旭岳
出典:PIXTA
登山を計画する際には技術や経験に応じた山を選ぶことが基本。無理のない登山計画書を作成したら、家族と最寄りの警察署などに提出します。北海道警察署のホームページからメールでの提出もOK。万が一遭難してしまった場合に、捜索のヒントとなり早期発見につながるため提出は必須です。
北海道警察オンライン登山計画書届出
▼登山計画書は必ず提出を!緊急時に大事な情報です

【旭岳遭難の原因②:低体温症】の対策は?

装備は万全?油断が禁物!
出典:PIXTA
日帰り登山だからといって、ツェルトやヘッドライト、防寒着などの準備を怠るのは禁物。北海道の山は、麓からの行程が長く、本州より寒くそして整備された山小屋がほとんどありません。必ず装備は万全にして出かけましょう。

▼忘れ物はない?登山装備をチェック

もし、遭難してしまったら?!

どんなに気をつけていても不測の事態は起こりうるもの。もし、遭難してしまったらとにかく焦らず落ち着いて対応しましょう。冷静に行動するためにも、万が一の時の対処法を知っておくことが大切!

①無理に下らない

沢などにに落ちてしまう可能性があるため、無理に下らないよう要注意。その場にジッとしておくか、動けるなら上に登って見つけやすいところに行きましょう。

②体温の確保をしよう

遭難者の死亡例で多いのが「低体温症」。体力を消耗している状態であれば、なおさら危険性は高まります。体を温める時は、特に「心臓」「頭部」「首」を保温しましょう。特に頭部は50%~80%の放熱があるといわれているので、優先して温めるようにしてください。寒いと感じたら服を着込む、ウェアが濡れていたら着替えるなど、小さなことが生死に関わるのでしっかりと対処しましょう。

③冷静に救助を呼ぼう

電波がある場合は警察や消防に救助要請をしたり、携帯の電源を入れておくとGPS機能で捜すこともできます。
▼少しの差が命に関わる!セルフレスキューの重要性

▼道に迷ったとき、どうしたらいい?

しっかり準備して旭岳を楽しもう!

旭岳
出典:PIXTA
夏でも残雪があり本州とは違った登山を楽しめる旭岳。魅力いっぱいの反面、自然の険しさも併せ持っています。しっかりと計画&準備をして、万が一の場合も考慮しつつ、雄大な北海道での登山を楽しみましょう!

【登山時の注意点】
・登山にはしっかりとした装備と充分なトレーニングをしたうえで入山して下さい。(足首まである登山靴、厚手の靴下、雨具上下、防寒具、ヘッドランプ、帽子、ザック、速乾性の衣類、食料、水など。)
・登山路も複数あり分岐も多くあるので地図・コンパスも必携。
・もしものためにも登山届と山岳保険を忘れずに!
・紹介したコースは、登山経験や体力、天候などによって難易度が変わります。あくまでも参考とし、ご自身の体力に合わせた無理のない計画を立てて登山を楽しんで下さい。



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高橋 典子
高橋 典子

ハイクとキャンプをこよなく愛するフリーライター、高橋です。次はどこに行こうか地図を眺めるのが日課。人生のモットーは自由であること!

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