「だから安定のミッドカットを選択!」ではなく……

振り返ってみると、これまで私が長谷川カメラマンと一緒に登った山行で、後半にフラついたり、尻もちをつくことが何度かありました。そしてこのミッドカットシューズとローカットシューズの履き比べテスト登山の際も、ミッドカットシューズを履いているときに、下りで尻もちをついていました。
長谷川カメラマンに限らず、登山の経験値が浅いハイカーは、街での平坦な舗装路での歩き方のまま、山で歩いている人が多いのです。カカト着地で、ドスンドスンと広めの歩幅で歩いています。
しかし山の歩き方は、歩幅を狭め、地面に対してフラットに着地させることが基本です。

足首のサポート力の高いミッドカットシューズで、ドスンドスンと広めの歩幅で歩いていると、靴ズレも起きやすい。
実際、長谷川カメラマンは、新品のトレッキングシューズだったという影響もありますが、内くるぶし部分がシューズと干渉、靴ズレになってしまいました。
ちなみに、同様の新品シューズでテストした私は、靴ズレの気配さえありませんでした。
やはり、歩き方の違いが大きく影響していると推測できます。
ローカットシューズで歩き方を修得してみよう!

前述の通り、足首の可動域が制限=サポートされるミッドカットシューズなら、山の歩き方の基本、歩幅を狭め、地面に対してフラットに着地させることができます。
だから、「安定した歩行が可能なミッドカットシューズを選択する」というのが、初めてのトレッキングシューズ選びの正解です。
でも、そもそも山の歩き方の基本が身に付いていなければ、ミッドカットシューズであっても、ローカットシューズであっても、行動時間が長くなるほど疲労は増し、結果的に尻もちをついたり、靴ズレが起きることを防げません。

そこで、提案です。
動きが矯正されるミッドカットシューズではなく、あえて自由度の高い、ローカットシューズで歩き方を見直してみては!
その方法は、意識して足裏をフラットに着地させようとするのではなく、ただ静かに、そっと足を踏み出すだけです。
上の連続写真は、「足裏をフラットに着地させてみて!」というアドバイスを長谷川カメラマンが実行したものです。
正直、ぎこちない歩き方です。長年、歩き方を意識していないので、突然「足裏をフラットに!」と言われると、動きがぎくしゃくしてしまいます。このまま長い距離、時間を歩くことはできません。

果たして、私はどうやってフラットな着地を覚えたのかを思い返してみました。
それが、「静かに、そっと歩く」ことでした。
長谷川カメラマンに「そっと歩いてみて!」と言って実行してもらったのが、上の連続写真です。
静かにそっと歩こうとすると、必然的に歩幅は狭まり、足裏の前足部や中足部からの着地、つまりフラットめの着地になります。足裏をフラットに着地させようと意識するとぎこちない歩き方になりがちですが、そっと歩くだけなら、ぎこちなさは出てきません。
上の連続写真では平坦路ですが、この静かにそっと歩くという意識だけを持って下ってみれば、カカト着地でドスンドスンとはならず、前足部から着地。重心も後ろに残らず、シューズのグリップが効き、尻もちをつきにくくなります。
歩き方を変えるだけではなく、筋肉もつける

でも、静かにそっと歩く意識を持つだけでよいなら、ミッドカットシューズでもよいのでは?と思うでしょう。
私の経験を踏まえると、ミッドカットシューズは、足首のサポートによって歩き方が矯正されてラクをしている分、フラット着地の歩き方に必要な筋肉がつきにくい。
足首が自由で不安定なローカットシューズの方が、バランスを取るための運動負荷が強いので、筋肉がつきやすい。
だから同じ距離、時間を静かにそっと歩いた場合、ローカットシューズの方が、正しい歩き方を修得しやすいのです。

ただし、少しずつ慣らしていかないと運動負荷が強い分、疲労も大きく、ケガをする可能性があります。ウォーキングや里山、低山ハイクで短い距離からローカットシューズでの静かにそっと歩く実践を積み、足づくりをしてみてください。
歩き方に慣れてきたと感じたら、少し高い山、長めの距離を歩いてみて、最後にミッドカットシューズを履いて登山をしてみてください。
きっと「あれっ!」と、自分の歩きの安定感の違いに驚くと思います。
「あぁ、やっぱりミッドカットシューズは安定感が高いなぁ」とも思うでしょう。しかし、それは自分の足の安定感がアップした結果です。

登山ハウツー企画の多くで、山の歩き方の解説がされていますが、フラットな着地を意識して歩くべきだと頭ではわかっていても、実行することは簡単ではありません。だからまずは、山の基本的な歩き方ができるように、ローカットシューズで足の筋肉をつけるトレーニングをすることを提案します。
頻繁に山に行くことができなければ、普段の生活のなかで実践してみてください。階段の上り下り等で、登山を想像して静かに歩く、そっと足を踏み出す。それだけでも、かなり違ってきます!
足の筋肉、カラダが変われば、歩き方も自然に変わります!
是非!!
テストに使用したシューズは、登山にぴったりOnのアウトドアモデル

さて、最後に今回テストで使用したシューズを紹介。スイスのブランド『On』のアウトドアモデルです。
左:クラウドロック ウォータープルーフ(旧モデル)
右:クラウドベンチャー ウォータープルーフ(旧モデル)

どちらも峻険なスイスアルプスでテストを繰り返し、ミッドソールにはOnを象徴する世界特許技術の中空パーツ「CloudTec®」を採用。高いクッション性と反発力を備え、同社の独自素材「Missiongrip®」が、トレイルで確実な足取りを提供するでしょう。また防水透湿素材も備えているので、雨天時のハイクも安心です。
それでは皆さん、よい山旅を!
