アウトドア好きが注目するスイスブランドの<On>
スイス発のパフォーマンスブランド<On(オン)>。2010年に誕生して間もなく、同社契約のアスリートがアイアンマン世界選手権で優勝し、世界のトライアスリートがこの新興シューズブランドに注目をしました。
独特なデザインとカラーリングも評判。日本ではロード&トレイルランナーはもちろん、ULハイカーやアウトドア好きのサイクリストやお洒落キャンパーなど、道具好きが多く愛用しています。
その<On>を象徴する機能、そしてデザインにもなっているのが、チューブを切り取ったような中空構造のミッドソール「Cloudtec(クラウドテック)」です。
「雲の上の走り」を具現化した独自のクッション機能
「クラウドテック」は、例えれば、足裏にいくつも並べられたマシュマロのようなもの。荷重が掛かると圧力を受け止めるようにぐにゃりと潰れ、さらに元の形へと戻る反発力を活かし、推進力として身体を前へ押し進めてくれるクッショニングシステムです。
既存のシューズにはない高いクッション性と推進力を得られるそのシューズを、<On>は「雲の上の走り」と表現しています。全シューズ名が「Cloud(雲)」から始まるのは、その機能とアイデアに対する自信の表れといえます。
そんな<On>から、2021年8月、トレイルランニングシューズ「クラウドベンチャー」が発売されました。
On定番の「クラウドベンチャー」が進化して登場

重量310gは、トレイルランニングシューズとしては標準的なスペック。しかし、ゴテゴテとサポートパーツが配されがちなトレッキングシューズやトレイルランニングシューズとは異なり、アッパーはすっきり。ソールのクラウドテックの凸凹形状が、アウトドアシューズの雰囲気を醸し出しています。
その「クラウドベンチャー」を、秋に彩られるちょっと手前の南八ヶ岳縦走で使用。装備される特長の解説を、テストしてわかったレビューを交えて、以下にまとめました!
アップデートされた特長は大きく3つ!
①クッション素材「ヘリオン」|低温時でもソフトなクッション性を発揮
今回ミッドソールに採用されたクッション素材「ヘリオン」は、衝撃吸収性の高さを誇るだけの素材ではないようです。
クッション素材の多くは、長期間衝撃を受け続けていると、その力を失い、硬くなってしまいます。また気温が低い中でも同様に硬くなり、衝撃吸収性が低下してしまいます。
しかし「ヘリオン」は、耐久性と温度耐性の高さが特性です。
長期間、そして山の低温下で使用しても、ヘタらず、硬くならず、ソフトなままで衝撃を受け止めてくれる素材だといいます。

また2日目は10時間近くのハイクだったのですが、クッションが弱まった感じもナシ!最後まで足にやさしいシューズでした。
②足型プレート「スピードボード」|足裏の動きは自然のままに捻じれを予防
トレッキングシューズは、足裏の動きをある程度制限して、ベタ足で進むことで荷重を分散させるシューズです。
一方でトレイルランニングシューズの多くは、疲労の原因となる足のねじれを一定程度抑えてサポート。走るためのシューズなので、足の動きの制限は最低限。
いやむしろ、足が本来持っている力を活かすために、より自然に動かしやすい構造になっています。
その役割を担っているのが、ミッドソールに配された「プレート」と呼ばれる、反発力に長けた薄い板バネです。
「クラウドベンチャー」に搭載されたプレートは、土踏まず付近が細く屈曲しやすい上に、前足部はY字に2つに枝分かれした形状になっています。
近年多くのランニングシューズブランドが、同様の枝分かれプレートを採用していますが、「クラウドベンチャー」に搭載された「スリングショット スピードボード」というプレートは、ねじれを防いで足裏をサポートしつつ、自然な動きを可能にしています。

また下りはプレートの反発力が加わり、足さばきも普段よりよくなっている気がしました。これは<On>の特長である「クラウドテック」の中空パーツの反発力とともに、より前進力を高めるものです。
③アウトソール「ミッショングリップ」|抜群のグリップ力で岩場や下りも安定
長時間、長距離を歩くトレッキングシューズは、アウトソールが削れないように一定の硬さが必要です。また柔らかいトレイルの歩行では、硬いアウトソールはグリップ力が弱いので、滑り止めのための溝が刻まれています。
一方、壁を登るクライミングシューズは、歩くための耐久性は必要なく、グリップ力の高いソフトな素材をアウトソールに採用しています。そして硬く、滑らかな岩にピタッと吸い付き、摩擦力を得るため、溝は刻まずフラット。接地面を大きくしています。
でも、ソフトな素材は舗装路などで履くと、ソールが早く削れてしまうという難点があります。
硬いとグリップ力が弱く、グリップ力を求めてソフトにすると、耐久性が低下……そこで、トレッキングシューズやトレイルランニングシューズは、アウトソールの硬軟、溝をどのように配置するかで、グリップ力と耐久性のバランスのよさに工夫を凝らしています。
「クラウドベンチャー」は、そのバランスをまさに高次元で融合していると評価できるものです。
トレッキングシューズよりも粘りがあり、クライミングシューズよりも耐久性に長けた素材を搭載。素材のグリップ力に加えて、あらゆる路面に対応する複数のトレッドパターンを採用しています。
上の写真でわかる通り、足裏の外周部分に地面を捉える大きめの突起を配置。これにより横滑りも抑制。前足部中央は小さめの突起で、力を地面に伝えやすくし、確実性を向上。
それぞれの突起には、接地面積を広く保つ平らなパターンを。それを囲むように、濡れた岩や緩んだトレイルでグリップ力をサポートする、3D形状の細かな三角形のパターンを追加しています。仕事が細かい!

またガレ場や垂直にも思える岩場の登り下りともに、安定感がありました。特に赤岳から権現岳間は、緊張を強いられる状況が続きましたが、ズルッと行かず、最悪でズッくらいで踏ん張ってくれることで、体力、気力を保てました。
1泊2日、距離24km、移動時間14時間で感じたこと
さて今回の「クラウドベンチャー」のテストは、1日目に麦草峠から高見石、東天狗岳を経てオーレン小屋まで。2日目にオーレン小屋から硫黄岳、横岳、赤岳、権現岳を経て観音平へと、南八ヶ岳を縦走で行ないました。距離24km、移動時間は撮影込みで14時間でした。
オーレン小屋はコロナ対策で寝袋持参の宿泊、カメラ機材やその他撮影用のアイテムを装備したので、夏のテント泊と変わらない10キロちょっとの装備を背負って、下りは小走りするファストハイクを試みました。
いつもと同じペースなのに、疲労が軽い!
すべての行程を終えて気がついたのは、いつもよりも足や身体のダメージが小さいことでした。ペースはコースタイムの8割程度。撮影時間込みで、コースタイムとほぼ同じだったので、いつもと変わらないペースです。
ということは、「クラウドベンチャー」が足への衝撃、疲労を抑制してくれたのだと思います。
<On>のシューズに搭載されるクッショニングシステム「クラウドテック」は、運動消費エネルギーを抑制するとカタログでは解説されています。「クラウドベンチャー」では、さらにクッション素材、プレート、アウトソールのパターンが変わり、既存モデル以上に、必要なエネルギー消費が減少。疲労が軽く済んだのでしょう。
同じ距離を同じペースで移動しても、いつもより足と身体に余裕があるということは、それだけハイクの安全性はアップするということ。このシューズ、私にとっては今後のハイクでも履いて行きたい、有効な武器です!
ミッドソール前足部にもう少し厚みがあるといいかも・・・
ただし、よいことばかりではなく、不具合もひとつだけありました。
それは、2日目の後半、足裏の拇指球部分に軽くマメができたこと。10キロのバックパックを背負って岩稜帯の急斜面を歩くには、「クラウドベンチャー」の前足部のミッドソールの厚みが、やや足りていなかったからではないかと感じています。
とはいえ中空パーツが潰れて衝撃を吸収しながらも、地面の凸凹を認識できる前足部の薄さは、足裏感覚につながり、緩やかな斜面ではトレイル状況を判断し、次の一歩をどのように出すかを決めるのに役立ちます。これは、ソールの硬いトレッキングシューズや最近流行りの厚底シューズでは感じにくい情報です。
「足裏感覚」と「ソールの硬さや厚さ」のどちらを選択するかといえば、私はテント泊山行でもローカットシューズを足さばきのよさを重視して履いているので、足裏感覚を選択します。
それに改善策もあります。私の山での歩き方、走り方が前足部着地なので、カカト着地や足裏全体での着地を意識すれば、大きな中空パーツがしっかりとクッションになり、問題にはならないでしょう。
また、このシューズを履くのがこの時が2回目。まだシューズに足が馴染んでいなかったことも原因といえます。
ワイズに悩んでいるハイカーにもオススメ!
最後に、サイズ感をお伝えします。
私の足は、横幅の狭いシューズや、第五指(足の小指)の外側に樹脂製のガードが配されてアッパーがそこだけ伸びないシューズだと、長時間履いている中で、痛みが出てきます。
<On>はスイス、つまり欧米のメーカー。「クラウドベンチャー」は見た目がシュッとしていて横幅が細く見えます。きっと長時間履いていると痛みが出るんだろうなぁ……と想像していました。
しかし、横幅はそれほど狭くなく、10時間履いても痛みは出ませんでした。アッパーの生地がフィットしながらよく伸び、ブレもなく、包み込んでくれたのです。
それにこのアッパー、2層構造のエンジニアードメッシュだからなのか、ムレないけれどシングルメッシュのアッパーのような気温が低いとスースーする感じが少なく、対応するシーズンやフィールドが幅広いように思えました。
もし、雪のない真冬の低山ハイクや雨の可能性があるハイクで履くなら、「クラウドベンチャー」にストレッチする防水透湿素材を採用した「クラウドベンチャー ウォータープルーフ」が用意されているので、そちらを選ぶとよいです。
自然な足の動きを重視し、確実性のある足さばき、疲労の軽い「クラウドベンチャー」。一度試してみれば、
「あれ、なんだか動きやすいぞ!」と思えるシューズです。
それでは、みなさんよい山旅を!
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