足が本来持つチカラを引き出す“ナチュラル系”トレッキングブーツ
登山中に、ランニング用のサンダルで走るランナーを見かけたことはありませんか?
あれは2009年に発売されアメリカでベストセラーとなった書籍『BORN TO RUN』に登場する、古タイヤの切れ端に紐を通した簡素なサンダルでトレイルレースを走るメキシコのタラウマラ族に影響を受けたもの。
「barefoot=裸足に近いスタイルで走る方が、足が本来備えている力を発揮でき、さらにはケガを予防できるとする考え」に基づいて作られた、いわゆるベアフットサンダルです。
間もなく、裸足感覚を残しつつ、岩や木に足をぶつけてケガをしないようなベアフットシューズが登場し、多くのトレイルランナーが愛用。さらに近年はトレッキングブーツにも、足を最低限サポートしながら裸足感覚で足指を動かせるモデルが登場してきています。
そんな自然な足の動きを可能にするトレッキングブーツが、“ナチュラル系”トレッキングブーツです。
一般的なトレッキングブーツとはココが違う!
“ナチュラル系”の何がよいのか?
筆者は、ナチュラル系トレッキングブーツよりも、もっと裸足感覚に近いベアフットシューズを10年近く愛用しています。
その経験からナチュラル系とベアフットシューズを比べると、ベアフットシューズはソールが薄く、慣れないと長時間歩行はひどく疲れます。凸凹したトレイルでは、足ツボマッサージを受けているような苦行状態になることも。
一方ナチュラル系は、薄いソールのものは硬めのプレートを使用しており、突き上げを軽減。またクッションをしっかり装備したモデルもあり、自然な歩行ができるのに長時間歩行にも対応。ペラペラなソールのベアフットシューズと、ゴツいソールの一般的なトレッキングブーツの間に位置するシューズです。
そしてナチュラル系は、サポート性がありながら、、足指を自在に動かせる裸足のような感覚がとてもキモチがいい!!のです。
さらに、足指が動かせると、足を踏み出した感覚、足裏を移動する重心、使われている筋肉の動きに敏感になれます。
そうすると、足をドスンと踏み出していることに気が付いたり、重心の位置によって足の動きが変わることがわかったり、疲れにくい歩き方を想像するようになるから不思議です。
冒頭で、「barefoot=裸足に近いスタイルで走る方が、足が本来備えている力を発揮でき、さらにはケガを予防できるとする考え」と紹介しましたが、裸足だから足の力を発揮でき、ケガを予防できるのではありません。
ダイレクトに地面と接触する裸足だから、ケガをしないような動き方、動かし方を考えたり、想像したり、工夫することで、足の機能を知り、ケガをしにくく、疲れにくい、野山に対応した歩き方を身に付けられるのです。
つまり、普段、頑丈なトレッキングブーツに守られて雑になっていた足の使い方を、裸足に近い繊細な使い方に戻すのが、ナチュラル系トレッキングブーツのよいところです。
ナチュラル系トレッキングブーツ3足を履き比べてみた!
最近ではナチュラル系トレッキングブーツが増えてきていますが、山歩きでの履き心地が気になるところ。そこで今回は、代表的な3ブランドのブーツを実際に履いてみました。
試したのはこの3足
総評から言ってしまうと、三者三様、それぞれにまったく違う性格で、どれも履いていて楽しい!一般的なトレッキングブーツにも、ベアフットシューズにもない、“新しい履き心地”を備えていました。
【1】裸足感覚一歩手前を具現化「ロックライト286GTX」
トレランで人気のブランドらしさも感じる
深さ6mmあるラグは、土をよく掴み、濡れた路面でも安心感がありました。今回試した3モデル中でもっとも柔らかいソールですが、グリップが効いて歩きやさは◎。トレイルランニングシューズで知られるブランドだけに、長時間移動に必要な機能性をしっかりと捉えていると感じました。
シューホールはフック等を採用せず、小さな穴のみ。履き口もやや狭く、着脱に手こずる反面、一度シューレースを締め込むと、緩みにくく、細かなフィット感の調節も可能。シューレースは細いのでよく締まり、ほどける可能性が低いのも好感です。
甲高に対応した新しい木型を採用したそうですが、ワイズはやや細め。10km以上履いて歩いてもアッパーに足が包まれている感覚があって、横ブレしません。ワイズは細いけれども、痛みが出るようなこともありませんでした。
なによりルックスが細身でクール。カラーもシック。山っぽくないトレッキングブーツを探している人にも、強くおすすめです!
inov-8|ROCLITE 286 GTX CD U
【2】軽い履き心地とダイレクト感がユニーク「エクスカージョン」
自然とソフトな歩き方に!
ラグの高さは4mm。このラグパターン以上に、アウトソールの素材がグリップ力を生んでいるように感じます。薄くクッションのないアウトソールなので、自然と歩幅が狭まり、ソフトな着地に。そうして、足裏全体をしっかりと使うようになり、グリップの効く歩き方になっていきます。
シューホールの上2つは金属製のフック。太いシューレースは締め込みやすく、ほどきやすく、しかしゆるむこともありませんでした。ただし上2つのフックの位置が近く、太いシューレースを回すのが少し煩わしく感じました。
履き口にクッションはほとんどありませんが、ベロには厚めのクッションを採用。締め込みの圧力を分散してくれます。
つま先部分は丸みを帯びてワイド。足指の自由度は、かなり高いです。シューレースと連動したサイドとカカト部分のストラップが効果的で、ほとんどクッションのない履き口周辺のフィット性を上げています。
アッパーの素材はやや硬く、足指の付け根部分に配された補強素材の当たりがやや気になりますが、履いていると馴染んできて気にならなくなります。
なにより裸足感覚を体験したいハイカーは、コレに限ります!
XERO SHOES|XCURSIN</aXERO SHOES|W’s XCURSIN
【3】極上のクッションとロードロップを融合「トレイルベンチャーWP」
アウトソールはメガグリップで安心
アウトソールは、ビブラムのメガグリップを採用。ワイドなブーツ形状と相まって、グリップ力は秀逸そのものです。
ただアウトソール厚底で歩行感のフワフワに対して硬め。しかもワイドなソールだからか、岩場等の場所で最初はバランスの取りにくさを感じました。慣れれば問題ないのですが、慣らし履きは必要そうです。
シューホールはループと金属製のフックを採用。上から2段目のフックは、締め込んだシューレースを甲部分でロックすることが可能。この機能はかなり効果的で、歩行中にレースがゆるむこともなく、好みの締め込み加減に調整することができます。
今回は雨の中のテストはできませんでしたが、ブーツ全体にeVent社の防水透湿素材のインナーブーティーを備えた構造で、雨の日の快適性も高そうです。
厚底なので足裏感覚は少ないですが、ゆったりとルーミーなつま先で足指の自在感は最高。さらにロードロップ+厚底といった構成は、これからの時代のトレッキングブーツの方向性を示しているようにも思えました。
ナチュラル系の最初の一足に、ピッタリです。
topo athletic|TRAILVENTURE WP
膝や腰が痛いというハイカーも試してみて!
ベアフットシューズも、このナチュラル系トレッキングブーツも、最初から違和感なく履ける人はほとんどいません。
なぜなら、これまで履いていたシューズ、ブーツでは使っていなかった筋肉や感覚を刺激、これまでとは異なる身体の使い方が求められるからです。だから足慣らし、身体慣らしのため、低山や街から履きはじめるのがよいです。
そうして足と身体と対話しながら歩いていれば、膝や腰の痛みが軽くなるかもしれません。
barefoot=裸足に近いスタイルで歩く利点は、ケガの予防、痛みの軽減にあるのですから。
それでは皆さん、よい山旅を!