アイキャッチ画像提供:檢見﨑さん
登山のスキルを高めたい!そんなときは“山のプロ”にお任せ
登山を続けていると、「もう少し難易度の高い山に挑戦したい」「山のいろんな楽しみを味わいたい」という想いがわいてくるもの。実現のためには知識や技術の習得が欠かせません。
登山に詳しい人が身近にいない場合は、ガイド登山を依頼したり、講習会に参加したりするのもひとつの手です。必要なスキルはもちろん、その山や土地の歴史、植生についても学ぶことができるので、山の楽しみ方が広がります。
そうはいっても、誰にお願いしたらいいのか、どんな講習会に参加したらいいのか悩んでしまうことも。
そこで当企画では、自分の目標や目的、趣味趣向にあったガイドさんを見つけられるよう、さまざまなタイプのガイドさんにフィーチャー。今回はフォトグラファーという一面を持つ、檢見﨑ガイドを紹介します。
檢見﨑 誠(けんみさき まこと)
提供:檢見﨑さん
裏方に徹して精進を忘れず、最高のシャッターチャンスを安全に提供
まずは檢見﨑さんがガイド業で心がけていること、仕事への向き合い方などについて聞きました。
撮影時間を意識して、ペース配分に気を配る
フォトグラファーとしても活躍する檢見﨑さんのガイディングは、写真撮影を意識した計画が特徴です。ただ、そのためには参加者に負荷を与えない絶妙なペース配分が欠かせません。

提供:檢見﨑さん/朝焼けの空と剱岳 剱御前山頂から
定番商品を持てるように日々精進
さらに、安全にかつ最高のタイミングで撮影ポイントに案内するための努力を惜しまず、より魅力的な商品を企画しようと研鑽を重ねています。

提供:檢見﨑さん/大キレットをガイド。長谷川ピークで
ガイドは裏方
檢見﨑さんはガイド業のことを「裏方」と表現します。それはフォトグラファーの仕事と通じるところがあるそうです。

提供:檢見﨑さん/剱岳山頂にて
活動の様子を拝見!
現在、年間150日間前後も仕事で山に入っているという檢見﨑さん。その内訳は「トレッキングツアーのガイド」が2割、残りの8割は「プライベートガイド」といいます。それぞれの内容について伺いました。
トレッキングツアーのガイド

提供:檢見﨑さん/フォトトレッキングツアーで、蝶ヶ岳から穂高を撮影するお客様たち
檢見﨑さんは、アウトドアブランド・モンベルの主催事業「モンベル・アウトドア・チャレンジ」内にある「フォトトレッキング」というカテゴリーのイベントを、業務提携という形で担当しています。
こちらのイベントは「山を歩きながら写真を楽しむ」という内容で、東京で開催されるデジタルカメラの机上講習ともリンクしているのが特徴。机上講習でデジタルカメラの操作方法、撮影の心得を学び、ツアーで実践する、という流れで参加できます。もちろん登山ツアーには撮影目的でないお客様も大歓迎!
毎年恒例のフォトトレッキングツアーのテーマは、「厳冬期の北八ヶ岳」「残雪期の白馬八方尾根」「初夏の雲ノ平周遊」「紅葉の上高地と蝶ヶ岳」など。机上講習も同じくモンベルの主催事業で、モンベル東京渋谷店のサロンで年4クール(1クール4回講座)開催しています。
プライベートガイド

提供:檢見﨑さん/6月末の黒部源流と三俣山荘
檢見﨑さんが今いちばん力を入れているのは、残雪期の山です。
おすすめは、4月の爺ヶ岳や鹿島槍ヶ岳、奥大日岳に始まって、5月の針木岳、北穂高岳、蝶ヶ岳、6月の双六岳、西鎌尾根、表銀座、7月中旬までの黒部源流域から雲ノ平、最後が7月末の裏剱など。この季節の北アルプスは、新緑と残雪のコントラストが美しい、雪が落ち着いて歩きやすい、営業を始める山小屋が多い、まだ登山者が少ない、と好条件が揃っているのだとか。
また、フォトジェニックなシーンが多いのもこの時期の特徴。高度を上げるに従って、初夏から春の花々にもたくさん出会うことができ、オン・ザ・レール感覚の夏山と違い、ルートファインディングしながら雪渓や雪の斜面にトレースを付ける作業も楽しいといいます。
檢見﨑さんの「定番商品」と今後の活動
冒頭で紹介した「ガイドにとって山行は商品」という考え方。檢見﨑さんは、一体どんな「定番商品」を持っているのでしょう。気になる内容を教えていただきました。

提供:檢見﨑さん/雲ノ平山荘
——檢見﨑さんの「定番商品」を教えてください。
ふたつあって、ひとつが夏山シーズンに、ガイド業・プライベート・撮影のために1ヶ月以上を過ごしている雲ノ平エリアのガイドです。

提供:檢見﨑さん/2010年、雲ノ平山荘新築工事のドキュメンタリーを写真と映像で制作
毎年、初夏と初秋に「雲ノ平周遊3泊4日」を実施しています。
これは、富山側からいわゆる「ダイヤモンドコース」に入り、黒部五郎岳、三俣蓮華岳、黒部源流を経て雲ノ平山荘を訪ねる人気のツアーです。

提供:檢見﨑さん/赤木沢をガイド
雲ノ平周辺でのプライベートガイドでは、一般登山道のほかに、黒部川の支流にあたる赤木沢や五郎沢といった沢筋も歩いています。
登山道や山小屋が混雑する8月には沢ガイドに徹し、夏山シーズン前の花が咲き始める季節と、夏山の喧騒が去った秋に、ゆったりと雲ノ平周辺を回ることが多いです。
また、あえてピークハントはせず、のんびり雲ノ平山荘で連泊する企画、黒部源流で釣りをする企画なども提案中。今年は話題の伊藤新道のガイドも企画しています。

提供:檢見﨑さん/裏剱
——もうひとつの定番商品は?
もうひとつは、裏剱と北穂高岳です。以前、剱沢雪渓の下部にある真砂沢ロッジで小屋番を勤めたこともあり、大雪渓から池ノ平、仙人池の裏剱は馴染み深いエリアです。
裏剱といえば紅葉シーズンが超有名ですが、おすすめは7月中旬。秋にはズタズタになる剱沢雪渓もこの時期は雪がたっぷり残っているので歩きやすく、一斉に花が咲き始めた池ノ平はまるで天国のよう。池ノ平山に登れば、八ッ峰やチンネが眼前に迫ります。
仙人池近くはチングルマの一大群落があり、珍しい立山チングルマにも出会うことができるかも。人情味溢れるこのエリアの山小屋を訪れることも大きな魅力のひとつです。
提供:檢見﨑さん/残雪の北穂高岳から大キレット
北穂高岳へは、残雪期と北穂高小屋の営業最終日にお客様ご案内するのが毎年の恒例になっています。
雪をいただいた3,000mの稜線上で唯一営業する山小屋である北穂高小屋は、絶好の撮影ポイントです。
——これからチャレンジすることはありますか?
今年から「山岳写真塾」(仮称)をスタートさせます。
この「山岳写真塾」は、より高いモチベーションと目標を持った方を対象に、四季それぞれにテーマを決めて、それに合う山に登り、山岳写真を撮影するというプログラムです。
撮影技術、登山の技術と山行のマネージメント、撮影ポイントの選び方、作品の仕上げなど、山岳写真の総合的な学びの機会をお客様に提供したいと思っています。
PEAK2PEAK 山岳写真塾
きっかけはくじゅう連山。フリーへの転機で山に回帰
檢見﨑さんの「定番商品」は、自身の眼で見て肌で感じたリアルな山の魅力をパッケージした、独特な手作り感を感じます。そこには、山への深い愛情と探究心、ガイド業に対する真摯な姿勢を感じ取ることができるはずです。
一体、どんな山登りをしてきたのか。檢見﨑さんの山との出会いについても聞きました。

提供:檢見﨑さん/亡き父とよく登った久住山。1964年ごろ
——山に登るようになったきっかけは?
初めての本格的な山登りは小学2年生の時。住まいのすぐ近くに九重連山や阿蘇山があり、父に連れられて毎週末のように登山をしていました。
もともと父方の祖父が今風に言えば「ナチュラリスト」で、大正時代に登山を始め、自然の中で活動するのが好きだったようです。父もその影響を受けていたのかもしれません。
——山と疎遠になることはなかった?
大学生まで登山を続けましたが、社会人になっていったん山に登らなくなりました。写真家として都会での活動が多くなったことが理由です。自然に親しむのは、余暇にキャンプに出かける程度でした。
——それから再び山に登るようになった理由は?
会社を辞めてフリーの写真家になったころ、「エコツーリズム」がブームになり始め、外に出て自然や動物を撮影する機会が続きました。
広大な南アフリカのサバンナ、ニュージランド南島のペンギンのコロニー、船酔いに耐えて辿り着いた南極など。そこでの撮影ですっかり都会人化していた自分に眠っていた「野生の感覚」が次第に目覚めてきたんです。

提供:檢見﨑さん/チベット高原を旅する
その後、海外の山岳地帯や離島などへ撮影旅行に出かけるようになります。
その延長で中国青海省の奥地を1ヶ月ほど旅行したとき、一人の遊牧民に誘われて彼の移動式住居に案内されたんです。そこには草原に湖が点在し、背後には5千メートル級の雪山が聳えていました。
そこでの滞在中に草原の奥まで散策に出かけたとき、次第に近づいてくる岩峰の迫力、雪渓の美しさに魅了されたんです。
「ああこの山にもっと近づきたい、登ってみたい」。
そう思いました。
帰国後、気付くと自然に山登りを再開していました。それから、山岳ガイドの門を叩き、登山学校に入って最新の技術を学び直したんです。
——それから登山ガイドをめざしたのですか?
山登りを再開してしばらくしたころ、学生時代に行こうとして行けなかった雲ノ平を訪れました。そこで雲ノ平山荘のオーナー、伊藤二朗さんに出会います。
この雲ノ平と二朗さんとの出会いが、ガイドになる決意をさせました。一言では言えないのですが、人生の転機とこの出会いがちょうど重なっていたようです。
雲ノ平に頻繁に通うようになって、もっと山の事を知りたい、もっとここで時間を過ごしたい、という思いが強くなりました。山を仕事にしている人を間近に見て、自分もこの人たちのように残りの人生を山で過ごしてみようと決心したんです。
子供の頃のわくわく感を感じながら山に登りたい
——最後に、檢見﨑さんが思う登山の魅力を教えてください
登山は、究極的にはひとりでするものだと思っています。仲間やガイドがいたとしても、登り始めたら自分の足で歩いて帰ってこなければなりません。逆に言えば、自分の身体や心、そして山と対話しながら、ひとりでひっそりと楽しむ、そこに山登りの魅力があるのではないでしょうか。
私たちは「家庭人としてこうあらねばならない」「社会人として他人に迷惑をかけてはいけない」「危ない事はしてはいけない」、最近では「環境に優しくなければならない」と言ったような、さまざまな道徳的な規範の重力圏内で生きていますが、登山は密かに個人の責任において、その重力圏から自由になれる。私はこれを「不道徳登山」と呼んでいます。
子供の頃、親に内緒でちっちゃな冒険をしたり、叱られそうなことをしたりするのって、楽しかったじゃないですか。いつまでもそういうわくわく感を感じながら、山に登りたいですね。最終的には重力圏から逃れられないので、また帰って来るわけですが。
檢見﨑さんより、山好きのみなさん&登山を始めたい人へ

提供:檢見﨑さん/お客様と励まし合いながら登った蝶ヶ岳 絶景の感動を分かち合った