白ザックが気になるんです。でも勇気が…
こんにちは。そろそろザックを買い換えようと考えているライターの大城です。
いまメインで使っている35Lのザックは、20年戦士でかなりクタクタな状態。印象的なシアンカラーということもあり、トータルコーディネートを考えた時に選べる色味が限られていたのもネックでした。
う〜ん、どうすべきか。背中を預けるともあれば、やはり十何年も愛用できるザックを見つけなくては…と、ふと目に入った印象的なカラーこそ……
白色──それは”真っ白”という色でした。
長年使用していても飽きが来ない色。なおかつどんな色のギア、どんな景色とも美しく溶け込むのが魅力的です。
いっそのことホワイトでトータルコーディネートをするのも素敵ですよね。
”ああ、一度はやってみたいな”などと、内なるロマンチストが騒ぎだした矢先、理性がキキーッと急ブレーキを踏んできたのです。
「でも、白って汚れるじゃん」

白色のウェアやギアを見かけた二言目には、「汚れそう」「大丈夫、汚れ落ちる?」「カレーは食べられないね(笑)」の言葉が付いて回ります。
それも承知で白色の魅力に惚れ込んだ…とはいえ、やはり汚れが目立つという事実に躊躇してしまうのが人間の弱さ。頭を抱える筆者に、ある日、編集部から声がかかりました。
〜これは白いザックが気になりながらも勇気が出ない筆者が、
読者アンケートやMOUNTAIN HARDWEARへの直撃取材を通じて、
白ギアの新たな可能性を知る物語である〜
読者アンケートでも、やっぱり…ほら……
編集K氏曰く、
「白ギアって今増えているんですよ。インスタでも人気ですし、可愛らしいんですよね。とはいえやっぱり、汚れが気になっちゃいますよねぇ・・・」
とのこと。そうか、多くの登山者も白ギアが気になりつつ、勇気が出ない状態なのでしょうか。
それを踏まえた上で、某日YAMAHACK読者を対象にアンケートを取ってみました。
Q:あなたは白いギアを使っている?
この結果には少し意外…おおよそ4人に1人の割合で白いギアを使っているということです。これを多いと思うか少ないと思うかはあなた次第。
とはいえ、3/4は白いギアを使うことに躊躇しているようです。おお、同士よ……。
と同時に、白色に対する悩みもアンケートしてみました。
【白いアイテムに対しての悩みトップ3】
3位:化粧品、日焼けどめ汚れ
2位:黄ばみ、くすみ
1位:汚れそう、汚れが目立つ
って、みんな汚れ関連やないか〜い!誰しも同じ気持ちだということが分かりました。
つまり「汚れる・汚れそう問題」さえ克服できれば、多くの登山者が気兼ねなく憧れの白ギアを手にできるはずです。
「汚れます。が、方法はある」
餅は餅屋ということわざがあるように、アウトドアギアについて聞きたいならばアウトドアメーカーに取材するのが一番です。
ということでやってきたのは、世界中の登山愛好家やアウトドアアスリートに愛されているMOUNTAIN HARDWEAR(マウンテンハードウェア。以下MHW)。
アルパインライトをはじめとして、幅広い白色ギアを世に送り出しているメーカーのひとつです。
今回教えてくれたのは商品部の近藤伊織さん。きっとメーカーさんなら汚れ防止の方法や、汚れを確実に落とす方法を知っているはず……!
藁にもすがる思いで、色々と質問してみました。
──さっそくですが、白ギアの汚れってどうにか落とすことはできますか?
──そうですよね(あぁ〜っ、そんなぁ)
MHW的白いザックのメンテナンス方法
まずはマウンテンハードウェアの推奨する「汚れの落とし方」を聞いてみました。
汚れた箇所を固く絞ったタオルで叩いて落とす方法を試してみてください。
①タオルを濡らして固く絞る
②汚れた箇所をタオルで叩く(このとき強く擦らない!)
③水で薄めた中性洗剤をタオルやスポンジなどに取り、こすって落とす。
④汚れを落とした後は、洗剤が残らないよう濡れたタオル等でしっかり拭き取る。
⑤メンテナンス後は風通しが良く、湿度の低い場所で保管する
底面は休憩時に地面に置くため泥や土汚れが目立ちます。他にも、背面やショルダーは汗などによる皮脂汚れが付着しがちですね。
他メーカーのザックの中には丸洗いOKのアイテムも。
具体的な洗い方は各アウトドアメーカーの推奨に従うのがオススメです。
「え、土って汚いですか?」
と、メンテナンス方法を聞きながらも、次の瞬間、近藤さんから鮮烈なひと言が飛び出しました。

そりゃあ街で地面に座るのは抵抗がありますけど、不思議と山ならパッパッと払えば平気なんですよね。
そうはいっても、できるだけ汚したくないという気持ちもとてもわかります。
雲の切れ間から光が差すような言葉でした。物は使い込めば使い込むほど味わい深くなります。
山を楽しむためのギアが山の色に染まっていくことは、むしろあるべき姿なのかもしれません。
結果的に永く使える。白ザックのメリット4つ
白ザックに対するコペルニクス的転回が起こりました。「汚れる=悪」ではなく、「使い込むことでより味わい深くなる」という発想の転換です。
捉え方を変えると、あら不思議。今まで気付けなかった白ザックの特長がどんどん発掘されたのです。
①汚れるからこそ大切に使う不思議な人間心理
汚れてしまいそうだからこそ、常に緊張感を持って丁寧に扱えるんです。
ずっと初心が続くような感覚ですね。
近藤さんが指摘する通り、買ったばかりのギアは丁寧に扱いますが、時間が経つにつれて徐々に雑な扱いになってしまうのが人間の心理でしょう。
しかし白いザックならば、汚れを許容したとはいえ、やはりカラーリングされた製品と比べて緊張感を持って使うことができます。
それが結果として、ひとつのものを大切に永く使うことに繋がるのです。
②山でも他の人と被らず、目立つ
土曜早朝の山へ向かう電車の中で、自分と同じアイテムを持った登山者を発見したことはないでしょうか。「あ、あの人私と同じだ」が苦手な人にとっては白アイテムで逆張りをするのもアリでしょう。
③街でもおしゃれに背負える
ザックは決して安い買い物ではありません。せっかくお気に入りのザックを入手したのならば、山以外でもたくさん活用したいもの。
白ザックは見た目も日常的に使いやすいものが多いため、結果として街や山で活躍する傾向にあるといいます。
④コーディネートが楽、時代を選ばない
どんなウェアにも合うため、飽きることなく長年愛用できますよ。
特徴的なカラーリングのザックならば、主張が強いだけに合わせられるウェアのカラーが限られてきます。一方、白ザックならばどんなカラーとも合うため、幅広いコーディネートを楽しめるのです。
流行り廃りに左右されることなく、どんな時代も使えるのが魅力です。
実はその白ザック、地球の救世主なのかも…?
白いザックを持つことが”地球を救う”ことに繋がる可能性もあるんですよ。
──えっ(何がはじまるんだ)
MOUNTAIN HARDWEARでは地球環境を保全するために「earth to humans…」という取り組みを行っています。
実践している多くの事のひとつとして挙げられるのが、無染色の製品開発なのです。
その部分を見直し、敢えて「染色をしない」という選択肢を選んだのがアルパインライトです。
一方で、アウトドアギアだからこそ求められるカラーリングも存在します。
そのためにMHWでは、今までの染色法とは異なるソリューションダイという方法での染色も推し進めているのです。
水や化学物質、二酸化炭素の排出を削減してくれるほか、従来品と比べて色落ちしにくいのも特徴なんです。
──確かに今、環境問題について色々なところで意識が高まっていますものね。まさか白ザックが環境を守る考えに繋がっているとは思ってもいませんでした。おしゃれな上に環境に優しいって……なんとなく嬉しいなぁ。
白ギアで「こんにちは」のその先へ
白いザックを持っていると「こんにちは」だけではなく、その先の会話が生まれやすいんですよね。
私たちの願いは山での偶然の会話が弾むこと。白ザックやギアをきっかけにもっと登山が楽しくなると思います。
「汚れが目立つから白ザックを買う勇気が出ないのよね」から始まった取材は、思わぬ着地点に到達しました。
汚れは忌避するものではなく、味わいとして愛するもの。
そしてひとつの製品を永く大切に使うことは、巡り巡って環境を守ることに繋がるのかもしれません。
「実はこのザック、地球に優しくてですね〜」という話になれば、
メーカーとしては嬉しいです。
汚れるから避けていた、なんてもったいない。
もしかすると、今まで手にしたことのなかった白ザックが、新しい登山の楽しみ方を教えてくれるかもしれませんよ。