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脱水が心配と、水を飲めるだけ飲んでいたら……



脱水にならないようにとたくさん水を飲んだはず。なぜA男さんはこのような状態になってしまったのでしょう?
運動生理学に詳しい教授へ「登山で必要な水分量」について伺いました!

山本正嘉(やまもと・まさよし)
1957年生まれ。東京大学大学院修了。博士(教育学)。現在、鹿屋体育大学教授および同大学スポーツトレーニング教育研究センター長。さまざまな登山家やアスリートに対して科学的なトレーニングサポートを行ってきた。2001年に秩父宮記念山岳賞、2021年には日本山岳・スポーツクライミング協会から日本山岳グランプリを受賞。
2016年にこれらの成果をまとめた『登山の運動生理学とトレーニング学』(東京新聞出版局)、
2021年2月に『アスリート・コーチ・トレーナーのためのトレーニング科学〜トレーニングに普遍的な正解はない〜』(市村出版)を出版。
教授にお話を伺ったところ、どうやらA男さんは「自分に必要な水分量以上を摂取してしまった」ことが問題のようです。
つまり、登山中の水分は取りすぎも取らなさすぎもNG!
そこで今回は、「自分に必要な水分量」と「効率の良い水分の摂り方」について紹介していきます。ぜひ参考にしてみてくださいね。
ズバリどれだけ持っていけばいいの?自分に必要な水分量をチェック
自分に必要な水分量を知るためには、まず自分がどのくらい脱水しているのかを計算式で出してみましょう!
歩くペースや気温に応じて、脱水係数を調整
下の3つのポイントをもとに、脱水係数を調整。・運動負荷
・気温
・発汗量
よりその日の状態に合った脱水量を求められます。
歩くペースや発汗量は個人によって違うので、回数を重ねながら自分の身体の状態や登山中の運動負荷を把握することが大切です。
ただ必要な水分量だけわかっても、バランスよく摂取していかなければ意味がありません。効率良く、水分を身体に取り込むための摂取方法をみていきましょう。
一気に飲んでも意味がない!効果的な水分摂取方法って?

《1》タイミング|こまめに水を摂取する
こまめに摂ることで、身体に吸収されやすくなります。行動しながら15分おきくらいに飲むのが理想。ザックを下ろさずにチューブを通して水が飲める「ハイドレーションシステム」があると便利です。持っていない人は、最低でも1時間おきに摂取するようにしましょう。
体重60kgの人が軽装で8時間の日帰り登山をする場合
体重60kgの人が標準的なタイムで8時間歩くとした場合、先述の通り脱水量の7割の水を補給するとすれば1,680mlになります。
朝食時に600ml摂取した(※)とすると、1時間おきに約150ml(コップ1杯分程度)を飲むことが目安に。
このように事前に計画を立てて実践することで、回数を重ねるごとに自分にとっての水分量の過不足を調整できるようになります。
《2》種類|水だけはNG!塩分も同時に摂取
長時間(目安として3時間以上の登山)歩く場合、汗をかくことによって体液中のナトリウムやカリウムなどの電解質が欠乏してしまいます。この状態で真水だけを飲むと体液のバランスが崩れ、痙攣や水中毒の原因に。電解質を補うためには、水分と一緒に塩分を摂る必要があります。
スポーツドリンクや経口補水液を少量持っていく

経口補水液の成分は体液の電解質(ナトリウム、カリウムなど)に近いため、スポーツドリンクよりも吸収速度がはやい。よってすぐに不足した分を補ってくれるので、ケイレンや脱水の症状が出た時に有効です。
ただすべて同じ種類だと、味に飽きて飲みづらくなってしまうことも。持っていく水分量の3分の1をスポーツドリンクにしたり、いざという時の飲み物として少量の経口補水液(350mlや500mlのペットボトル1本程度、またはゼリータイプ)を持っていったりと、2種類以上の飲み物を持っていくのがオススメです。
カフェインやアルコールはOK?

カフェインは利尿作用もあるため、登山では避ける人も多いかもしれません。しかし実は集中力をアップさせたり、脂肪燃焼効果もあるので、朝食時や休憩中に少量摂取(コーヒー1杯程度)するといいでしょう。
アルコールは、脳や神経系の働きを低下させてしまったり、脱水を助長してしまったりと害があるため、登山中は不向きです。
《3》温度|季節に応じて水温を調節

・腸での吸収がはやい・身体の最深部である胃で、身体を冷やせる
という2つの理由から。夏は、沢に水筒をつけて冷やしたり、保冷剤と一緒に持っていったりと冷たい水が飲めるように工夫するといいでしょう。
適切な水分量と飲み方の工夫で、快適な登山を!

自分の必要な水分量を知って、回数を重ねるごとに細かい調整を重ねながら自分にぴったりの量を把握していくことが大切です。
効率的な摂取の仕方も実践し、より快適で安全な登山を楽しみましょう!
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