いい加減覚えたい!【高山植物の神10】がわかれば、明日からお花畑歩きが楽しくなる

2021/04/23 更新

高山植物を見ても、まったく名前が思い出せない、いやそもそも覚えられない……。そんな人はいませんか? 今回の記事では植物写真家の髙橋修さんに「花の見分け方」を教わりました。まずは日本各地の大体の山をカバーできるという「10種類の花」から覚えて、この夏はお花畑で友達に自慢しましょう!


アイキャッチ画像出典:PIXTA

コマクサはさすがにわかる。……が、それ以外がざっくり「花」

登山のお花畑
出典:PIXTA
みなさん、山に登ってかわいい花を見つけたとき、その名前を言えますか?

筆者ははっきりいって、コマクサ以外は「……黄色?んー、なんとかキンバイ??」くらいしか見分けが付きません。お花畑で「わーー!!」とテンションが上って、写真も撮りまくるのにも関わらず、です。

「いい加減覚えようよ」という花に対する申し訳なさと、自分の学ばなさにがっくりして、今回の記事では一念発起し、「山で花を見分けられる人」になりたいと思います。

コマクサ
出典:PIXTA(誰でもわかるであろうコマクサ)

なぜ見分けがつかない?問題点を自己考察

さすがに「見分けがつかない」とはいえ、自分の中でざっくりと分類分けはされています。こちらです。

・小さくて白くてかわいい
・小さくて黄色くてかわいい
・ほわほわしている
・上の方になんかいっぱい固まってる
・ツリガネっぽい花がわさわさ

……何となく「あぁ、そう言われればそうかも……」とわかっていただけますでしょうか? はっきりいって、花を認識する解像度が低すぎる、これに尽きます。

「チャームポイント=花の生き方」をまず知ろう!

とはいえ、ひとり図鑑をぼんやり眺めていても、やっぱり同じに見える。……というわけで、今回は植物写真家の髙橋 修さんに「見分け方」を教えてもらうことにしました。

高橋修さん
撮影:編集部

髙橋 修さん
植物写真家。旅行会社に勤務後、フリー写真家となる。現在は、多摩川など身近な自然から、高山の植物まで撮影しつつ、植物観察ツアーの企画、講師などで日本各地、世界各国を飛び回っている。

サラノキの森|髙橋修さん公式サイト

先に紹介した筆者なりの「見分け方」を髙橋さんに伝えたところ、思いもかけない指摘が!!

髙橋さん
それは虫の眼で花を見ているからですよ


……え??虫の眼って??

花はそもそも虫の力を借りて受粉をすることで、繁殖しています。すなわち、虫にとって見つけてもらいやすいことが生存に有利なのです。だから「虫の眼=虫の脳の認識能力」が見分けやすいように白色の花を咲かせるなど、虫にアピールできるような姿(花)になっているとのこと。それにしても、虫レベルの認識能力だったとは……(絶句)。

虫の目
出典:PIXTA、いらすとや/制作:編集部
髙橋さん
花を見分けるには、まずは「葉っぱ」や「花の裏側」「生えている場所」から覚えるといいですよ。花びらの数などで覚えようとしても、枚数がバラバラといういい加減な花もあるんですよ


葉っぱは植物にとっては、光合成を行うための重要なツール。その花が生育している環境に適したかたちに進化していることが多いといいます。

髙橋さん
植物の姿は生き方に大きく影響されています。生き方が「チャームポイント」そのものなんですよ


ついつい「花」の部分だけに注目してしまいがちですが、チャームポイント=生き方を知ることで、似たような花でも違いがわかってくると髙橋さん。

とはいえ、手持ちの図鑑には数百種類もの高山植物が載っていて、全部覚えるのは無理な気がします……。

そこで髙橋さんが教えてくれたのが「日本各地の山で見られる花で、これだけ覚えておけばまずOK」という10種類の花。名付けて「高山植物・神10」


これだけ覚えればまず大丈夫。高山植物の「神10フラワー」

高山植物神10
出典:PIXTA
10種類のなかには、難易度が高い「白くて小さくてかわいい」「黄色くて小さくてかわいい」も含まれています。「10種類?楽勝!!」と思っていましたが、若干弱気になってきました……黄色と白かあるんだ……。

コバイケイソウ(小梅蕙草)|とにかく背の高さで目立ちまくる

コバイケイソウ
出典:PIXTA
髙橋さん
とにかく高山植物として大きい!背丈が1mくらいあって白い花はコバイケイソウです


確かに「可憐で小さくて健気」という高山植物のイメージからしたら、パンチのあるルックスと大きさ。大きくて白いのはコバイケイソウ。これなら覚えられそうです!

ハクサンイチゲ(白山一花)|何もかもがウソな小悪魔女子

ハクサンイチゲ
出典:PIXTA
次は難易度が高めだと諦めていた「小さくて白くてかわいい」系です……。

髙橋さん
お花畑で咲いている白い花で背が高いのはこれ。1つの花の直径が大きくてゴージャスだと間違いない。実は白い花弁(花びら)に見えているものは萼片(がくへん)でになります。葉っぱが深く切れ込んでいるのも特徴ですね


ところで「白山一花」というからには、白山エリアで見られる固有種なのでしょうか?

髙橋さん
白山じゃなくても咲いているし、一輪で咲いていないことのほうが多い。名前に惑わされ系。


嘘つきだけどかわいい小悪魔系の白い花。それがハクサンイチゲ。覚えられそう!

チングルマ(稚児車)|実は「木」という衝撃の事実!

チングルマ
出典:PIXTA
こちらも「小さくて白くてかわいい」系。ハクサンイチゲとはどう違うんでしょうか?
髙橋さん
実はチングルマは低木なんです。大きく群生しているものの中には樹齢数十年というものもありますよ


そもそも、草花ではなかったという衝撃の事実……。木にも関わらず背丈が高くないのも、環境が厳しい山で繁殖し続けるためのチャームポイント=生き方ゆえなのですね。

髙橋さん
チングルマは花が終わった後にほわほわとした綿毛に変わります。あの綿毛はたんぽぽと同じような実なんですよ。チングルマの漢字名は「稚児車」。花ではなく、この綿毛が風車のようだということから名前がついています。日本人は綿毛が好きなんですね


紅葉したチングルマ
出典:PIXTA

シナノキンバイ(信濃金梅)|黄色で花が大きければこれ

シナノキンバイ
出典:PIXTA
白い花をクリアしたところで、次は「小さくて黄色くてかわいい」系です。しかもこの黄色系にはやたら「キンバイ」とつく花が多いのも難易度をぐっとアップさせている理由です。が、まずキンバイ系で覚えるのは2つ。

髙橋さん
黄色い花はいろいろありますが、いちばん背が高くて、花が直径3〜5cm程度と大きいのは、シナノキンバイです。同じ環境に生える黄色い花には、後から紹介するミヤマキンポウゲがありますが、花の大きさで区別がつきますよ

ミヤマキンバイ(深山金梅)|可憐な花はイチゴの黄色版

ミヤマキンバイ
出典:PIXTA
2つめの「キンバイ」ですが、先ほどの背が高くて花の大きなシナノキンバイとは違う種類です。

髙橋さん
ミヤマキンバイは背が低いのが特徴ですね。岩場の風が強い場所に1人で生えている。葉はイチゴと一緒で3枚。イチゴの黄色版と覚えるといいですよ」


……イチゴ? そういえば、子どものときにイチゴ狩りに行ったときに、こういう葉っぱの小さな花がついていたのを覚えていませんか??

イチゴの花と葉
出典:PIXTA(イチゴの花と葉っぱ)

ミヤマキンポウゲ(深山金鳳花)|つやつやと太陽に輝く子

ミヤマキンポウゲ
出典:PIXTA
「キンバイ」かぶりを覚えたものの、次は「ミヤマ」かぶりです。こういうところが覚えにくいです……。

髙橋さん
英語では「バターカップ」と呼ばれているのが、ミヤマキンポウゲです。その理由は花びらがつやつやしているから。シナノキンバイと同じ場所に生えていることもありますが、花が直径1cmと小さいのと、こちらには萼片があることで区別できますよ


確かにバターをたっぷり塗られたようにつやつや。図鑑などでは「金属光沢」と紹介されていることも多いですが、「バター」と言われたほうがイメージしやすいですよね!

とはいえ、なんとかキンバイに、ミヤマほにゃらら。やっぱり頭がごっちゃになりそう……。


最難関の「白と黄色の花」を一旦整理しよう!

花の分布
出典:PIXTA、制作:編集部
冒頭での髙橋さんの言葉に「植物の姿は生き方に大きく影響されています」とありましたが、生き方は「生きる場所」にも大きく関わりがあります。覚えづらい白色と黄色の花ですが、実は近しい場所に生える組み合わせがあり、整理すると上の図のようになります。
背が低い
砂地や岩場が多く、風雪雨にさらされるなど厳しい環境に生息
1)ミヤマキンバイ
2)チングルマ ※背が低いのは冬には雪に埋まったほうが暖かいから
 
背が高い
他の植物も多く、光合成を行うのに競争が激しい環境に生息
3)ハクサンイチゲ
4)シナノキンバイ
5)ミヤマキンポウゲ
 

同じように見えていた花も、花の部分だけでなく、葉のかたちや背の高さ、生息している場所で見ていくと、随分と個性的に生きていると思いませんか??

難題をクリアしたところで、よく目にする「特徴がわりとはっきりした花」をあと4つ覚えておきましょう。

ウサギギク(兎菊)|子どもが描く花の絵そのまま

ウサギギク
出典:PIXTA
すっと伸びた茎に一輪の花、地面近くの葉っぱが対になって生えている……何というか、子どもがお花の絵を描くときってまさにこれですよね?
髙橋さん
確かに!見た目で例えるならば、ミニひまわり。咲くのがお盆ごろと少し遅めですね。尾根の下辺りによく生えていますよ


兎菊のウサギは、対になった葉っぱに毛が生えていて、ウサギの耳みたいだから。名前の由来もチャーミングです。

ハクサンフウロ(白山風露)|高原でそよそよなびいている

ハクサンフウロ
出典:PIXTA
一輪ずつを見かけるというより、群生していることが多いのがハクサンフウロです。わーっと生えているピンクの花。
髙橋さん
(細かく言うと似た花もあるのですが)北アルプスだとほぼこれと思って大丈夫です。花びらが5枚で高山性の草原に多く、霧ヶ峰などの高原にも生えています


ハクサンフウロの風露とは「涼しい風と露」という意味。背が高くて風にそよいでいるさまが名前にも反映されています。

ヨツバシオガマ(四葉塩竈)|厳しい環境で楚々と咲いている

ヨツバシオガマ
出典:PIXTA
ちょっとコマクサにも似た雰囲気があるのが、ヨツバシオガマ。
髙橋さん
高山植物らしさのある花ですよね。厳しい環境で痛めつけられても強く清楚に咲いています。ランのような小さな花が咲いていて、葉は4枚ですね


背は10〜20cm程度とそれほど高くなく、比較的標高の高い砂礫地に生息しているのも、高山植物らしいです。

イワギキョウ(岩桔梗)|名前も見た目も覚えやすい!

イワギキョウ
出典:PIXTA
高山でなくとも、花屋などでキキョウは見たことがある人も多いはずなので覚えやすいですよね。
髙橋さん
山に生えている桔梗だから、イワギキョウ。紫っぽい、青っぽいものの代表的な花です


ただし、よく似たものに「チシマギキョウ」がありますが、まずは「イワギキョウ」から覚えましょう。

植物カメラマンに訊く、花の覚え方ポイント

髙橋さんに紹介してもらった「神10フラワー」。本州ではどこでも使えるという汎用性の高さも、花音痴にはうれしい限り!

髙橋さん
でもこの状態で見分けられるのは、7月の下旬の話ですよ。


え……7月下旬?? 確かにお花畑のピークは短いですし、いつもこの状態の花が見られるとは限りませんよね。となると、またもや見分けられないという残念ループに戻りそうです。

覚えられない
出典:PIXTA
髙橋さん
同じ山に登っても、花の状態はいつも同じではないんですよ。だから花を覚えるには、何度も山に行かないといけないんです。

植物カメラマン的、花の覚え方を伝授

山に行く、写真を撮る、図鑑で確認する……このルーチンワークが地道ですが、やはり花を覚える鉄板。後から振り返るためのコツというのはあるのでしょうか?

髙橋さん
「この花はこういうふうに生きている」ということを理解するのが大事ですね。植物の写真を撮るときにも、花そのものをかわいく撮るのが大事ですが、葉や花の裏など生き方の特徴が出るところ、その花が生えている環境も一緒に撮っておくといいですよ。


写真を整理する際にも、「山名>撮影月>花」のように、どの山にいつどの花が咲いていたかを自分が覚えやすいよう、フォルダ分けするなどもよさそうです。

また花をテーマにした登山というのもおすすめだそう。例えば「7月にウルップソウを見に白馬岳へ登る」など、時期/花/山を結びつけて覚えやすくなります。「一山一花」ではないですが、欲張らず覚えていくことも地道な手段。

髙橋さん
普段、植物写真講座で参加者と同じ山を登っていても、たぶん僕が100種類見えていたら、お客さんは50種類くらいだと思います。

花って想像以上に個性的。性格を知って仲良くなろう。

個性
出典:PIXTA
髙橋さん自身は、山の写真も撮っていましたが、花を撮影するようになって、そこから植物の生態へと興味が移っていったといいます。だから、今回の「神10」も、花の姿かたちだけではなく、「花の生き方」に紐付けて説明していました。

髙橋さん
人間だって、渋谷のような賑やかな人混みを好む人と、山のような静かな環境を好む人では個性が違いますよね。花も同じなんですよ。


これから山に登るときには、なんでそんなところに咲いているの?という興味を持って、花を見るようにしようと思いました。脱・虫の眼を目指して!

ITEM
『色で見わけ五感で楽しむ野草図鑑 』 高橋修
発行年月:2014年05月 ページ数:399p
身の周りで見られる代表的な野草543種(画像掲載種464種)を掲載し、花色で野草の種類を検索できます。野草の種類がわかったら、特徴や名前の由来などを知り、「見る、聴く、かぐ、触る、味わう」五感で観察を楽しみましょう。


ITEM
『日本の高山植物400 ポケット図鑑』新井和也
発行年月:2010年06月 ページ数:320p
山地〜高山で見られる植物約400種類を掲載。歩きながらでもすばやく簡単に目の前の植物の名前が調べられるように花色別に掲載。コンパクトながら、1種について2〜4点、全部で約1000点という豊富な写真で紹介する。

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YAMA HACK編集部 村岡

YAMA HACK運営&記事編集担当。スキー好きが嵩じて北アルプス山麓に移住し、まんまと夏山登山にもはまる。アクティビティとしての登山の楽しみとともに、ライフスタイルとしての「山暮らし」についても発信していきます。

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