チェーンスパイク・軽アイゼン・多本爪アイゼン…どれを持って行けばいい?雪道状況別に最適シーンを解説!

2021/01/21 更新

滑りやすい雪上での登山に欠かせないアイゼン。本格的なアイゼンから軽アイゼン・チェーンスパイクまで様々なアイテムがありますが、その選択基準はどうしていますか。登る山によって決めがちですが、同じ山でも積雪などの状況によりベストなアイテムは異なるもの。今回は雪山でのテストも交え、シーン別にオススメなアイテムをご紹介します。


アイキャッチ画像撮影:washio daisuke・イラストの出典:いらすとや

間違えたくないアイゼン選び!ベストなアイテムを選ぶには?

八ヶ岳最高峰・赤岳|美濃戸口からの林道や北沢・南沢の平坦な登山道はチェーンスパイクが快適ですが、赤岳鉱泉・行者小屋から上部の岩稜は多本爪アイゼンが必須)
撮影:washio daisuke
雪山登山で欠かせないのが、登山靴に装着する滑り止め・アイゼン。けれども多本爪アイゼン・軽アイゼン・チェーンスパイクなどさまざまな種類があり、どれを持って行くか悩みますよね。基本的に「登る山」が判断材料になりますが、同じ山でも登山道の積雪・凍結状況によってベストなアイテムが変わる場合も。

実録・アイゼン選び間違えたかも…?

やはり軽アイゼンだと不安…
撮影:washio daisuke(やはり軽アイゼンだと不安…)
たとえば雪山登山の入門とされる八ヶ岳エリアの北横岳は、通常軽アイゼンでも登山可能といわれています。2020年1月に訪れた際、筆者もそれに追従。

しかし山頂直下は、斜面を直登するため傾斜のきつい登山道が続きます。さらにこの日は気温が低く、多くの登山者によって踏み固められた道が凍結状態に。雪道がツルツルとした「滑り台」のようで、スリップしそうになる体験をしました

とくに下山時はひやひやしたので、事前に登山道状況を確認してアイゼンを選ぶべきだったと痛感。

このように「どこに登るか」でなく「登山道がどんなコンディションか」を基準に、アイゼンを選ぶのがおすすめ。そこで今回は、どれを持っていけばいいのかわからない!という人へ向けて、雪道のシーン別にベストなアイテムを紹介していきます。

チェーンスパイク・軽アイゼン・多本爪アイゼンの特徴をチェック

アイゼン 小
撮影・作成:washio daisuke(※クリックすると拡大します。写真とメーカー・スペックは筆者が雪山登山テストで使用したものです)
より適切なアイゼン選びをするために、まずはそれぞれの特徴を押さえましょう。

■チェーンスパイク
樹脂製のボディへ連結されたチェーンに、小さな爪がつま先からかかとまでバランス良く配置されている。

■軽アイゼン
チェーンスパイクよりも長めの爪が土踏まず付近に集中。つま先・かかとは登山靴の靴底がむき出しになる。

■多本爪アイゼン
つま先から前方に伸びる前爪が特徴。足裏全体が、軽アイゼンよりも鋭利で長い爪に覆われている。

今度の雪山登山…どのアイゼンを持って行けばいい?

今度の雪山登山…どのアイゼンを持って行けばいい?
撮影:washio daisuke・イラストの出典:いらすとや
強みと弱みで歩行の向き不向きは把握できますが、気になるのは実際の使用感。いざ雪山登山となった時に、どれを選んでいいのかまだ不安が残ります。そこで今回は実際の雪山で、3種類のアイゼンを使って歩行テスト。登山道のコンディション別に、どのアイテムが快適・安全に登山できるのかを検証しました。

雪山登山テスト@北横岳〜3種類のアイゼンで歩行検証〜

坪庭から見た北横岳
撮影:washio daisuke(坪庭から見た北横岳)
冒頭で紹介した通り、かつてアイゼン選びに失敗した経験のある北横岳。今回はチェーンスパイク・軽アイゼン・多本爪アイゼンすべてを持参して、それぞれの使用感を比較してみました。ルート概要は、以下の通りです。

北横岳の地図
作成:washio daisuke・地図の出典:YAMAP
①区間②区間③区間
平坦な登山道

(北八ヶ岳ロープウェイ山頂駅
〜坪庭周回路分岐)
傾斜のある登山道

(坪庭周回路分岐〜三ツ岳分岐)
(三ツ岳分岐〜北横岳ヒュッテ)
急傾斜の登山道

(北横岳ヒュッテ〜
北横岳・北峰)
距離約0.4km/標高差約18m距離約0.8km/標高差約109m
距離約0.2km/標高差約17m
距離約0.4km/標高差約98m
*参考:ヤマプラ
区間ごとに、アイゼンを履き比べ。個人的な感想もありますが、実際の履き心地についてレビューしていきます。

区間①:平坦な登山道では軽アイゼンよりチェーンスパイクが快適

坪庭の平坦な登山道
撮影:washio daisuke(坪庭の平坦な登山道)
検証結果
チェーンスパイクが快適。岩や地面が露出している場所を歩いても爪が短いため、足へ伝わるショックが少ない。
①区間は、溶岩台地に伸びるほぼ平坦な登山道。積雪は数10cmといったところでしょうか。傾斜のない場所では多本爪アイゼンの強みが発揮されないため、ここではチェーンスパイクと軽アイゼンで比較しました。
注:本来は片足ずつ別のアイテムを装着することはありません。今回はあくまでも実験的に、別のアイテムを装着して歩行しました。

○良かったところ

右足にチェーンスパイク・左足に軽アイゼンを装着
撮影:washio daisuke(右足にチェーンスパイク・左足に軽アイゼンを装着)
アップダウンがほとんどなく、雪の積もった平地を歩くのと同じ感覚。チェーンスパイク・軽アイゼンどちらでも、歩きにくさや違和感は感じませんでした。

△気になったところ

岩肌が雪の中から露出した場所
撮影:washio daisuke(岩肌が雪の中から露出した場所)
上の写真のように雪面から岩肌が露出した場所では爪が短いチェーンスパイクの方が快適。爪と岩がぶつかった時の足に伝わるショックが軽アイゼンより少なく、足の疲労やバランスを崩す危険性が軽減されます。積雪が少なく、地面や岩肌が頻繁に露出している状況であれば、チェーンスパイクの使用がおすすめです。

区間②:傾斜のある登山道はチェーンスパイクより軽アイゼンが安心

傾斜のある登山道
撮影:washio daisuke(傾斜のある登山道)
検証結果
軽アイゼンが安心。チェーンスパイクより爪が長いため、傾斜のある雪面でも踏ん張りがきく。
②区間には、急斜面をジグザグと進む箇所があります。こちらも軽アイゼンとチェーンスパイクを使用して、どのくらいの登山道コンディションまで耐えうるかを検証しました。

○良かったところ

雪面を爪がしっかりとらえる左足の軽アイゼン
撮影:washio daisuke(雪面を爪がしっかりとらえる左足の軽アイゼン)
①区間ではストレスになった軽アイゼンの爪ですが、傾斜があり雪に覆われている②区間では効果を発揮。「フラットフッティング(※)」で足を置いた時に、中心部分の爪が雪面をしっかりとらえ、安心して次の一歩を踏み出せました。
※つま先からかかとまで靴全体で接地する基本歩行技術のこと。

△気になったところ

踏ん張りが効かない右足のチェーンスパイク
撮影:washio daisuke(踏ん張りが効かない右足のチェーンスパイク)
傾斜が増すにつれて、爪の短いチェーンスパイクを装着している右足が、写真のように踏み込んでも斜面下部(登りの場合は後側)に流されてしまうことが多くなってきました。雪の斜面に対して踏ん張りがきかず、なかなか進めないためその分体力を消耗。
緩んでしまったチェーンスパイク
撮影:washio daisuke(緩んでしまったチェーンスパイク)
さらに雪の斜面をスリップすることで余分な力がかかり、靴底とチェーン部分にゆるみも発生しました。傾斜がある登山道では、チェーンスパイクの弱点が露呈する結果に。

区間③:急傾斜の登山道は軽アイゼンより多本爪アイゼンが安心

山頂直下の急斜面
撮影:washio daisuke(山頂直下の急斜面)
検証結果
多本爪アイゼンが安心。靴底全体を覆う長く鋭い爪で急斜面もしっかり踏ん張りがきき、キックステップでの歩行も安定。
③区間は、山頂に向けてさらに登山道の傾斜が増します。先ほどの②区間の傾斜ですら、踏ん張りが効かず緩んでしまったチェーンスパイクでは無理と判断し、片足に軽アイゼン・片足に多本爪アイゼンを装着して登ってみることにしました。

○良かったところ

左足に軽アイゼン・右足に12本爪アイゼンを装着
撮影:washio daisuke(左足に軽アイゼン・右足に12本爪アイゼンを装着)
歩き始めてまず感じたのが、右足の多本爪アイゼンがしっかり雪面をとらえる感覚。長く鋭い爪がつま先からかかとまで配置されているため、雪面深くまで刺さります。傾斜が増しても、踏ん張りがきくという安心感は保持したままでした。

ただその分、雪から爪を抜くのに力が必要。多本爪アイゼンで長時間行動するには、それなりの脚力や技術がないと厳しいと感じました。

キックステップで歩くと前爪が斜面にしっかり刺さってくれるアイゼン
撮影:washio daisuke(キックステップで歩くと前爪が斜面にしっかり刺さってくれるアイゼン)
また斜面の傾斜がきつく「フラットフッティング」での歩行が難しい場所では「キックステップ(登りではつま先・下りではかかとのみを斜面に蹴り込む)」という歩き方が有効になってきます。
こうした場所では、つま先に前爪があり、かかとまで鋭く長い爪で覆われた多本爪アイゼンがベスト。

△気になったところ

前方向にずれてしまった軽アイゼン
撮影:washio daisuke(前方向にずれてしまった軽アイゼン)
軽アイゼンを装着している左足には、斜面の傾斜が増すにつれて先ほどのチェーンスパイク同様のストレスが発生。踏み込んでも、斜面下部(登りの場合は後側)に流されてしまうことが多くなってきたのです。それに伴って軽アイゼンに無理な力がかかり、本来の位置よりも前方向にずれてきてしまいました。

またつま先・かかとの靴底が露出している軽アイゼンでキックステップを行うと、蹴り込んで重心をかけた際に滑ってバランスを崩す危険も。
急斜面では、軽アイゼンだと心許なく感じました。

登山道シーン別おすすめアイテムはこれだ!

このシーンには、どのアイテムが最適?
撮影:washio daisuke(このシーンには、どのアイテムが最適?)
今回の雪山登山テストを通じて実感した、各アイテムの特性とそれに合った登山道コンディション。それぞれの総評をまとめてみました。

チェーンスパイク装着がおすすめのシーン

八ヶ岳・赤岳鉱泉に向かう北沢登山道の凍結した林道
撮影:washio daisuke(八ヶ岳・赤岳鉱泉に向かう北沢登山道の凍結した林道)

・平坦な登山道(林道や舗装路など本格的登山道へのアプローチ)
・積雪が少ないアイスバーン状の登山道や一部が凍結した登山道

チェーンスパイクは爪が短いため、雪面から地面や岩などが露出していても比較的ストレスなく歩行可能。雪が踏み固められてアイスバーン状になっている場所や、水たまりなど一部が凍結している場所でも、効果を発揮するでしょう。ただし傾斜のある場所には向いていません。

軽アイゼン装着がおすすめのシーン

信州・入笠山山頂直下の登山道
撮影:washio daisuke(信州・入笠山山頂直下の登山道)

・傾斜が緩やかでフラットフッティングで登降可能な斜面
・やわらかい雪で覆われた登山道

比較的緩やかでフラットフッティングでの登降が可能な斜面では、軽アイゼンがおすすめ。ただし爪が短くつま先とかかとは靴底が露出しているため、滑りやすいクラスト(凍結してツルツルになった)状態だと不安を感じます。またキックステップが必要な急斜面には不向きです。

多本爪アイゼン装着がおすすめのシーン

中央アルプス・千畳敷カールから乗越浄土への急斜面の登山道
撮影:washio daisuke(中央アルプス・千畳敷カールから乗越浄土への急斜面の登山道)

・キックステップでの登降が必要な急斜面
・クラスト(凍結してツルツルになった)状態の登山道

傾斜が急でキックステップでの登降やつま先をL字に開いてのトラバース時には多本爪アイゼンが必要。また凍結して爪が刺さりにくい場所でも力を発揮します。平らな道での利用も可能ですが、重くて爪が長いため、一歩を進めるのに快適とはいえません。

また爪を反対側の足や岩などに引っかけて、バランスを崩し転倒する事故事例も。状況に応じた正しい足の運び方や、多本爪アイゼンを着用して歩くための脚力を身に付けておくことが重要です。

登山道の傾斜やコンディションに合わせたアイゼン選びを

北横岳山頂からの蓼科山
撮影:washio daisuke(北横岳山頂からの蓼科山)
今回の雪山登山テストや、筆者のこれまでの体験から…

・同じ山でも区間毎の傾斜により
・同じ区間でも積雪・凍結状況により

ベストなアイゼンは異なるといえます。

ただすべての道に合わせて、1つの山で複数種類を使い分ける必要はありません。雪道状況に応じたそれぞれのアイゼンの強みや弱みをしっかりと頭に入れた上で、自分が何を履くのかを選択することが重要なのです。

なにより事前に地図を見ながらルートの傾斜を把握し、SNSなど最新情報から積雪・凍結状況をキャッチすることが大切。安全&快適な雪山登山を楽しむために、登る山だけでなく、登山道のコンディションを考慮した上でアイゼンを選びましょう。

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washio daisuke

登山の総合プロダクション・Allein Adler代表。 登山ガイド・登山教室講師・山岳ライターなど山の「何でも屋」です。 得意分野は読図(等高線フェチ)、チカラを入れているのは安全啓蒙(事故防止・ファーストエイド)。 山と人をつなぐ架け橋をめざしています。

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