「山は自分の強さや弱さを見つけ出す場所でもあるんですよ。特に弱さ・・・自分は弱いなぁって思うことがたくさんありました。
僕、寒さが嫌い。ひとりで山に入ることが多いですが、実は孤独も苦手。眠さほどツラいものはないし、痛いことも可能な限り避けたい。だから行動のひとつひとつは本当に憶病で、ダメかなって状況にならないように、その手前で早めにブレーキを掛けるんです。
そういう意味で、山は自分の力の見極めが大切。知識や技術、体力だけで、どうにかできる場所じゃない。遊びで楽しむために登るなら無理は禁物です。『今日はやめときな』って山が言っていると、もう1回登るチャンスをもらえたとポジティブに考えています」
弱さの自覚。そのことが生む強さ。広がる視野。そうして自分ひとりで山に登っている訳ではないことに、気が付ける。レースでなくても、応援してくれる人は誰にもいるのだ。
「山を下りれば家族や友人がいるでしょう。山には登山道を整備してくれる人、山小屋でハイカーを受け入れてくれる人もいます。彼らを悲しませてしまうような、自分勝手な判断、行動は控えたいですね。どんなに準備していても、慎重に行動していてもケガや事故に陥ってしまうこともあります。でも待っている人がいるとか、自分の弱さを知っていることが、ケガや事故に遭遇する確率を減らしてくれるのは間違いありません」
「実はね、まったくやる気が起きないような感じなんです」
「実はね、まったくやる気が起きないような感じなんです」。そう最後に話した望月さん。TJARでの無補給の挑戦をやり遂げた喪失感が大きいらしい。多くのインタビューを受けているうちに、言葉が出てこなくなっているともいう。まだ3ヶ月前のことなのに、ツラさは忘れ、「そういえば、やったね」という他人事のような、遠い過去のような感覚だという。
「目標が達成されて、このままどうするんだ!? という状態なんです。若い人が持つ将来に対するぼんやりとした不安な気持ちとよく似ています」
心にぽっかりと開いた穴。それは望月さんが山で頂いたものを、多くの人に贈り過ぎてしまったからなのだろう。それくらいに、TJAR無補給は大きなテーマだったのだ。それくらいにならないと、果たせない難しい課題だったのだ。望月さんの表現を借りれば『今は休みな』と山が言っているのだ。でも、きっと山で過ごす時間のなかから、ぽっかりと開いた穴を埋める刺激的ななにかと出合うんだと思う。望月さんにとって山はいつだって、自分を知る場所だったのだから。