望月将悟は、山でできている

「トランスジャパンアルプスレース(以下TJAR)に参加したり、トレイルランニングのレースにも出ているけれど、トレイルランナーかと言われると違うよな・・・違和感があります。また今年のTJARに出るにあたって登山家の花谷泰広さんに『全部の荷物を背負ってチャレンジしてみたら? アルパインクライミングの世界と同じように』といわれて無補給にチャレンジしましたが、花谷さんのように登山家とかアルピニストでもありません。
TJAR中には応援してくれた年配のハイカーの方に、ハイカーの代表のように『よくぞやってくれた! 頑張ったな』と無補給を讃えてくれる声を掛けられました。それは、とてもうれしかったです」

「山は、僕にとって遊び場であり、学び場なんです。山でいろいろなことを感じて、時にリフレッシュして、経験したことが山岳救助隊員としてそのまま活かせ、社会に役立てることができる。体力だって山を登ったり、走ったりすることで、ついたものです」
つまり、望月将悟は山でできている。だから、山を好きな人の多くから愛される。強さに憧れを持たれる。やさしさに魅了される。山、そのもののような人なのだ。
応援は、前進を後押ししてくれるありがたいチカラ

インタビューは、TJARのゴール地点の静岡市・大浜海岸で行った。そこで出会った年配女性は、ニコニコ笑顔で息子や孫を見る目で、望月さんに声を掛けてきた。すると望月さんは
「いつもゴール地点で待っていてくれてありがとうねぇ。お婆ちゃんの顔を見ると帰ってきたなぁって、元気が出るよ」
と応じた。応援は力に変わる。掛けられた声はもちろん、見ていてくれるだけ、待っていてくれるだけでも、その一瞬の出会いがパワーに変わる経験を、何度となくしているという。

強さは得意になったり、見せつけるものではない。やさしさに変換して贈るものなのだろう。その強さを山から頂いたものだったとしたら、同じ山を好きな人に贈らない理由はない。望月さんは、そう考えているように思える。それは弱さを自覚していることからもうかがえる。
弱さの自覚。それがケガや事故に遭う確率を減らす

僕、寒さが嫌い。ひとりで山に入ることが多いですが、実は孤独も苦手。眠さほどツラいものはないし、痛いことも可能な限り避けたい。だから行動のひとつひとつは本当に憶病で、ダメかなって状況にならないように、その手前で早めにブレーキを掛けるんです。
そういう意味で、山は自分の力の見極めが大切。知識や技術、体力だけで、どうにかできる場所じゃない。遊びで楽しむために登るなら無理は禁物です。『今日はやめときな』って山が言っていると、もう1回登るチャンスをもらえたとポジティブに考えています」

「山を下りれば家族や友人がいるでしょう。山には登山道を整備してくれる人、山小屋でハイカーを受け入れてくれる人もいます。彼らを悲しませてしまうような、自分勝手な判断、行動は控えたいですね。どんなに準備していても、慎重に行動していてもケガや事故に陥ってしまうこともあります。でも待っている人がいるとか、自分の弱さを知っていることが、ケガや事故に遭遇する確率を減らしてくれるのは間違いありません」
「実はね、まったくやる気が起きないような感じなんです」

「目標が達成されて、このままどうするんだ!? という状態なんです。若い人が持つ将来に対するぼんやりとした不安な気持ちとよく似ています」
