登山の第一線で活躍する冒険家は、超冷静な安全志向
今、世界で活躍する日本人の冒険家として筆頭に上がる人といえば、平出和也さんではないでしょうか。
平出さんが行っているのは、前人未到の壁に新たなルートを開拓する、冒険的なアルパインクライミング。
2008年に挑戦したカメット(7756m)では、新ルートからの登頂を世界が称え、登山界のアカデミー賞とも呼ばれるピオレドール賞を日本人として初めて受賞。
2017年に登頂したシスパーレ(7611m)では、北東壁に新たなルートを開拓し、同じく日本人初となる、2度目のピオレドール賞を受賞するという快挙を成し遂げました。
さらに、今年の7月にはパキスタン北部にあるラカポシ(7788m)に南面から挑戦し、初登攀を成功させています。
表だって見えてくるのは名誉ある記録の数々。しかし、その舞台裏にあるのは危険がつきまとう過酷な現実です。
いつ崩れるか分からないセラック(氷河のアイスフォールに生じる何トンにもなる氷塔)や、深いクレバスを回避し、ときには猛吹雪となる極限の環境で何日間も耐え忍び、急峻な雪壁に体ひとつでルートを開拓する。
そんな冒険に挑み続ける平出さんを“死を恐れない無謀なクライマー”と思う方もいるかもしれません。
しかし、イメージとはかけ離れた冒険家がそこにはいました。
実は安全第一!?危険を冒さない行動プロセス
現在、Mt.石井スポーツにアスリートとして所属する平出さん。気になる質問をしてみました!
——平出さんの登山はどれも先鋭的で「死」と隣り合わせの世界を何度も体験していると思います。命をかけて登るようなことも経験されてそうなのですが・・・。
平出「いえ、基本的に命はかけていません。かける必要も無いです。生きて帰ってくる選択を常に行い、無理だと判断したら撤退します」。
前人未到の壁に挑む冒険家としては、あまりに冷静な言葉で自身の登山を語り出しました。
——では具体的には何を考え、どのような行動をとっているのでしょうか?
「まず、可能な限り情報を集めます。山を観察し、雪壁に亀裂が入りやすい時間帯や、雪崩が起きやすい地点を把握して、必要な道具の種類や所要時間などを明確にするんです。自分たちが山頂に立ち、生きて帰ってくるための方法が鮮明になったとき、やっと出発できる判断へとつながります」。
成功に向かって一つずつ答えを出していくロジカルな思考と行動は、登攀中も続きます。
「常に自分の判断が正しいかどうか、自問自答を繰り返しています。いま登ろうとしている壁を越えて、果たして自分は生きて帰ってくることができるのか。そういった掛け合いを続けながら、不確実な“大丈夫だろう”ではなく、確実に“大丈夫だ”と判断できてから行動に移すんです」。
登山中は、目の前の壁だけに集中しているわけではありません。
「不測の事態に陥ったときに引き返すことが可能かどうか、帰り道も常に確認しています」。