装備の工夫は?
①歩行技術ありきでトレランシューズ
厳冬期や積雪期でない限り、どんな大縦走でもトレランシューズです。軽さというメリットの反面、足を守ってくれなくなるため、歩行技術が求められます。そのため、誰にでもおすすめできるものではありませんが、基本的には<La Sportiva>など”山岳ギアメーカー”のシューズがおすすめです。
ランニング系を得意とするメーカーなどは、トレイルを走る設計ですが、実際に履き比べたところ、日本アルプスのような山岳地帯(特に岩場やガレ場)を想定していないという印象。トレイルランに特化した使い方が適していると思われます。
②ウエアは基本薄着
暑がりで耐寒が強いこともあり基本は薄着。運動量の多いスピードハイクは発汗量も多く、過度な発汗は体力消耗に繋がります。
下は絶対に短めの短パン+生脚です。脚上げが大きいため、ロングパンツや膝丈の短パンだと、太ももや膝に引っ掛かる事が負荷になるためです。ただし、ケガや傷のリスクになりますので推奨はしません。
自身で良かったと思うことは、最初は岩にぶつけたり、枝に擦れたりと傷を作っていましたが、長年やっていると、歩き方が非常にきれいになり、擦り傷を作ることも岩にぶつけることもなくなりました。これは、歩行技術のレベルアップだと考えています。
➂命を繋ぐギアに特化すること

荷物は軽い方が当然楽です。でも一般的には「有事の際大丈夫か?」と不安が大きくなります。快適性や利便性など要らない、万が一の時に生き延びられるギアを厳選することが重要です。
つまりは、何を持っていったら、過不足無く命を繋げられるか。ハイクの数をこなし、経験を積んで、徐々に自身のウルトラライトスタイルは完成していくものです。
”あったら便利”のようなザックの肥やしになっているものから見直し、ハイク実績と経験を通して、不要なギアの見極めを行い徐々に軽量化しましょう。
日帰りスピードハイク時の装備(三宅さん) | ||||
【マストギア】 | ||||
ファーストエイドキット | ||||
ツェルト(ストックシェルター) | ||||
SOL Escape Lite Vivi | ||||
レインウエア上下 | ||||
薄手ダウンジャケット | ||||
ヘッドライト(2個+予備電池) | ||||
モバイルバッテリー | ||||
エピペン(アナフィラキシーショック用) | ||||
ポイズンリムーバー | ||||
【都度変わる内容】 | ||||
行動食 | ||||
昼食 | ||||
飲料水(スポーツ飲料+塩分補給系+水)1.5L | ||||
ピッケル+チェーンスパイク(残雪期アルプス) |
ザックは時期や山の大きさによって変え、日帰りでは、15L(夏山アルプス)か25L(残雪期アルプス)のものを使用。いずれもトレラン向けのフレームレスの軽量なものです。
上記のほかに、同行者や周りのハイカーの有事に助けられる様、救助に活用できる”簡易ハーネス”と”シュリンゲ”を持参しています。
体力面での工夫は?
①下山後はクールダウン

通常の登山同様に、下山後はストレッチなどのクールダウン及び、早めの炭水化物摂取を心がけています。また、早めに入浴しマッサージを行っています。それでも蓄積疲労が残ったり、腸脛靭帯炎が発生したりするため、時々スポーツ整体にてケアを行います。
②日々のトレーニング

週末だけのハイクでは、とても体力向上などできません。日々のトレーニングが非常に重要で、ほぼこの内容がハイクの成果として現れます。
取り組み易くてものすごく効果があるトレーニングとしては、トレッドミルにて15%の傾斜で時速5kmで歩き続けること。特に膝を痛めている方は、登りは膝に優しく痛みが出ないうえ、体力もものすごくつきますのでおすすめです。最初は30分でもキツく、汗だくになりますよ!
平日の頑張りによって、週末ハイク時に「楽々~♪」となれば、“地獄の登り”におさらば、本当の意味で楽しいハイクが待っています!
「スピードハイク」の最大の魅力は?
「スピードハイク」の最大の楽しさやメリットは、通常、何泊も掛けなければ踏み込めない山・山域に、日帰りで行けてしまうことです。「日帰りなんてもったいない」という考えも当然ありますが、3連休で全日晴れという好機もなかなかないため、日帰りも選択肢に入れられれば、自由度は格段にアップします。
また、人とタイムや速さを競うのではなく、「自分にとっての山旅を楽しむこと」が何より重要なテーマだと思っています。
「スピードハイク」には、登山でも役立つ緻密な工夫があった!
とんでもない速さのコースタイムをたたき出している影には、これまでの経験や知識、日々のトレーニングの積み重ねがありました。計画の立て方や、装備の選び方、登山中の行動の仕方など、どれをとってもリスクをきちんと考えた上での細やかな工夫が張り巡らされていました。それは通常の登山でも重要なことばかり。自分の登山スタイルに取り入れられる部分は、ぜひ参考にしてみてください。
教えてくれた人
三宅 雅也 (長野県自然保護レンジャー、山岳ライター)